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第6章 英国地方自治体における共同監査 ―内部監査の共同化事例による考察―

4 英国地方自治体における内部監査の共同化実態調査

ここまで考察してきた「サービスの共同化」の特徴が、英国地方自治体における内部監 査の共同化事例に該当することを確認するため、筆者が実施した4つの英国地方自治体へ の実態調査の結果を分析する。内部監査の共同化が、内部監査部門の運営費削減以外にど のような利点をもたらすのか考察することを目的とする。

4-1 サウスエンド・オン・シ―

サウスエンド・オン・シー(Southend-on-Sea Borough Council)は、前述のとおり、

イングランド東部地域に位置するユニタリー(Unitary Council)と呼ばれる一層制の地方 自治体であり、人口は162,000人、年間予算の総歳出が134百万ポンド、職員数が2,500 人である。筆者は2011(平成23)年10 月4 日にサウスエンド・オン・シーを訪問し、

サービスの共同化の実態について、内部監査部門長のリンダ・エバラード氏をはじめとし た内部監査部門の職員に聞き取り調査を実施した。

サウスエンド・オン・シーの内部監査部門は、CIPFA が主催する2011(平成23)年度 のクリフ・ニコルソン革新優秀賞23を受賞している。公共部門の監査業務において、顕著 な実績を上げた者に授与されるこの賞をサウスエンド・オン・シーが受賞した理由の一つ が、隣接するキャッスル・ポイント市(Castle Point Borough Council)との内部監査業務 の共同化である。両団体ともに当時の内部監査部門長の退職が予定されていたが、後任者 が決まっていなかった。両団体は2011(平成23)年4月に内部監査部門長および職員を 共有するため、5年間のサービス内容合意書(Service Level Agreement:SLA)を締結し た。つまり、内部監査部門長は雇用契約をサウスエンド・オン・シーと締結しているが、

SLAによって週5日のうち3日間はサウスエンド・オン・シーにある事務所で、残りの2 日間はキャッスル・ポイント市の事務所で勤務することになっている。サウスエンド・オ ン・シーは、内部監査部門長へ給料を支給するが、給料総額の5分の2をキャッスル・ポ イント市へ請求している。職員は、基本的に各団体の事務所で勤務するが、担当する内部 監査業務によっては別の団体で勤務することもある。職員は各団体から給料を支給されて いるが、採用、研修、旅費など両団体に共通した経費は、サウスエンド・オン・シーが5 分の3、残りをキャッスル・ポイント市が負担する契約になっている。

聞き取り調査時点で、内部監査部門は、内部監査部門長を含めて15 名の職員から構成

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されている。監査客体は、両団体のみである。内部監査部門長および職員をコーソーシン グによって共有しており、組織形態に変更を加えない「協働」という連携戦略を採用して いるのが、両団体による内部監査の共同化の特徴である。SLAによって共同化した内部監 査部門長が内部監査業務の職責を担うため責任帰属も明確であり、職員の身分にも変更が 生じずに安定している。

エバラード氏は、コーソーシングという内部監査の共同化がもたらす効果として、内部 監査部門長の共有化によるコスト削減とあわせて、早期の共同化着手、意思決定の迅速性、

および、監査資源の有効活用をあげた。両団体が同時に内部監査部門長の候補者を探して いた状況において、早期に内部監査の共同化を実現するためには、新たな組織の設立を必 要としないコーソーシングという形態が両団体の需要を満たしていたといえる。意思決定 の迅速性については、内部監査部門長と職員の共有化以外には通常の内部監査部門と変わ りがないため、内部監査業務の計画、実施、報告、改善勧告などについて、内部監査部門 長は関係者との調整を迅速に行うことが可能である。監査資源の有効活用については、監 査資源の融通が可能になり、特に、内部監査部門が5名の職員から構成されていたキャッ スル・ポイント市にとっては、サウスエンド・オン・シーの監査資源やノウハウを活用す ることができるといった効果が見られた。

4-2 デボン監査パートナーシップ

デボン監査パートナーシップ(Devon Audit Partnership)は、イングランド南西部地域 に位置するとプリマス(Plymouth City Council)とトーベイ(Torbay Council)という2 つのユニタリーとデボン県(Devon County Council)の3つの地方自治体から構成される パートナーシップである。筆者は、2013(平成25)年7月8日にデボン監査パートナー シップを訪問し、パートナーシップ長(Head of Partnership)であるロバート・ハッチン ズ氏をはじめとした内部監査部門の職員に内部監査の共同化について聞き取り調査を実施 した。

元々、プリマスとトーベイはデボン県に含まれており、1つの地方自治体であった。1998

(平成10)年にプリマスとトーベイがユニタリーとなったが、別々の地方自治体となった

あとも3つの自治体のつながりは強く、事務総長や最高財務責任者は定期的に作業部会を 開催していた。そのなかで、各自治体が別々に内部監査機能をもつことが非効率であると いう意見が出たことに加え、プリマスとトーベイは、ほかの多くの地方自治体と同様に、

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経験豊富な内部監査の有資格者確保に苦悩していた。そのような背景のもと、3つの自治 体の内部監査部門長が内部監査の共同化について検討を重ねた結果、2009(平成21)年4 月にデボン監査パートナーシップが設立された。

デボン監査パートナーシップは、1972年地方自治法第102条に基づく共同委員会のも と、設立当初から3年間、最大5年まで期限を延長できるという協定によって設立されて いる。2000年地方自治法第20条に規定されている共同委員会は、デボン監査パートナー シップの場合、3つの構成団体から2名ずつ、合計6名の議員から構成されている。共同 委員会の委員長は、毎年持ち回りとなっており、筆者が訪問した際はデボン県の議員が委 員長を務めていた。設立時の協定により、デボン県が給与、社会保険、人的資源管理、法 務などの内部管理業務をパートナーシップに提供している。

パートナーシップにおける重要事項は、各構成団体の最高財務責任者およびパートナー シップ長から構成されるマネジメント会議(Management Board)において意思決定され ている。パートナーシップ長が各構成団体における内部監査部門長の役割を担っている。

パートナーシップ長は、公募されたのち、マネジメント会議の選任によって内部監査部門 長となり、マネジメント会議の委員にもなっている。2013/2014年度のパートナーシップ

予算は、1,470,900ポンドとなっており、プリマスが27.1%、デボン県が23.4%、トーベ

イが20.2%を負担し、残りを学校、国立公園などほかの監査客体が負担している。監査客

体は、各構成団体以外に域内の警察、消防、学校、国立公園などがあり、構成団体を含め 合計17にのぼる。聞き取り調査時点で、内部監査部門は、内部監査部門長を含めて37 名 の職員から構成されている。

3つの構成団体は、組織形態に変更を加えない「協働」という連携戦略のなかで、設立 にあたり時間を要し、協定内容の交渉が困難とされるパートナーシップを採用した。デボ ン監査パートナーシップの場合、各構成団体は歴史的につながりが深く、交渉が順調に進 むことがある程度予想されたため、コーソーシングという形態を経ず、当初からパートナ ーシップの設立を目指したことが内部監査の共同化の特徴である。

パートナーシップ長のハッチンズ氏は、パートナーシップという内部監査の共同化がも たらす効果として、非財務的な効果をあげた。すなわち、各構成団体から集まった職員が 1つのパートナーシップの職員として監査技術の向上を図り、結果としてパートナーシッ プ全体における監査品質が向上したとことを最大の効果としている。元々、経験豊富な内 部監査の有資格者確保に苦悩していたことがパートナーシップ設立の契機であったため、

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設立当初の目的は達成されたといえる。また、ハッチンズ氏は「内部監査はガバナンスの 重要な要素であるため、外部委託や別法人の設立を検討しなかった。内部監査の内製化が 重要と考え、パートナーシップを設立した」と述べた。各構成団体の議員などから構成さ れる共同委員会の統制のもとに設立され、民間部門の関与を受けないことを考えれば、パ ートナーシップは、競争の源泉を守るために適したサービスの共同化の形態といえる24

4-3 LGSS

LGSS(Local Government Shared Service)は、イングランドのミッドランド東部地域

に位置するノーサンプトン県、ケンブリッジ県など5つの地方自治体が参加するパートナ ーシップである。筆者は2013(平成25)年7 月12 日にノーサンプトン県庁を訪問し、

サービスの共同化の実態について、LGSSの内部監査部門長であるスティーブ・ティンク ラー氏に聞き取り調査を実施した。

LGSSは、その名称のとおり、内部監査だけではなく、人的資源管理、財務、IT、法務 など幅広い内部管理業務を対象に2010(平成22)年にノーサンプトン県およびケンブリ ッジ県によるパートナーシップとして設立された。両団体は、内部管理事務の経費削減を 目的として、2008(平成20)年から3年間をかけて議論を行い、統合基幹業務パッケー ジの導入を実現した。つまり、両団体は、個別に内部管理業務の経費削減をするよりも、

サービスの共同化を導入した方がより多くの削減効果があると判断したのである。

調査時点で、LGSSには約1,400人の職員が勤務し、そのうち内部監査部門には、内部 監査部門長を含めて42名の職員から構成されている。現在、監査客体には、構成団体以 外にも多くの学校などが含まれている。デボン監査パートナーシップと同様に、両構成団 体は、組織形態に変更を加えない「協働」という対等な関係による連携戦略のなかで、設 立にあたり時間を要し、協定内容の交渉が困難とされるパートナーシップを採用した。

LGSSの場合も両構成団体は歴史的につながりが深く、また、システム統合を前提にして いたため、コーソーシングという形態を経ず、当初からパートナーシップの設立を目指し たことが内部監査の共同化の特徴である。

ティンクラー氏は、パートナーシップという内部監査の共同化がもたらす効果として、

職員の身分の安定性と早期のサービスの共同化の実現をあげた。つまり、内部監査に限っ たことではないが、①職員は県庁の職員という身分に変動がなく、②法人の設立による時 間とコストを節減できることがサービスの共同化の形態としてパートナーシップを採用す