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第 4 章 分析結果

4.3 L2 能力の低い学生グループ

4.3.1 L2 能力の低い学生グループのライティング

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以上見てきたように、Cのライティング・プロセスの特徴は、L1、L2に共通する流暢さ であり、「課題の確認」も書かれたテクストの「読み返し」も少ない。L1では「リハーサル」

が全く行われず、「局所的計画」も1回のみであった。これらの方略の使用は、L2ライティ ングでは若干増えるものの、流暢さには変わりが無かった。L1及びL2ライティングの流暢 さを支えているのは、書き出し前の丹念な「計画」であり、このような計画的なライティ ングを可能としたのは、高校、大学を通じてL1、L2ライティング指導を受けてきた経験で あると思われる。ライティング指導はL1、L2共に受けているが、ライティングへの自信は L2の方が大きく、構成法の転移はL2からL1へと生じていた。また、社会的/情意的方略の 1つである実験者への「質問」は、L1、L2で4回ずつ行われ、どの参加者よりも多かった。

課題についての「質問」や書く量についての「質問」は他の参加者にも見られたが、「文句

ってcomplimentでしたっけ?」と、単語を尋ねたのはCのみであった。L2ライティング

に不安を感じておらず、L1 ライティングに比べてL2ライティングのプロダクトの質が高 かったことには、留学経験が影響している可能性もある。

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表18 プロダクト評価結果(L2能力の低い学生グループ)

得点 D E F G

L1 Total (200) 125 93 130 148

L2 Total (200) 159 132 98 74

Content (60) 49 34 31 26

Organization (40) 35 28 20 15

Vocabulary (40) 32 28 19 14

Language use (50) 35 36 22 14

Mechanics (10) 8 6 6 5

表17より、L2能力の低い学生グループのD、E、F、Gは、文法部門では6割程度、語彙 部門では3割から5割近くの正答率であった。合計平均は99.75点でL2能力の高い学生グ ループよりも30点以上低い(表4参照)。表17と表18より、このグループでは、L2能力 の順位がそのままL2プロダクト評価の順位に当てはまる。L2プロダクト評価の各項目を見 ても、言語使用においてDとEが35点、36点と逆転していることを除いて、全て、L2能 力の順位と一致している。一方、L2能力・L2プロダクトの順位とL1プロダクトの順位は 全く異なる。例えばGは、L2能力の高い学生グループと低い学生グループの参加者の中で L1プロダクトの評価が最も高かったが、L2プロダクトは全参加者中最低の74点だった。

L1プロダクトのグループの平均得点は124.0で、L2能力の高い学生グループと同程度であ った(表5参照)。

表19 流暢さ(L2能力の低い学生グループ)

D E F G

L1字数 1272 280 749 613

L1字数/分 44.27 34.22 27.15 31.12

L2語数 252 111 118 62

L2語数/分 11.25 4.04 4.83 3.54

表19は、このグループに属する個人の書く流暢さを表している。グループの中で、最も L2能力とL2プロダクトの評価の高かったDのみが、L1、L2ライティングの両方で、速さ、

量ともに非常に流暢に書いた。速さの観点からは、L1ライティングでは全員が比較的流暢 に書いたが、L2ライティングにおいては、D以外は誰も流暢には書けなかった。量的には、

L1ライティングでは、総字数が280語と非常に少なかったEを除いて、全員が比較的流暢 に書いた。しかしながら、L2ライティングにおいては、Dを除いて誰も長く書けなかった。

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特に、L2能力の最も低いGは、62語しか産出できなかった。

表20 書き出し前の計画時間とライティング総時間に占める割合

(L2能力の低い学生グループ)

D E F G

L1:

計画時間(割合%) 0’34”(1.9) 7’9”(46.6) 0’45”(2.6) 8’4”(29.1) ライティング総時間 29’18” 15’20” 28’20” 27’46”

L2:

計画時間(割合%) 1’15” (5.3) 2’00”(6.8) 4’45”(16.3) 4’58”(22.1) ライティング総時間 23’39” 29’29” 29’10” 22’30”

表20は、4名の書き出し前の計画時間とライティング総時間に占める割合である。書 き出し前の計画時間の割合がL1、L2ライティングで一定しておらず、言語間で同じように は計画を立てていないことが窺える。

Dは、L1、L2ライティング共に、賛成か反対かの立場を決めた以外の計画をほとんど行 うことなく書き始め、書きながらアイディア創出し、構成も考えた。

Eは、L1、L2ライティング共に、図式化したメモを作成したが、その内容はL1の方が 詳細で、賛成の立場と理由、根拠となる具体例、構成まで計画したが、L2では反対の立場 と簡潔な主張のみで書き始め、構成は途中で考えた。L1ライティングでは書き出し前の「計 画」が、ライティング総時間の半分近くを占め、計画に沿って書いたが、ライティング総 時間が15分20秒と非常に短く、計画を超えて内容を発展させることがなかった。

Fは、L1ライティングでは、立場を決めたのみで、それ以外の計画は立てずに書き出し たが、L2ライティングでは、先にL1でメモを作成した方が書き出してからL2にし易いと 判断し、立場を決めて、主張と考えられる反論に対する意見、結論を考えた。

Gは、L1、L2共にメモを使用して計画を立てた。L2ライティングでは立場とそれを支持 する意見をメモに3つ箇条書きにしただけだったのに対して、L1ライティングでは、課題 を何度も確認しながら、より詳細に論を展開する計画を立てた。GのL1プロダクトの質は、

2つの学生グループの中で最も高かった。

先に見たL2能力の高い学生グループが、言語間で一貫した書き出し前の計画を行ってい たのとは対照的に、L2 能力の低いグループは、ほとんど計画しなかった D を除いて、L1 とL2での計画が一貫していなかった。またEのL1ライティングのように長く時間をかけ て詳細な計画を立ててもそれがプロダクトの質に反映されるとは限らなかった。

次に、ライティング方略使用について見ていく。表21は、ライティング方略の使用回数

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の平均とライティング・プロセス全体に占める割合を示したものである。プロトコルのセ グメント数は、L1ライティングで平均147.5、L2ライティングでは180.0であった。

表21 ライティング方略使用平均回数と割合

(L2能力の低い学生グループ)

方略 L1ライティングn(%) L2ライティングn(%)

課題の確認 8.0(5.4) 5.0(2.8)

計画全体 6.1(4.1) 31.0(17.2)

包括的計画 0 (0) 0 (0)

テーマの計画 1.5(1.0) 2.0(1.1)

局所的計画 2.8(1.9) 27.0(15.0)

構成計画 1.3(0.8) 0.5(0.3)

結論計画 0.5(0.3) 1.5(0.8)

アイディア創出 11.5(7.8) 9.5(5.3)

メタコメント 7.0(4.7) 4.8(2.6)

ポーズ 23.3(15.8) 29.0(16.1)

文章化 38.3(25.9) 41.5(23.1)

読み返し 13.0(8.8) 19.3(10.7)

評価全体 8.5(5.7) 8.5(4.7)

L1/L2能力評価 0 (0) 0 (0)

局所的評価 8.3(5.6) 8.5(4.7)

包括的評価 0.5(0.3) 0 (0)

修正 10.3(6.9) 11.8(6.5)

自問 8.8(5.9) 7.0(3.9)

質問 0.3(0.2) 0.3(0.1)

リハーサル 10.5(7.1) 11.5(6.4)

身体活動 1.3(0.8) 1.0(0.6)

その他 0.8(0.5) 0(0)

L1、L2ライティング方略の使用頻度は概して類似している。しかしながら、L1ライティ ングにおいて使用された「包括的評価」は、L2 ライティングでは全く使用が見られない。

次の項より各参加者について詳しく見ていくが、「課題の確認」、「局所的評価」、「局所的計 画」、「自問」、「読み返し」などの目的や具体的な内容から、L1 ライティングに比べて L2 ライティングでは、全体的な内容や構成などの一貫性に関するものよりも、表層的な単語

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や文法などに注意が向けられていた。L1ライティングで持ちえた包括的視点は、L2ライテ ィングではあまり機能していないと言える。

L1、L2ライティングの方略使用に見られる最も顕著な違いは、L2ライティングにおける

「局所的計画」の圧倒的な多さである。L1で平均2.8回(1.9%)しか使用されなかった「局 所的計画」が、L2ライティングでは平均27.0回(15.0%)も使用されている。L2能力の低い グループの参加者全員がL1ライティングよりもL2ライティングで「局所的計画」を多く用 いており、その目的の多くは、創出したアイディアをL2に直すことにあった。このグルー プの中で、最もL2能力が高いDのL2ライティングにおける「局所的計画」の割合が最も低い という事実も、L2能力の不足が「局所的計画」を多く必要とする解釈を支持している。

「局所的評価」に関しては、L1 ライティング(8.3 回、5.6%)と L2 ライティング(8.5 回、4.7%)で、使用の差はあまりない。「修正」も、L1で10.3回(6.9%)、L2で11.8回

(6.5%)と同程度である。

L1ライティングの方が割合の大きかった方略使用は、大きな違いではないものの、「課題 の確認」、「アイディア創出」、「メタコメント」、「局所的評価」、「自問」、「リハーサル」と 多いが、逆に、L2 ライティングの方が多かった主な方略は、「局所的計画」の他には、「読 み返し」程度である。このことから、L2ライティングで「局所的計画」に費やされる認知 資源が少なくて済むならば、他のライティング方略の使用の余裕ができると考えられる。

以上のように、L2能力の低い学生グループのライティング・プロセスの特徴は、L2能力 が充分でないために、L1で創出したアイディアをL2に直すための「局所的計画」が多く行 われ、恐らくはそのために、L1で行ったようには、L2ライティングで方略を使用すること ができず、包括的視点を持ってL2ライティングを行うことも難しかったことにある。