第 7 章 EC 第 4 号指令における年度決算書評価原則の生成とドイツの影響力 1. はじめに
3. 年度決算書評価原則の生成とドイツの影響力の分析
(1) 年度決算書の評価基準
第4号指令第32条は,年度決算書の評価に関しては,取得原価および製作原価を基礎と しなければならない各種規定(第34 条から第 42条)に記載のある事項における資産の評 価基準が適用される旨を規定している。ここでは,本規定は取得原価・製作原価が年度決 算書項目の第一の評価基準であることを述べている。
1) 1897年HGB・1965年AktGにおける該当規定
まず1897 年HGBであるが,財産目録と貸借対照表に関する評価は付すべき価額での評 価によるとされ(中川 [1985], 16頁),取得原価ないしは製作原価での評価基準がない。
1965年AktGでは,取得原価ないしは製作原価での評価については,個別項目(流動資産 および固定資産)ごとに存在する。流動資産については,1965年AktGでは,第155条第4 項で,取得原価または製作原価で計上しなければならないとする規定が存在する(Gross und Schruff [1986], S.103;慶應義塾大学商法研究会訳 [1976], 287頁)。固定資産については1965 年AktG第153条第1項に,取得原価あるいは製作原価で評価すべきとの規定がある(Gross und Schruff [1986], S.99;慶應義塾大学商法研究会訳 [1976], 283頁)。ただし,これらの基準 は個別項目ごとのものであるため,年度決算書に統一して取得原価あるいは製作原価が各 種規定に適用されるという規定は存在しない。
2) 第4号指令「予備草案」第25条
第 4号指令「予備草案」の段階においては,年度決算書の項目の評価に関しては,第26 条から第34条までが適用される(Schruff (Hrsg.) [1986], S.142/143)とされ,ここで,統一 的な規定において,取得原価ないしは製作原価での評価を求める明示的規定は存在しない。
しかし,流動資産と固定資産の評価は,取得原価・製作原価による点は1965年AktG と同 一である。
3) 第4号指令「提案」第29条
第 4号指令「提案」においては,年度決算書における項目の評価が第32条から第39条 までの取得価額主義(Anschaffungswertprinzip)を基礎とする旨を規定している(Schruff (Hrsg.) [1986], S.142/143;山口編 [1984], 273頁)。
4) 第4号指令「修正提案」第29条
第4号指令「修正提案」は「提案」との変化がみられない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.142/143; 山口編 [1984], 273頁)。
5) 第4号指令第32条に対するドイツの影響
1965年AktGは年度決算書の項目について,取得原価および製作原価を基礎とした評価を 求める単一の規定は存在しないものの,流動資産と固定資産については,取得原価・製作 原価を用いることを規定していた。
6) 1985年HGBへの影響
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第4号指令第32条の規定は,取得原価ないしは製作原価評価を年度決算書に適用するも のであり,各個別規定に対して 1 つの規定が取得原価・製作原価での評価を求めるもので ある。このような規定は1985年HGBには存在しないが,1985年HGBの個別項目において,
取得原価・製作原価での評価が求められる。それゆえに,図表7-2のように,本規定の国内 法化は「新導入」であるといえよう。
(2) 固定資産の評価基準
第4号指令第35条第 1項a) は,固定資産が取得原価または製作原価で評価されねばな らならい(計画的な償却による価値修正の控除,価値修正を考慮)ことを規定している。
1) 1897年HGB・1965年AktGにおける該当規定
1897年HGBには該当規定がないが,1965年AktGでは,その第153条第1項および第 154条第1項に該当規定が存在する。すなわち,1965年AktG第153条第1項では,固定資 産の項目が取得原価あるいは製作原価で評価すべきことを規定しており(Gross und Schruff [1986], S.99;慶應義塾大学商法研究会訳 [1976], 283頁),さらに第154条第1項においては,
取得原価あるいは製作原価から計画的な償却あるいは価値修正(Wertberichtigung)を減額し なければならない旨を規定している(Gross und Schruff [1986], S.99;慶應義塾大学商法研究 会訳 [1976], 286頁)。
2) 第4号指令「予備草案」第27条
第4号指令「予備草案」は,固定資産の項目は,価値低下(Wertminderung)を考慮して,
取得原価ないしは製作原価で計上しなければならないことを規定していた(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165)。
3) 第4号指令「提案」第33条第1項a)
第4号指令「提案」においては,固定資産の項目は,b)(価値訂正の控除―筆者)および c)(価値訂正の計上―筆者)の決定を妨げることなく,取得原価あるいは製作原価で評価し なければならないことを規定していた(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165;山口編 [1984], 287 頁)。
4) 第4号指令「修正提案」
第4号指令「修正提案」は「提案」と変化はない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165;山口 編 [1984], 287頁)
5) 第4号指令第35条第1項a) に対するドイツの影響
1965年AktG第153条第1項と第154条第1項の双方の規定内容は,「予備草案」の段階 から類似性がみられ,「提案」段階から第4号指令第35条第1項a) に対してほぼ同一なも のとして受け継がれている。
6) 1985年HGB第253条への影響
第4号指令第35条第1項a) の規定は,1985年HGB第253条第2項から第4項にまで同 等の規定として国内法化されている(Gross und Schruff [1986], S.98-99)。それゆえに,図表
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7-2のように,本規定の国内法化は「慣行維持」であるといえよう。
(3) 固定資産からの価値修正の控除
第4号指令第35条第 1項b) は,利用が期間的に限定されている固定資産の項目に関し て,取得原価または製作原価が経済的な期間にわたり計画的な償却によって算定された価
値修正(Wertberichtigungen)を控除しなければならないことを規定している。
1) 1897年HGB・1965年AktGにおける該当規定
1897年HGBには該当規定は存在しない。一方,1965年AktGでは,先にも述べた通り,
第154 条第1 項において,取得原価あるいは製作原価から計画的な償却あるいは価値修正 を控除しなければならない旨を規定している(Gross und Schruff [1986], S.98;慶應義塾大学 商法研究会訳 [1976], 286頁)。つまり,本規定は第4号指令と極めて類似しているといえる。
2) 第4号指令「予備草案」第27条第1項b)
第 4 号指令「予備草案」は,その利用が期間的に限定されている固定資産の項目は,取 得原価あるいは製作原価は計画的な償却を控除しなければならないと規定されている
(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165)。 3) 第4号指令「提案」第33条第1項b)
第 4 号指令「提案」においては,その経済的な利用が期間的に限定されている固定資産 の項目に際しては,その取得原価あるいは製作原価は,「正規の業務執行の規則(Regelung einer ordnungsmäßigen Geschäftsführung)」と合致した計画にしたがって計算した「価値訂正
(Wertkorrektionen)」を控除しなければならない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165;山口編
[1984], 287頁)となり,予備草案と表現が異なる部分が見当たる。
4) 第4号指令「修正提案」第33条第1項b)
第4号指令「修正提案」は「提案」と変化はない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165;山口 編 [1984], 287頁)
5) 第4号指令第35条第1項a) に対するドイツの影響
1965年AktG第154条第1項の規定は,「予備草案」に受け継がれているものの,「提案」
で若干の表現の相違が認められる。ただし,1965年AktGの該当規定は第4号指令に大きな 影響を与えているといえる。
6) 1985年HGB第253条第2項第1文への影響
第4号指令第35条第1項b) の規定は,1985年HGB第253条第2項第1文において国内 法化されている。すなわち,利用が期間的に限定されている固定資産の項目は,計画的な 償却だけ控除しなければならない(Gross und Schruff [1986], S.98;宮上・フレーリックス監
修[1993], 36頁)。それゆえに,図表7-2のように,本規定の国内法化は「慣行維持」である
といえよう。
(4) 固定資産の価値修正
第4号指令第35条第1項c), bb) は,固定資産の項目のその利用が期間的に限定されてい
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るか否かを問わず,継続的な価値低価が予想される場合の貸借対照表日において計上され るべきより低い価値での評価のための価値修正の計上義務を規定していた。
1) 1897年HGB・1965年AktGにおける該当規定
1897年HGBには該当規定は存在しない。一方,1965年AktGでは,その第154条第2項 第1号において,その利用が期間的に限定されているか否かを問わず,固定資産の項目は,
決算日に,付すべき「より低い価値(niederigeren Wert)で計上するために,計画外の償却 または価値修正が行うことができるとされ,さらに,第154 条第2 項には,それは予想上 継続的な減価に際して行わなければならない旨が,規定に含められていた(慶應義塾大学 商法研究会訳 [1976], 286頁;Gross und Schruff [1986], S.99)。つまり,本規定は第4号指令 と極めて類似しているといえる。
2) 第4号指令「予備草案」第27条第1項b), c)
第4号指令「予備草案」第27 条第1項c) では,その利用が期間的に限定されているか 否かを問わず,固定資産の項目に際して計画外の償却が実施される場合,当該項目を貸借 対照表日において付すべき「より低い価値」で計上することができ,それらは継続的な「価
値低価(Wertminderung)」が予想される場合に実施されることが規定されていた(Schruff
(Hrsg.) [1986], S.164/165)。
3) 第4号指令「提案」第33条第1項c), aa)
第 4 号指令「提案」においては,固定資産の項目に際し,その利用が期間的に限定され ているか否かを問わず,価値訂正は,当該項目を貸借対照表日において付すべき「最も低 い価値(niedrigsten Wert)」で計上するために実施することができる(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165;山口編 [1984], 287頁)とされ,さらに,第4号指令「提案」第33条第1項c), cc) において,継続的な価値訂正が予想される場合には計上しなければならないという規定が 加わっている(Schruff (Hrsg.) [1986], S.166/167;山口編 [1984], 287頁)。つまり,価値訂正 は,予想上継続的な場合でなければ実施する必要がないこととなる。
4) 第4号指令「修正提案」第33条第1項c), bb)
第 4 号指令「修正提案」においては,固定資産の項目に際し,その利用が期間的に限定 されているか否かを問わず,継続的な価値低価が予想される場合には,当該項目を貸借対 照表日において付すべき「最も低い価値」で計上するために実施しなければならない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165;山口編 [1984], 287頁)とされ,「提案」とは異なり,単一条文項 目の中において,予想上継続的な価値低価の条件が加わっている。
5) 第4号指令第35条第1項c), bb) に対するドイツの影響
旧ドイツ法と本規定とを比較した場合,本規定は,もともとは選択権であったが,修正 提案から義務規定へと変化している点が若干異なる点であることを除けば,第 4 号指令規 定との相違性・類似性が相当程度認められ,本規定は1965年AktG がベースになって作成 された可能性が高い。とくに,第4号指令第35条第1項 c), bb) における利用の期間的限 定とは関係がないことを前提とした減価や,減価の予想される継続性に関する文言は 1965