第 4 章 研究方法
4.3 分析の方法
4.3.3 測定不変性と PLS-MGA
本論文の目的である「FFE での活動」が、
ICT
産業と非ICT
産業において異なるという 仮説[H13]及び企業規模により異なるという仮説[H14]を検証するにあたって、集団間の経
路係数の差異が真の産業の特性及び企業規模によるものなのかを明らかにする必要がある。そのため、測定不変性(
Measurement invariance,測定同一性ともいう )の検定が必要不可
欠である(Hair et al., 2017a)。測定不変性とは、現象の観察と研究の異なる条件下で、測定属性が同一な属性の測定値 を算出するか否かを表す(Horn and Mcrdle, 1992, p117; Steenkamp and Baumgarter,
1998)。 Henseler et al.(2016)と Sarstedt et al.(2011)は、構造方程式モデリングを活
用した比較研究には、測定不変性の成立が前提であり、構造モデルの経路係数の差異など の検定において、理論に合致する方法で遂行しなければならないと論じた。PLS-SEM
は、一つの母集団で抽出したデータという仮定が前提である。そのため、回答者の潜在変数に 対する認識が、同じであるという仮定を満たさなければならないと指摘している(
Jedidi et al.,1997; Sarstedt et al., 2011)。
従って、収集したデータに異質性30が存在する場合、構造方程式モデリングの分析に影 響を与えるため、集団間の比較の前に、測定不変性が確保されなければならない
(
Henseler et al., 2016, Hair et al., 2017b)。
(1)測定不変性の理論
PLS-SEM
において測定不変性の評価は、Henseler et al.(2016)が提唱したMICOM
(
Measurement Invariance of Composite Models)の手続きで行う。MICOM
は、形態的不29
詳しい内容は、Hair et al. (2017b)を参照。
30
異質性(Heterogeneity)とは、収集したサンプルに異なる存在、例え、性別、年齢、業種等を意味し、同一なデータセッ
トの中に2
つまたはそれ以上にサブの集団が存在する可能性がある。アンケート調査の設計の時、すでに異質性を考慮して調査を行う 場合、それは観察された異質性(observed heterogeneity)と呼ぶが、データセットの中に異質性の存在を事前かつ完全に把握す ることは不可能であると言われている(Hair et al., 2014, pp.184-185.)。変性(
configural invariance)、合成不変性( compositional invariance)、平均・分散
の均等性(equality of composite mean values and variances)の3段階で遂行される。表
9
は、MICOMの検定基準について整理した表である。表 9 MICOMの検定基準
順番 説明
1
段階 形態不変性(Configural invariance)
-
測定項目、データの処理は、同一な方法を使用-
モデルのアルゴリズムを同一に使用することによって確保-
この段階で、形態不変性が確保できなければ、多重集団分析を行っても意味がない2
段階合成不変性
(Compositional
invariance)
-
各集団から得た加重値を使用して、測定した各集団の合成変数の点数間の相関関 係(c)が1であるという仮定で、もし、cが1と有意的に異ならない場合は、不変性が 確保できたと判断する-
順列検定方法(permutation test method)で計算し、部分的な測定不変性が 確保できた場合もMGA
は、可能である。3
段階平均・分散の均等性
(Equality of composite
mean values and variances)
- 2
段階と同様に順列検定方法(permutation test method)を用いて、平均と分
散の均等性を検定する-
平均の均等性は、集団間における測定変数の点数の平均差異を検定する-
分散の均等性は、集団間における測定変数の点数の比率に対する対数値が、0と有意的に異ならない場合、分散の均等性は確保できる
- 3
段階が成立されれば、完全な測定不変性が確保できたと判断でき、単一母集団と して分析できる-
ただ、この場合においてもMGA
を実施し、集団間の構造的な差異を確認し、相互作 用などによる影響を把握して、モデルを評価しなければならない出所:Henseler et al. (2016)
MICOM
手順の2
段階では統計的な検定を適用して、合成スコアであるY
(1)とY
(2)の間の相 関関係であるc
を検討する。c= cor(Y
(1), Y
(2))
合成不変性では、cが1に等しいことが必要で、cが
1
である帰無仮説を検定する。合成不変性が成立するためには、この帰無仮説は棄却してはいけない。つまり検定で
0.05
より大きいp
値が得られた場合(5%の優位水準を仮定する場合 )、合成不変性が仮
定(assume)できる。MICOM
手順の3
段階は、2
段階とは異なる。個別グループ固有のPLS-SEM
の推定によっ て、計算された複合スコアを使用せず、代わりにデータセット全体を使用し、事後的に各 グループにスコアを割り当てる。平均値の等価性の分析における帰無仮説は、以下の通り である。𝐻
𝑜: 𝑌̅
𝑝𝑜𝑜𝑙𝑒𝑑(1)− 𝑌̅
𝑝𝑜𝑜𝑙𝑒𝑑(2)= 0
ここで「pooled」インデックスは、特定のグループの複合スコアがプールされたデータ
の分析から由来したことを表す。分散の等価性を分析するため、二つのグループの複合ス コアの分散比率の対数(
logarithm)が決定されなければならない。この比率の対数が、統
計的に‘0’と異ならなければ、グループ間の分散が同一であると結論付ける。該当する帰無仮説は、以下の通りである。
𝐻
𝑜: log ( 𝑣𝑎𝑟(𝑌
𝑝𝑜𝑜𝑙𝑒𝑑(1)) 𝑣𝑎𝑟(𝑌
𝑝𝑜𝑜𝑙𝑒𝑑(2))
) =
log (var(𝑌
𝑝𝑜𝑜𝑙𝑒𝑑(1))) − log (𝑣𝑎𝑟(𝑌
𝑝𝑜𝑜𝑙𝑒𝑑(2))) = 0
この
2
つの仮説検定は、MICOM 2
段階と同じアプローチに従う。MICOM
は、観測グルー プのメンバーシップを何度も置換(つまり再配置)し、平均値と分散の対数の差の経験的
な分布を生成する。グループ全体で、平均値と(代数)分散に有意な差がない場合、完全な 測定不性が確立する。(2)
PLS-MGA
Henseler et al.(2009)は、各データグループのブートストラッピング結果に基づいた
ノンパラメトリック(nonparametric)のPLS-MGA
アプローチを提案した。Henseler
らの アプローチは、PLS パスモデルにおいて、特定な潜在変数の関係に対し、各グループの同 じパラメータのブートストラップ推定値を比較することである。Henseler らの研究をよ り発展させたSarstedt et al.(2011)は、回帰分析においての F-test
の概念を導入して、2
つ以上のグループを比較する手法を考案した。最初のグループのブートストラップ推定値が、2 番目のグループのブートストラップ推 定値よりも大きい発生回数を数えることにより、このアプローチは片側検定の
p
値を導き 出す。このアプローチは、次のような数式で表すことができる。p(p
(1)≥ p
(2)│β
(1)< β
(2))=
1 − 1
𝐵
2∑ ∑ 𝛩((𝑝
𝑗(1)+ 𝑝
(1)− 𝑝̅
(1)) − (𝑝
𝑗̃(2)+ 𝑝
(2)− 𝑝̅
(2)))
𝑗̃
𝑗
データグループのβ(1)及びβ(2)の真の母集団パラメータについて、グループ
1
におけるあるパス係数を推定した
p
(1)が、グループ2における推定p
(2)係数を上回っているという 条件付き確立p(p
(1) ≥ p(2)│β(1)< β
(2))を求める。
上記の式で、①B はブートストラップの実行数、②
𝑝
𝑗(1)(j=1,… ,B)及び 𝑝
𝑗̃(2)( 𝑗̃ =1,…B)は
パス係数のグループ固有のブートストラップ結果を、③𝑝̅(1)と𝑝̅(2)はグループ固有のブー トストラップサンプルの平均値を示し、④ 𝛩(グリス文字 theta)は単位ステップ関数
(
unit step function)を表し、引数( argument)が 0
を超える場合は1に、それ以外の場 合は0
になる(Hair et al., 2017b)。4.3.4
重要度―パフォーマンス・マップ分析31(IPMA)
PLS-SEM
の核心的な特徴としてあげられるのが、潜在変数のスコアが抽出されることである(
Hair et al., 2014, pp.206)。 IPMA
は、潜在変数のスコアの平均値を利用してPLS
-SEM の結果を拡張する上で有効であると指摘している(Fornell et al., 1996; Höck
et al., 2010; Kristensen et. al., 2000; Slack, 1994; Hair et al., 2014, pp.206,
2017a)。PLS-IPMA
は、構造モデルの中において、ほかの潜在変数を説明する上で相対的に重要な潜在変数の情報を提供する。即ち、特定した標的の潜在変数の説明力を、より高 く向上させる潜在変数が何かに関する情報を提供し、経営的な観点から成果に貢献できる 潜在変数を優先にする羅針盤の役割をする(
Hair et al., 2014, pp.205)。
図
6
は、IPMAの手続きを表した図である。図 6 IPMAの手続き
出所:Hair et al. (2017b, pp.108)
31
詳細な内容は Hair et al. (2017b, pp.105~131)を参照。
IPMA
を行うためには、以下のように3
つの要件を満たす必要がある(Hair et al., 20 17b, pp.108-109)。
一つ目は、0 から
100
の範囲で潜在変数スコアを再評価(rescaling)するには、PLS パ スモデルのすべての測定変数が、少なくとも間隔尺度を持つ必要がある。二つ目は、すべての測定変数の尺度は、同じ方向を持たなければならない。尺度が低い 値は、負数または低い結果を表し、高い値は、正数または高い結果を表す。
7
点リッカー ト尺度は、間隔尺度としてみなす。三つ目は、形成モデルまたは反映モデルに関係なく、外部重量推定値(outer weights
estimates)は、正数でなければならない。特定した標的の潜在変数の IPMA
を実施するため、総効果と成果値(performance values)が必要である(
Slack,1994)。以下は IPMA
の 算出方法である。(1) 総効果の算出方法
例
3
は、総効果を算出する方法を提示したものである。Y4 に対するY1
の直接効果は0.5
である。そしてY
1からY
4に向かう3
つの間接な経路、(i)Y1 → Y2 → Y4, (ⅱ)Y
1→
Y
2 →Y
2 →Y
4, (ⅲ) Y
1 →Y
3 →Y
4がある。総効果は(i)+(ⅱ )+(ⅲ )を全部合算するこ
とで決定される。<
例3>IPMA
経路モデルの事例及び総効果<PLS-SEM の例示>
総効果=(i) + (ⅱ)+(ⅲ)
=(0.50×0.50)+(0.50×0.25×0.25)+(0.25×0.25)
=0.250+0.031+0.063 =0.344
Y
4に対する直接効果Y
4Y
4に対する総効果Y
10.50 0.34 0.84
Y
20.50 0.06 0.56
Y
30.25 - 0.25
出所:Hair et al. (2014, 2017a)
次は、PLS 経路モデルから潜在変数のパフォーマンスの値を求める。異なる結果値を比 較するため、
0
から100
までのパフォーマンス尺度を使用する。ここで言う‘0’は、一 番低いパフォーマンスを、‘100’は一番高いパフォーマンスを表す。測定変数の基準に
おいてのIPMA
を遂行する時、測定変数の平均値は該当するパフォーマンスの平均を表す。測定変数のデータは、潜在変数スコアとそのパフォーマンスを決める。インデックス値
(index value)を得るため、潜在変数を再評価( rescaling)する式は、以下の通りである。
推定されたデータポイント(data point)において、潜在変数の尺度の中で、一番低い値
(1
から7
までの尺度の場合は1)を除外し、これを潜在変数の尺度の最大値と最小値の差
で割る(すなわち、1
から7
までの尺度の場合、7-1=6):
𝑥
𝑖𝑗𝑟𝑒𝑠𝑐𝑎𝑙𝑒𝑑= 𝐸[𝑥
𝑖𝑗] − min [𝑥
𝑖]
𝑀𝑎𝑥[𝑥
𝑖] − 𝑀𝑖𝑛[𝑥
𝑖] × 100
測定変数の
x
𝑖は、PLS 経路モデルにおいて 𝑖目の測定変数であり、E[.]は、測定変数𝑖の回答者 𝑗の実際の点数を、min[.]及び
max[.]は、測定変数の最小値及び最大値を表
す。最小値及び最大値は実際の回答の最小値及び最大値ではなく特定の尺度(例: 1~5
の 尺度の場合、1
と5)の潜在的な値を表す。
この公式により計算すると、1~
5
尺度で、4
の値は、(4-1)/(5-1)×100=75
となる。PLS
経路モデルを推定において使用されるすべてのデータポイントは、この方法で再評価 される(Hair et al., 2017b)。4.3.5
韓国ICT
企業におけるFFE
での具体的な活動の記述統計2017
年度ICT
企業のFFE
での具体的な活動をアンケート調査し、その結果を記述統計 で明らかにする。この調査は、2011
年度においては行わなかったため、2017 年度との比 較はできない。記述統計において使用する分析方法は、度数分布、頻度分析、クロス集計であり、表現 方法としてはテーブル、棒グラフ、円グラフなどを使用する。