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第 6 章 EC 第 4 号指令における「一般的評価原則」の生成とドイツの影響力 1. はじめに

6. 分析の結果

これまで,第4号指令第31条にみられる基礎的評価原則たる「一般的評価原則」に焦点 を当て,その生成過程で作成された各種草案ならびに本文と旧ドイツ法との相応性・類似 性を分析してきた。分析の結果は以下の通りである。

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(1) 旧ドイツ法と各種草案ならびに本文との相応性・類似性

「個別評価」に関しては1897年HGB,1965年AktGにおいて内容的に類似する規定が 存在していたものの,第4号指令のように「個別評価」といった明示的な名称をもった原 則としては存在していなかった。このことは,その他の規定についても同様である。同時 に,英国やフランスの会計の影響力も「一般的評価原則」に及んでいる可能性が高いこと を指摘した。ただし,すべての評価原則は,法典化されざるGoBとしてドイツ会計の中で GoB として考えられてきたものであるために,これが,「一般的評価原則」に影響を与え た可能性がある。

次に,「一般的評価原則」の義務規定に付随する2つの例外規定に関し,旧ドイツ法との 相応性・類似性について分析した。その結果,いずれも旧ドイツ法との相応性・類似性は 確認できなかったため,当該規定に対して旧ドイツ法の影響は及んでいないことが分かっ た。

(2) 分析対象となった規定に対するドイツの立法者のスタンス

「一般的評価原則」が旧ドイツ法において明文化されていなくとも,9 つの原則すべて がドイツの立法者の立場からみて「慣行維持」という結果となったことが明らかとなった。

一般的評価原則について,結果として「慣行維持」が行われたといえども,法の中に明文 化されることをドイツの立法者ないしは会計基準設定者は意図していた可能性があり,法 典化されざるGoBの法典化を通じ,第3章で論じたGoBについて,この基礎的評価原則 については,より理解しやすい形で実定法の中で表現しようとしたものと考えられる。

「一般的評価原則」の義務規定に付随する例外規定に関するドイツの立法者の国内法化 のスタンスについては,2 つの規定が「新導入」という結果になっているが,当該規定は

「一般的評価原則」遵守の例外であるために,これを新導入したとしても,例外規定を適 用しなければ,ドイツ会計への影響はないために,ドイツの立法者ないしは会計基準設定 者が当該規定の生成に影響力を及ぼす必要性はなかったとも考えられる。

7. おわりに

本章では,第4号指令第31条にみられる「一般的評価原則」の義務規定およびそれに付 随する例外規定の各種草案ならびに本文と旧ドイツ法との相応性・類似性を検証してきた。

その結果,例外規定を除くすべての「一般的評価原則」が,法典化されざるGoBの法典化 がなされたことが明らかになった。つまり,ドイツの会計慣行の中に存在していたGoBが,

「一般的評価原則」の国内法化により,1985年HGBにおいて明文化されたわけであるが,

これはある見方をすれば,既存の会計慣行が,法の中でより明瞭に表現されたということ を意味する。それゆえ,ドイツ会計の根幹を成すGoBの一部が明文化されるということは,

ドイツの立法者にとって好都合であったといえる。さらに,第4号指令の策定当初から影

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響力を有していたフランスや,策定過程の中途から影響力を行使した英国が,「一般的評価 原則」へ影響力を与えている可能性について指摘した。加えて,「一般的評価原則」の義務 規定に付随する2つの例外規定については,旧ドイツ法との相応性・類似性はみられず,

これらの規定をドイツの立法者は「新導入」として扱ったことが明らかとなった。

本章では,「一般的評価原則」について分析を試みたが,第4号指令中には,「一般的評 価原則」にカテゴライズされない具体的な評価原則が存在し,それも義務規定と,それに 付随する例外規定と選択権規定に分類される。もしドイツの立法者ないしは会計基準設定 者が第4号指令の策定過程に影響を及ぼしたとしたならば,会計利益計算への影響を最小 限に留めるようとした筈であり,その結果,まずは具体的かつ義務的な年度決算書評価原 則の各種草案ならびに本文と旧ドイツ法との相応性・類似性がみられる可能性がある。こ のことを次章において検証していく。

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第 7 章 EC 第 4 号指令における年度決算書評価原則の生成とドイツの影響力