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原初的企業選択権の生成とドイツの影響力の分析

第 8 章 EC 第 4 号指令における選択権規定の生成とドイツの影響力 1. はじめに

5. 原初的企業選択権の生成とドイツの影響力の分析

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よれば,最低原価先出法も適用されるものとしている(119頁)。

2) 第4号指令「予備草案」第32条

第4号指令「予備草案」の段階では,貸借対照表日において「変動している (Schwankend)」 棚卸資産の期末有高(Endbestände)は,「加重平均価値(gewogene Durchschnittswerten)」

もしくは FIFO,LIFOに基づいて決定された価値での評価を行わなければならない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.180/ 181)とされ,棚卸資産の評価方法は限定的であり,選択権は存在し ない。

3) 第4号指令「提案」第37条

第4号指令「予備草案」とは異なり,第4号指令「提案」の段階では,同一種類に属す る棚卸資産の取得原価または製作原価について,加重平均価値か,FIFO,LIFO,これに類 する評価方法で算定「され得る」という規定へと変化している(Schruff (Hrsg.) [1986], S.180/

181;山口編 [1984], 296頁)。

4) 第4号指令「修正提案」第37条

第4号指令「修正提案」においては,第4号指令「提案」から変化がみられない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.180/181;山口編 [1984], 296頁)。

5) 第4号指令第40条第1項に対するドイツの影響

これらのことから,「予備草案」の段階では,加重平均価値,FIFO,LIFO 評価が義務付 けられており,1965年 AktG における「GoB に合致している」ことについては第 4号指 令「予備草案」以降,導入されてはいない。さらに,派生的企業選択権としての「加盟国 が許可することができる」規定が導入されたのは,第4号指令本文からである。しかし,

それら以外は1965年AktGとの相応性・類似性がみられ,第4号指令規定は1965年AktG の影響を色濃く残しているものといえる。

6) 1985年 HGB 第256条への影響

本選択権は,1985年 HGB 第256 条に国内法化されているが,1965 年AktG に非常に 類似したものとなっており,加重平均価値での評価は存在しない3。それゆえに,図表8-5 のように,本選択権の国内法化については「慣行維持」に分類される。

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1) 1897年 HGB・1965年 AktG における該当規定

1897年 HGB に関しては,該当する明示的規定は存在しない。一方,1965年 AktG で は,年度貸借対照表の項目分類を第151条が包括している。ここで前受金については,Ⅵ

「その他の債務」において,「受け取った手付金(erhaltene Anzahlungen)」4(すなわち前

受金)(Ⅵ・4)項目の記載が求められているに過ぎない(慶應義塾大学商法研究会訳 [1976],

245頁)。したがって,第4号指令の当該選択権は,1965年AktGを基にしたものとは考え にくい。

2) 第4号指令「予備草案」第6条Ⅴ, 3

第4号指令「予備草案」では,債務の項目の一部として,単に「受け取った手付金(erhaltene Anzahlungen)」(すなわち前受金)のみが記載されるものとしているに過ぎない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.58/59)5

3) 第4号指令「提案」第8条消極側 E, 3

第4号指令「提案」では,第4号指令「予備草案」とは若干の表現の相違がみられ,「注 文に基づく受け取った手付金(auf Bestellungen erhaltene Anzahlungen)」(すなわち前受金)

という表現に変化する(Schruff (Hrsg.) [1986], S.58/59;山口編 [1984], 220頁)。 4) 第4号指令「修正提案」第8条消極側 E, 3

第4号指令「修正提案」は第4号指令「提案」から変化はみられない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.58/59;山口編 [1984], 220頁)。

5) 第4号指令第9条消極側 C, 3に対するドイツの影響

第4号指令本文では,棚卸資産項目から控除されない限りにおいて,前受金が消極計上 されるとされているため,当該選択権に関しては,1965年AktGの影響は第4号指令の策 定に対して及んでおらず,第4号指令の生成,それも本文作成段階において生じたといえ る。

6) 1985年 HGB 第250条第1項第2号への影響

貸借対照表の項目分類に関する1985年 HGB 第266条の規定において,その (3) 消極 側 C,3に,「注文に基づく受け取った手付金(erhaltene Anzahlungen auf Bestellungen)」(す なわち前受金)の記載はあるものの,第4号指令のような選択権は設定されていない。た

だし,1985年 HGB 第250条第1項第2号において,棚卸資産から明示的に控除された前

受金は,棚卸資産から控除することも認められている6 。それゆえに,図表8-5のように,

本選択権の国内法化 は「新導入」であるといえる。

4 慶應義塾大学商法研究会訳 [1976] は,「受け取った前払」と訳出している(245頁)。

5 詳細は宮上・フレーリックス監修 [1993] , 29頁を参照されたい。

6 ケーネンベルク [1987] では,1965年AktGで製作価額へ算入可能なものとして,固定的間接 材料費,製造間接費,管理費,任意社会的給付費が,さらに,場合によって算入可能なものと して,他人資本利息,直接販売費が挙げられている(106頁) 。

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(2) 報告式の貸借対照表における前受金の消極計上

第4号指令第10条消極側F, 3・I, 3は,(1) の勘定式に対して,ここでは報告式の貸借対

照表の負債・資本の部における前受金について,それぞれ弁済期が1年以内に到来する場 合のものと到来しない場合のものを規定しており,双方ともに,棚卸資産から別箇に控除 されていない限りにおいての「注文に基づく受け取った手付金」(すなわち前受金)の区分 表示に関する選択権が設定されている(Schruff (Hrsg.) [1986], S.66/67, 68/69;山口編 [1984], 226, 227頁)。

1) 1897年 HGB・1965年 AktG における該当規定

1897年HGB には,明示的な該当規定は存在しない。一方,1965年AktG に関しては,

第151条のⅥ「その他の義務」において,「受け取った手付金」(すなわち前受金)7項目の 記載がある点については,前項の (1) と同様であり(慶應義塾大学商法研究会訳 [1976], 259頁),当該規定が第4号指令における原初的企業選択権の基礎となったとは考えにくい。

2) 第4号指令「予備草案」

第4号指令「予備草案」においては,貸借対照表の項目分類規定が存在しないため(Schruff (Hrsg.) [1986], S.60/61),前受金の記載ルールについても存在しない。

3) 第4号指令「提案」第9条 F, 3・I, 3

第4号指令「提案」では,報告式の貸借対照表に言及されており,その第9条 F, 3にお いて,1 年以内に弁済期間が到来する債務(物的に保証されている債務の額が含まれる項 目は別個に記載)に関し,「注文に基づく受け取った手付金(auf Bestellungen erhaltene Anzahlungen)」(すなわち前受金という)が挙げられており(Schruff (Hrsg.) [1986], S.66/67;

山口編 [1984], 230頁),1年を超えて弁済期間が到来する債務(5年を超える弁済期間に含

まれる債務ならびに物的に保証されている債務が含まれる項目は別個に記載)に関し,前 受金が挙げられている(Schruff (Hrsg.) [1986], S.68/69;山口編 [1984], 230頁)。しかし,第 4 号指令「提案」段階において,選択権は見当たらない。

4) 第4号指令「修正提案」第9条 F, 3・I, 3

「修正提案」の規定に「提案」との相違は認められない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.66/67, 68/69;山口編 [1984], 231頁)。

5) 第4号指令第10条消極側 F, 3・I, 3に対するドイツの影響

第4号指令で前述の選択権が導入されているが,前受金に関する表示選択権以前に,報 告式の貸借対照表の項目分類が具体化したのは,第4号指令「提案」段階からであった。

そのため,そもそも第4号指令「予備草案」は報告式の貸借対照表に重要性を認めていな かったとも考えられる。同時に,第4号指令第9条消極側 C, 3 と同様に,当該選択権に

関しても1965年 AktG の影響は第4号指令の策定に対して及んでいるとは考えにくい。

それゆえに,当該選択権は第4号指令の本文作成段階において生成されたものであるとい える。

7 慶應義塾大学商法研究会訳 [1976] は,「受け取った前払」と訳出している(245頁)。

178 6) 1985年 HGBへの影響

1985年HGBでは,その第264条第2項において,前節の (1) と同様に,貸借対照表の 項目分類を規定しており,その中に「注文に基づく受け取った手付金」(すなわち前受金)

の項目はあるものの,前述の選択権は変換されていない。さらに,1985年 HGB 第250条 第1 項第2号は,(1) と同様,棚卸資産から明示的に控除されている前受金は計算限定項 目に表示することができることを規定している。ただし,その選択権は第 4 号指令第 35

条第1項c), aa) とは異なり「弁済期到来の時間的な制限」に関する条件は設定されていな

い。それゆえに,図表8-5のように,本選択権の国内法化は「導入拒否」に分類される。

(3) 財務固定資産の価値修正

第4号指令第35条第1項c), aa) は,財務固定資産に際しては,貸借対照表日における,

より低い価値によって計上するために,価値修正を行うことができる選択権を設定してい る(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165;山口編 [1984], 285頁)。なお,この規定は,第7章第

3節 (4) で述べた,「固定資産の価値修正の計上」の1つの項目であるために,以下,当該

箇所で述べたことと関連付けながら分析を行う。

1) 1897年HGB ・1965年 AktGにおける該当規定

1897年HGBには,明示的な該当規定は存在しない。一方,1965年AktGでは,貸借対 照表の項目分類について規定していた第151条第1項のⅡにおいて,固定資産の1つとし て,財務固定資産を掲記していた(慶應義塾大学商法研究会訳 [1976], 257頁)。ここで注 目すべきことは,財務固定資産が固定資産に含められているということである。それゆえ に,第7章第3節 (4) で述べた,1965年AktG第における第154条第2項の1の,その利 用が期間的に限定されているか否かを問わず,固定資産の項目は,決算日に,付すべき「よ り低い価値」での計上のための,計画外の償却または価値修正が行うことができることや,

第154条第2項における,当該計上が,予想上継続的な減価に際して行わなければならな いという規定は,財務固定資産にも適用されると解される。

2) 第4号指令「予備草案」第27条第1項 c)

第4号指令「予備草案」では,その利用が期間的に限定されているか否かを問わないこ とを前提にした計画外の償却が実施される場合,固定資産の項目は 貸借対照表日において 付与された「より低い価値(niedriger Wert)」(低価)で計上することができるとされてい る(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165)。この規定文言は,1965年 AktG と非常に類似して いる。さらに,同条同項 c) は,価値修正が継続的な価値低下が予測される場合に実施さ れることを付け加えている(Schruff (Hrsg.) [1986], S.164/165)。ただし,これらの処理が財 務固定資産に適用されるという明示的な規定は見当たらない。

3) 第4号指令「提案」第33条第1項 c), aa)

第4号指令「提案」では,第4号指令「予備草案」と同様,その利用が期間的に限定さ れているか否かを問わないことを前提とした,貸借対照表日における「最も低い価値