本章では、GC−1RMSによる分析よって得られた同位体比について議論する。検量線を用 いて同位体比のキャリブレーションを行い、脂肪酸の誘導体化前後での同位体比の比較を
行う。
5.1.GC−1RMSによる同位体比分析
5.1.1.原理
GC−1RMSの原理は、4.1.で解説したとおりであるので、本章では割愛する。
5.1.2.検量線作成による同位体比のキャリブレーション
2.3.2.や3.4.5.で述べたように、GC−lRMSによる同位体比分析では、装置内で分子種ごと の同位体分別が発生するため、測定対象の分子と同一構造を持ったスタンダード1こよって、
同位体比の検量線を作成し、測定対象の分子の同位体比をキャリブレーションしなければ、
正確な同位体比を得ることはできない(カ石・大場,2008)。
本研究では、MCF・ECFを用いた誘導体化によって得られた、脂肪酸エステル(メチルエス テル9種十エチルエステル9種:計18種)が測定対象分子である。そこで、水素・炭素同位体 比をEA−lRMSによって決定した(3.3.4.および3.3.5.)、同一構造を持つ18種のメチル・エチ ルエステル試薬を、GC−lRMS用の検量線用スタンダード試薬とした。
検量線は、GC−lRMSによって得られた測定値を横軸にとり、EA−lRMSによって得られた 脂肪酸メチル・エチルエステル試薬の同位体比(真値)を縦軸にとることで作成した。この検量 線に、MCF・ECFによって誘導体化して得た脂肪酸メチル・エチルエステルの測定値を代入 することで、同位体比のキャリブレーションを行った。
検量線は測定日の気温や湿度、イオンソースの状態等の影響を受け、測定日ごとに異な る。そのため、測定日が変わるたびに新しい検量線を作成し、キャリブレーションを行う必要 がある。また、GC−lRMSの検量線は、サンプルの同位体比をキャリブレーションするためだ けでなく、ダイナミックレンジの把握や、装置の状態が測定に適した状態になっているかを知 るためにも利用することができる。すなわち、正確な測定ができていたときの検量線と、傾き や切片に著しい違いはないか、検量線のR2値は適切か等を、測定のたびに確認することで、
信頼度の高いデータを得ることができる(カ石・大場,2008)。
5.2.GC−lRMSによる脂肪酸試薬および脂肪酸エステル試薬の水素同位体比分析
5.2.1.水素同位体比測定までの準備
・熱分解炉の作成
GC−1RMSによる水素同位体比分析では、試料をガスに分解するための高温炉を、分析者 自ら作成する必要がある。本研究では、長さ30cm、内径2mm程のマイクロボリュームのセ ラミック管をGC−lRMSにセットし、14000Cに設定した。昇温後、GCと1RMSとの接続を切断 し、バックフラッシュを閉じた状態で、3μ1のヘキサンを3回に分けて1μ1ずつ炉に導入し、炉 内にグラファイトコーティングを施すことで作成した。当日、この温度で、そのまま分析を行っ
た。一アの熱分解炉の中で、試料はH2に分解される。
・測定試薬
用いた測定試薬は、Table.2.3.2.に示したとおり、脂肪酸9種(飽和6種十不飽和3種)と、
検量線用の脂肪酸エステル試薬18種(メチルエステル9種十エチルエステル9種)である。脂 肪酸試薬は、2.2.2.で示した操作によりMCF・ECFを用いた誘導体化を施し、得られた脂肪 睦メチル・エチルエステルをヘキサンに溶かして濃度を調整したものを、オートサンプルラー にセットした。検量線用の脂肪酸エステル試薬は、純度の高いものを入手し、厳割こ封をして 保管しているため、特に前処理は行わずに、ヘキサンに溶かして濃度を調節したものを、オ ートサンプラーにセットした。他の測定条件は、Table.4.1.5.のとおりである。
・リファレンスガスの◎n1O市テストによる、安定性の確認
3.1.1.で述べたように、lRMSによる同位体比分析では、試料由来のガスの同位体比は、
直前に1RMS内に導入されたリファレンスガスの同位体比を0%。とし、そこからの差分で算出 される。この際に用いられるリファレンスガスの安定性を、ガススプリットシステムの。n!ofrテ ストによって確認する。水素ガスの場合、10回連続の◎n!o竹テストにおける標準偏差が
1.0%。以内になるまで、テストを行う。本測定では、3度のテストで、基準奉クリアした。
・H3+ファクターの補正
1RMSによる水素同位体比の分析では、1Eによるイオン化の際、H3+イオンが発生し、m!x
=3に干渉することで、試料やガスの導入量に対して、量依存性を示す。固体試料の導入質 量を厳密にコントロールすることは極めて困難であるため、水素リファレンスガスの導入量を 手動で切り替え、それぞれのピFクから算出される水素同位体比を補正する方法が、lRMS のプログラムの中に用意されている。本測定でもこのH3+ファクターの補正を行い、補正値を プログラムに認識させた。
5.2.2.水素同位体比分析結果1:検量線
検量線用の脂肪酸メチル・エチルエステル試薬の水素同位体比のGC−1RMSにおける測
定値は、Fig.5.2.2.1.のようになった。
6D va1oes of FA・0 e STD by GC・lR S δD vaIoes of FA・◎I≡t S I−0by GC・lR S 0 。 一
ま ω; ・50 国
0−100
○ 宕
・・150
3 。 ◆
i)・200 0・0
.250
◆
5 =
◆
◆
◆ ◆
0
ま ω= ・50 雪
0−100
0首
。・150
≡;
至一200
s
.250
◆ ◆
14:0 16:0 18:0 18:1 18=2 18=3 20:0 22:0 24:0 14=0 16:0 I8:0 18:1 18:2 18:3 20:0 22:0 24:0
南岬acid剛・0 o, 用岬acld剛・0EO
Fig.5.2.2.1.検量線用の脂肪酸メチル(左)・エチル(右)エステル試薬の水素同位体比
検量線用の脂肪酸メチル・エチルエステル試薬の水素同位体比測定によって得られた検 量線はFig.5.2.2.2.のようになった。横軸はGC−lRMSの測定値、縦軸はEA−1RMSによって 決定した同位体比である。
δD Ca1ibration1i■1e o■1GC−1R S (EA.lR S vs.GC−1R S)
一250 0
ま ω =≡
τ 話
宕 $ ミ
o 〉
0 10
、■一n■一■、■■一U1○・UU■..、11.U〃
50
.200 ・150 ・100 ■y30.8107x−86.474
◆=0. ◆
◆
◆
◆ ◆FA.0 eS1 D
◆FA.0EtSfD
5Dva1ues by GC・1R S%o
Fig.5.2,2.2.GC−lRMSによる水素同位体比分析の検量線
脂肪酸メチル・エチルエステルの同位体比を複合して検量線を作成しても、良好なR2値が 得られたため、この検量線でメチル・エチルエステル両方を検量可能であることがわかった。
以降、GC−lRMSによる誘導体化した脂肪酸試薬の水素同位体比測定では、Fig.5.2.2.2.
の検量線を用いた。
5.2.3.水素同位体比分析結果2:脂肪酸試薬MCFメチルエステル誘導体
Table.2.3.2.示した脂肪酸試薬9種(飽和6種十不飽和3種)を、MCFを用いて誘導体化し て得られた脂肪酸メチルエステルの水素同位体比は、Fig.5.2.2.2.の検量線を用いてキャリ ブレーションし、Table.5.2.3.およびFig.5.2.3.のようになった。
Table.5.2.3.脂肪酸試薬9種のMCFメチルエステル誘導体の水素同位体比
・140 ・160 ・180 ま・200
0
−o.220曲。240山 。260 .280
脂肪酸メチル誘導体 水素同位体比(%。)
・萎。川蒙
榊帖φ∵ ∴享§2.2ポ
1610 一214.31
」線鮫㌻
1㍗1華螂6一㍗
1811(n−9) 一250.97
緊1・1 讐側、弱阯」圭
1813(n−3) 一198.83
、20:ポ ㍉16α35・!
22:0 一190.55
」24:01」」 .、二燦、4q 一 一榊1
δD va−ues of derivatized■=A一◎㎜e by GC・■R㎜S
.
◆
◆ ◆
◆◆
咄
◆
◆
14:0 16=0 18=0 18:1 18=2 18:3 20:0 22:0 24:0
Fa吐y acids(0 e)
Fig.5.2.3.脂肪酸試薬9種のMCFメチルエステル誘導体の水素同位体比
5.2.4.水素同位体比分析結果3:脂肪酸試薬ECFエチルエステル誘導体
Table.2.3.2.示した脂肪酸試薬9種(飽和6種十不飽和3種)を、ECFを用いて誘導体化し て得られた脂肪酸エチルエステルの水素同位体比は、Fig.5.2.2.2.の検量線を用いてキャリ ブレーションし、Tab1e.5.2.4.およびFig.5.2.4.のようになった。
Tab1e.5.2.4.脂肪酸試薬9種のECFエチルエステル誘導体の水素同位体比 脂肪酸エチル誘導体 水素同位体比(%。)
14:0 一233.33
1610 一221.98
18:0 一215.42
1811(n−9) 一265.54
18:2(n−6) 一189.70
18:3(n−3) 一210.83
20:O 一179.52
22:0 一188.93
24:O 一199.24
・140 ・160 ・180 ま・200
0
−o−220 ,240 ,260 .280δD values ofderivatized FA.0Et
■1Dy GC・lR1VlS
▲ ▲
▲
▲
▲
▲
14:0 16=0 18:0 18=1 18:2 18:3 20=0 22:0 24:0 ■=a誠y acids(・0一≡t)
Fig.5.2.4.脂肪酸試薬9種のECFエチルエステル誘導体の水素同位体比
5.2.5.元の脂肪酸とMCF・ECFエステル誘導体の水素同位体比の比較
元の脂肪酸と、MCFを用いてメチルエステル化した脂肪酸およびECFを用いてエチルエ ステル化した脂肪酸の水素同位体比をTable.5.2.5.にまとめ、比較をFig.5.2.5」こ示した。
Table.5.2.5.元の脂肪酸とMCF・ECFエステル誘導体の水素同位体比 脂肪酸
誘導体化前
?f同位体比(%。)
CF誘導体化後
?f同位体比(%。)
ECF誘導体化後
?f同位体比(%。)
、1帖ql、、
、1−
Q仏05
、圭一事4奉 圭換喜夷1610 一219.93 一214.31 一221.98
練1狛1q㌻ ∴、^享狐狐1 、貞鱒呈鎮㌶
㌘郵胡2㌻
1811(n−9) 一264.16 一250.97 一265.54
嚢葦川 家終燃繊細1・
ヒ桑蝉嚢gpい 薫頚臓線 掲載機
1813(n−3) 一199.83 一198.83 一210.83
書轡」三
11灘硬∵ ,新邸ギ 1報1穣窯㍗
22:0 一189.19 一190.55 一188.93
㌻幸鞭㍗
ζ勲籔篶
1」1期961砿1韓詞鎮鮒
δD va1ues of origina1&derivatized FAs before mass valance correction
一140 −160 ・180