第3章 英国地方自治体の組織ガバナンスにおける内部監査の役割 ―監視委員会の現状
2 監視委員会の役割
英国においては、地方自治体を除く多くの部門で法令によって監視委員会の設置義務が 課されている。監視委員会を設置する法的義務が課されていないこともあり、1990年代に は監視委員会を設置していた地方自治体の数は限定的であった3。しかし、現在では、ほぼ すべての地方自治体が監視委員会を設置していると考えられる4。
監視委員会は、官民問わず、ほかの組織においてもベスト・プラクティスと捉えられて いる5。英国地方自治体における監視委員会の役割は、政策を評価し、政策目標を達成する ために内閣構成議員が正しい意思決定を行ったか否かの確認ではない6。監視委員会と内部 監査部門は、相互に職務上の効果的な関係を構築する必要性を理解し、内部監査部門長
(Head of Internal Audit:HIA)は監視委員会へ直接、制限なく報告する権利をもつべきで あるとされている7。
地方自治体監査委員会(Audit Commission)8は、「地方自治体を含むすべての公共部門 における組織ガバナンスにおいて、監視委員会は不可欠な要素である9」とその重要性を主 張している。また、地方自治体監査委員会は、「たとえ非常に多くの地方自治体においてす でに監視委員会が設置されているとしても、政府は地方自治体に監視委員会を設置するよ う法的要請を行うべきである10」と法令による監視委員会設置の必要性を訴えている。
以下においては、英国地方自治体における実務の礎であり、CIPFAが公表している『地 方自治体における監視委員会の実務指針11』(以下、『監視委員会実務指針』という)の規 定を踏まえ、組織ガバナンスにおける監視委員会の役割を考察する。
2-1 監視委員会の目的
組織ガバナンスに不可欠な要素とされる監視委員会だが、監視委員会はどういう目的を もって設立される組織であるのか。『監視委員会実務指針』には、監視委員会の目的は、以 下のとおり規定されている12。
① 独立した立場から、リスク・マネジメントのフレームワークおよび関連する統制環 境の妥当性について保証を提供する。
② 地方自治体をリスクにさらし、統制環境を弱めるような財務および非財務業績を独 立した立場から監視する。
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③ 財務報告プロセスを監視する。
イングランドにおいては、監視委員会が、内部監査の有効性に関する評価結果を踏まえ て、内閣が承認する前に内部統制の評価を行う13ことが2011年会計監査規則第6条によって 規定されている。リーダーや事務総長は、内部監査部門長から提出された年次内部監査報 告書を基に、年次内部統制報告を含む年次ガバナンス報告書を作成するが、監視委員会も 同じく年次内部監査報告書を基に監視委員会報告書(Report of Audit Committee)を作成 し、リーダーや事務総長が構築した統制環境の妥当性について保証を提供するのである。
効果的な監視委員会を運営することで得られる多くの利点のうち、主なものは以下のと おりである14。
・ 独立的および客観的レビュー・プロセスによって、追加的な保証を提供する。
・ 内部監査および外部監査の重要性・独立性を高め、内部統制報告についての考えを 述べるなど、その他同様のレビュー・プロセスを強化する。
・ 内部統制の必要性および監査による勧告の効果を一層認識できる。
・ 財務報告等に関する客観性および公正性について住民からの信頼性が向上する。
2-2 監視委員会の主な機能
英国地方自治体において、監視委員会は、内閣の外部にある、議会の委員会という独立 した立場に位置づけられる監視機関である。監視委員会は、リスク・マネジメント、内部 統制、および、監査報告に係る問題について、組織目標の改善を可能にすることを目的と している。内閣における問題の評価や適切な行動を監視する機関がなければ、監査業務や 年次ガバナンス報告書のレビューによって判明した重要な問題をどのように改善すべきか、
議員や職員が理解できなくなるといえるのである。
『監視委員会実務指針』では、監視委員会が関わりをもつ4つの主な機能について、① 内部監査、②外部監査と検査、③統制戦略、および、④財務諸表として整理されている。
2-2-1 内部監査
①内部監査については、以下のように整理されている15。
監視委員会は地方自治体の内部監査機能について明確な役割をもつ。これらの役割は 以下を含むべきである。
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・ 監視委員会は、地方自治体の総合的な戦略の方向性に適合しているか、直接的で はないが、公式に全般的な監査戦略を承認する。
・ 特に、適切な範囲を十分に含んでいることに注意を払い、年間監査計画を承認す る。
・ 監査計画が実行されていることを監視し、効果的な監査機能を提供するために、
適切なスキルおよび監査資源があるか評価する。
監査業務のレビューに関する監視委員会の役割は、実施された業務の概要、主な発見 事項、関連する問題、および、監査業務の結果によって着手すべき行動についての公式 な検討を含む。監視委員会は、実施された監査業務のフィードバックを受けることで、
内部監査の有効性評価を実施したいと考えている。
監視委員会の重要な役割の一つは、内部統制環境および実施された内部監査の品質に ついての総合的な意見表明に至るために、内部監査部門長から年次監査報告書を受け取 り、レビューすることである。内部監査部門長によって監視委員会へ独立した保証が提 供され、そのことが最高財務責任者に課された法的義務の解除に資するという点への着 目が重要である。
すなわち、監視委員会は、内部監査との関わりにおいて、以下の3つの役割を担ってい る。第一に、監査戦略および監査計画の承認である。監視委員会は、監査計画およびその 前提となる全般的な監査戦略が地方自治体の総合的な戦略に沿って策定されているかを承 認するのである。第二に、内部監査の品質管理である。第2章で考察したとおり、内部監 査部門長は、監視委員会に監査計画の進捗状況を報告する。その報告を基に、監視委員会 は、内部監査の進捗度、内部監査部門が必要な監査資源を保有しているかなどの評価を行 う。第三に、年次内部監査報告書のレビューである。監視委員会は、内部監査部門長によ って提出される年次内部監査報告書によって、内閣の内部統制などについて独立した保証 を提供される。年次内部監査報告書のレビューを基に、監視委員会は、監視委員会報告書 を作成し、地方自治体の外部から内閣の内部統制などに保証を提供している。
2-2-2 外部監査と検査
②外部監査と検査については、以下のように整理されている16。
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監視委員会の役割は外部監査人が実施した監査報告を受領し、検討することを含んで いる。監査プログラムは、ある程度、全国的に合意された内容を踏襲するが、監査人が リスクを評価し、当該地方自治体独自の内容が加えられる可能性がある場合、監視委員 会には監査業務に関する意見を述べる機会が提供されるべきである。そして、監視委員 会は、実施された措置を監視するために、監査業務終了後に報告を受けるべきである。
監視委員会は地方自治体、(Audit Commission)の年次監査・検査に関する公式文書・
報告書・意見に対する地方自治体の回答作成に寄与すべきである。また、外部監査人の 選定および交代について検討し、意見を表明すべきである。
監視委員会の委員には、外部監査人が職業上の関係を保持しなければならない職員と は別に、外部監査人に非公式かつ単独で面談する機会が付与されるべきである。
検査機関の報告書は、地方自治体における財務管理およびガバナンスの保証に関する 有益な資源となりうる。監視委員会は保証の基礎として、また関連する内部監査および 外部監査報告書と比較するために、検査報告書を自由に確認する機会をもつべきである。
検査報告書は、地方自治体において、自治体全体によって、または適切な部局の管理部 門によって作成される必要がある。監視委員会は、一貫性のある方法が採用され、さま ざまな機関が地方自治体へ関与するためのはっきりとした場所がわかるように、このよ うな活動を監視する役割を担う。
また、監視委員会は政策評価委員会やそのほかの委員会が実施する業務を理解し、そ の関心分野に関連する問題を説明できるようにすべきである。監視委員会の役割は、地 方自治体に対するレビュー機能の価値を最大化するために、すべての監査および検査機 能が有効に機能することにも拡張されている。
つまり、監視委員会は、外部監査人が作成した監査報告書を受領し、同報告書の内容だ けではなく、外部監査人の選定についても意見を述べる。これは、監視委員会が、外部監 査および検査の報告書を基に、地方自治体における財務管理およびガバナンスの保証を提 供していることに関係している。すなわち、監視委員会は、内閣に内部統制などの妥当性 および有効性の保証を提供する際、年次内部監査報告書だけではなく、外部監査および検 査報告書を有用な証拠源とみなしているのである。