第 6 章 考察
6.4 大企業 2 社の「 FFE での活動」の比較
製品特性がグローバル向けの
S
社と国内向けのK
社との「FFEでの活動」に差異がある かどうかについて‘独立したサンプルのt
検定’を通じて比較分析を行った。その結果、K
社とS
社に差異があった潜在変数は、「技術不確実性の低減活動」、「初期計画」、「効率」及び「効果」であった。表
135
はK
社とS
社の差異があった潜在変数と測定変数 をまとめた表である。表 135 K社と
S
社の差異のある潜在変数と測定変数 差異のある潜在変数 差異のある測定変数 技術不確実性の低減活動B2:技術的な要求の具体化
B5:新製品の技術の理解
初期計画 C4:詳細な費用計画C5:プロジェクトの責任の明確化
効率
F3:計画通りの予算
効果
F1-5:顧客満足
両企業の特性を見ると、
K
社は通信企業で、製品はICT
サービスとして有線やモバイル、IoT、 LTE、5 G
などの専用ネットワーク・インフラを活用してビジネスモデルの拡張を図っている(IT Chosun,
2019.05.07)。
S
社はICT
製造業で、製品は半導体及びデバイスなどである。両企業の上記の測定変数 に関する平均値(表115)を見ると、観測変数の殆ど S
社のほうがK
社より高い。S
社の場合は、完成品でありながら部品を提供する立場から「初期計画」と「技術不確 実性の低減活動」がK
社より重要な活動であるだろう。この結果で、大企業であっても中 間財を提供する立場は、中堅・中小企業の「初期計画」及び「技術不確実性の低減活動」に類似点があると言える。また製造原価の低減から詳細な費用計画を立て、実行段階にお いても初期計画通りに進めていくために、プロジェクトの責任を明確にするのではないか と推測できる。この活動によって「計画通りにプロジェクトの予算」で新製品開発を進め ることができ、それが結局「顧客満足」に繋がることができると言える。
この節では、韓国
ICT
大企業の2
社を比較して「FFEでの活動」の中で「初期計画」と「技術不確実性の低減活動」に差異が明らかになった。その理由は、ICT 製造業と
ICT
サ ービス業の違いではないかと考えられる。6.5 2011 年度と 2017 年度の ICT 中堅・中小企業の「 FFE での活動」
2011
年度と2017
年度ICT
産業において「FFEでの活動」への差異が明らかになった。このことから、2017年度
ICT
中堅・中小企業の「FFE
での活動」の特徴を明らかにするた め、PLS-MGAを実施して2011
年度のICT
中堅・中小企業と比較分析を行った。PLS-MGA
の 結果、「新規性の程度」の経路への差異が提示された。表
136
は、2011
年度と2017
年度のICT
中堅・中小企業における仮説検定の結果をまと めた表である。表 136 2011年度と
2017
年度ICT
中堅・中小企業の仮説検定の比較2011年度ICT中堅・中小企業 2017年度ICT中堅・中小企業 仮説 経路係数 p-value 経路係数 p-value
(H 1)新規性 → 初期計画 -0.101 0.445 -0.270 0.122
(H 2)新規性 → 市場不確実性 -0.363 0.000*** -0.046 0.710
(H 3)新規性 → 技術不確実性 -0.333 0.000*** -0.062 0.568
(H 4)初期計画 → 市場不確実性 0.476 0.000*** 0.598 0.000***
(H 5)初期計画 → 技術不確実性 0.468 0.000*** 0.642 0.000***
(H 6)初期計画 → 効率 0.364 0.002** 0.699 0.004**
(H 7)初期計画 → 効果 -0.020 0.862 -0.170 0.467
(H 8)市場不確実性 → 効率 0.154 0.363 -0.132 0.579
(H 9)市場不確実性 → 効果 0.524 0.000*** 0.381 0.081
(H10)技術不確実性 → 効率 0.048 0.773 -0.310 0.248
(H11)技術不確実性 → 効果 0.049 0.732 -0.005 0.984
(H12)効率 → 効果 0.047 0.678 -0.057 0.837
(注)有意水準 *p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001
確実に「新規性の程度」からの仮説[H2]と[
H3]の仮説検定の結果をみると 2011
年 度と2017
年度が異なる。但し、仮説[H1]の場合、2017年度の方が負の影響をもっと受 けると言える。また、仮説[H9]も2011
年度は支持されたが、2017年度は支持されてい ない。とはいえ、2017 年度の場合、統計的に有意な結果でないだけであって、「市場不 確実性の低減活動」が「効果」に正の影響を与えると言える。2017
年度が「初期計画」から「市場及び技術不確実性の低減活動」や「効率」への経 路係数が、2011年度より大きい。仮説[H7]を見ると、
2011
年度は「初期計画」が「効果」へ与える影響が無いと言え るが、2017
年度は負の影響を与える。このことは、2011
年度と2017
年度の全データの分 析からも述べたが、「FFE 段階」で決めた計画が実行段階で変更が発生することを示唆す る。先行研究(Jang et al.,2018)でもプロジェクトの実行段階で顧客の影響を受けるか
らだと考えられる。また、仮説
[H8]においても経路係数が統計的な有意な結果では無いが、
2011
年度は正の影響(0.154)である。反面、2017
年度は負の影響(-0.132)である。
2017
年度の方が、「FFEでの活動」を2011
年度より緻密に行っているが、実行段階で プロジェクトの変更というリスクにさらされると言える。2011
年度と2017
年度のICT
中堅・中小企業のIPMA
結果で、「技術不確実性の低減」の場合、パフォーマンスは高いが、重要度が低いと示された。この意味は、
ICT
中堅・中 小企業は顧客ニーズに符合する技術力をもっている、または顧客の問題を解決する立場か ら顧客社より高い技術力をもっていることを示唆する。しかし、2011 年度は「新規性の 程度」が「市場及び技術不確実性の低減」に負の方向で支持されたが、2017 年度は支持 されなかった。この理由として挙げられるのは、時代の要因が原因であると考えられる。2011
年度の当時はiPhone
からもたらした大変革期に対応できる体制を整えている間も ない時期のため、ダメージから乗り越えられなかったが、2017 年度は、2011
年の以前の 教訓からすでに技術変化や市場環境の変化を積極的にモニタリングしていたはずである。韓国
ICT
中堅・中小企業の仮説[H12]、即ち「効率」が「効果」に肯定的な影響を与え るという仮説が支持されなかったのは、中堅・中小企業において特にプロジェクト管理の 改善が必要不可欠であることを示唆している。韓国
ICT
中堅・中小企業は、技術力のアピールで売上を達成し、プロジェクト管理を通 じて「効率」の向上を高めて収益を達成しなければならないことを意味する。韓国
ICT
中堅・中小企業においては、売上高が収益につながるためには経営の「効率」観点が何より要求される能力である。
6.6 2017 年度 ICT 企業の「FFE での具体的な活動」
本論文では、韓国の
ICT
企業は、新製品開発のためのアイデア創出において、「組織的 にアイデアを管理する責任者または部署が存在するか、また、アイデアを管理するデータ ベースを構築しているか」について、体系的なシステムをもっていないことが判明された。新製品のアイデア創出において企業内部からの方法が、一番選好されるという結果であ るが、一番効果的ではないという指摘がある(Cooper and Edgett, 2008;
Cooper, 2019)。
韓国
ICT
企業は、規模とは関係なく、企業内部でのアイデア創出が多い結果であった。Cooper and Edgett( 2008)らは、企業内部からのアイデア創出が主要源泉ではあるが、
それを管理するシステム及び管理体系が整えていないことを問題として指摘している。
日本における
FFE
での具体的な活動の研究(高橋, 2006)では、日本の製造企業の殆ど
(395
社の中で99% )が、企業内でアイデア創出及び探索をし、「体系的また組織的な取り
組み」では、
77%が責任者及び部署が存在していると回答し、また、データベース構築は 40%の程度という結果であった。日本の製造業もアイデア創出は、企業内部で行っている
が、アイデア管理は、韓国
ICT
企業と比べて体系的に行っていると推測できる。新製品開発においてアイデア創出は、重要な要素(Arthur D. Little, 2005)であるに も関わらず、韓国
ICT
企業は、その管理側面から改善が極めて必要であることを示唆する。韓国
ICT
企業の新製品アイデア評価においては、グループ及び個人で行い、グループの 評価においては、顧客の接点の多い他部署と頻繁にコミュニケーションを取っている。コ ミュニケーションをとる部署は、マーケティングやR&D、販売・営業など、実際顧客との
かかわりがある部署による評価を重視している。新製品開発段階に入る場合、マーケティ ング部署と研究開発部署間の情報協力は、新製品成功の可能性を高めると主張されている(Brettel et al., 2011)。韓国 ICT
企業は、FFE段階で他部署と協力していることが明ら かになった。MacCormack and Verganiti( 2003)は、SW
開発プロジェクト(29
件)に対するプロセス
において外部環境要素を考慮せず、製品自体の主機能と効果のみに集中する傾向であると 述べている。しかし、韓国ICT
企業は、顧客接点の多い部署とのコミュニケーション(表96)とアイデア開発に使用する市場資源の結果(表 98)、顧客の要求事項を製品コンセプ
ト(表
99)、及び技術仕様に入れるという結果(表 100)から見て、韓国 ICT
企業は、外部環境の要素を積極的に取り入れていると判断できる。但し、外部環境は、アイデア創出段 階ではなく新製品開発プロセス全体において時々刻々変化するものの、実行段階において は、どのように対応しているのだろうか。残念ながら本論文では、実行段階までは分析し ていないため、論じることができない。しかし、Ruslan(2016)は、韓国の製造業は、実 行段階において初期計画を変更できる柔軟なシステムを持っていると結論付けた。
Ruslan
(
2016)の結論を踏まえて、韓国の ICT
企業も環境変化に柔軟に対応できる体系を有していると推測できる。