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第4章 英国地方自治体における内部監査責任者の役割

1 内部監査責任者の役割と内部監査人の資質

英国地方自治体では内部監査部門が、第2章で考察した内部統制などの妥当性および有 効性の保証機能とあわせて、第3章のとおり、適切な組織ガバナンス体制の保証に貢献し ている。内部監査部門が地方自治体のマネジメントとガバナンスに貢献するためには、内 部監査システムの構築が重要であるが、もう一つの重要な視点として、内部監査システム を機能させるための人的要件が不可欠となる。すなわち、組織インフラとして設置された 内部監査部門が期待される機能を発揮するためには、組織インフラを動かすソフトとして、

内部監査人の能力向上と求められる資質の担保が必要条件となる。その必要条件を満たす ために、内部監査責任者のリーダーシップが重要と考えられる。

本章においては、CIPFA(Chartered Institute of Public Finance and Accountancy:英国 勅許公共財務会計協会)が2010(平成22)年12月に公表した『公共部門における内部監査 責任者の役割1』(以下、『意見書』という)に掲げられている5つの原則を考察すること で、職業的専門家として内部監査責任者に要求される役割および必要条件を考察し、内部 監査責任者の特徴とその存在意義を明らかにする。

また、組織的かつ効果的な内部監査を実施するためには、内部監査責任者のみがその役 割を果たすだけでは不十分であり、他の内部監査人がもつ能力や資質が不可欠である。内 部監査部門における人的要件を検討する場合、その組織の長である内部監査責任者、その 他の管理職、および、一般職員に大きく分けて検討する必要がある。それらには、それぞ れ求められる役割が異なり、したがって、求められる能力や資質に違いが生じるはずであ る。内部監査責任者は、内部監査部門の機能を強化するために、部下である内部監査人の 継続的な専門能力開発に責任をもたなければならないと考えられる。CIPFAが2011(平成 23)年に公表した『優秀な内部監査人―スキルとコンピテンシーについての優れた実務指 針―2011年版2』(以下、『実務指針』という)によって、内部監査人に要求される重要 なスキルと職位に応じた能力を確認し、それらを達成するために内部監査責任者へ期待さ れる役割を明らかにする。

英国地方自治体における内部監査責任者の役割を踏まえて、内部監査責任者の必要条件 ごとに、わが国地方自治体における内部監査責任者に相当する役職について考察する。英 国と比較をすることで、わが国自治体における監査委員事務局長などの課題を明らかにし、

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内部監査責任者の役割および必要条件から示唆を得ることが本章の目的である。

2 『意見書』が示す内部監査責任者のあり方 2-1 『意見書』が作成された背景

英国地方自治体において、監査戦略や監査計画の立案、監査の指揮、および、年次監査 意見の表明を行う幹部職員が内部監査責任者3である。内部監査責任者は、内部監査部門 の長として地方自治体の長によって任命され、資格4を有する内部監査人が就任し、内部 監査部門を指揮・監督する重要な役割を果たしている。

内部監査責任者は法定職員ではないが、法令によって内部監査の実施が課される以前か ら、地方自治体において設置されていた役職である。なぜCIPFAは2010(平成22)年に なって『意見書』を公表したのであろうか。その背景には、英国の公共部門が、サービス 提供方法、パートナーシップの組み方などの構造的変化や予算削減の圧力に直面している という状況がある5。たとえば、VFM(Value for Money:最少の経費で最大の効果)を追 求するために、官民の競争によるサービス提供が推進され、公共部門におけるガバナンス の整備状況が多様化している 6。このような複雑な状況下で、公共組織は優れたガバナン スによって、組織目的や企図される成果に注力することが求められ、市民、納税者、およ び、サービス利用者に対して、資源を最大限に活用し、VFMを確保するという特別な要請 がなされている7。優れたガバナンスやVFMの確保によって、組織目標の達成にリーダー シップを発揮することが内部監査責任者の役割であるため、公共部門における内部監査責 任者のあり方を明示するために『意見書』が公表されたと考えられる。

『意見書』では、CIPFAがベスト・プラクティスと考える内部監査責任者の役割(Role) と必要条件(Requirement)が規定されている8。『意見書』には法的な効力がなく、会計、

内部監査などの職業専門団体におけるコンピテンシーや専門分野のフレームワークを支え ている部門固有のガイダンス、規範、および職業的専門家の基準に取って代わるものでは ない。英国地方自治体における内部監査は、1972 年地方自治法(Local Government Act 1972)第151条および2011年会計監査規則(Accounts and Audit Regulations 2011)第6 条を根拠として実施されているが、内部監査の実施についての詳細は法令によって規定さ れていない。その具体的な指針となるのが、公共部門内部監査基準(Public Sector Internal Audit Standards:PSIAS)やその地方自治体適用注釈(Local Government Application Notes for PSIAS:LGAN)などの適切な監査慣行(Proper Practices)であり、CIPFAの『意見

90 書』のようなガイダンスである9

2-2 『意見書』の構成

『意見書』では、図表4-1のとおり、公共組織における内部監査責任者が、組織の戦略 目的を達成するために果たすべき重要な役割とこれらの役割を果たすために内部監査責任 者へ求められる必要条件として、第1原則から第5原則が示されている10。それぞれの原 則を要約すると、「ガバナンスの推進、リスク対応の評価、および、潜在的なリスクと改善 案についての助言」「ガバナンス、リスク・マネジメント、および、内部統制の妥当性と有 効性の保証」という2つの役割、および、その達成に必要とされる「制約を受けない上級 管理者の地位」「十分な監査資源の配分と組織目的に沿った監査業務の指揮」「職業的専門 家としての資格と経験」という3つの必要条件にまとめることができる。内部監査責任者 には、この2つの役割と3つの必要条件が求められているのである。

図表4-1 公共組織における内部監査責任者の役割と必要条件

役 割

1原則 ガバナンスのベスト・プラクティスを推進し、現存するリスクに対す るガバナンスやマネジメントの妥当性を客観的に評価しながら、潜在 的なリスクや改善案について助言する。

2原則 ガバナンス、リスク・マネジメント、および、内部統制に関するあら ゆる点について、客観的かつ証拠に基づく意見を述べる。

必 要 条 件

3原則 いかなる場合においても制約を受けずに組織のすべて、特に幹部・監 視委員会に対応する上級管理職でなければならない。

4原則 目的に適合するように整備された内部監査サービスを指揮命令しなけ ればならない。

5原則 職業的専門家としての資格を有し、十分な経験をもたなければならな い。

出典:CIPFA, Role of the Head of Internal Audit in Public Service Organisations, December 2010, p. 5.

さらに、図表4-2のとおり、3つの構成要素がこれら5原則の実践に必要であることが 示されている11。その3つの構成要素は、図表4-2に示されたとおりである。

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図表4-2 内部監査責任者の原則に必要な対象と構成要素

対象 構成要素

組織 ガバナンスの必要条件 役割 内部監査責任者の主な職責 個人 個人の技術と職業的専門家の基準

出典:CIPFA, Role of the Head of Internal Audit in Public Service Organisations, December 2010, p. 6.

「ガバナンスの必要条件(Governance requirements)」とは、内部監査責任者が効果的 な内部監査を実施するための必要条件であり、その必要条件はガバナンス関係者12が設定 すべきものである。すなわち、「ガバナンスの必要条件」は、内部監査責任者が重要な職責 を果たす前提であり、組織としてその必要条件が満たされるように要請しなければならな い。そして、「内部監査責任者の主な職責(Core HIA Responsibilities)」は、内部監査部門 の長として担うべき役割であり、「個人の技術と職業的専門家の基準(Personal Skills and

Professional Standards)」は、個人として内部監査責任者に要求される技術と遵守すべき

基準を表している。

以下において、5つの原則を上記3つの構成要素から考察することによって、内部監査 責任者の役割および役割を果たすための必要条件を明らかにする。

2-3 内部監査責任者の役割 2-3-1 『意見書』の第1原則

(第1原則)

ガバナンスのベスト・プラクティスを推進し、現存するリスクに対するガバナンスやマ ネジメントの妥当性を客観的に評価しながら、潜在的なリスクや改善案について助言す る。

出典:CIPFA, Role of the Head of Internal Audit in Public Service Organisations, December 2010, p. 6.

優れたガバナンスは公共部門の信頼性を成立させる基礎であり、その構築責任はすべて の管理職にある一方、内部監査責任者はガバナンスを推進し、グッド・プラクティスを普 及させる役割を担っている13。第1原則は、内部監査責任者が担う役割を「ガバナンスの 推進」「リスク対応の評価」「潜在的リスクと計画案についての助言」という3点で説明し