• 検索結果がありません。

第 4 章 分析結果

4.3 L2 能力の低い学生グループ

4.3.4 L2 能力の低い学生 F

87

かった。一方、L2ライティングでは、「計画」は書き出し前と途中でも行われ、構成法は L1ライティングの指導により身に付けた、結論・体験・結論を使用した。L1、L2ライティン グ共に指導を受けているが、構成法は、より指導を受けたL1からL2へと転移している。

ゆったりとした話し方で、インタビューの質問への答えも短い。普段のライティングで は時間がかかり、制限時間が設けてある場合には必ずその時間を超えてしまうが、今回は プレッシャーを感じて速く書いたという。思考発話法ではなく、時間を充分にかけて落ち 着いた状態で書けば、L1でもより質の高いプロダクトが産出できたのかもしれない。

88

4回と、L2ではバリエーションも多かった。ライティング直後のインタビューでは、L1で は結論は考えずに書きたいことを書きやすい方法で書こうと考えて書き出したと述べてい る。賛成の立場を決め、課題に沿って最初と最後に結論を書こうと考えたという。L2ライ ティングの方が計画をしっかり立てたのは、先に内容を文にしておいた方が、L2に直し易 いと判断したからである。

表24は、Fのライティング・プロセス全体におけるライティング方略の使用回数と割合 を示している。L1ライティングの発話プロトコルのセグメント数は243、L2ライティング では208であった。

表24 Fのライティング方略の使用回数と割合

方略 L1ライティング n(%) L2ライティング n(%)

課題の確認 6(2.5) 7(3.4)

計画全体 6(2.5) 25(12.0)

包括的計画 0(0) 0(0)

テーマの計画 0(0) 5(2.4)

局所的計画 4(1.6) 20(9.6)

構成計画 1(0.4) 0(0)

結論計画 1(0.4) 0(0)

アイディア創出 15(6.2) 7(3.4)

メタコメント 10(4.1) 8(3.8)

ポーズ 25(10.3) 25(12.0)

文章化 55(22.6) 41(19.7)

読み返し 33(13.6) 26(12.5)

評価全体 24(9.9) 17(8.2)

L1/L2能力評価 0(0) 0(0)

局所的評価 22(9.1) 17(8.2)

包括的評価 2(0.8) 0(0)

修正 19(7.8) 20(9.6)

自問 27(11.1) 14(6.7)

質問 1(0.4) 0(0)

リハーサル 18(7.4) 18(8.7)

身体活動 2(0.8) 0(0)

その他 2(0.8) 0(0)

89

以下は、L1及びL2ライティングでよく使用された方略である。

L1ライティング L2ライティング

1. 文章化 22.6% 1. 文章化 19.7%

2. 読み返し 13.6% 2. 読み返し 12.5%

3. 自問 11.1% 3. ポーズ 12.0%

4. ポーズ 10.3% 4. 局所的計画 9.6%

5. 局所的評価 9.1% 修正 9.6%

L1、L2ライティング共に、使用されたライティング方略は「文章化」が最も多く、これ に「読み返し」が続く。「読み返し」の目的は、評価のため(L1、33.3%、L2、38.5%)、次 に書く内容を考えるため(L1、66.7%、L2、61.5%)と、言語間で類似している。最も重要 な違いは、L1ライティングで4回(1.6%)しか使用されなかった「局所的計画」が、L2ライ ティングでは20回(9.6%)と多く用いられたことである。L1では次に書く内容についての 計画が3回、表現の計画が1回であるが、L2ライティングでは、内容の計画は1回のみで、残 り19回は全てL2にどう直すかの計画であった。先に見た学生Eほどには、L2産出の苦労は観 察からも感じられず、「局所的計画」の直後にポーズもそれほど生じてはいないのであるが、

やはりL2能力の不足が、L2ライティングにおいて「局所的計画」をより必要とした原因と 考えられる。

計画方略の使用を見てみると、L1ライティングはほとんど計画なしで書き始められたた め、L2ライティングで主に書き出し前に使用された「テーマの計画」がL1では為されてい ない。逆に、L1ライティングの中途で使用された「構成計画」や、終盤で為された「結論 計画」が、L2ライティングでは見られなかった。L2能力の限界から、「局所的計画」がL2 ライティングで多かったことは、先に述べたとおりで、自信のない綴りや表現をメモに試 し書きしたりもした。

「評価」については、「局所的評価」は、L1ライティングでは、内容の評価が38.1%、表 現の評価が 38.1%、誤字・脱字の評価 23.8%であった。一方、L2 ライティングの「局所的 評価」は、内容の評価17.6%、表現の評価35.3%、文法・綴りの評価47.1%と、より表層的 な部分での評価が増える傾向にあった。「包括的評価」は、L1ライティングにおいてのみ見 られ、ライティング・プロセスの中盤での、「最初に教育の成功の定義づけを行うべきだっ た。」と、終盤の、「なんかまとまりがないけど」の2回であった。「修正」も評価活動とほ ぼ同程度行われている。アンケートで、「私はよく、書きながら自分が書いたものを評価す る」の項目に対して、「4.賛成する」を選んでおり、インタビューでは、内容や一貫性、

読み易いかを評価すると答えている。

「自問」は、L1ライティングで27回(11.1%)、L2ライティングでは14回(6.7%)見

90

られた。Wong (2005) の自問の下位範疇に従って、これらを分類したものが表25である。

L1ライティングではテクスト産出に関する「自問」が多く、L2ライティングでもその傾向 は変わらないものの、評価に関する自問の割合が L1 ライティングよりも多かった。尚、

Wong (2005) の範疇には収まらない課題の確認に関する自問がL1で2回(7.4%)、L2で1 回(7.1%)あった。

表25 Fの自問の内容 n(%)

テクストのチェック 評価 構成 テクスト産出

L1 0 3(11.1) 0 22(81.5)

L2 0 5(35.7) 0 8(57.1)

アンケートの「学校で受けた日本語の作文指導は、英語ライティング法にも影響してい る。」という項目に対して、「4. 賛成する」を選択しているのであるが、インタビューでこ のことに関して、簡潔な主張、理由、反駁、結論(賛成か反対か)、という書き方を L2 ラ イティングにも使うと説明した。今回のライティングでは、L1では、教育の成功の定義と 意見をまず述べ、理由、根拠となる具体例、主張、課題の復唱と賛成の立場、という構成 で書いている。一方、L2 ライティングでは、L1 のように重層的な構成法ではなく、結論、

2つの理由、結論という簡潔な構成で書き、2 つの理由は、First, Second, と書き始めてい る。今回のライティングでは、L1ライティング方略のL2ライティングでの使用は明らかで はないが、L1ライティングのL2への影響があるとFが捉えているのは、L1ライティング の方が、高校、大学と継続して指導を受けてきたためと考えられる。

以上見てきたように、F のライティング・プロセスにおける言語間の顕著な違いは、L2 で「局所的計画」が増えることであった。書き出し前の計画は、L1ではほとんど行われず、

L2で、より丹念に行われたにもかかわらず、L2プロダクトの質には反映されなかった。「評 価」の内容を見ると、L1ライティングのみに「包括的評価」があり、また、「局所的評価」

の内容も、L2 ライティングの方が綴りや文法などの表層的な部分により認知資源を割かれ ており、L1ライティングのように包括的視点を持つことが難しかったと考えられる。