第 4 章 分析結果
4.5 ライティングのグループ間比較
4.5.2 エピソードのはじめに使用されたライティング方略
ここでは、参加者の思考発話プロトコルを「エピソード」の単位に分け、エピソードの はじまりにどのようなライティング方略が使用されたのかを見る。表40は、L1及びL2ラ イティングにおけるエピソード数の平均と標準偏差を示している。
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表40 各グループのエピソード数の平均
L1ライティング L2ライティング
L2高学生 L2低学生 教職 L2高学生 L2低学生 教職 エピソード数M (SD)12.3 (0.6) 12.3 (6.1) 23.3 (11.8) 15.3 (6.7) 19.0 (0.8) 20.0 (13.9)
2つの学生グループでは、L1ライティングよりL2ライティングでエピソード数が多い。
これはVan Weijen (2009) の結果と一致しており、Van Weijen (2009) は、L2ライティングで は注意力がL1ライティングほど長いスパンを持たず、結果としてエピソードをより多く必 要とするのだろうと述べている(p.164)。Kruskal-Wallis検定の結果、3グループのエピソー ド数には、5%水準で有意差はなかった。Mann-Whitney U 検定の結果は、L2 能力の高い学 生グループと教職経験者グループとの間の L1 エピソード数についてのみ、5%水準で有意 差が認められた(U=0, p=0.046)。しかしながら、Bonferroniの方法により有意水準を各検定
につき 0.0167%(0.05/3)に調整した結果、標本サイズが小規模のため有意差の検出力が低
くなり、有意差は確認できなかった。
L2 能力の高い教職経験者グループのエピソード数は L1、L2ライティング共に多い。テ クストを 2 文以上から成る意味内容のまとまりでエピソードに分けて分析した安西・内田 (1981) やSasaki (2000) では、ライティングに熟達するほどエピソード数が増える結果とな っている。L2 能力の高い教職経験者グループは、複雑なテクストを書いたためにエピソー ド数が多かった可能性がある。
表41は、L1及びL2ライティングにおいて、エピソードのはじめに行われた各ライティ ング方略の使用述べ回数と、エピソードのはじめの方略全体に占める割合を、グループ別 に示したものである。
表41 エピソードのはじまりのライティング方略使用回数と割合 L1ライティングn (%) L2ライティングn(%)
方略 L2高学生 L2低学生 教職 L2高学生 L2低学生 教職 課題の確認 6 (16.2) 12 (24.5) 13(18.6) 4 ( 8.7) 8 (10.5) 6 (10.0) 計画全体 11 (29.7) 8 (16.3) 7(10.1) 13 (28.2) 26 (34.2) 18 (30.1)
包括的計画 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 (0) テーマの計画 4 (10.8) 1 ( 2.0) 2 ( 2.9) 7 (15.2) 2 ( 2.6) 4 ( 6.7) 局所的計画 2 ( 5.4) 3 ( 6.1) 2 ( 2.9) 2 ( 4.3) 18 (23.7) 10 (16.7) 構成計画 2 ( 5.4) 2 ( 4.1) 1 ( 1.4) 1 ( 2.2) 2 ( 2.6) 1 ( 1.7) 結論計画 3 ( 8.1) 2 ( 4.1) 2 ( 2.9) 3 ( 6.5) 4 ( 5.3) 3 ( 5.0) アイディア創出 3 ( 8.1) 5 (10.2) 10 (14.3) 2 ( 4.3) 5 ( 6.6) 8 (13.3)
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メタコメント 4 (10.8) 4 ( 8.2) 15 (21.4) 7 (15.2) 9 (11.8) 9 (15.0) ポーズ 2 ( 5.4) 5 (10.2) 8 (11.4) 3 ( 6.5) 10 (13.2) 3 ( 5.0) 文章化 5 (13.5) 9 (18.4) 4 ( 5.7) 3 ( 6.5) 6 ( 7.9) 4 ( 6.7) 読み返し 3 ( 8.1) 2 ( 4.1) 8 (11.4) 4 ( 8.7) 3 ( 3.9) 5 ( 8.3) 評価全体 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 1 ( 2.2) 2 ( 2.6) 4 ( 6.7) L1/L2能力評価 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0)
局所的評価 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 2 ( 2.6) 3 ( 5.0) 包括的評価 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 1 ( 2.2) 0 ( 0) 1 ( 1.7) 修正 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 (0) 自問 2 ( 5.4) 3 ( 6.1) 2 ( 2.9) 3 ( 6.5) 4 ( 5.3) 1 ( 1.7) 質問 1 ( 2.7) 0 ( 0) 0 ( 0) 2 ( 4.3) 0 ( 0) 0 ( 0) リハーサル 0 ( 0) 1 ( 2.0) 1 ( 1.4) 3 ( 6.5) 2 ( 2.6) 0 ( 0) 身体活動 0 ( 0) 0 ( 0) 1 ( 1.4) 1 ( 2.2) 1 ( 1.4) 2 ( 3.3) その他 0 ( 0) 0 ( 0) 1 ( 1.4) 0 ( 0) 0 ( 0) 0 ( 0) 合計 37 (100) 49 (100) 70 (100) 46 (100) 76 (100) 60 (100)
L2 能力の高い学生グループでは、エピソードのはじめに見られる「テーマの計画」が、
特にL2 ライティングで他グループに比べて顕著に多い。更に、このグループではL2ライ ティングのエピソード数の平均は3グループ中最も少ないことから、「テーマの計画」がL2 ライティング・プロセスをうまく導き、より大きなまとまりのエピソードを生じた可能性 がある。そうであれば、計画に従って、まとまりのある活動により、ライティングが行わ れたと考えられる。
計画方略が全体としてエピソードのはじまりによく見られるが、良い書き手の方が、そ うでない書き手よりも、L1、L2ライティングにおいて、エピソードのはじまりに多く計画 方略を使用したVan Weijen (2009, P.130) の結果とは必ずしも一致していない。しかしながら、
「テーマの計画」に絞ってみると、L1ライティングでは、エピソードのはじめの「テーマ の計画」がプロダクトの質に肯定的に影響したとは捉えられないが、L2ライティングにお いては、「テーマの計画」をエピソードのはじめに多く行ったグループほど、プロダクトの 質が高くなる傾向にある。計画方略の包括的な使用がエピソードのはじめに為されて一連 のライティング・プロセスを導くとき、L2 プロダクトの質に肯定的に影響すると考えられ る。
Van Weijen (2009) も、L1ライティングよりもL2ライティングにおいて、エピソードのは じめの「計画」がプロダクトの質に与える影響が大きいと述べており(P.131)、計画方略の 使用は、L2ライティングにおいて、より重要な役割を担っていると考えられる。
エピソードのはじまりの「局所的計画」は、L2能力の高い学生グループではL1ライティ
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ングよりもL2ライティングで少ないが、他のグループではL2ライティングで顕著に多い。
ただし、その内容はL2能力の低い学生グループとL2能力の高い教職経験者グループとで は異なり、L2 能力の低い学生グループでは、L2 に直す際に困難を生じ、「局所的計画」に 至っている場合が多く見られるが、L2能力の高い教職経験者グループでは、表現を精選す るための「局所的計画」が多い。
評価方略に関しては、評価自体が少ないので、エピソードのはじまりにもあまり見られ ないが、どのグループもL1ライティングでは全く見られないのに対して、L2ライティング では、全てのグループで、若干ではあるがエピソードのはじまりに「包括的評価」か「局 所的評価」が見られた。L2プロダクトの質の最も高かったL2能力の高い学生グループでは エピソードのはじめに「局所的評価」が見られず、逆にL2プロダクトの質の最も低かった L2能力の低い学生グループでは、エピソードのはじめの「包括的評価」が全くなかった。
「自問」は、割合としては多くはないものの、エピソードが「自問」で始まる場合が、
全てのグループのL1及びL2ライティングで見られた。例えば、L2能力の高い学生Aは、
L1ライティングにおいて、「まず、教育の成功とは何だろう。」と自問し、課題を再確認し、
アイディアを創出している。このように、問題を発見して自問し、それに答えていくこと で、ライティング上の問題解決を行っている場合があった。
エピソードのはじめの「課題の確認」も多い。書くことが尽きた時に新しいアイディア を得ようとしたり、課題に沿ってライティングが進んでいるかを確認したりするために行 われており、どのグループにおいても、L1ライティングでL2ライティングの2倍程度見ら れた。
「メタコメント」は課題やライティング・プロセスについてのコメントであるので、エ ピソードのはじめに比較的多く生じている。「最初から、もいっぺん見直そう。」など、L2 能力の高い教職経験者グループのL1ライティングに特に多く、自らのライティング・プロ セスの進行をモニターしている。
エピソードのはじめの「アイディア創出」は、L1、L2ライティング共に、L2能力の高い 教職経験者グループで多く、「文章化」は、2つの学生グループのL1ライティングで多い。
教職経験者は書く前に一旦「アイディア創出」をするが、2 つの学生グループは、L1 では いきなり書き始める傾向にあるのだろう。2つの学生グループよりも教職経験者グループの L1プロダクトの質が高かったことは、先に見たとおりである。
以上見てきたように、エピソードのはじめに現れる「テーマの計画」が、L2 ライティン グにおいてライティング・プロセスを導き、プロダクトの質にも肯定的に影響を与える可 能性が示唆された。評価方略もまた、L1ライティングよりL2ライティングにおいて、エピ ソードのはじまりに現れて複数の方略を統括する可能性がある。「自問」は、エピソードの はじめに生じると、その後の問題解決の発端となる場合が確認された。
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