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スパッタ ITO 薄膜の電気化学特性と構造

ドキュメント内 Microsoft Word - Doctoral Thesis(表紙).doc (ページ 65-71)

第 4 章  金属酸化物電極を用いた生体分子の選択検出と高感度化

4.3 結果と考察

4.3.1  スパッタ ITO 薄膜の電気化学特性と構造

はじめに、ITO電極上でのDA、AA、UAに対する電気化学挙動を把握するために、直径1 mm のITO電極を作製し、CV測定を行った。ITO電極は、レジスト膜を絶縁層として用いて、面積 規制を行った。比較として、グラッシーカーボン(GC)電極(直径3 mm)を用いて同様な実験 を行った。

  まず、GC電極で得られた結果について述べる。Fig. 4-1 (A)に、GC電極で得られたCV測定 の結果を示している。DAの場合、酸化電流は0.15 V付近から増加し、0.25 V付近で最大電流 が得られ、その後、減少した。AA、UA は、それぞれ酸化電位は異なるものの、DA に近い電位 で酸化することを確認した。次に、ITO電極上で得られた結果について述べる。Fig. 4-1 (B)はITO 電極から得られたCV測定の結果を示している。DAの場合、酸化電流は0.2 V付近から増加し

始め、0.375 Vでピーク電流が得られ、その後減少した。一方、AA、UAの場合では、DAの場 合に見られるようなピーク電流は見られず、徐々に増加する傾向が認められた。特に、UA は、

0.5 V以上の電位において酸化電流の増加が認められるものの、0.5 V以下のDAが十分酸化さ

れる電位においては、わずかな電流値しか観測されなかった。この結果から、スパッタ法により 作製されたITO薄膜は、AA やUA の酸化を抑制することができることを再確認した。ここで、

DAの最大電流値が得られた0.375 VでのDAとAA、UAの選択比を算出(DAの酸化電流値/

AA、UA の酸化電流値)したところ、それぞれ、5.2、37.8 であった。一方、GC 電極の場合で は、それぞれ1.9、13.1 であった(AA は、ピーク電流値が得られる電位がDAのそれに比べて 卑であるために、選択比算出の際には、ピーク電流値を採用した。UAは、DAのピーク電流値を 示した電位で得られた電流値を採用した。)。この結果から、ITO 電極で、DA から得られる酸化 電流値はGC のそれに比べて減少するものの、選択比は向上することが確認された。同じアニオ ン性分子であっても、AAとUAの選択比が異なった原因については、今後の検討課題である。

  また、GC 電極上では、僅かながらDA の還元電流が観測されているが、ITO 電極上では、ほ とんど観測されなかった。この傾向は、電位走査速度が高い場合において、より顕著に認められ ることを確認している(Fig. 4-7)。この結果から、DAの酸化体(ドーパミンキノン)がITO電 極上で還元しにくいことが示唆された。

  今回は、フォトレジストを用いて電極の面積規制を行ったが、成膜直後のITO薄膜を絶縁性の テープにて面積規制を行い、同様な測定を行った場合では、DAとAAの選択比が160 であるこ とが報告されている[15]。この結果は、Fig.4-1(B)で示した結果を遙かに上回る選択比である。

このような違いが得られた原因については、以下のように考えることができる。今回のようにフ Fig. 4-1 Cyclic voltammograms of 100 µM of DA, AA and UA at a GC electrode (A) and an ITO electrode (B). Scan rate was 0.01 V/s.

ォトレジストを用いて面積規制を行う場合には、その工程(現像時)において、ITO 表面がアル カリ溶液に触れることになる。ITO 表面は、酸処理を施した場合には負に帯電し、アルカリ処理 を施した場合には、正に帯電することが報告されている[16, 17]。酸処理の場合、表面の酸素原 子と水素イオンが結合し、ここにアニオンが吸着することにより、表面が負に帯電する。一方、

アルカリ処理の場合、表面の金属原子と水酸基が結合し、ここにカチオンが吸着することにより、

表面が正に帯電する。このことから、フォトレジストを用いて面積規制を行った場合、その過程 において、ITO 表面がアルカリ溶液で処理されることにより、リン酸イオンの吸着が阻害され、

AAに対する酸化反応抑制効果が低下したものと考えられる。

  アルカリ処理が施された場合には、表面がエッチングされ、表面ラフネスや表面の金属組成が 変化することが考えられる。そこで、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、フォトリソグラフィー 前後のITO薄膜について表面観察を行った。その結果をFig. 4-2に示す。

  フォトレジストによるパターニングを行っていないITO薄膜では(Fig. 4-2(A))、ラフネスは 概ね数nm程度であるが、小さいもので20-30 nm、大きいもので100 nm程度の粒子が点在し ていることが分かった。一方、レジストパターニング後のITO 薄膜では(Fig. 4-2(B))、さらに ラフネスが大きくなっていることが分かった。続いて、X 線マイクロアナライザー(EPMA)を

Fig. 4-2 AFM images of ITO electrode surface, (A) as-deposited ITO film, (B) the ITO film after photolithography process.

用いて、膜表面の金属組成の比較を行った。その結果をTable 1にまとめる。フォトリソグラフ ィー前後で、大きくは変化していないが、フォトリソグラフィー後にスズが減少することが分か った。スズはイリジウムに比べて、アルカリに溶解しやすいため、このような結果が得られたも のと考えられる。

Table 1 Film composition of ITO film.

Film composiotion [at%]

Film condition

In Sn

As-deposited 95.83 4.17

After

photolithography 96.24 3.26

 

Fig. 4-3 Cyclic voltamograms of DA, AA and PBS at ITO electrode treated without (A) and with (B) 0.1 N H3PO4. Comparison of CVs for DA (C) and AA (D). The concetration of DA and AA standard solution was 100 µM. Scan rate was 0.01 V/s.

Fig. 4-4 Cyclic voltammograms of PBS at ITO electrode with and without pre-treatment using 0.1 N H3PO4. Scan rate was 0.01 V/s.

  フォトリソグラフィー後のITO薄膜のAAに対するDAの選択比が低下した原因としては、ア ルカリ処理によって表面が正に帯電することが大きな原因として考えられるが、上述したような 表面組成の変化による影響についても検討する必要がある。

  さて、ITO 電極をマイクロセンシングデバイスに組み込むには、フォトリソグラフィーを行う 必要があることから、フォトリソグラフィーによる選択性の低下を抑制する方法について検討す る必要がある。そこで、フォトレジストを用いてパターニングした電極を酸処理することにより、

選択性を回復させることができるかどうかについて検討を行った。酸としてリン酸を用いた。前 処理液としてリン酸を用いた理由は、エッチングレートが他の酸に比べて遅く[18]、酸処理に よる表面状態の回復とリン酸の吸着による電荷の制御を同時に行うことできるものと考えたため である。Fig. 4-3にリン酸による前処理前後のDA、AAのCV測定結果を示す。

   Fig. 4-3(A)には、未処理のITOから得られたDA、AA、PBSのCVを示している。Fig. 4-1(B) で示したCVと形状が異なっているが、成膜直後においても若干CV の形状にばらつきがあるこ とを確認している。この場合のDAとAAとの選択比は、5(400 mV vs. Ag/AgClのとき)で あり、基本的な特性に変化は無かった。次に、0.1 N のリン酸溶液を調製し、この中に40 分間 ITO電極を浸漬させた。水洗した後、同様な測定を行った。その結果、Fig. 4-3(B)に示すように、

未処理の場合に比べて、DAから得られる応答は増加し、逆にAAから得られる応答は減少した。

Fig. 4-3(C)、(D)より、DAから得られた応答は約1.7倍に増加し、AAから得られた応答は、約 半分にまで低減した。この結果、前処理によってDAとAAの選択比は、5から17にまで向上可 能であることが分かった。しかしながら、成膜直後のITO電極のような高い選択比にまで回復さ せることができなかった。今回は、0.1 Nのリン酸を用いて前処理を行い、その効果があること を確認することができた。より選択比を回復させるためには、リン酸の濃度や浸漬時間を詳細に 検討する必要がある。

  ここで、リン酸を用いた前処理による その他の影響を調べるために、前処理前 後のITO電極についてPBSに対する応 答を比較した。その結果をFig. 4-4に示 す。リン酸処理を施した場合の方が、未 処理の場合に比べて、やや電流値が高い ことが分かる。ITOは、酸にもアルカリ にもエッチングされる[18]。バックグ ラウンド電流が大きくなったのは、リン 酸処理により ITO 表面がエッチングさ れ、表面積が大きくなったためであると 考えられる。このことを確かめるために、

リン酸処理後のITO表面をAFMにより

観察した。その結果をFig. 4-5に示す。

  Fig. 4-2と比較すると、リン酸処理後の方が、突起物のようなものが観察されるものの、粒子

状のものが微細化されていることが観察された。これは、リン酸によってITO表面がエッチング されたことを示している。Fig. 4-4のように、リン酸処理後にバックグラウンド電流が増加した のは、エッチングにより表面積が増加したためであることが分かった。

  表面観察に続いて、表面組成についても検討を行った。アルカリによる処理後(フォトリソグ ラフィー後)に、表面組成が変化することを確認したが(Table 1)、リン酸処理による組成変化 の有無を確認するため、X 線光電子分光法(XPS)を用いて、リン酸処理前後における表面組成 の変化を調べた。その結果をTable 2に示す。

Table 2 Film composition of the ITO electrode with and without pre-treatment using H3PO4.

Film composition [at%]

Film condition

In Sn

As-deposited 95.4 4.6

After pre-treatment 88.7 11.3

  この結果から、インジウムの割合が減少し、スズの割合が増加していることから、リン酸処理 によってインジウムが選択的にエッチングされている可能性があることが分かった。アルカリ処 理後では、スズの量が減少していたことから、表面に存在するスズの量が電気化学特性に影響を 及ぼしている可能性も示唆された。

  さて、これまで、ITO 薄膜を電気化学測定に用いた例はあるが、前項で述べたようなカテコー ルアミンに対して高い選択性が得られた結果についての報告は無かった。従来のITO薄膜と異な る点を調べるために、今回作製したITO薄膜についてTEM による構造解析を行った。Fig. 4-6 に、ITO薄膜のTEM像と電子線回折像を示す。TEM像から、内部構造には原子配列の規則性が 認められなかった。また、(B)で示した電子線回折パターンにおいても、ハローなリングが観測さ

Fig. 4-5 AFM image of the ITO film with pre-treatment using 0.1 N H3PO4 (40 min.).

ドキュメント内 Microsoft Word - Doctoral Thesis(表紙).doc (ページ 65-71)