第 4 章 金属酸化物電極を用いた生体分子の選択検出と高感度化
4.3 結果と考察
4.3.2 ITO-金複合くし形電極(ITO-gold IDAE)の作製
カテコールアミンは、電気化学的な活性を有すると同時に酸化還元サイクルを示すという特徴 を有している。第2章でも述べたように、カテコールアミンを高感度に検出するためには、くし 形電極を用いるのが有効である。このため、ITO薄膜を用いてくし形電極を作製すれば、AAなど の測定妨害物質の影響を抑制しながら、高感度に測定することが可能となると考えられる。しか しながら、前項で述べたように、ITO 薄膜は、カテコールアミンの酸化物を還元しにくい性質も 有している。Fig. 4-7にそれがより顕著に表れている結果を示す。Fig. 4-7は、0.1 V/sで電位 を掃引したときのDA の CVを示している。GC電極では、酸化電流と共に明瞭な還元電流が観 測されているが、ITO電極では還元電流がGC電極のそれに比べて著しく小さい。ITO薄膜のみ
Fig. 4-6 TEM image and diffraction pattern of the ITO thin film.
でくし形電極を作製しても、十分な増幅効果が得られないことが考えられる。そこで、この問題 を解決するために、くし形電極の酸化用電極にITO薄膜を、還元用電極に金属電極を用いた異種 金属複合型くし形電極(ITO-gold IDAE)を考案した。還元用電極として金を用いた場合のイメ
ージをFig. 4-8(B)に示している。ITO電極のみでは低い酸化還元サイクリングしか得られないが
(Fig. 4-8(A))、還元用電極として金やカーボンなどの材料を用いることによって高い酸化還元サ
Fig. 4-7 Cyclic voltammograms of 100 µM of DA at a GC electrode (A) and an ITO electrode (B).
Scan rate was 0.1 V/s.
Fig. 4-8 Images of redox cycling of catecholamine at ITO-ITO IDAE (A) and ITO-gold IDAE.
イクル効率が得られることが期待される。予備検討によって、ITO 電極で酸化したカテコールア ミンを金電極で還元できることを確認し、IDAE の還元用電極に金を用いることで、酸化還元サ イクルを高められることを見いだした。還元用電極として金を選択した理由としては、(1)電気 化学的に安定で、ノイズが比較的小さい(2)金で作製したIDAEでは良好なレドックスサイク リングが観測されている(3)パターニングが容易であることが挙げられる。異なる二種類の金 属を別々にアライメントしながらパターニングすることは難しいため、ITO、金薄膜を成膜した 後に、リフトオフ法を用いて、一括してくしの形状をパターニングする手法を考案した。以下、
ITO-gold IDAEの作製法について述べる(Fig. 4-9)。
ガラス基板(A)上に、ポジ型フォトレジストを塗布し、露光、現像を行い、くし形のレジス トパターンを作製した(B)。その後、ITO薄膜(膜厚90 nm)、金薄膜(膜厚40 nm)を順にス パッタ法により積層して形成した(C)。金薄膜をやや薄く成膜したのは、次の工程のリフトオフ を行いやすくするためである。次に、2-ブタノン中でリフトオフを行い、不必要な ITO、金の部
Fig. 4-9 Process for fabricating an interdigitated array electrode consisting of an ITO and a gold band electrode (ITO-gold IDAE). A: Substrate (glass wafer), B: Electrode pattern formed using a positive photoresist on the substrate, C: Sputtering of ITO (lower) and gold (upper) films on the substrate with the electrode pattern, D: Formation of gold/ITO multilayered film by using the lift-off method, E: Passivation with a silicon-based positive photoresist, F:
Removal of the gold film from one side of the IDAE by scanning the potential from 0 to 1 V vs.
Ag/AgCl in the PBS solution. The scan rate of the potential was 0.5 V/s.
Fig. 4-10 SEM images of the ITO-gold IDAE. (A) overview of the IDAE, (B) enlarged ohotograph of the part of the array electrode. Each band electrode is 10 µm wide, and the gap between band electrodes is 5 µm. The dark electrode is ITO film, and the bright one is gold/ITO multilayer film.
分を除去し、くし形の電極パターンを作製した(D)。くし形のパターンに絶縁膜用のポジ型フォ トレジストを塗布、パターニングを行い、くし形電極の面積を決定した(E)。最後に、このよう に作製した金/ITO 積層くし形電極をリン酸緩衝液(PBS)中に参照電極(銀/塩化銀電極)と 対向電極(白金線)とともに浸漬させ、くし形電極の一方の電極にのみ0~1 V vs. Ag/AgClの 範囲において、0.5 V/sの速さで電位を掃引し、攪拌しながら金を溶解した。金の溶解に伴う酸 化電流が観測されなくなるまで、電位を掃引した。これにより、くし形電極の一方の電極がITO、
もう一方の電極が金の電極が完成した(E)。
堀内らにより、光電気化学への応用を考え、ITO と白金の異種金属複合電極(ITO-Platinum
IDAE)が報告されているが[19]、ここで報告されている作製法では、はじめにITOが形成され
た基板を使用しているために、ITO をエッチングする必要があるため、作製工程がやや煩雑にな る。本研究で採用した方法は、リフトオフと塩化物イオンを含む水溶液中での電解酸化によって 簡便かつ安定に異種金属複合電極を作製できる点で優位性が高いといえる。