第3章 英国地方自治体の組織ガバナンスにおける内部監査の役割 ―監視委員会の現状
4 監視委員会のベスト・プラクティス
英国地方自治体における内部監査の役割を考察するにあたって、内部監査部門の評価を 実施する監視委員会のベスト・プラクティスを整理することが重要である。
議会に設置された委員会という独立した立場から、前述のとおり、監視委員会は、①内 部統制などの妥当性の保証提供、②財務および非財務業績の監視、③財務報告プロセスの 監視を目的としている。監視委員会は、内部監査部門に加えて、外部監査人や検査機関に よる報告内容の検討、内閣が作成した各戦略の妥当性および有効性の評価、および、財務 諸表のレビューを実施することにより、監視機関としての役割を担っている。これらの役 割を担うために監視委員会には十分な権威づけが必要であるが、英国地方自治体では「地 方自治体規約(Constitution)」のなかで監視委員会など委員会の権限(Terms of Reference)、 内閣の法定職員、組織をはじめとした地方自治体の経営方針、住民の権利などが規定され ている。資料3-2は、第2章で年次内部監査報告書を取り上げたサウスエンド・オン・シー における監視委員会の権限である。
資料3-2 サウスエンド・オン・シーにおける監視委員会の権限 8. 監視委員会
8.1 委員
9名の議員(内閣構成員は1名以下)および1名の非議員から構成される。
少なくとも1名は財務の専門家を含むべきである。
委員長は内閣構成員であってはならない。
※代理出席:議事規則31の規定に基づき認められている。
※均衡の原則:適用される。
8.2 定足数
議事規則38.1の規定に基づく。
76 8.3 権限
8.3.1 監視委員会の目的は以下のとおりである。
・ 独立した立場から、リスク・マネジメントのフレームワークおよび関連する統制環 境の妥当性について保証を提供する。
・ 地方自治体をリスクにさらし、統制環境を弱めるような財務および非財務業績を独 立した立場から監視する。
・ 財務報告プロセスを監視する。
8.3.2 監視委員会は、少なくとも年1回は本会議によってレビューされ、承認された業務 計画を備え、1年間のうち、各委員会で監査について何を議論するのかその概要を示さな ければならない。監視委員会は、自らの説明責任を解除し、最終的に年次ガバナンス報 告書の採択をすすめるために、十分かつ必要な情報を受け取っていることを明らかにす べきである。
8.3.3 業務計画には以下が記載されていなければならない。
・ 地方自治体におけるガバナンスの構築状況の有効性(内閣が作成した年次ガバナン ス報告書の承認を含む)
・ 地方自治体の財務フレームワークの妥当性(年次財務報告書の承認を含む)
・ 地方自治体の資金管理戦略または政策の監視
・ 外部監査および内部監査の業績および有効性(各年次報告書の検討を含む)
・ 外部の検査報告書および特定分野におけるほかの委員会の業務に依拠するかどうか の検討
・ 監視委員会の機能および有効性(自らの年次報告書作成を含む)
8.3.4 監視委員会は、議会日程に含まれる日時で、年間5回開催される。監視委員会が適 切と判断する場合、特定の問題について委員会が開催される可能性がある。
8.3.5 地方自治法第151条職員である最高財務責任者、内部監査部門長および外部監査人 は、毎回、監視委員会へ出席を求められる。書類のレビューとあわせて、監視委員会は、
そのほかの職員、ほかの委員会委員長、内閣構成議員を委員会の事前、事後および必要 な際に招へいする権利を行使する。このように権利行使することで、活動や職責に関す るガバナンス構築状況の妥当性について保証が提供される。
要求があれば、要求された者には出席する義務が生じる。
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本条項によって、委員や職員が監視委員会への出席を要求された場合、できる限り広 く公示されなければならない。
例外的な状況において、委員や職員が要求された日時に出席できない場合、監視委員 会委員長の承認によって別の日時が設定される。
8.4 委員会の公開 公開
8.5 報告先 本会議
出典:Southend-on-Sea Borough Councilホームページ(http://www.southend.gov.uk/info/200399/commi ttees_working_parties_and_the_constitution/296/the_constitution(2014年3月27日))。
サウスエンド・オン・シーの監視委員会の権限は、目的がCIPFAの『監視委員会実務指 針』と同じであることからもわかるとおり、『監視委員会実務指針』を基に作成されている。
年間の委員会開催数、本会議との関係、業務計画の内容に加え、「監視委員会は、自らの説 明責任を解除し、最終的に年次ガバナンス報告書の採択をすすめるために、十分かつ必要 な情報を受け取っていることを明らかにすべきである」と監視委員会に課されている要件 を規定している。さらに、最高財務責任者、内部監査部門長および外部監査人は、毎回、
監視委員会へ出席を求められるなど、内閣からの監視委員会出席者について拘束力をもた せることで、組織ガバナンスの実効性を担保していることが特徴と考えられる。
これらの職責を果たすためには監視委員会のマネジメントが重要と考えられる。監視機 関という視点に加えて、専門領域における知見をもつ委員長や委員が監視委員会の有効性 を向上させる。監視委員会は、政策評価委員会、基準委員会などの一部である場合もある が、ほかの委員会との独立性を保持すべきであり、ほかの委員会との兼務をする委員は1 名程度に限定しなければならないと定められている。なかでも監視委員会委員長は、内閣 構成員であってはならず、非内閣構成員を委員長にすることで、内閣からの独立性および 監視機能の客観性を促進させ、住民の期待にも応えることにつながる。
英国地方自治体においては、内部監査部門長が作成した年次内部監査報告書を監視委員 会へ提出し、監視委員会は、同報告書を基に外部から自治体の内部統制などを評価するこ とで、内閣へ保証を提供している。内部監査と外部監査の機能は異なるため、1つの監査 主体が両方の機能を担うことはできない。英国地方自治体において、地方自治体の外部に 位置する監視委員会へ職務上の報告を通じて、内部監査は組織ガバナンスへの貢献という
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目的を達成している。そのため、内部監査が組織ガバナンスへ貢献するためには、監視委 員会のベスト・プラクティスが構築される必要がある。
5 2011年監視委員会調査の分析
英国地方自治体では、これまで考察してきた監視委員会のベスト・プラクティスが実践 されているのであろうか。本節では、CIPFAが英国地方自治体の内部監査部門長に対して 実施した「地方自治体における監視委員会についての2011年調査32」(以下、「2011年監視 委員会調査」という)の内容を分析し、ベスト・プラクティスとの比較によって、監視委 員会の課題を明らかにする。
5-1 2011年監視委員会調査の概要
現在、ほとんどの英国地方自治体において監視委員会が設置されていると考えられるが、
その歴史はそれほど長くはなく、これまで監視委員会の実態を明らかにした資料は公表さ れてこなかった。そこでCIPFAは、2011(平成23)年3月8日から4月1日にわたって、イン ターネット上で英国地方自治体の内部監査部門長に対して2011年監視委員会調査を実施 した。161の地方自治体から回答があり、回答率は44%であった。ほぼ常時監視委員会へ 出席し、監視委員会の実態を最も理解していると考えられる内部監査部門長に対して調査 が実施されており、2011年監視委員会調査の回答は、監視委員会の現状を把握するために 有用であると考えられる。
また、調査を実施したCIPFAは、職業専門団体として監視委員会の構成員である議員、
監視委員会と密接な関係を有する内部監査人などに対してさまざまな研修サービスを実施 している33。英国地方自治体における監視委員会の現状と課題について豊富な知見を有す るCIPFAが本調査を実施することによって、高い回答率が達成され、本調査の結果に対す る有用なコメントや分析がなされていると考えられる。
2011年監視委員会調査では、主に①委員会の構成、②課題の抽出、③監視委員会の有効 性、④改善への制約について調査が行われている。本調査以外に近年の英国地方自治体に おける監視委員会の現状を表す調査は実施されておらず、調査結果の分析は非常に有用で ある。以下において、各調査項目についての調査結果を基に英国地方自治体における監視 委員会の全体像を把握し、課題を整理する34。