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派生的企業選択権の生成とドイツの影響力の分析

第 8 章 EC 第 4 号指令における選択権規定の生成とドイツの影響力 1. はじめに

4. 派生的企業選択権の生成とドイツの影響力の分析

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を比較した場合,旧ドイツ法に選択権規定が存在していた場合,それが第4号指令生成過 程において引き継がれている。それゆえに,第4号指令選択権の中でも本章において分析 対象となっているもの(前述の奥山 [2001a] の選択権分類 b)は相当程度,旧ドイツ法が 参照されていると考えられる。ここで,会計上の利益に影響を及ぼす選択権については,

ドイツ会計の慣行が維持された状況が多く,「新導入」はごく僅かであると予想される。同 時に,そもそも1897年HGB あるいは1965年 AktG のいずれかに規定が存在しない選択 権はその導入が拒否されたと考えられる。

では,次節以降において,これらの分類および予想が妥当か否かを,第4号指令の生成 過程を追うことで,より具体的に検証したい。

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り,償却が認められていたのである(松本 [1991], 228頁)。 2) 第4号指令「予備草案」第28条第1項・第2項第1文

第4号指令「予備草案」第28条第1項では,研究開発費についての明文規定はなく,無 形の固定資産の資産価値として,「自己創設のれん(originärer Firmenwert)」を除き積極計 上が認められており,同条第2項では,それが積極計上される場合には,慎重に見積もら れた経済的な利用期間以内で,償却しなければならないとされる(Schruff (Hrsg.) [1986], S.172/173)。同時に,のれんはそれが「買入のれん(derivativer Firmenwert)」に限り,積極 計上が認められ得るという選択権が導入されており,積極計上される場合には,測定され た方法で償却しなければならないとされている(Schruff (Hrsg.) [1986], S.172/173)。一方,

研究開発費・のれんの償却期間に関する例外規定に関する選択権は存在しない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.172/173)。

3) 第4号指令「提案」第34条第1項・第2 項

第4号指令「提案」では,第4号指令「提案」第32条(筆者注:国家による「企業の設 立・拡張費」の積極計上の容認とその最長5年での償却)の規定は,「研究開発費」の項目 に適用する旨が明記された(第34条第1項)(Schruff (Hrsg.) [1986], S.160/161,172/173;山

口編 [1984], 283,291頁)。つまり,研究開発費の積極計上選択権を行使した場合に5年で

の償却が求められる。しかし,例外的な償却期間に関する規定はここには存在しない

(Schruff (Hrsg.) [1986], S.160/161,172/173;山口編 [1984], 284,291頁)。さらには,のれん の評価については,第4号指令「提案」第32条の第1項 a)(筆者注: 国家による「企業 の設立・拡張費」の積極計上の容認と5年以内での償却)の規定は,第4号指令「提案」

第8 条(筆者注:勘定式の B/Sの項目分類)および第9条(筆者注:報告式 B/Sの項目 分類)の項目 C, Ⅰ, 3(筆者注:固定資産の部の無形の資産価値の項目の,買入のれん)に 適用する旨が規定されており,のれんの積極計上選択権を行使した場合には5年での償却 が求められるが,のれんの償却期間に関する例外規定は存在しない(第34条第2項)(Schruff (Hrsg.) [1986], S.46/47, 62/63, 160/161, 172/173;山口編 [1984], 216, 229, 284頁)。

4) 第4号指令「修正提案」第34条第1項・ 第2項

第 4 号指令「修正提案」についての規定は第 4 号指令「提案」から変更はみられない

(Schruff (Hrsg.) [1986], S.172/173)。

5) 第4号指令第37条第1項・第2項に対するドイツの影響

もともと 1965 年 AktG では,買入のれんの計上は容認されていたものの,研究開発費

に関しては,その計上は認められておらず,それは第4号指令の策定を通じて形成されて きたものである。この点に関して,黒田 [1989] によれば,当該規定と1965年AktGとの 適合性が指摘されている(136頁)。他方,のれんについては,1965年 AktG が5年償却 規定を設定していたが,第4号指令は5年を超える期間での償却選択権を設定しているた め,この点は1965年 AktGと第4号指令とで異なる点である。

6) 1985年 HGB 第255条第4項への影響

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1985 年 HGB においても研究開発費の積極計上は認められていない。一方,のれんは,

買入のれんについてのみ,第255条第4項において国内法化されている。その場合,買入 のれんを積極計上した場合には,少なくとも4分の1の償却が行われるが(第3文),利用 が予想される年度に対する計画的配分も可能としている(第4文)。それゆえに,図表8-5 のように,これらの選択権の国内法化に関して,研究開発費の会計処理については「導入 拒否」であり,このことは Busse von Colbe und Chmielewicz [1986] においても指摘されて いる(S.291)。一方,買入のれんの償却期間については,HGBの文言からは,1965年AktG における5年償却が踏襲されたとは言い難いものの,利用が予想される期間での計画的配 分も可能としているため,のれんの例外的会計処理については図表8-5のように,「新導入」

と考えることができる。

(2) 流動資産の臨時的な価値修正

第4号指令では,流動資産の評価は,取得原価・製作原価による(第39条第1項 a) ) が,(流動資産の)価値計上が将来の価値変動による修正の防止のため,必要な場合での,

「理性的商人の判断(vernünftiger kaufmännischer Beurteilung)」に基づいた臨時的な価値修 正を加盟国が許可することを認めている(第 4号指令第 39 条第 1項 c)(Schruff (Hrsg.) [1986], S.178/ 179;山口編 [1984], 293頁)。

1) 1897年 HGB・1965年 AktG における該当規定

第4号指令第39号第1項に関連し,1897年HGB の明示的な該当規定は見当たらない。

一方,1965年 AktGの該当規定がその第155条に見られる。すなわち,流動資産の項目は

取得原価もしくは製作原価での評価が規定されているが(第1項),より低い価値計上が「理 性的商人の判断」によって,近い将来の価値変動による価値修正の防止のため(第3項第 1 号)認められている(Gross und Schruff [1986], S.101,103;慶應義塾大学商法研究会訳 [1976], 287-288頁)。

2) 第4号指令「予備草案」第31条第2項・第3項

第4号指令「予備草案」第31条では,まず取得原価もしくは製作原価での評価が規定さ れ(第1 項),より低い価値での計上義務に関する規定が存在し(第2項),取引所価格・

市場価格が定まらない場合に,取得原価もしくは製作原価が決算日における付すべき価値 を超過する場合,この価値を計上しなければならないことが規定されているものの(第 3 項),臨時的な価値修正に関する選択権は存在しない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.178/179)。

3) 第4号指令「提案」第36条第1項 c)

第4号指令「提案」段階では,流動資産が取得原価もしくは製作原価によって評価され るべき第36条第1項a) の規定のもと,より低い価値での計上を義務付け(同条同項 b), c) ), 近 い 将 来 の 価値 変 動 に よる 価 値 修 正を 防止 す る た め の 「臨 時 的 な 価 値訂 正

(außerordentliche Wertkorrektionen)」の選択権が導入される。すなわち,理性的な商人の判 断に基づき必要な場合の臨時的な価値訂正の実施を加盟国が許可することができる(第36

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条第1項a)(Schruff (Hrsg.) [1986], S.178/179;山口編 [1984], 294頁)。ここで「提案」か ら,1965年AktGと同等の表現をもって,臨時的な価値修正の規定が導入される。

4) 第4号指令「修正提案」第36条第1項c)

第4号指令「修正提案」においては,「提案」から変化がみられない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.178/179;山口編 [1984], 294頁)。

5) 第4号指令第39条第1項c) に対するドイツの影響

流動資産の評価に関する臨時的な価値修正に関するこの規定は,その殆どが 1965 年

AktG を踏襲しており,本選択権については旧ドイツ法の大きな影響が及んでいるといえ

る。この点に関して 黒田 [1989]も「著しい類似性を認める」(135頁)ものと指摘する。

換言すればドイツは本規定を第4号指令に残したこととなると考えられる。とくに,「理性 的商人の判断」なる用語までもが忠実に引き継がれていることは注目に値する。

6) 1985年 HGB 第253条 第3項 第3文への影響

第4号指令第39条第1項c) は,1985年 HGB 第253条第3項第3文において国内法化 されている。それゆえに,図表8-5のように,この選択権の国内法化は,「慣行維持」に分 類される。

(3) 棚卸資産の評価方法の特例

第4号指令第40条第1項では,「加盟国」は,棚卸資産(有価証券を含む)は,同一種 類に属する棚卸資産の取得原価または製作原価について,「加重平均価値(gewogenen Durchschnittswerten)」,先入先出法(以下,FIFO という),後入先出法(以下,LIFO とい う),その他これに類する方法で算定することを許可することができる(Schruff (Hrsg.) [1986], S.180/181;山口編 [1984], 295頁)旨の選択権が設定されている。

1) 1897年 HGB・1965年 AktG における該当規定

1965年AktG では,棚卸資産の評価に関する規定は,流動資産について規定している第

155 条における第1項第3文にみられる。すなわち,「正規の簿記の諸原則」(GoB)に合 致する限り,同種の在庫品資産項目の価値計上については,最初または最後に取得・製作 されたものが,最初またはその他の一定の順序で費消・販売されたものと仮定して算定す る方法が容認されている(Gross und Schruff [1986], S.103;慶應義塾大学商法研究会訳 [1976], 287頁)。本規定は,GoB に合致していれば,FIFO・LIFO・その他の方法が認めら れるというものである。この点に関して,Gross und Schruff [1986] ならびに黒田 [1989] に よれば,平均価値(Durchschnittswert)による平均原価法については 1897 年 HGB 第 40 条第4項第1号が容認しており(S.116,135頁),中川 [1985] によれば,1897年 HGB(1990 年改訂版)においては,第39条第1項に規定されている個々の資産に個別的に価値を付さ なければならない個別法に代替し得る方法として,平均原価法,口別法,固定在高法,売 価還元法が認められているとされ,口別法については1965年AktGにおいてFIFO,LIFO, 最高原価先出法が容認されるとしている(46-47 頁)。さらに,ケーネンベルク [1987] に

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よれば,最低原価先出法も適用されるものとしている(119頁)。

2) 第4号指令「予備草案」第32条

第4号指令「予備草案」の段階では,貸借対照表日において「変動している (Schwankend)」 棚卸資産の期末有高(Endbestände)は,「加重平均価値(gewogene Durchschnittswerten)」

もしくは FIFO,LIFOに基づいて決定された価値での評価を行わなければならない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.180/ 181)とされ,棚卸資産の評価方法は限定的であり,選択権は存在し ない。

3) 第4号指令「提案」第37条

第4号指令「予備草案」とは異なり,第4号指令「提案」の段階では,同一種類に属す る棚卸資産の取得原価または製作原価について,加重平均価値か,FIFO,LIFO,これに類 する評価方法で算定「され得る」という規定へと変化している(Schruff (Hrsg.) [1986], S.180/

181;山口編 [1984], 296頁)。

4) 第4号指令「修正提案」第37条

第4号指令「修正提案」においては,第4号指令「提案」から変化がみられない(Schruff (Hrsg.) [1986], S.180/181;山口編 [1984], 296頁)。

5) 第4号指令第40条第1項に対するドイツの影響

これらのことから,「予備草案」の段階では,加重平均価値,FIFO,LIFO 評価が義務付 けられており,1965年 AktG における「GoB に合致している」ことについては第 4号指 令「予備草案」以降,導入されてはいない。さらに,派生的企業選択権としての「加盟国 が許可することができる」規定が導入されたのは,第4号指令本文からである。しかし,

それら以外は1965年AktGとの相応性・類似性がみられ,第4号指令規定は1965年AktG の影響を色濃く残しているものといえる。

6) 1985年 HGB 第256条への影響

本選択権は,1985年 HGB 第256 条に国内法化されているが,1965 年AktG に非常に 類似したものとなっており,加重平均価値での評価は存在しない3。それゆえに,図表8-5 のように,本選択権の国内法化については「慣行維持」に分類される。