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第 5 章 考察

5.5 ライティング・プロセスに影響を与える L2 能力以外の要因

これまで見てきたように、L2 能力の高い学生グループと低い学生グループ間のライティ ングの違いは、概してL2能力で説明ができた。それだけで説明ができないのは、L2能力の 高い学生グループとL2 能力の高い教職経験者グループのL2ライティング・プロセスの違 いであった。書き出し前の「計画」の言語間での一貫性、「構成方略」のL2からL1への転 移、エピソードのはじまりの「テーマの計画」、計画及び評価方略使用における認知負荷の 軽減には、L2 能力が影響しているが、それだけが要因ではないと考えられた。ここでは、

L2能力以外のどのような要因が関係しているのかを考察する。

5.5.1 ライティング指導

L2能力の高い学生グループとL2能力の高い教職経験者グループの違いは、L2能力、年 齢、教職経験の有無以外では、L1、L2ライティング共に、高校や大学で、まとまった文章 を書く指導を受けた経験における違いがある。L2能力の高い学生グループは、L1ライティ ングでは、BとCが高校、大学を通じてまとまった文章を書く指導を受けており、L2ライ ティングでは、A、B、C全員が高校で指導を受け、AとCは、大学でもL2 ライティング の授業を受けている。これとは対照的に、L2能力の高い教職経験者グループは、L1ライテ ィングでは、高校、大学を通じてほとんど指導を受けておらず、L2 ライティングでも、高 校では全員が文単位の英訳の指導を受けたのみで、大学では、J は全く指導なし、I は 5~6 行の英訳指導、HはL2でレポートを書いたが、書き方についての指導は無かった。

このように、まとまった文章を書く指導を受けたかどうかが、L2能力の高い学生グルー

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プとL2能力の高い教職経験者グループの背景の違いの1つであると考えられる。この指導 で得た知識と経験を基盤として、L2 能力の高い学生グループは、L1、L2 ライティング共 に、エピソードのはじまりに「テーマの計画」を多く行うことにより、「テーマの計画」に よりライティング・プロセスを効果的に導き、L2ライティングでは、計画及び評価方略使 用時の認知負荷の軽減が可能になったと考えられ、ひいてはL2プロダクトの質の高さにも つながったと思われる。L2 能力の高い教職経験者グループのL1 プロダクトの質が高いの に対して、L2能力の高い学生グループのL1プロダクトは、L2能力の低い学生グループの ものと同程度で高くはないので、まとまった文章を書く指導は、L2ライティングにおいて、

より重要であると考えられる。L2 ライティングでは、少なくとも本研究のL2 能力の高い 学生グループのレベル以上のL2 能力があれば、L2 能力以上にライティング指導がライテ ィング・プロセスに影響するようである。

L1ライティングにおいて、指導を受けなかったL2能力の高い教職経験者グループのプロ ダクトの質が高かったのは、平均年齢が47.7歳で、教職において、通信や報告書などのL1 ライティング経験が豊富なためと考えられる。一方、まとまったL2ライティングの機会は あまり無い。経験したライティングの量とライティング・プロセス及びプロダクトの質と の関係については、今後、更に詳細に調査する必要がある。

本研究の事前調査で、ライティング指導において、「計画」や「評価」から成るメタ認知 方略の指導は、特にL2ライティングにおいて、あまり取り組まれていないことが分かった。

また、事前調査のアンケートの自由記述欄に、英語教師 5 名による、ライティング指導の 研修を求める記述があった。このような現状の背景には、指導者自身がライティング・プ ロセスやライティング方略について学んだ経験がないという事情もあると思われる。まず は、指導者自身がライティングについての知識を得て、効果的にライティングを行えるよ うに、訓練を積む機会を必要としていると考えられる。

指導の重要性は、書き出し前の「計画」と指導についての関係にも表れている。個人に ついて見ていくと、L1、L2どちらのライティングにおいてより詳細に時間をかけて計画し たかは、ライティング指導を受けた経験や独学で身に付けた知識を反映していると考えら れる。書き出し前の計画が言語間で異なっていたE、F、G、H、I、Jのうち、L2能力の低 い学生E、F、Gは、継続してきちんとした指導を受けた方の言語のライティングにおいて、

より詳細な計画を立てている。教職経験者グループの G、H、I は、まとまった文章を書く

指導をL1、L2共に受けてはいないが、HはL1の小論文指導を行っているため、L1ライテ

ィングにおいてより緻密に計画したものと思われる。インタビューで、小論文指導を行っ ている最中なので、興味を持ってライティングに取り組んだと述べていた。また、Jは、独 学で身に付けたL2ライティングの知識を基盤として、L2ライティングでより詳細な計画を 立てたと考えられる。Iがなぜ、L1ライティングでより詳細に計画したかについては分から ないが、他の参加者の書き出し前の計画における言語間の非対称性は、学生については受

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けたライティング指導、指導を受けなかった教職経験者については、その後の経験で得た 知識に基づいて説明することが可能である。

「評価」については、L2 能力の高い教職経験者グループは、L1、L2ライティング共に、

「評価」が顕著に多い。指導を行う立場にあり、生徒のプロダクトなどの評価をする機会 もあると思われる。L2 能力以外にも、教職経験が評価方略の使用に関係している可能性が ある。

5.5.2 動機づけ

もう一つの、ライティング・プロセスに影響を与えると思われる要因は、英語学習に対 する動機づけである。

英語学習に対する動機づけは、L2能力の高い学生の方が、L2能力の高い教職経験者グル ープよりも強かった。内発的動機づけについては、教職経験者グループ23.7点(25点中)、

L2能力の高い学生グループ24.0点(同)で、同程度であるが、既に教職に就くなどしてあ る程度英語学習の成果を具体的に形にできた教職経験者は、外発的動機づけ、特に外的調 整と取り入れ調整の点数が、L2能力の高い学生グループよりも低かった。その結果、動機 づけの総合得点は、L2能力の高い学生グループの平均86.3点、L2能力の高い教職経験者 グループの平均74.7点と、差が出ている。

L2 ライティングにおいて、L2 能力の高い学生グループの方が、L2 能力の高い教職経験 者グループよりも、若干長い時間をかけて、長いL2プロダクトを産出した。L2能力の高い 学生グループは、平均30分17秒で232.67語を書き、L2能力の高い教職経験者グループは 平均27分42秒で176.67語を書いた。L2ライティングにかけた時間には大きな差はないが、

L2プロダクトは、1パラグラフ程度、L2 能力の高い学生の方が多く書いた。一方、L1ラ イティングでは、L2能力の高い学生グループが平均26分11秒で702.67字、L2能力の高い 教職経験者グループが平均37分27秒で760.33字である。L1ライティングでは、L2ライテ ィングとは逆に、L2能力の高い教職経験者グループの方が、L2能力の高い学生グループよ りも、長い時間をかけて、長い L1 プロダクトを産出した。英語学習に対する動機づけは、

L1ライティングには影響しなかったと考えられるが、L2ライティングにおける態度に影響 した可能性がある。観察による印象も、L2 能力の高い学生グループの方が、総じて粘り強 くL2ライティングに取り組んだ。このような動機づけにおける違いが、取り組みの差につ ながり、結果としてL2能力の高い学生グループのL2プロダクトの評価がL2能力の高い教 職経験者グループを上回る結果となった可能性がある。

最後に、L2能力の低い学生グループの動機づけの総合得点の平均は、80.5であり、L2能 力の高い教職経験者グループよりも高く、L2能力の高い学生グループよりも低い。L1ライ ティングでは、平均25.11分で728.50字、L2ライティングでは平均26分12秒で135.75語 を産出した。L1ライティングでは、L2能力の高い学生グループより若干長い時間をかけて

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若干長いプロダクトを書いたことになるが、L2ライティングでは、L2能力の高い学生グル ープの方がより時間をかけて多い語数を書いた。L1プロダクトの評価はL2能力の高い学生 グループと同程度であるが、L2プロダクトの評価はかなり低かった。L2能力の低い学生グ ループの動機づけの特徴は、内発的動機づけが他グループよりも弱く、外的調整や取入調 整などの外発的動機づけが強いことである。L2 ライティングには、英語学習に対する内発 的動機づけの強さが肯定的に影響していると考えられる。

5.5.3 まとめ

L2能力の異なる2つの学生グループのライティング・プロセスにおける違いは、L2能力 で説明が可能であったが、L2能力の高い教職経験者グループのライティングと比較した場 合には、L2 能力だけで説明することはできなかった。L2 能力以外の要因としては、主に、

まとまった文章を書く指導を受けた経験や英語学習に対する動機づけが、ライティング・

プロセスに影響すると考えられた。