第7章 英国における公共部門内部監査基準と地方自治体適用注釈
3 IASAB による PSIAS の策定
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草案に対するパブリック・コメントが締め切られた17。同年12月には最終版が公表され、
2013(平成25)年4月1日から中央政府、NHS、および、地方自治体においてPSIASの 強制的な運用が開始された。PSIASが策定される以前は、コミュニティ自治省(Department of Communities and Local Government:DCLG)が2006(平成18)年3月に発した通達
(The 2006 DCLG Circular 03/2006)により、2006年英国地方自治体における内部監査の 実務規範(Code of Practice for Internal Audit in Local Government in the United Kingdom 2006:2006 年実務規範)が適切な内部監査慣行(Proper Practices)とみなされていた。
この通達には、「2006年実務規範の改正や新設を含む18」と規定されており、PSIASは2006 年実務規範に取って代わり、2013(平成25)年4月1日から適切な内部監査慣行として 施行されている。
3-2 PSIASの特徴
PSIASの内容はIPPFに全面的に準拠し、公共部門における「補足指針」(Public Sector
Requirement)と公共部門における「解釈指針」(Public sector interpretation)を追記する
形で編集されている。補足指針はIPPF を公共部門に適用する場合の追加的な留意事項で あり、解釈指針は追加的な解説である。この体裁から、英国の公共部門は IPPF を全面的 に採用していると認識されるのである19。
PSIASの適用範囲は以下のとおりである。図表7-4のとおり、関係内部監査基準設定者
がCIIAの協力によって、公共部門の統一的な内部監査基準であるPSIASを策定している。
図表7-4 関係内部監査基準設定者とPSIASの適用範囲
関係内部監査基準設定者
(RIASS) 中央政府 NHS 地方自治体
CIPFA
英国:地方自治体 イングランドおよびウ ェールズのみ:公安委 員、警察、消防、国立公 園、合同委員会 スコットランド:ストラ スクライド交通パート ナーシップ
英国財務省 英国:政府組織、執行 および非執行機関 英国厚生省
イングランド:医療サー ビス委託グループ、NHS 信託
177 スコットランド政府
スコットランド:スコ ットランド政府および その関連機関
スコットランド:NHS 委員会、特別NHS委員 会およびその関連機関
ウェールズ政府
ウェールズ:ウェール ズ政府、ウェールズ議 会およびその関連機関
ウェールズ:病院委員会 および信託
北アイルランド議会 財務人事省
政府機関、執行機関、
閣内および閣外の府省 およびその関連機関
出典:Relevant Internal Audit Standard Setters, Public Sector Internal Audit Standards -Applying the IIA International Standards to the UK Public Sector, December 2012, pp. 7-8.
また、図表7-5のとおり、補足指針が13か所および解釈指針が3か所付されているの みであり、PSIASはIPPFを全面的に採用していることがわかる。
図表7-5 PSIASの概要
項目 公共部門に適用する際の補足指針および解釈指針 序文(introduction) ※ 補足指針および解釈指針なし
倫理綱要(Code of Ethics) (補足指針①)英国の公共部門における内部監査人は、以下に掲げる 倫理綱要を遵守しなければならない。個々の内部監査人が職業専門団 体に属している場合には、当該団体の倫理綱要等にも準拠しなければ ならない。
適用および施行(Applicability and Enforcement)
<解釈指針①>ここでいう「協会」とは、IIAを指す。倫理綱要の違反 については、各職業専門団体や雇用されている組織における懲戒手続 が適用されることもある。
専門的能力(Competency) (補足指針②)公共部門の内部監査人は、公職者行為規範委員会によ る「公職者の7つの原理 」を参照しなければならない。この情報は、
http://www.public-standards.gov.ukにおいて確認することができる。
人的基準(Attribute Standards)
基準1000 目的、権限および責
任(Purpose, Authority and Responsibility)
(補足指針③)内部監査基本規程には、 下記の事項が記載されなけれ ばならない。
・内部監査業務に関連する「経営会議(Board)」および「上級管理者
(Senior management)」の定義
・適切な資源配分に関する措置の内容
・不正対応に関する内部監査の役割にかかる定義
・内部監査人が、非監査業務に従事していた場合における、利益相反 問題を回避するための措置
基準1100 独立性と客観性(Independence and Objectivity)
基準1110 組織上の独立性
(Organisational Independence)
(補足指針④)内部監査部門長は、経営会議に有用な報告を行わなけ ればならない。また、 事務総長や監視委員会と良好なコミュニケーシ ョンを図り、自由に報告できなければならない。
<解釈指針②>英国の公共部門におけるガバナンス体制では、内部監 査部門長の報酬決定権限は経営会議には与えられていない。内部監査 部門長の独立性を確保するために、内部監査部門長の報酬が安全に確 保され、内部監査部門長は監査対象からの業績評価によって不適切な
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項目 公共部門に適用する際の補足指針および解釈指針
影響を受けないという原則がある。英国の公共部門においては、この 原則に掲げる役割は事務総長が担うことになる。事務総長は内部監査 部門長と連署し、内部監査結果のフィードバックを行う。内部監査部 門長自身の勤務評定は、監視委員会委員長からのフィードバックによ って実施される。
基準1130 独立性または客観性
の侵害(Impairment to Independence or Objectivity)
(補足指針⑤)内部監査人が監査計画に含まれていない助言業務を実 施している場合、監査を実施する前に経営会議から承認を得なければ ならない。
基準1200 熟達した専門的能力および専門職としての正当な注意(Proficiency and Due Professional Care)
基準1210 熟達した専門的能力
(Proficiency)
(補足指針⑥)内部監査部門長は、CIIA、CCAB、または、同等の職業 的専門家としての資格と経験を有していなければならない。
基準1300 品質保証と改善プログラム(Quality Assurance and Improvement Programme)
基準1312 外部評価(External Assessments)
(補足指針⑦)内部監査部門長は、外部評価を受ける範囲について、
その適切な支援者、たとえば会計管理者、監視委員会、外部評価者、
または、外部評価チームと合意を形成しなければならない。
基準1320 品質保証と改善プロ
グラムの報告(Reporting on the Quality Assurance and
Impairment Programme)
(補足指針⑧)品質および保証プログラムや改善計画の進捗状況の結 果については、年次内部監査報告書によって報告されなければならな い。
基準1322 不適合の開示
(Disclosure of Non-conformance)
(補足指針⑨)不適合事例は、経営会議に報告しなければならない。
重大な逸脱事例はガバナンス報告書においても公表されなければなら ない。
実施基準(Performance Standards)
基準2000 内部監査部門の管理(Managing the Internal Audit Activity)
基準2010 計画の策定
(Planning)
(補足指針⑩)リスク・ベースの監査計画が、年次内部監査意見や保 証のフレームワークを形成する際に考慮されなければならない。監査 計画は、 内部監査基本規程に準拠し、組織の目的や優先順位と結びつ き、内部監査部門がいかに業務を実施し、発展するかについて記載さ れている高い水準の文書と整合したものでなければならない。
基準2030 監査資源の管理
(Resource Management)
(補足指針⑪)リスク・ベースの監査計画は、内部監査部門の資源配 分がどのように決定されているかについて説明するものでなければな らない。また、その結果については、経営会議に通知されなければな らない。
基準2050 調整(Coordination) (補足指針⑫)内部監査部門長は、他の保証手段と信頼性をリスク・
ベースの監査計画において考慮しなければならない。
基準2100 業務の内容(Nature of Work)
※ 補足指針および解釈指針なし
基準2200 内部監査の個々の業務に対する計画の策定(Engagement Planning)
基準2210 内部監査の個々の業
務目標(Engagement Objectives)
<解釈指針③>公共部門においては、VFMに関する内部監査の基準が 必要である。
基準2300 内部監査の個々の業務の実施(Performing the Engagement)
※ 補足指針および解釈指針なし
基準2400 結果の伝達(Communicating Results)
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項目 公共部門に適用する際の補足指針および解釈指針 基準2450 総合意見(Overall
Opinions)
(補足指針⑬)内部監査責任者は、毎年、内部監査意見を公表する。
これは、組織のガバナンス報告書を作成するために利用される報告で ある。年次内部監査報告書は、組織のガバナンス、リスク・マネジメ ント、そして、コントロールの包括的な適切性および有効性を結論づ ける。年次内部監査意見は、「監査意見」「意見を支える監査業務の要 旨」「PSIASおよび品質保証と改善プログラムへの準拠性」から構成さ れる。
出典:Relevant Internal Audit Standard Setters, Public Sector Internal Audit Standards -Applying the IIA International Standards to the UK Public Sector, December 2012, pp. 4-30.石原俊彦・丸山恭司・井 上直樹「英国公共部門における統一内部監査基準の設定―PSIAS設定の検証とわが国公共部門への 示唆―」『月刊監査研究』第39巻第5号、2013年5月、12頁-14頁を一部修正。
3-3 PSIASのフレームワークと今後の進展
PSIASのフレームワークは図表7-6のとおりである。IIAのIPPFのうち、拘束的な性格
をもつ要素(Mandatory Elements)は以下から構成されている20。
① 内部監査の定義(Definition of Internal Auditing)
② 倫理綱要(Code of Ethics)
③ 内部監査の専門職的実施の国際基準(International Standards for the Professional Practice of Internal Auditing)
図表7-6 PSIASのフレームワーク
出典:CIPFA, Local Government Application Note–for the United Kingdom Public Sector Internal Audit Standards, April 2013, p. 3.
PSIASが策定された目的として、以下の4点があげられている21。
① 英国の公共部門における内部監査業務の内容を定義する。