2.2 相対論的運動論
2.2.6 巨視的方程式
最後になぜ相対論的な運動論では流体の速度がユニークに定義できなくなったのかを説 明しよう。非相対論的な流体では流体の速度は粒子流束の方向で与えられ次の式で定義さ れた。
j=ρv (2.246)
この式で定義された速度は、方向は流体の運動の方向であり、その大きさは速度方向に垂 直な単位面積を通って単位時間内に流れる流体の質量に等しい。つまり流体の速度は流体 の慣性の移動する方向に等しくなるように定義された。
一方相対論的流体では、式(2.207)から分かるようにエネルギーと質量が同じ意味を持 ち、流体の慣性が移動する方向とエネルギーの移動する方向の区別が原理的に不可能にな る。このことは式(2.221)、(2.222)から分かるように相対論的な運動論で一般に線形独立 なベクトル量が二種類出てきてしまうことに現れている。
=∗ はuµ の静止系を表す記号で、Dは四元速度uµの静止系での時間微分で、一般座標系 では非相対論でのLagrange微分に対応する。また∇µは四元速度の静止系での空間微分 に対応する量である。
まずは連続方程式(2.248)はこれらの微分を用いて次のように計算できる。
Dn=−n∇µuµ− ∇µνµ+νµDuν (2.253) Eckart速度ではνµ = 0となるので次のようになる。
Dn =−n∇µuµ (2.254)
Landau-Lifshitz速度ではνµ =−qµ/hE なので次のようになる。
Dn=−n∇µuµ+∇µ
qµ hE − qµ
hEDuν (2.255)
続いて運動方程式の導出に移ろう。運動方程式は運動量保存則から出てくるはずなの で、式(2.221)の両辺からγνρを作用させる。ここで簡単のため次の量を定義する。
Wµ ≡uνTνργρµ =qµ+hEνµ (2.256) するとTµν は式(2.221)から次のようになる。
Tµν =neuµuν +{Wµuν +uµWν}+phµνi−(P + Π)γµν (2.257)
この式を(2.256)に代入すると次の式が得られる。
nhEDuµ=∇µP +∇µΠ−γνµ∇σpνσ (2.258) + (pµνDuν−γνµDWν −Wµ∇νuν −Wν∇νuµ)
これが相対論的な運動方程式である。速度uµ の係数が質量ではなくエンタルピーになっ ており、括弧内の相対論的な補正項が加わっていることに注意せよ。
Eckart速度ではWµ=qµなので、運動方程式は次のようになる。
nhEDuµ =∇µP +∇µΠ−γνµ∇σpνσ (2.259) + (pµνDuν −γνµDqν −qµ∇νuν −qν∇νuµ)
続いてLandau-Lifshitz速度ではWµ= 0なので、運動方程式は次のようになる。
nhEDuµ=∇µP +∇µΠ−γνµ∇σpνσ (2.260) +pµνDuν
エネルギー方程式はエネルギー保存則から出てくるので、式(2.221)の両辺からuν を 作用させる。すると次の式が得られる。
D(ne) =−nhE∇µuµ+pµν∇νuµ− ∇µWµ+ 2WµDuµ (2.261)
連続方程式(2.255)を用いてDnを消去すると次のようになる。
nDe =−P∇µuµ−Π∇µuµ+pµν∇νuµ− ∇µWµ+e∇µνµ (2.262) +(2Wµ−eνµ)Duµ
式(2.261)、(2.262)はEckart速度では次のようになる。
D(ne) =−nhE∇µuµ+pµν∇νuµ− ∇µqµ+ 2qµDuµ (2.263) nDe=−P∇µuµ−Π∇µuµ+pµν∇νuµ− ∇µqµ+ 2qµDuµ (2.264) Landu-Lifshitz速度では次のようになる。
D(ne) =−nhE∇µuµ+pµν∇νuµ (2.265) nDe=−P∇µuµ−Π∇µuµ+pµν∇νuµ−e∇µqµ
hE
+ e hE
qµDuµ (2.266) 最後にエネルギー保存則の別の形として、相対論的熱力学第一法則と呼ばれる式を導出 しよう。非相対論では熱力学第一法則は、エネルギーの変化を外部からの仕事P dn−1 と 散逸とに関係付けるものであった。そこで相対論でもDe+P Dn−1 =· · · という形で求 めてみよう。
式(2.262)、(2.253)を用いてDeとDnを与えると次のようになる。
n(De+P Dn−1) =−Π∇µuµ+pµν∇νuµ−∇µqµ−νµ∇µhE+(2qµ+hEνµ)Duµ (2.267) 右辺は全て散逸量なので、完全流体では右辺は0になることが分かる。
Eckart速度では次のようになる。
n(De+P Dn−1) =−Π∇µuµ+pµν∇νuµ− ∇µqµ+ 2qµDuµ (2.268) Landau-Lifshitz速度では次のようになる。
n(De+P Dn−1) =−Π∇µuµ+pµν∇νuµ+ qµ hE
∇µhE−qµDuµ (2.269) 以上で流体方程式が全て得られた。この方程式系を閉じさせるには熱流qµ、粘性pµν とΠの表式を全て与える必要がある。この操作は次からの章で行なう。
この章の終わりにここで得られた流体方程式が完全流体の場合を仮定して線形摂動を 行ない音波を求めてみよう。式(2.253)、(2.258)、(2.262)は散逸がない場合次のように なる。
Dn=−n∇µuµ (2.270)
nhEDuµ =∇µP (2.271)
nDe =−P∇µuµ (2.272)
これらの式をuµの静止系で線形摂動を行なおう。摂動量は全てこの座標系で
exp(−ikµxµ) = exp(−iωt+ikx) (2.273) に比例しているとするし、簡単のため縦波のみ考えるとしてδui =δuxとすると、上の式 は次のようになる。
−iωδn =−iknδux (2.274)
−iωnhEδux =−ikδP (2.275)
−iωnδe=−ikP δux (2.276) ここで次の関係式を考慮しよう。
δe=cVδT (2.277)
δP =nδT +T δn (2.278)
以上より次のような行列方程式を解けばよい。
ω −kn 0 0
0 ωnhE 0 −k
0 −kP ωncV 0
T 0 n −1
δn δux
δT δP
=
0 0 0 0
(2.279)
この方程式が解を持つ条件から次の分散関係が得られる。
n2ω¡
hEcVω2−cPT k2¢
= 0 (2.280)
この式から次の解が得られる。
ω=±Csk (2.281)
Cs= r Γ
hET (2.282)
これは音波モードである。相対論的な効果として非相対論の場合の質量mが流体の慣性 に対応するエンタルピーhE に修正されている。この音速に対してセクション2.2.4で行 なったように非相対論的極限と超相対論的極限をとってみよう。まず非相対論的極限では 式(2.208)、(2.209) から
hE 'm Γ' 5
3 よって音速は非相対論的なp
5T /3mになる。
同様にして超相対論的な場合は式(2.212)、(2.213)より hE '4T
Γ' 4 3 なので、音速はこの極限でc/√
3になることが分かる。