第 4 章 分析結果
4.5 ライティングのグループ間比較
4.5.1 ライティング方略の使用
ここでは、各グループのライティング方略について、支配的な方略や、計画方略、評価 方略、「自問」から成るメタ認知方略の使用の傾向、自動化されているかもしくは認知負荷 が高まったために発話されなかった方略の使用について見ていく。
表36は、L2能力の高い学生グループ、L2能力の低い学生グループ、教職経験者グルー プによるライティング方略の使用平均回数と、プロセス全体(発話された方略と発話され なかった方略の両方を含む)に占める割合を、L1 及びL2 ライティングについて示したも のである。また、表37は、使用の多かった5つのライティング方略をグループ別に表して いる。「その他」は、「あ(シャープペンシルの芯が折れた)」、「腕が疲れた」、「どきどき」
など、ライティング方略の範疇に入らなかったものである。
表36 各グループのライティング方略使用平均回数と割合
方略 L1ライティング M (%) L2ライティング M (%)
L2高学生 L2低学生 教職経験者 L2高学生 L2低学生 教職経験者 課題の確認 6.0 ( 4.1) 8.0 ( 5.4) 7.7 ( 3.3) 5.0 ( 2.0) 5.0 ( 2.8) 6.3 ( 4.7) 計画全体 8.9 ( 6.2) 6.1 ( 4.1) 11.7 ( 5.0) 10.7 ( 4.3) 31.0 (17.2) 8.6 ( 6.3)
包括的計画 0 ( 0) 0 ( 0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) テーマの計画 4.3 ( 3.0) 1.5 ( 1.0) 2.7 ( 1.1) 3.0 ( 1.2) 2.0 ( 1.1) 2.3 ( 1.7) 局所的計画 2.0 ( 1.4) 2.8 ( 1.9) 5.0 ( 2.1) 4.7 ( 1.9) 27.0 (15.0) 5.3 ( 3.9) 構成計画 1.3 ( 0.9) 1.3 ( 0.8) 2.3 ( 1.0) 1.3 ( 0.5) 0.5 ( 0.3) 0.3 ( 0.2) 結論計画 1.3 ( 0.9) 0.5 ( 0.3) 1.7 ( 0.7) 1.7 ( 0.7) 1.8 ( 0.8) 0.7 ( 0.5) アイディア創出 11.0 ( 7.6) 11.5 ( 7.8) 10.3 ( 4.4) 18.0 ( 7.2) 9.5 ( 5.3) 4.3 ( 3.2) メタコメント 5.0 ( 3.5) 7.0 ( 4.7) 18.0 ( 7.6) 7.0 ( 2.8) 4.8 ( 2.6) 9.0 ( 6.6) ポーズ 17.3 (12.0) 23.3 (15.8) 37.3 (15.9) 28.3 (11.3) 29.0 (16.1) 13.3 ( 9.8) 文章化 41.3 (28.6) 38.3 (25.9) 50.0 (21.2) 64.0 (25.5) 41.5 (23.1) 32.0 (23.5) 読み返し 8.0 ( 5.5) 13.0 ( 8.8) 21.0 ( 8.9) 26.0 (10.3) 19.3 (10.7) 13.7 (10.0) 評価全体 8.7 ( 6.0) 8.5 ( 5.7) 24.7 (10.5) 13.7 ( 5.4) 8.5 ( 4.7) 18.6 (13.7)
L1/L2能力評価 0.7 ( 0.5) 0 ( 0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 局所的評価 7.7 ( 5.3) 8.3 ( 5.6) 23.7 (10.1) 12.7 ( 5.0) 8.5 ( 4.7) 17.3 (12.7) 包括的評価 0.3 ( 0.2) 0.5 ( 0.3) 1.0 ( 0.4) 1.0 ( 0.4) 0 (0) 1.3 ( 1.0) 修正 11.7 ( 8.1) 10.3 ( 6.9) 18.0 ( 7.6) 21.3 ( 8.5) 11.8 ( 6.5) 19.0 (14.0) 自問 6.7 ( 4.6) 8.8 ( 5.9) 11.3 ( 4.8) 16.7 ( 6.6) 7.0 ( 3.9) 4.0 ( 2.9) 質問 1.3 ( 0.9) 0.3 ( 0.2) 0.7 ( 0.3) 1.3 ( 0.5) 0.3 ( 0.1) 0.3 ( 0.2) リハーサル 17.3 (12.0) 10.5 ( 7.1) 20.0 ( 8.5) 35.3 (14.1) 11.5 ( 6.4) 5.3 ( 3.9) 身体活動 1.3 ( 0.9) 1.3 ( 0.8) 1.7 ( 0.7) 2.3 ( 0.9) 1.0 ( 0.6) 2.0 ( 1.5)
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その他 0 (0) 0.8 ( 0.5) 3.0 (1.3) 1.0 ( 0.4) 0 (0) 0 (0) 合計 144.7 (100) 147.5 (100) 235.3 (100) 251.3 (100) 180.0 (100) 136.0(100)
表37 各グループの使用の多いライティング方略(%)
L1ライティング L2ライティング
L2高学生 L2低学生 教職経験者 L2高学生 L2低学生 教職経験者 1. 文章化 文章化 文章化 文章化 文章化 文章化 28.6 25.9 21.2 25.5 23.1 23.5 2. リハーサル ポーズ ポーズ リハーサル ポーズ 修正 17.3 15.8 15.9 14.1 16.1 14.0
3. ポーズ 読み返し 局所的評価 ポーズ 局所的計画 局所的評価 12.0 8.8 10.1 11.3 15.0 12.7 4. 修正 アイディア創出 読み返し 読み返し 読み返し 読み返し 8.1 7.8 8.9 10.3 10.7 10.0 5. アイディア創出 リハーサル リハーサル 修正 修正 ポーズ 7.6 7.1 8.5 8.5 6.5 9.8
まず、表36より計画方略の使用を見てみると、全体的には言語間で類似しているが、L2 能力の低いグループでは、L2ライティングにおいて、「局所的計画」の使用割合が他グル ープに比べて非常に大きい。L1ライティングでの「局所的計画」の使用は1.9%に過ぎない
が、L2ライティングにおいては15.0%に上り、3番目に最も多く使用されている(表37参照)。
どのグループも、L1ライティングよりL2ライティングでの「局所的計画」が多いのである が、L2能力の低い学生グループの使用は突出して多く、そのほとんどは、創出したアイデ ィアをL2に直すための計画である。Kruskal-Wallis検定の結果、L2ライティングにおける「局 所的計画」の使用については、5%水準で3グループには有意差があった(H(2)=6.705, p=0.035)。
更に、Mann-Whitney U検定により2群間の差を検討した結果、L2能力の低い学生グループと
L2能力の高い学生グループ間(U=0, p=0.034)、L2能力の低い学生グループとL2能力の高い 教職経験者グループ間(U=0, p=0.034)で、5%水準で有意差があった。しかしながら、
Bonferroniの方法により有意水準を各検定につき0.0167%(0.05/3)に調整した結果、有意差 の検出力が低くなり、どの群間にも有意差は確認できなかった。
「構成計画」は、どのグループもL1ライティングの方がL2ライティングよりも若干多く 行っている。構成法は、言語間で類似していた。L2能力の高い学生グループでは、3名のう ち2名が、意識的にあるいは無意識にL2の構成法をL1ライティングで使用しており、1名は、
意識的にL1ライティングの構成法をL2ライティングにおいても使用した。L2能力の低いグ
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ループについては、4名のうち2名が意識的にL1ライティングで身に付けた構成法をL2ライ ティングに転移させており、残り2名は、他の2名ほどの明らかな類似ではないものの、言 語間の構成計画に類似点があった。L2能力の高い教職経験者グループでは、1名が独学で身 に付けたL2ライティングの構成法をL1ライティングでも使用していた。
3グループの「計画全体」の方略使用の差を Kruskal-Wallis検定により検討した。その結 果、L1ライティングについては有意差、有意傾向はなかったが、L2ライティングでは、有 意傾向が認められた(H(2)=4.733, p=0.094)。更に、Mann-Whitney U検定の結果、L1ライテ ィングにおける「計画全体」の使用については、どのグループ間でも有意差は認められな かったが、L2ライティングの「計画全体」においては、L2能力の低い学生グループと教職 経験者グループの間に、5%水準で有意差があった(U=0, p=0.034)。しかしながら、Bonferroni の方法により有意水準を各検定につき 0.0167%(0.05/3)に調整した結果、有意差の検出力 が低くなり、どの群間にも有意差は確認できなかった。全体的に、L2 ライティングにおい て、「計画」方略はL2能力の影響を受ける傾向が認められる。
次に、評価方略の使用を見る。言語間では概して類似した使用が見られるが、L2能力の 低いグループでは、L2ライティングにおいて、「包括的評価」が全く行われなかった。ま た、教職経験者グループで「局所的評価」の使用がL1、L2ライティング共に顕著に多く、3 番目に使用の多い方略となっている(表37参照)。
3グループの「評価」全体の方略使用の差について、Kruskal-Wallis検定により検討した。
その結果、L1ライティングについては、有意差、有意傾向はなかったが、L2ライティング においては、有意傾向が認められた(H(2)=5.236, p=0.073)。更に、Mann-Whitney U検定の 結果、L1ライティングにおいては、5%水準でグループ間の有意差、有意傾向は認められな かったが、L2ライティングにおいては、L2能力の低い学生グループと教職経験者グループ 間の「評価全体」(U=0, p=0.034)、L2能力の低い学生グループとL2能力の高い教職経験者グ ループ間の「局所的評価」(U=0, p=0.034)、L2能力の高い学生グループと低い学生グループ 間の「包括的評価」(U=0, p=0.019)については有意差があり、L2能力の高い学生グループ と教職経験者グループ間の「評価全体」(U=0, p=0.05)、L2能力の低い学生グループと教職 経験者グループ間の「包括的評価」(U=2.0, p=0.078)については有意傾向が認められた。
その後Bonferroniの方法により有意水準を各検定につき0.0167%(0.05/3)に調整した結果、
どの群間にも有意差は確認できなかったものの、L2ライティングにおいては、L2能力が「評 価」方略の使用に影響したと考えられる。
L2ライティングでは、「局所的評価」の後にはほとんど「修正」が行われたため、「局 所的評価」の多かった教職経験者グループでは「修正」も多い。「包括的評価」は、L1及 びL2ライティングにおいて、全ての参加者により述べ13回行われているが、そのうち「修 正」に結びついたり、その後のテクストに活かされたりしたものは、L2能力の低い学生と のL2能力の高い学生による、L1ライティングにおける2回のみであった。
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「自問」については、L2能力の高い学生グループのみが、L1よりL2ライティングで「自 問」が多く、他のグループでは少ない。個人内では「自問」の割合は言語間で概して同程 度であるが、個人差があり、「自問」の割合が10%を超える参加者もいれば(L2能力の低い 学生FのL1ライティング)、全くあるいはほとんど「自問」が生じなかった参加者もいた(L2 能力の低い学生D、L2能力の高い教職経験者H)。「自問」がほとんどなかった参加者の共 通点は書く流暢さである。また、ほとんどの参加者の「自問」はテクスト産出に関わるも のであったが、L2能力の高い教職経験者IのL1ライティングとL2能力の高い学生AのL2ライ ティングでは、評価に関する「自問」とテクスト産出に関する「自問」がそれぞれ10回以 上、同程度見られた。2名とも「自問」しながら問題解決的にライティングを行った。
その他、グループ間で見られる違いは、「アイディア創出」は、どのグループでも、L1 ライティングにおいて、より多く行われているが、L2能力の高い学生グループの方が、低 いグループよりも、言語間で使用割合に差が無いことがある。L2能力の高い教職経験者グ ループは、「アイディア創出」の割合が、L1、L2ライティング共に、他のグループより小 さい。
「テクストの読み返し」はL2ライティングで増え、どのグループの割合も同程度である。
「ポーズ」は、L2ライティングでは、L2能力の高いグループほど減る傾向にあり、高いL2 能力はL2ライティングにおける認知負荷を軽減することを示唆している。
最後に、ライティング中には発話されず、直後のインタビューで確認されたライティン グ方略使用について、延べ回数と、発話されたものと発話されなかったものを含む全体の 方略使用に占める割合を表したものが、表38である。参加者全員の発話されなかったライ ティング方略の総数は、L1ライティングで115回、L2ライティングで116回であった。全体 の方略使用は、L1ライティングで述べ1730回、L2ライティングで述べ1884回である。よっ て、参加者全員の発話されなかったライティング方略が全体の方略使用に占める割合は、
L1ライティングで6.6%、L2ライティングで6.2%であり、言語間で大きな差は無かった。
表38 発話されなかったライティング方略の使用回数と割合 L1ライティング n (%) L2ライティング n (%) 方略 L2高学生 L2低学生 教職 L2高学生 L2低学生 教職 課題の確認 0 (0) 5 (0.8) 6 (0.8) 0 (0) 5 (0.7) 6 (1.5) 計画全体 5 (1.2) 10 (1.8) 6 (0.8) 2 (0.3) 12 (1.6) 6 (1.4)
包括的計画 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) テーマの計画 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 局所的計画 2 (0.5) 8 (1.4) 5 (0.7) 2 (0.3) 11 (1.5) 5 (1.2) 構成計画 1 (0.2) 1 (0.2) 1 (0.1) 0 (0) 1 (0.1) 1 (0.2)
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結論計画 2 (0.5) 1 (0.2) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) アイディア創出 3 (0.7) 1 (0.2) 2 (0.3) 0 (0) 1 (0.1) 4 (1.0) メタコメント 3 (0.7) 3 (0.5) 5(0.7) 3 (0.4) 0 (0) 3 (0.7) ポーズ 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 文章化 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 読み返し 0 (0) 0 (0) 7 (1.0) 0 (0) 0 (0) 2 (0.5) 評価全体 14 (3.2) 14 (2.4) 29 (4.1) 16 (2.1) 20 (2.8) 30 (7.3)
L1/L2能力評価 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 局所的評価 14 (3.2) 13 (2.2) 29 (4.1) 15 (2.0) 20 (2.8) 28 (6.8) 包括的評価 0 (0) 1 (0.2) 0 (0) 1 (0.1) 0 (0) 2 (0.5) 修正 1 (0.2) 1 (0.2) 0 (0) 1 (0.1) 2 (0.3) 0 (0) 自問 0 (0) 0 (0) 0 (0) 1 (0.1) 1 (0.1) 0 (0) 質問 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) リハーサル 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 身体活動 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) その他 0 (0) 0 (0) 0 (0) 1 (0.1) 0 (0) 0 (0) 合計 26 (6.0) 34 (5.8) 55 (7.8) 24 (3.2) 41 (5.7) 51 (12.4)
主に、「評価」や「計画」において、発話されなかったライティング方略の使用が見られ るが、特に「局所的評価」が、L1及びL2ライティング共に、どのグループでも、発話なし で行われているものが多い。このように発話されない「局所的評価」は、「文章化」や書か れたテクストの「読み返し」とほぼ同時か直後に行われるものと、「んー」というような間 投詞や沈黙の間に行われるものとがある。前者のように瞬時に行われる方略は、その手続 きが自動化されており、後者のような場合には、方略使用における認知負荷の高まりを示 していると考えられる。
表39は、「局所的評価」と「包括的評価」を合わせた評価方略と、「局所的計画」、「構成 計画」、「結論計画」から成る計画方略(「包括的計画」は使用されず、発話されなかった「テ ーマの計画」は認められなかった)について、瞬時に行われ、自動化されているものと、
認知負荷が高まり、間投詞や 3 秒以上の沈黙の間に行われたものとに分け、それらの使用 が発話されたものも含む評価全体、計画全体に占める割合を、グループ別に示したもので ある。発話されなかった評価方略の総数は、L1ライティングで53回、L2ライティングで 66 回である。また、発話された評価方略と発話されなかった評価方略を合わせた評価方略 全体の総数は、L1ライティングで133回、L2ライティングで129回であった。発話されな かった計画方略の総数は、L1ライティングで17回、L2ライティングで21回、発話されな かった計画方略と発話された計画方略を合わせた計画方略全体の総数は、L1 で 86 回、L2