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EU 会計戦略に対するドイツ会計の国際化対応 1. はじめに

ドイツ会計を取り巻く会計制度変化に着目した場合,第1章で明らかにしたような欧州 における経済共同体・連合体たる「欧州経済共同体」(EEC),「欧州共同体」(EC),「欧州 連合」(EU)(以下,これらは必要に応じてEUという場合がある)の会計戦略と同調する 形でドイツの会計制度改革が進行している。これはドイツがEU加盟国であるために,「指 令(Richtlinie)」や「規則(Verordnung)」をドイツ国内法へと変換・導入しているがゆえ 当然のことである。しかし,ドイツの立法者はただ単にEU会計戦略に追随する形で商法 典(HGB)改革を行っているわけではなく,EU の会計戦略に対し,ドイツ独自の戦略的 対応を行っていると考えられる。そこで本章では,「ドイツ会計制度の変革の根底には,戦 略性を有する首尾一貫した共通要素が存在していた」という事実を明らかにしたい。

そのために本章では,まず会計関連 EU法として重要性の高い「指令」と「規則」の変 換および導入プロセスの相違を明らかにし,それがドイツ立法者の立法作業という「篩」

を通ることで,両EU法に変性現象が生じている事実を指摘し,「指令」「規則」の変換・

導入に対するドイツの立法者の対応形態を,先行研究の中でも Busse von Colbe und Chmielewicz [1986] ならびにシュミーレビチ [1987b] を参考に,EC第4号指令(第4号指 令)選択権に対するドイツの立法者のスタンスを分類する。この作業の後,EU法を変換・

導入して構築されているドイツにおける会計規範の体系を整理する。

次に,EU会計戦略に応じて変化を遂げてきたドイツの立法者の会計国際化への対応を4

つのPhaseに分け,それぞれの Phaseごとに存するドイツの立法者による戦略性を構成す

る諸要素の明確化を図り,すべてのPhaseに首尾一貫した共通要素の導出を行う。この作 業は,第5章以降で行われる,1985年HGBの発効前に効力を有していた会計法である1897 年HGBならびに1965年の株式法(AktG)(以下,これらを旧ドイツ法という場合がある)

と第4号指令の各種草案ならびに本文との間の相応性・類似性を検証するうえで,ドイツ 会計の影響,とりわけ第4号指令の策定および国内法化の時期における影響を分析するた めに必要であり,さらに,その他のすべての時期におけるドイツ会計戦略を導出するうえ でも重要な作業となるであろう。

ここで,本論文におけるドイツの「会計戦略」とは,「指令」規定における選択権規定の 国内法化において,ドイツの会計規定や会計慣行に一致するような,あるいはドイツ会計 への影響を最小限に留めるような形で国内法化し,義務規定やそれに付随する例外規定ま でも同様な意図をもって国内法化すること,および「規則」において規定されている加盟 国選択権をドイツの会計規定や会計慣行への影響を最小限に留めるように導入することを 意味するものとして位置付けている。

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2. 会計関連 EU 法の立法過程とそのドイツ国内法化

(1) 指令および規則のドイツへの変換・導入プロセスとその本質

指令および規則は,その本質に相違がみられ,仮に EU が義務規定(P ),選択権

W

1

W

2

W

3)を有する指令を設定していた場合には,EU加盟国立法者は指令規定を 自国の会計環境などに適応させるべく,Pは義務的に国内法化する必要があるが,選択権

W

1ないし

W

3の行使は立法者に委ねられる。すなわち,指令の国内法化は,指令規定を 加盟国国内法に「適応」させることにその本質があり ,指令の目標は「法の統一化

(Rechtsvereinheitlichung)」ではなく「法の適応化(Rechtsangleichung)」にあるといえる

(Schmiz [1998], S.1, 3)。ただし,第4号指令・EC第7号指令・EC第8号指令(会計指令)

はその選択権の多さから,立法者にはその国内法化に際し,相当なる裁量の余地が認めら れていたために,ドイツの立法者は会計指令を政策的に利用することが可能であった。

それに対して規則は,すべての規定を国内法化しなければならないために,仮にPとい う規則が存在すれば,立法者はPを国内法に導入しなければならない。すなわち規則を導 入するということは,規則規定が加盟国国内法を「創造」することであり,規則の目標は

「法の統一化」にあるといえる。

例えば会計指令はEUにおける会計戦略が加盟国間の各種環境の差異を認識した「調和 化」にあった時期にまず公表されたものであり,加盟国間の法の差異の調和を図る場合に は有効な第二次法であるといえるが,EU が「国際会計基準」(IAS)や「国際財務報告基 準」(IFRS)をEU加盟国に導入することを目的とした「IAS規則」のように,IFRSを加 盟国に統一して導入する場合,規則は指令のように立法者による政策的な余地がない。そ れゆえに,IFRSの採用(アドプション)の実施には規則が適しているといえる。

これらのことを概念図として示すと以下の図表2-1の通りとなる1

1 IAS 規則にも,その適用対象を,非資本市場指向型企業などにも認める選択権が用意されて いた。しかし,選択権を適用しても,IFRSの適用範囲が拡大するのみであり,会計政策的余地 の多い指令の選択権とは性格を異にするものといえよう。

41 図表 2-1 指令の変換と規則の導入の概念図

指令の「変換(Umsetzung)」プロセス 規則の「導入(Einführung)」プロセス

EU

W

1

W

2

W

3

EU

Pは義務(Pflichten),Wは選択権(Wahlrechte)を表す

出所:髙木 [2008], 128頁。

図表 2-1 のように,各加盟国が指令を国内法に変換するとき,選択権の中でもW2が自 国の既存の会計規定・会計慣行と相容れない場合や,W2を国内法化する必要がなければ,

その行使を断念し,そうではないW1W3があれば,これらを国内法化すれば良い。一 方,規則を導入する場合,pは加盟国が必ず国内法に導入し,導入国がpとまったく同一 の規定を生成しなければならない。そのために,pによって国内法が創造されることとな る。

(2) 会計関連EU法のドイツ法への変換・導入を通じた変性現象

図表2-2で示している通り,会計関連EU法がEUによって公表された場合に,それが直 接的にドイツへ変換・導入されることはない。すなわち,ドイツ国内において,立法者は

「導入法(Einführungsgesetz)」を形成し,それが一般法たるHGBや特別法たるAktGなど を形成する。例えば現行 HGB は会計指令の国内法化を端緒として構築されたものである が,例えば,ドイツの場合,会計指令を例にこのことを説明すると,EU レベルでは会計 指令というEU法が形成され,ドイツの立法者は,会計指令を「会計指令法」(BiLRliG) としてドイツ国内に公布した後に国内法が構築される。そのような意味で,EU 法の導入 には,EU法がドイツ連邦共和国という「篩」にかけられることとなり,その篩がEU法を 変性せしめるため,ドイツ会計の「戦略性」の介入の余地がここに存する。この点は,我 が国のように,会計の調和化や統合化が推進されている経済連合に所属していない単一国 家の場合と決定的に異なることである。

ここで注意しなければならないことは,ドイツがこれまで EUにおいて意思決定イニシ p

加盟国

p

W

1

W

3

立法者

国内法への適応

p 加盟国

p 立法者

国内法の創造

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アチブを掌握してきた国家の1つであるという事実であり,序章でも述べた通り,とりわ け第4号指令は1965年AktGが参照されたと一般にいわれている。それゆえに,以下の図 表2-2に示されている通り,EU法には,それが形成される過程においてドイツ法の影響力 が働き(①),ドイツ法の影響を受けたEU 法がドイツへと導入される(②)。その後,ド イツ法の影響を受けたEU法が導入法を介してHGB・AktG などの発効・改訂が行われる

(③)のである。それゆえに,EU 法形成に際してのドイツの立法者ないしは会計基準設 定者の戦略的対応の余地は,その策定過程と国内法への変換・導入時の2回存在すること になる。

しかし,EU 法策定に際しては,ドイツだけでなく,英国といった英米法的会計思考を 有する国家の関与も大きいはずであり,ここに大陸法的会計思考を有する国家との利害相 克がみられると考えられるため,その場合には,両会計の利害調整作業の中からドイツの 立法者ないしは会計基準設定者の戦略的対応を見出していく必要がある。

43 図表 2-2 会計関連 EU 法とドイツ会計との関係

出所:髙木 [2007c] を修正。

(3) 会計関連EU法の変換・導入に対するドイツの立法者の影響力の行使形態

第4号指令の策定過程において,旧ドイツ法の影響が及び,そのうえで旧ドイツ法と同 様の会計規定あるいは会計慣行を国内法化後も残存させようとする動きがあったとされる。

これは第4号指令における義務規定やそれに付随する例外規定のみならず,指令規定中に 数多く設定されていた選択権についても同様である。これは,第4号指令と旧ドイツ法と の乖離の影響を最小限にする動きであるが,このことについて,第4号指令選択権につい ては,Busse von Colbe und Chmielewicz [1986](S.291)ならびにシュミーレビチ [1987b]

(26-27頁)によれば,ドイツの立法者は,「会計指令選択権をドイツで新たに導入する:

新導入」「会計指令選択権をドイツで新たに導入することはしない:導入拒否」「会計指令 選択権をドイツでこれまでの慣行通りとし続ける:慣行維持」という3種類の対応をみせ たという。これらの対応は,選択権規定に関するものであるが,第4号指令における義務 規定やそれに付随する例外規定のドイツ法への変換の場合においても援用可能であり,義 務規定やそれに付随する例外規定に対してもドイツの立法者が「新導入」「導入拒否」「慣 行維持」の3つの対応が行ったことが考えられる。

このことに関してドイツの立法者が「導入拒否」という対応を行ったケースの代表例と しては,第4号指令中に設定されていたイギリス会社法上の概念たる「真実かつ公正な概 観(true and fair view:TFV)」のドイツ語版である「実質的諸関係に合致する写像」2(TFV) からの例外的な場合における離脱規定を設定していた第4号指令「総則」第2条第5項の 規定がドイツ法に明文化されなかったように,一部の事実をもって指摘されている

(Großfeld [1986], S.199-200;Gross und Schluff [1986], S. 68-74;オルデルハイデ [1993],

2 「実質的諸関係に合致する写像(ein den tatsächlichen Verhältnissen entsprechendes Bild)」。

EU レベル

会計関連 EU 法

ドイツレベル

導入法

HGB・AktG