2.2 相対論的運動論
2.2.5 Eckart 分解と Landau-Lifshitz 分解
超相対論的極限の場合は次の関係を用いる。
ζ→0limζnKn(ζ) = 2n−1(n−1)! (2.210) すると同様にしてこの極限で次の関係が得られる。
e= 3T (2.211)
h= 4T (2.212)
Γ = 4
3 (2.213)
気体の状態方程式は変わらずP =nT が成り立ち、式(2.211)から次の式が成り立つ。
P = ne
3 (2.214)
この式から次の式が成立することが分かる。
trTµν = 0 (2.215)
きる。
Tµν =ηµρηνσTρσ (2.220)
= (γµρ +uµuρ)(γνσ +uνuσ)Tρσ
= (Tρσuρuσ)uµuν
+ (uρTρσγσµ)uν + (uρTρσγσν)uµ +
½µ
γµργνσ − 1
3γµνγρσ
¶ + 1
3γµνγρσ
¾ Tρσ
この式を平衡分布f0 は等方的であることに注意して次のように平衡部分と散逸部分に分 ける。
Tµν =neuµuν (2.221)
+{(qµ+hEγµνNν)uν +uµ(qν +hEγνµNν)}
+phµνi−(P + Π)γµν
同様にして四元粒子流束Nµを分解すると次のようになる。
Nµ =nuµ+νµ (2.222)
ここで粒子流束の散逸部分νµは次のように四元速度uµと直交する。
uµνµ = 0 (2.223)
この式に現れる物理量は次のように定義される 定義 12.
n≡Nµuµ : 粒子数密度 (2.224) phµνi ≡
µ
γµργνσ − 1
3γµνγρσ
¶
Tρσ : 粘性テンソル (2.225) P + Π≡ −1
3γµνγρσTρσ : 熱力学的圧力 + bulk viscosity (2.226)
qµ≡uρTρσγσµ−hEγµνNν (2.227)
=uρTρσγσµ−hEνµ : 熱伝導 e≡ 1
nTρσuρuσ : 一粒子辺りのエネルギー密度 (2.228) phµνiは対称なtracelessテンソルである。また流体の内部エネルギー密度は勝手に散逸 しないとしてT00 ≡Tµνuµuν には散逸項は含まれていない。また熱伝導は粒子流速では 運ばれないエネルギー流なので、四元速度と垂直に動く粒子達によって運ばれるエンタル ピーは引き抜いて定義される。
uµはベクトルなのでuµの方向を定めることは式(2.221)、(2.222)よりTµν のベクト ル成分であるT0µとNµ を定めることに対応する。代表的な方向の定め方としては次の 二つがある。
まずEckart速度 [1]は次のように定義される。
定義 13.
uµE : Eckart velocity (2.229)
Nµ=nuµE (2.230)
Tµν =neuµEuνE (2.231)
+ (qµuνE+uµEqν) +phµνi−(P + Π)γµν
この速度は四元粒子流束Nµの方向をuµ の方向にとったもので、非相対論の流体の速 度を相対論への拡張したものに対応する。uµEはf を用いて次のように定義される。
uµE ≡ Nµ pNµNµ
= 1 n
Z d3p
p0 pµf (2.232)
もう一つの有名な四元速度としてLandau-Lifshitz速度 [2]は次のように定義される。
定義 14.
uµL : Landau−Lifshitz velocity (2.233)
Nµ=nLuµL+νµ (2.234)
Tµν =nLeLuµLuνL (2.235)
+p(µν)L −(PL+ ΠL)γµν
この速度はTµν のエネルギー流束方向、つまり熱伝導の方向をuµの方向に取ったもの である。uµLはf を用いて次のように定義される。
uµL ≡ p TµνuLν
uLρTρσTστuτL = p uLν
uLρTρσTστuτL
Z d3p
p0 pµpνf (2.236) これら二つの四元速度に優劣はないが、Eckart速度は速度の概念が非相対論の場合と 同じであり考えやすいというメリットを持つ。またLandau-Lifshitz速度は非相対論と速 度の概念が異なり得られた結果をナイーブには解釈できないというデメリットはあるもの の、Tµν の形が簡単になるというメリットがある。
最後にこの二つの速度の間の関係式を導出しよう。特に流体現象に興味があるので、散 逸項の二次のオーダーの項は小さいとして無視することにする。まずuµE とuµL を次のよ うに関係付ける。
uµL=uµE+Uµ (2.237)
これらの二乗をとり、散逸部分Uµの一次まで残すと次のようになる。
uLµuµL = 1 = (uµE+Uµ)(uEµ+Uµ)'1 + 2UµuEµ (2.238) この式から散逸の一次を残す近似ではUµはuµEと直交することが分かる。この結果次の 関係式が成り立つ。
uLµuµE = 1 (2.239)
ところで四元粒子流束は次のように書ける。
Nµ =nuµE =nLuµL+νµ (2.240) この式の両辺とuµLの内積をとり式(2.239)を利用すると次のような結論が得られる。
n=nL (2.241)
つまり散逸の一次までを考慮する近似ではEckart速度の静止系の粒子数密度と
Landau-Lifshitz速度の静止系での粒子数密度は一致する。またこの関係を用いると式 (2.237)、
(2.240)から次のことが分かる。
Uµ =−νµ
n (2.242)
エネルギー運動量テンソルについても同様のことを行なおう。まず次の式が成り立つ。
Tµν =neuµEuνE+ (qµuνE+uµEqν) +phµνi−(P + Π)γµν (2.243)
=nLeLuµLuνL+p(µν)L −(PL+ ΠL)γµν
この式に式(2.237)を代入して整理すると、散逸の一次を残す精度で次のような関係が得 られる。
PL =P, eL =e, ΠL = Π, p(µν)L =phµνi, νµ =− 1 hE
qµ (2.244) ここでhE =e+P/nは一粒子当たりのエンタルピーである。この式から四元速度の変化 はベクトル部分以外は散逸の二次以上の変化しか与えず、ベクトル部分のみが散逸の一次 で変化を受けることが分かる。結局Eckart速度とLandau-Lifshitz速度の関係は次のよ うになる。
uµE =uµL− 1
nhEqµ (2.245)
なお熱平衡状態では熱伝導qµ は存在しないのでEckart 速度とLandau-Lifshitz速度 の区別はなくなることに注意しよう。
最後になぜ相対論的な運動論では流体の速度がユニークに定義できなくなったのかを説 明しよう。非相対論的な流体では流体の速度は粒子流束の方向で与えられ次の式で定義さ れた。
j=ρv (2.246)
この式で定義された速度は、方向は流体の運動の方向であり、その大きさは速度方向に垂 直な単位面積を通って単位時間内に流れる流体の質量に等しい。つまり流体の速度は流体 の慣性の移動する方向に等しくなるように定義された。
一方相対論的流体では、式(2.207)から分かるようにエネルギーと質量が同じ意味を持 ち、流体の慣性が移動する方向とエネルギーの移動する方向の区別が原理的に不可能にな る。このことは式(2.221)、(2.222)から分かるように相対論的な運動論で一般に線形独立 なベクトル量が二種類出てきてしまうことに現れている。