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第 4 章 分析結果

4.3 L2 能力の低い学生グループ

4.3.2 L2 能力の低い学生 D

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や文法などに注意が向けられていた。L1ライティングで持ちえた包括的視点は、L2ライテ ィングではあまり機能していないと言える。

L1、L2ライティングの方略使用に見られる最も顕著な違いは、L2ライティングにおける

「局所的計画」の圧倒的な多さである。L1で平均2.8回(1.9%)しか使用されなかった「局 所的計画」が、L2ライティングでは平均27.0回(15.0%)も使用されている。L2能力の低い グループの参加者全員がL1ライティングよりもL2ライティングで「局所的計画」を多く用 いており、その目的の多くは、創出したアイディアをL2に直すことにあった。このグルー プの中で、最もL2能力が高いDのL2ライティングにおける「局所的計画」の割合が最も低い という事実も、L2能力の不足が「局所的計画」を多く必要とする解釈を支持している。

「局所的評価」に関しては、L1 ライティング(8.3 回、5.6%)と L2 ライティング(8.5 回、4.7%)で、使用の差はあまりない。「修正」も、L1で10.3回(6.9%)、L2で11.8回

(6.5%)と同程度である。

L1ライティングの方が割合の大きかった方略使用は、大きな違いではないものの、「課題 の確認」、「アイディア創出」、「メタコメント」、「局所的評価」、「自問」、「リハーサル」と 多いが、逆に、L2 ライティングの方が多かった主な方略は、「局所的計画」の他には、「読 み返し」程度である。このことから、L2ライティングで「局所的計画」に費やされる認知 資源が少なくて済むならば、他のライティング方略の使用の余裕ができると考えられる。

以上のように、L2能力の低い学生グループのライティング・プロセスの特徴は、L2能力 が充分でないために、L1で創出したアイディアをL2に直すための「局所的計画」が多く行 われ、恐らくはそのために、L1で行ったようには、L2ライティングで方略を使用すること ができず、包括的視点を持ってL2ライティングを行うことも難しかったことにある。

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に不安はない。L2で長い文章を書く機会はないが、L1では自由に日記を書いてストレスを 発散し、楽しんでいる。

L1プロダクトの評価は125点で、2つの学生グループの平均点程度である(表5参照)。

L2プロダクトは159点で、内容(60)49点、構成(40)35点、 語彙(40)32点、言語使 用(50)35点、句読点や綴りなどの機械的技能(10)8点と、「良いから普通」に相当する 評価を受け、教職経験者グループの平均点に達している(表5、表18参照)。

ライティングの流暢さは、L1 で1272字、44.27 字/分、L2 では252語、11.25 語/分と、

長さにおいても、1分間当たりの産出字数または語数においても、とても流暢に書いた(表 6、表19参照)。L1ライティングは全参加者の中で最も流暢に書いた。L1観察メモにも、

「産出する文をどんどん発話しながら、同時に課題を確認したり構成を考えたりしている。

思考発話法では拾い切れない、複数の活動を同時に行っている。3 秒以上の沈黙は無かっ た。」とある。ライティングにかけた時間は、L1では29分18秒、L2では23分39秒と L1でやや長かった(表7、表20参照)。

次に、実際のライティング方略の使用について見ていく。

書き出し前には、賛成、反対を決める以外の「計画」はほとんど行われておらず、L1で は「課題の確認」を2回行い、メモを使用したものの、簡潔な「アイディア創出」(1回)

で「家庭」と書いて2重丸をつけたのみで、34秒で書き始めた。他には、賛成か反対かに ついての「メタコメント」が3回、「ポーズ」が 3回であった。L2では、「課題の確認」1 回、「メタコメント」3回に、L2でどう表現するかの「局所的計画」1回が加わり、用紙を 整える「身体活動」1回の後に、1分15秒で書き始め、「ポーズ」はなかった。L1の方が

「どっちだろ」、「どっちだ」と、立場を決めるのにやや迷っていたため、「ポーズ」が生じ、

簡潔な「アイディア創出」を行ったと考えられる。賛成、反対の立場を考えたのみで、「計 画」に時間をかけず、書き出し後に書きながら内容や構成の計画を立てたことが、L1、L2 ライティングに共通していた。

ライティング直後のインタビューでは、書き出し前の「計画」について、普段はL1の重 要なレポートでは構成を考え下書きをするが、L2ライティングではまとまった文章を書く 機会がないので計画はしないと述べている。今回は、L1ライティングでは中盤で反対意見 を含めたほうが良いと判断し、全体の構成を考え、L2ライティングでは書き始めてから「ア イディア創出」を行ったと振り返った。

表22は、Dのライティング・プロセス全体におけるライティング方略の使用回数と割合 を示している。L1ライティングの発話プロトコルのセグメント数は159、L2ライティング では138であった。

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表22 Dのライティング方略の使用回数と割合

方略 L1ライティング n(%) L2ライティング n(%)

課題の確認 7(4.4) 3(2.2)

計画全体 5(3.1) 10(7.2)

包括的計画 0(0) 0(0)

テーマの計画 0(0) 0(0)

局所的計画 4(2.5) 9(6.5)

構成計画 1(0.6) 1(0.7)

結論計画 0(0) 0(0)

アイディア創出 19(11.9) 17(12.3)

メタコメント 5(3.1) 5(3.6)

ポーズ 33(20.8) 27(19.6)

文章化 60(37.7) 44(31.9)

読み返し 5(3.1) 12(8.7)

評価全体 2(1.3) 4(2.9)

L1/L2能力評価 0(0) 0(0)

局所的評価 2(1.3) 4(2.9)

包括的評価 0(0) 0(0)

修正 5(3.1) 4(2.9)

自問 0(0) 1(0.7)

質問 0(0) 0(0)

リハーサル 17(10.7) 9(6.5)

身体活動 1(0.6) 2(1.4)

その他 0(0) 0(0)

以下は、L1及びL2ライティングでよく使用された方略である。

L1ライティング L2ライティング

1. 文章化 37.7% 1. 文章化 31.9%

2. ポーズ 20.8% 2. ポーズ 19.6%

3. アイディア創出 11.9% 3. アイディア創出 12.3%

4. リハーサル 10.7% 4. 読み返し 8.7%

5. 課題の確認 4.4% 5. リハーサル 6.5%

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L1、L2ライティング共に、使用されたライティング方略は「文章化」が最も多く、それ に「ポーズ」、「アイディア創出」と続く。書き出してから書く内容を考えているため、短 い「アイディア創出」が頻繁に為された。「ポーズ」は間投詞で沈黙はあまりない。以上の 点はL1、L2ライティングに共通している。違いは、L2ライティングでは書かれたテクスト の「読み返し」や「局所的評価」がL1より多く、L1では「課題の確認」と「リハーサル」

がL2より多いことである。

「読み返し」の目的は、L1では、5回とも次に書く内容を考えることであるが、L2では、

次の内容を考えるための5回に加えて、続くL2表現を考えるためのものが5回、評価のた めの「読み返し」が2回ある。言語使用がL1 ほど円滑には進まないため、「読み返し」が L2ライティングで増えたと考えられる。「局所的評価」がL2で若干多かったのも、内容や 表現についての評価に加えて文法的正確さを評価するものがあったためである。「課題の確 認」がL1で多かったのは、賛成、反対の立場を決める段階で迷い、4回課題を読み直した ためである。他には、ひとまとまりの意見を書き終えて次に何を書くか考えるための「課 題の確認」が1回、課題に沿って書くための「課題の確認」が2回あった。一方、L2での

「課題の確認」は、2回目と3回目は単語の確認のために行われている。「リハーサル」が L1で多かったのは、より表現を吟味したためで、「リハーサル」どおりに書かかなかったも のも多いが、L2では「リハーサル」どおりに書いた。

次に、「計画」について見ていく。書き出し前の「計画」は、L1、L2共に、賛成、反対の 立場を決めたのみで、ライティング・プロセスの途中でも、「テーマの計画」、「結論計画」

は行われておらず、「構成計画」がL1、L2 で1回ずつと、計画方略の使用は言語間で非常 によく似ていた。違いは、「局所的計画」がL2で9回(6.5%)と、L1の4回(2.5%)より も多かったことである。L1ライティングにおける「局所的計画」は、内容についての計画 2回、表現の計画2回であるが、L2では、内容についての計画2回に加えて、L2でどのよ うに書くかについての計画が7回見られた。「局所的計画」がL2で増えるのは、先に見た

「局所的評価」や「読み返し」が増えたのと同様に、L2能力の不足のために、言語に関わ る表層的な部分に認知資源を費やす必要があるためと考えられる。

「評価」は、L1、L2共に「包括的評価」は行われず、「局所的評価」も、L1 ライティン グで2回(1.3%)、L2ライティングで4回(2.9%)と少ない。L1では表現の評価を2回行 い、2回とも修正し、L2 では、文法と内容についての評価をそれぞれ1回ずつ行った後に 修正し、表現の評価を行った2回のうち1回は修正した。

「自問」は、L1ライティングでは全く見られず、L2ライティングでも、綴りに自信が持 てず、「Behavior?」と首を傾げた 1 回のみであった。全ての参加者の中で、これほど「自 問」の少ない参加者は、L2能力の高い教職経験者Hを含め、2名のみであった。L1、L2ラ イティング共に、書こうと意図するものと書かれたものとのズレを意識することがほとん どないために「自問」が生じず、「評価」も少なく、修正活動も少なかったと考えられる。

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書かれたプロダクトの「評価」はL1プロダクトが学生の中では平均的で、L2プロダクト はL2能力の高い教職経験者グループの平均と変わらなかったが、そのライティング・プロ セスは、ライティング方略のバリエーションがそれほど豊かではなかった。加えて、「計画」

や「評価」もあまり行われず、課題を吟味し、知識を再構築して書く「知識変形モデル」

よりも、思いついたことをそのまま書き連ねていく「知識伝達モデル」に近い。L1観察メ モにも、「始めに賛成の立場を決めたのみでほとんど計画をせず、細切れにアイディアを創 出しながら、それをほとんど吟味することなく、どんどん流暢に書き、ほとんど修正をし ないのが特徴。」とある。L2観察メモには、「書き出してからアイディア創出し、あるいは 直接書いていくが、L2 にどう直すかを考える「局所的計画」はある。英語が浮かばなけれ ば他の表現に言い換えようとする。ほとんどL2で直接書いているが、L1で考えることも少 しあり、日本語に直して読み返している部分もある。」とある。動機づけアンケートの得点 も73点(100点)と、他の参加者に比べて高くはないが、それでもL2プロダクトの質が比 較的高かったのは、高校、大学と、L1、L2ライティング指導を受けていることも影響して いると思われる。とても流暢に書いたために、「文章化」が思考発話の中心となり、自動化 された他の活動が発話されなかった可能性もある。