第6章 英国地方自治体における共同監査 ―内部監査の共同化事例による考察―
2 英国地方自治体におけるサービスの共同化
英国地方自治体では、1980年代にサッチャー保守党政権が導入したCCTによって、民 間部門との競争入札により行政サービスの効率化が図られた。CCTは自治体職員の雇用不 安、さらには士気の低下すら招いたといわれている6が、1990年代にメジャー保守党政権 では、市民憲章(Citizen’s Charter)によって、民間委託やPFI(Private Finance Initiative)
によって、業務の効率化だけではなく、サービスの品質向上が図られた。つまり、CCTの ように経済性・効率性の視点からだけの改革を進めるのではなく、有効性の視点が強調さ れている7。
1997(平成9)年に誕生したブレア労働党政権では、CCTの代替策としてベスト・バリ
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ュー(Best Value)政策が発表された。ベスト・バリューとは、最も経済的で効率的、効
果的な手段を用いて、サービスのコストと品質の双方に配慮した基準に従ってサービスの 供給に努めることを、自治体に対し法により義務づける制度である8。また、2001(平成 11)年には、公共部門、民間部門およびボランタリー部門またはコミュニティ部門との協 働による「地域戦略パートナーシップ(Local Strategy Partnership:LSP)」が導入される など、PPPが推進された。
このように、英国地方自治体においては、過度に経済性および効率性を追求し、コスト 削減を推進した反省を踏まえ、経済性、効率性とあわせて住民満足度という視点でサービ スの有効性の向上が図られてきた。2010(平成22)年に誕生したキャメロン連立政権下 で多く実施されているサービスの共同化についても、この流れを汲んでいることを確認す るため、サービスの共同化を形態別に分類したあと、各形態の特徴を考察する。
2-2 サービスの共同化の分類と特徴
サービスの共同化にはいくつかの形態があり、共同化の対象となる行政サービス、関与 する自治体の数、地理的要因などによって適するサービスの共同化の形態が異なる可能性 がある。ここでは、サービスの共同化の形態を連携戦略に応じて分類し、各形態の特徴を 整理する。
ほかの組織と連携を図る際、サービスの共同化の対象となる行政サービスの分野を決定 し、共同化が目指す目標を設定する。その際、ほかの組織とどのような形態で連携を図る のか、連携にどの程度関与していくのかといった連携戦略が問われることになる。すなわ ち、サービスの共同化に参加する組織間の関係によって共同化の形態が分類される。CIPFA によると、サービスの共同化は、①「協働(Joint Working)」、②「重要な連携先による主 導(Principal Partner-led)」、および、③「第三者組織(Third Party)」の3つに区分が可能 である9。①の「協働」とは、参加者は、組織形態に変更を加えず、サービス共同化の対象 となる機能を統合しようとする形態であり、最初はある組織内においてサービスの統合を 達成し、その手法を異なる組織間に適用しようとする場合も多い10。②の「重要な連携先 による主導」とは、公共部門または民間部門を問わず、1 つの組織がほかの参加者に対し てサービスの運営に責任をもつ組織形態である11。③の「第三者組織」とは、参加者全員 がサービス提供を目的とした別の組織を立ち上げる組織形態である。
サービスの共同化は、ほかの組織との連携戦略によって3つに区分されるが、組織構造
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の複雑性という観点から、図表6-1のとおり、各区分をさらに細分化して整理することが できる。構造の複雑性とは、組織の設立可能性に換言することが可能である。つまり、構 造の複雑性が低い場合、サービスの共同化に必要な組織の設立が容易であることを表して いる。組織形態に変更を加えない「協働」に含まれ、構造の複雑性が低い「組織内部の一 元化」や「非公式な協力関係」は、ある組織内におけるサービスの共同化として想定され ており、共同化の実現に向けた障壁が最も低い形態である。一方、既存の組織とは別に新 たな組織の設立を要する「第三者組織」に含まれ、構造の複雑性が高い「民間企業とのジ ョイント・ベンチャー」や「専門サービス会社」は、サービスの共同化に向けた障壁が最 も高い形態であると考えられる。
図表6-1 サービスの共同化の特徴
出典:CIPFA, Local Authority Financial Administration Services: Emerging Trends in the Context of Shared Services, 2007, p. 21.
2-3 サービスの共同化の効果と課題
構造の複雑性と連携戦略によってサービスの共同化を分類したが、各形態がもつ特徴を 分析し、その効果と課題を整理することで、各形態に適したサービスの共同化を把握する ことが可能である。
図表6-2は、「協働」について、主な効果と課題を整理している。コーソーシングとは、
パートナーシップ (Partnership)
リード・オーソリティ (Lead Authority)
民間企業とのジョイン ト・ベンチャー
(Joint Venture)
コーソーシング (Co-sourcing)
PFI (Public Finance Initiative)
専門サービス会社 (Trading Company)
組織内部の一元化 (Internal Centralisation)
外部委託
(Outsourcing) コンソーシアム
(Consortium) 非公式な協力関係
(Informal Collaboration)
内部委託 (Insourcing)
構 造の 複雑 性 高 い
低
協働 重要な連携先 第三者組織
による主導 連携戦略
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複数の対等な関係にある組織がサービス提供者を共同で指名する手法である12。内部監査 の共同化については、複数の地方自治体間で内部監査部門長や職員を共有し、内部監査を 実施する場合が該当する。コーソーシングによって、複数の内部監査部門長を1人にまで 削減することが可能であり、人件費の削減効果がある。人件費削減による効率性の向上だ けではなく、新たな内部監査部門長のリーダーシップによって、構成団体における既存の 内部監査業務が改善される可能性がある。コーソーシングの課題は、導入後、しばらくす れば効果が薄れてくるため、さらに別の組織と統合やサービスの共同化を図らなければ現 状が維持されることにある。そのため、継続的な発展を目指す場合は、新たな統合、また は、サービスの共同化が必要となる。
パートナーシップとは、連携をより公式化したものであり、法令の規定によって設立さ れるものもある13。英国地方自治体における内部監査の共同化は、1972年地方自治法第 102条に規定される共同委員会(Joint Committee)14が各構成団体から権限の移譲を受け、
共同委員会のもとでパートナーシップが内部監査業務を実施している例がある。パートナ ーシップの予算は各構成団体が支出し、職員も各構成団体から派遣されている。地方自治 体は、共同委員会を任意で設置できるが、設立、解散、存続期間などは協定(Agreement) によって効力を発する。パートナーシップには法人格がないが、法令に基づいた組織形態 であり、構成団体間の信頼関係を構築しやすいといえる。一方、いきなりパートナーシッ プを設立することはまれであり、設立にあたって構成団体間で協議の場をもち、長時間を かけて繰り返し議論する場合が多い。つまり、設立にあたって時間がかかることがパート ナーシップの課題である。
なお、「非公式な協力関係」および「組織内部の一元化」については、組織内部における サービスの共同化に関係する形態であり、効果と課題は図表6-2のとおりである。
図表6-2 協働の主な効果と課題
形態 効果 課題
パートナーシップ 協働と情報共有に注力しやすい 信頼の構築を醸成しやすい組織 形態
設立に時間がかかる
構成団体間の協定内容に交渉が 必要
コーソーシング サービス提供者による業務改善 提案
集中化による低サービス提供コ スト
サービス提供までのプロセスが 長く、複雑になる可能性がある さらなる統合や共同化を推進す る組織がなければ継続的な発展 が困難
組織内部の一元化 明確な説明責任と統制
規模の経済、低いサービス提供コ
能力や技術が向上しない 他者からの知見が共有されない
151 スト、顧客志向
非公式な協力関係 融通が利きやすい
サービス提供コストが不要 責任の所在が不明確
役割、戦略、責任が固定されず、
継続的な発展が困難
出典:CIPFA, Local Authority Financial Administration Services: Emerging Trends in the Context of Shared Services, 2007, p. 54.
図表6-3は、「重要な連携先による主導」について、主な効果と課題を整理している。内 部委託とは、ある組織から必要な知見をもつ職員を派遣し、別の組織がもつ課題解決に向 けた初動を支援する手法である15。内部委託は、複数の地方自治体が参加する共同化組織 を一つの組織とみなし、「内部」と表現されている。内部監査の共同化については、ある地 方自治体から、別の自治体へ職員を派遣する場合が想定される。たとえば、監査資源に比 較的余裕のある大規模自治体から、内部監査業務に問題を抱える周辺の中小規模自治体へ 内部監査人を派遣する場合などが考えられる。この場合、派遣された職員が派遣先の地方 自治体の環境に適応できるかという点に加え、派遣期間が終了したあと、派遣された職員 が提供した知見が普及せず、一過性のものに終わってしまう可能性があるといった課題が ある。
外部委託およびPFIは、「重要な連携先による主導」のなかで、民間部門との連携を基 礎とするサービスの共同化の形態である。外部委託は、地方自治体がサービスの提供を契 約によって民間部門に実施させるが、PFIは、地方自治体が民間部門から必要なサービス を購入することに違いがある16。内部監査の共同化についても、一部の内部監査業務を外 部委託したり、包括的に内部監査業務をPPPによって外部から購入している事例がある17。 外部委託やPFIによって、民間部門の専門性を活かした低コストによるサービスの提供、
民間部門による新たな技術と資源の提供などが期待される。しかし、これらの手法は、品 質よりもコストに焦点が当てられる傾向があり、「安かろう、悪かろう」といったサービス の提供は回避すべき課題である。また、財政的なリスクはサービスの提供者である民間部 門が負うことになるが、顧客である住民はすべてを地方自治体の責任であるとみなす傾向 がある。内部監査業務についても、地方自治体は、民間部門が実施する業務計画の進捗を 管理し、内部監査報告書など成果物の品質について明確な規準を示し、品質管理の実施が 求められている。
リード・オーソリティとは、ある組織がサービスの共同化を主導的に管理し、ほかの構 成組織にサービスを提供する手法である18。内部監査の共同化については、ある一つの地