第 6 章 考察
6.1 ICT 産業と非 ICT 産業における「FFE での活動」
6.3.2 IPMA を通じての企業規模別の考察
2017
年度ICT
産業の大企業と中堅・中小企業の「FFE
での活動」において最も重要度の 高い活動を明らかにするため、IPMA
を行った結果、差異が発見できた。表
132
は、2017
年度ICT
大企業、中堅・中小企業における「効率」の向上において最 も重要とする「FFEでの活動」を示す表である。表 132 2017年度
ICT
企業規模別の「効率」向上のための「重要度」の順位初期計画の活動 重要度の順位 大企業 中堅・中小企業
c01(計画策定) 1 (c04) 費用計画 (c05)プロジェクトの責任 c02(時間割り当て) 2 (c01) 計画策定 (c04) 費用計画 c03(資源割り当て) 3 (c05)プロジェクトの責任 (c01) 計画策定 c04(費用計画) 4 (c02) 時間割り当て (c03) 資源割り当て c05(プロジェクトの‘責任) 5 (c03) 資源割り当て (c02) 時間割り当て
大企業の場合、仮説[H12]が支持されたことから、プロジェクトの実行段階において も「初期計画」の通りに管理しようとする働きが強いと推測できる。但し、「効率」の活 動の中で、「時間割り当て及び資源割り当て」のパフォーマンスが低い。
大企業は、「効率」の向上に、「初期計画」の中でも「費用計画」を最も重要だと認識 している。次は、計画策定、プロジェクトの責任、時間割り当ての順である。この
IPMA
結果から大企業はFFE
で計画した「予算・マイルストーン・人員」の通りにプロジェクト を厳密に管理していることが推定できる。この理由として、大企業は、最終製品を完成す る立場から、素材・部品・実装ソフトウェアの品質管理、納品期間、コストを厳しく管理 する必要があるからであろう。予算・計画はプロジェクトの実行段階との偏差を縮小する 上で、またプロジェクト責任は予算・計画・人員の内部管理及びサプライチェーンの外部 管理などの責任であると考えられる。中堅・中小企業は、「効率」の向上に「初期計画」の中でも「プロジェクトの責任」が 最も重要な活動であった。なぜこのような結果であるかを見ると、韓国の
ICT
中堅・中小 企業の殆どが大企業または政府を相手にするB2B
ビジネスであるためではないかと考えら れる。韓国のICT
中堅・中小企業のプロジェクトの環境をみると、プロジェクト実行段階 において、顧客による要求事項の変更や納期時への要求事項の追加など、それに伴う費用 の増加は中堅・中小企業が負う事情である。そのため、FFE
段階からプロジェクト・マネ ージャー(PM)の能力が重要である。即ち、顧客の要求事項や新製品の技術仕様などに関 する技術的な知識が、顧客より、良く知っているとか、また顧客との交渉力を持つPM
の 存在が重要である。また、中堅・中小企業は、「技術不確実性の低減活動」が「効率・効果」に寄与しない、それに加えて、「効率」への経路係数を見ると負の影響(-
0.310)を
受ける結果である。このことは、「技術不確実性の低減活動」を積極的に行っているが、実行段階で顧客とのかかわりなどで変更が生じるのではないかと考えられる。
表
133
は、2017
年度ICT
大企業、中堅・中小企業におけるIPMA
の結果で「効果」向上 において最も重要とする「FFE
での活動」を示した表である。表 133 2017年度
ICT
企業規模別の「効果」向上のための「重要度」の順位大企業 重要度の順位 中堅・中小企業
効率 市場不確実性の低減
f03 (FFEで計画した予算) 1 a01(潜在顧客のneeds, wants, 顧客仕様を十分に熟知) f04 (FFEで計画した人員) 2 a04(価格敏感度)
f02 (FFEで計画したマイルストーン) 3 a06(競争者の製品、価格、戦略などを良く知っている)
― 4 a03(潜在市場の規模)
― 5 a05(差別化できる魅力度)
― 6 a02(要求事項のコンセプトへの反映)
「効果」の向上のため、大企業は、「効率」が最も重要度の高い活動で、その中でも
「
FFE
で計画した予算」である。大企業は、最終製品を完成するため、原価削減または目 標原価を守るなど原価管理を徹底的に行っていることを示唆する。しかし、「効率」の諸 活動を見るとパフォーマンスが低い。ということで「効率」の諸活動を重点的に管理すべ きである。大企業の「効率」に関する測定変数の平均を見ると(付録18)、 f2(計画通り
のマイルストーン)3.68
点、f3(計画通りの予算)3.91 点、f4(計画通りの人員)3.45
点で、中堅・中小企業の平均より低い。この理由として、大企業の場合は、新製品開発に おいて仕様を決めたりし、また、どのような新製品であるべきなのかなど設計・モックア ップなどオーバーヘッド(overhead)に費やす時間が多いとする。その反面、中堅・中小
企業の場合は、顧客の企業の求める仕様・要求事項通りに実行する47ため、「効率」の測 定変数の平均が高いと考えられる。とはいえ、大企業は、「初期計画」通りに完成品を製 造するためには、プロジェクト・マネジメントの高度化及びサプライチェーンなどのパー トナー管理を徹底的に行うべきであるだろう。中堅・中小企業は、「市場不確実性の低減活動」の中でも「顧客ニーズなどの熟知」が 最も重要度の高い活動である。顧客のニーズを知らないと受注活動に支障が起こり、もし プロジェクトを獲得しても、実行段階での変更や納期時への追加事項など費用の増加を招 くなどのリスクが現実化されると推測できる。
47
ICT
分野の関係者とのインタビュー、2020年1月13日、電話インタビュー中堅・中小企業の
IPMA
で注目することは、「効率」、「効果」の向上に共通して一番、パフォーマンスの高い活動は「技術不確実性の低減活動」で、特に
b05(新製品を構成す
る技術の理解)であった。これは、大企業が下請け先に最も求める能力であることと一脈
相通ずる。韓国ICT
中堅・中小企業は、「技術不確実性の低減」を通じて現在の顧客及び 潜在顧客のニーズに符合し、また顧客の問題を解決する立場から顧客社より高い技術力を 持たなければならないことを示唆する。特にICT
産業は、技術発展および技術の陳腐化が 速いとされているため(Jung et al., 2016)、新技術及び代替可能な技術などを常にモニ
タリングし、開発していると推測できる。中堅・中小企業にとっては、高い技術力を保有することが売上高を上げる最も重要な活 動であると言える。この結果は
Lee(2007)の研究でも提示したことである。ただし、韓
国のICT
中堅・中小企業の場合は、大企業の下請け及びプロジェクトの受注というビジネ スモデルを有していることから、予算の決定力が弱いと考えられる。そのため、韓国ICT
中堅・中小企業においても、大企業と同じように原価管理の能力が最も要求される。中堅・中小企業の
IPMA
の結果は、Jang et al.(2018)の研究で論じる実行段階、または 納期に顧客からの要求事項の追加が、一番優先すべきリスクであると指摘している点から、プロジェクト・マネージャーは、常に初期計画通りに実行するよう顧客管理やプロジェク ト・マネジメントを通して新製品開発プロジェクトの「効率」を図るべきである。
中堅・中小企業において、「効率・効果」の向上にパフォーマンスの高い活動は、「技 術不確実性の低減活動」の中でも「新製品を構成する技術の理解」である。「市場不確実 性の低減活動」と一緒に見ると「顧客のニーズに符号する技術力の有無」が「効率・効果」
の向上につながると言える。中堅・中小企業は、「技術不確実性の低減活動」が「効率・
効果」に寄与するため、
R&D( Research and Development)に力を入れる必要があり、新製
品開発の担当者のプロジェクト・マネジメントの能力を向上させる組織的な支援が必要で あると考えられる。表
134
は、2017年度ICT
の大企業と中堅中小企業が、「効率」及び「効果」の向上の ために、「FFEでの活動」ごとに重要度の高い活動を整理した表である。大企業の場合は、「効率」と「効果」向上において、重要とする活動をみると、同じ である。「市場不確実性の低減活動」の中で
a5(差別化またはセールスポイントの認識)
は、B2B及び
B2C
ビジネスの両方を行っている大企業から見ると、多数の顧客に訴求するためには重要な活動である。「技術不確実性の低減活動」の中で、
b4(技術的な問題点の
解決の明確化)は、完成品を製造する立場から製品及びサービスの全体的な構想の中で、
技術的に解決できるかどうか、解決にあたってどのようなサプライチェーンを採用するか などのため、この活動が重要である。「初期計画」の中で、
c4(詳細な費用計画 )は、目
標製造原価に合致させることが、製造原価の競争力のため、重要な活動である。表 134 企業規模による効率・効果の向上のための「FFEでの活動」で重要な活動の整理
FFEでの活動
17年度ICT-大企業 17年ICT-中堅・中小企業
効率 効果 効率 効果
市場不確実性の 低減活動
(a5) 差別化または セールスポイントの認識
(a5) 差別化または
セールスポイントの認識 (a3) 市場規模の理解 (a1) 顧客ニーズ等の 熟知 技術不確実性の
低減活動
(b4) 技術的な問題点の 解決の明確化
(b4) 技術的な問題点 の解決の明確化
(b5) 新製品の 技術の理解
(b5) 新製品の 技術の理解 初期計画 (c4)詳細な費用計画 (c4) 詳細な費用計画 (c5) プロジェクトの責任の
明確化 (c1)計画策定
中堅・中小企業の場合は、「効率」と「効果」の向上における「
FFE
段階」で重要とす る活動が「技術不確実性の低減活動」を除いて異なる。「効率」は投入した資源より、い かに少ない資源で目標に到達したかを意味するため、「市場不確実性の低減活動」は、規 模の経済を考慮し、いかに顧客を増やすかに焦点を当てていると考えられる。「初期計画」で
c5(プロジェクトの責任の明確化 )は、実行段階での顧客の要求事項が変更することを
前提としたら、その変更を押さえるため、顧客を良く理解しているプロジェクト・マネー ジャー及びチームへの責任を明確化することが重要である。「効果」は、直接に売上高や 収益のように金額または競争優位などの形を意味することから、「市場不確実性の低減活 動」の中で
a1(顧客ニーズなどの熟知 )は重要である。即ち、 B2B
ビジネスである中堅・中小企業は、顧客の要求事項をよく把握しているかどうかが、顧客に対する信頼度を高め、
結果的に新製品開発プロジェクトを受注できることから重要な活動である。また、「初期 計画」の中で
c1(計画策定)は、実行段階で顧客の要求事項が変更することを前提として
いるため、ガイドラインとして計画策定は重要な活動である。「技術不確実性の低減活動」の中で
b5(新製品の技術の理解 )は、技術的な具現も含まれてあるはずのため、「効果」
の向上に重要な活動である。