第 4 章 金属酸化物電極を用いた生体分子の選択検出と高感度化
4.3 結果と考察
4.3.3 ITO-gold IDAE の特性評価
4.3.3.2 ITO-gold IDAE の電気化学特性
くし形電極の還元用電極として金を用いることによって、どれだけの増幅効果が得られるかを 確認するために、100 µMの DA溶液を用いてCV測定を行った。CV測定の際には、ITO電極 を 0~0.6V vs. Ag/AgCl の範囲で電位を掃引し、還元用電極である金電極の電位は、0 V vs.
Ag/AgClに固定した。Fig. 4-13に測定結果を示す。比較として、ITO電極のみで構成されるく し形電極(ITO-ITO IDAE)から得られた応答も併せて示している。ITO-ITO IDAEは、ITO-gold IDAEを作製した後、さらにもう一方の金薄膜を溶解して作製した。Fig. 4-13 (A)より、ITO-ITO IDAE の場合では、予想されたとおり、酸化電流に比べて還元電流が小さいことが分かる。これ は、DAの酸化体が還元電極で十分還元されていないことを示している。
Fig. 4-12 EPMA spectra of the ITO (A) and the gold/ITO multilayered film (B).
Fig. 4-13 (A) Cyclic voltammograms of 100 µM DA obtained from the ITO-gold IDAE (black line) and the ITO-gold IDAE (gray line). (B) Cyclic voltammograms of 100 µM DA when using dual mode (doted line), and single mode (solid line). The scan rate was 0.01 V/s.
一方、ITO-gold IDAEから得られた応答は、酸化電流、還元電流共に、ITO-ITO IDAEから得 られるそれを上回った。捕捉率(還元電流値 酸化電流値 100)を計算すると、ITO-gold IDAE は81.1%、ITO-ITO IDAEは35.5%であった。この結果は、IDAEの還元電極として、ITOに代 えて金を用いることの優位性を示している。より詳細に応答の増幅効果を調べるために、IDAE のITO電極のみを使用して、DA( 100 µM)のCV測定(シングルモードでの測定)を行った。
Fig. 4-13 (B)に、その結果を示す。実線で示しているのがITO電極のみを用いた場合に得られた
応答であり、比較として点線でITO-gold IDAEから得られた応答を示している。両者の酸化電流 値を比較すると、0.6 VのときにITO-gold IDAEの方が約1.7倍高いことが分かった。以上の結 果から、IDAEの酸化電極としてITOを用いる際に、還元電極として金を使用することは、高い 応答電流を得る上で非常に効果的であることが分かった。
熱 CVD 法で作製したカーボン電極は残余電流が低いため、カテコールアミンの高感度検出用 の電極としてよく用いられている[22, 23]。高感度検出には、高い応答電流値、低いノイズレベ ル、低いバックグラウンド電流を満たすことが必要であり、カーボン電極は、それらを満たした 電極であると言える。近年では、ダイヤモンド電極[24-26]やECRスパッタカーボン電極[27] も、低いバックグラウンド電流を示すことが報告されている。そこで、カテコールアミンの高感 度検出の可能性を調べるために、ITO-gold IDAEを構成するITOのバンド電極について、カーボ ン電極と比較しながら応答電流とバックグラウンド電流の評価を行った。その結果を Fig. 4-14 に示す。Fig. 4-14(A)より、DA(100 µM)に対するITO電極から得られた応答は、カーボン電 極から得られたそれに比べて、約5分の1であった。また、ITO電極での酸化電位は、カーボン 電極でのそれに比べて約0.2 Vシフトした。遅い電子移動は、非晶質のITO電極において、酸化
還元種としてよく用いられるRu(bpy)32+/3+やFe(CN)4-/3-を用いた場合でも確認されている[13]。
今回、カーボン電極と比較して、酸化電位の高電位側へのシフトや電流値が小さい結果が得られ たことについても、ITO薄膜の内部構造(アモルファス構造)に起因していることが示唆される。
しかしながら、このITO薄膜は、カーボン電極よりも遙かに低いバックグラウンド電流を示し た(Fig. 4-12(B))。PBS溶液を用いてバックグラウンド電流を測定し、カーボン電極の結果と比 較したところ、ITO 電極から得られたバックグラウンド電流は、カーボン電極から得られたそれ と比較して20分の1の大きさであった。Fig. 4-12(B)からも分かるように、ITO電極では、バッ クグラウンド電流が、印加電位が増加してもほとんど変化しておらず、安定であった。それぞれ の電極について、応答電流とバックグラウンド電流の割合を計算したところ、ITO電極は75、カ ーボン電極は39 であった。
以上の検討より、ITO 電極は、従来バックグラウンド電流が小さい電極として用いられてきた カーボン電極よりもバックグラウンド電流が低く、また、応答電流との比は、カーボン電極の約 二倍も大きな値であった。このことからITO-gold IDAEは、その低いバックグラウンド電流によ って、カテコールアミンを高感度に測定できる可能性を有していることが分かった。IDAE にお いては、酸化還元サイクルによる増幅効果は電極数、電極幅、電極間距離に依存する[20]。今 回作製したITO-gold IDAEについては検出感度の検討を行っていないが、微小化によってさらに 高感度化が図れるものと考えている[21]。
Fig. 4-14 Comparison of CVs from the ITO electrode (solid line) and a carbon electrode deposited by using the chemical vapor deposition method (dotted line) when using the single mode. The sample solutions were 100 µM of DA (A) and PBS (B). The scan rate was 0.01 V/s.
Fig. 4-15 Cyclic voltammograms of DA, AA, UA and PBS obtained from the ITO-gold IDAE. The concentration of the DA, AA and sample solution was 100 µM. The scan rate was 0.01 V/s.