2.2 相対論的運動論
2.2.4 相対論的な平衡解と熱平衡状態
以降は外場がない場合を考えていく。非相対論の場合と同様に外場がない場合ボルツマ
ン方程式(2.168)の左辺は運動量pのみの関数は0になる。次に右辺に注目すると、右辺
が恒等的に0になるのは被積分関数が恒等的に0になる場合で平衡分布関数f0 は次の条 件を満たさなくてはならない。
f00f010 −f0f01 = 0 (2.176) この式のlnをとると次のようになる。
lnf00 + lnf010 −lnf0−lnf01 = 0 (2.177) 非相対論の場合と同様に二体衝突でこの関係を満たす量は四元運動量と粒子数の保存則 の保存量のみなのでlnf0は次のように表せられる。
lnf0 =α+βµpµ (2.178)
この式からf0は次のようになる。
f0 = n
4πm2T K2(ζ)exp
·
−uµpµ T
¸
(2.179) ζ = m
T
n、T、uµの意味は後ほど明らかになる。なおuµはuµuµ = 1のように規格化されてい るとする。これはT の定義の仕方によりいつでも可能である。
この平衡分布関数はMaxwell-J¨uttner分布と呼ばれる相対論的ボルツマン方程式の平 衡解である。またこの分布関数は式(2.174) の右辺を0にし、エントロピーは最大の状態 を表すため物理的な平衡解にもなっている。
様々なζについてこの分布関数をプロットすると次のようになる。これらは後に四元速 度に対応するuµの静止系で計算したもので縦軸は分布の最大値を1に規格化していると する。
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
f
v / c
図2.2 ζ = 100の平衡分布関数
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
f
v / c
図2.3 ζ = 1の平衡分布関数
0.94 0.95 0.96 0.97 0.98 0.99 1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
f
v / c
図2.4 ζ = 0.01の平衡分布関数
横軸は光速cで規格化した速さで、どの分布も光速までの粒子しか存在せず、相対論的 な要請を守っていることがわかる。またζ = 100は非相対論的な極限に対応し、非相対論 的な平衡分布であるMaxwell分布に似た分布をしている。また相対論的な効果が顕著に なり始めるζ = 1では分布関数は正規分布から大きく外れてきて、光速に近い速さを持つ
粒子が増えることがわかる。超相対論的な分布に内応する ζ = 0.01では光速に非常に近 い粒子達以外はほぼ同じ確率で存在するようになっているのがわかる。
ではこの平衡分布関数を用いて熱平衡状態の熱力学量を計算しよう。まず四元粒子流束 Nµはセクション2.2.1から次の形のはずである。
Nµ =
Z d3p
p0 pµf0 = n 4πm2T K2(ζ)
Z d3p
p0 pµexp
·
−uµpµ T
¸
(2.180) 一方平衡状態は等方的なのでマクロな量のベクトルはuµだけであり
Nµ=n0uµ (2.181)
となる。まず四元速度uµの静止系で計算しよう。更に次のように運動量空間の極座標で 考える。
d3p=p2dpdΩ =pp0dp0dΩ (2.182) p=kpkである。また次のように無次元化しておこう。
z = p0
T (2.183)
式(2.180)、(2.181)より両辺にuµを掛け、uµ の静止系で考えると次のようになる。
n0 = n 4πm2T K2(ζ)
Z d3p p0 p0exp
·
−uµpµ T
¸
(2.184)
= n
ζ2K2(ζ) Z ∞
ζ
dzzp
z2−ζ2e−z (2.185)
ここで次の積分公式を用いる。
Kn(ζ) = 2nn!
(2n)!
1 ζn
Z ∞
ζ
dz(z2−ζ2)n−1/2e−z (2.186)
= 2n−1(n−1)!
(2n−2)!
1 ζn
Z ∞
ζ
dzz(z2−ζ2)n−3/2e−z (2.187) 二つ目の等号は部分積分を行なっている。
これを式(2.185)に用いるとn0 =nが導かれ、Nµ=nuµが示される。
では次にエネルギー運動量テンソルの計算に移ろう。セクション2.2.1からTµν は次 の形のはずである。
Tµν =
Z d3p
p0 pµpνf0 = n 4πm2T K2(ζ)
Z d3p
p0 pµpνexp
·
−uµpµ T
¸
(2.188) 一方平衡状態は等方的なので二階テンソルを作り得るマクロな量は uµuν、ηµν だけで あり
Tµν =neuµuν−P γµν (2.189)
となる。γµν =ηµν −uµuν であり、次のセクション2.2.5で詳しく説明される。
式(2.189)からスカラー量e、P は次のようにf0から与えられる。
ne=Tµνuµuν =
Z d3p
p0 (pµuµ)2f0 (2.190) P =−1
3Tµνγµν =−1 3
Z d3p
p0 pµpνγµνf0 (2.191) Nµの場合と同様の計算を行なうと次のように計算できる。
P =nT (2.192)
e =mK1(ζ)
K2(ζ) + 3T (2.193)
式(2.192)は気体の状態方程式で、ボルツマン方程式の導出で暗に仮定されていた希薄気
体の結果である。また変形ベッセル関数は次のrecurrence relationが成り立つ。
Kn+1(ζ) = 2nKn(ζ)
ζ +Kn−1(ζ) (2.194)
この関係式を用いると式(2.193)は次のようにも書き直せる。
e=mK3(ζ)
K2(ζ) −T (2.195)
式(2.192)、(2.195)を用いるとエンタルピーは次のように計算できる。
h =e+ P
n =mK3(ζ)
K2(ζ) (2.196)
エネルギーとエンタルピーが得られたので比熱が次のように計算できる。まず定義より 次のようになる。
cP = µ∂h
∂T
¶
P
, cV = µ∂e
∂T
¶
V
(2.197) 先に得られた結果よりこれらは次のように計算できる。
cP = Γ
Γ−1 = d dζ−1
K3(ζ)
K2(ζ) (2.198)
cV =cP −1 (2.199)
Γは比熱比である。ここで変形ベッセル関数のrecurrence relationを考える。
d dζ
Kn(ζ)
ζn =−Kn+1(ζ)
ζn (2.200)
この式と式(2.194)を用いるとcP は次のように計算できる。
cP = Γ
Γ−1 =ζ2+ 5h T −
µh T
¶2
(2.201) またエントロピー密度sを次のように定義する。
ns=Sµuµ =−
Z d3p
p0 pµuµf(lnf −1) (2.202) 熱平衡状態ではf0を代入すればよい。ここで係数部分を次のように書き換えておこう。
f0 = exp
·µ−pµuµ
T
¸
(2.203) これを式(2.202)に代入し、式(2.185)、(2.190)を用いると次のように計算できる。
ns= n
T(e−µ) +n (2.204)
よって次の関係式が得られる。
µ=e+ P
n −T s =h−T s (2.205)
この式からµが化学ポテンシャルに対応することが分かる。
最後にここまでで得られた物理量の非相対論的極限と超相対論的極限を計算しよう。こ れまで求めた物理量でT に関して線形でない量は全てζ の形で変形ベッセル関数の中に 含まれている。そこで非相対論的な極限をζ À 1とし、ζ ¿1と考えよう。この関係か らも分かる通り相対論的な運動論ではmasslessの極限と高エネルギーの極限が自然に一 致する。
まずは非相対論的な極限を考えよう。そのために次の変形ベッセル関数の漸近展開を用 いる。
Kn(ζ)' rπ
2ζe−ζ
·
1 + 4n2−1
8ζ + (4n2−1)(4n2 −9) 2!(8ζ2) +· · ·
¸
(ζ À1) (2.206) これを用いると、式(2.195)、(2.196)、(2.201)から次のような非相対論的極限の式が得ら れる。
e'm+ 3
2T + 15 8
T2
m +· · · (2.207) h'm+ 5
2T + 15 8
T2
m +· · · (2.208) Γ' 5
3 − 5 3
T
m+· · · (2.209)
これらより最低次で非相対論の結果が再現されていることが分かる。
超相対論的極限の場合は次の関係を用いる。
ζ→0limζnKn(ζ) = 2n−1(n−1)! (2.210) すると同様にしてこの極限で次の関係が得られる。
e= 3T (2.211)
h= 4T (2.212)
Γ = 4
3 (2.213)
気体の状態方程式は変わらずP =nT が成り立ち、式(2.211)から次の式が成り立つ。
P = ne
3 (2.214)
この式から次の式が成立することが分かる。
trTµν = 0 (2.215)