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:実サンプルヘの応用

ドキュメント内 修士学位論文 (ページ 83-95)

7.2.EA−1RMSによる分析(卒業論文での先行研究)

 7.1.で示した牛肉および飼料サンプルは、卒業論文の研究において、EA−lRMSによって炭 素同位体比を分析済みである。本項でその前処理法と結果を示す。

7.2.1.サンプルの前処理

牛肉および飼料サンプルに施した前処理はTable.7.2.1.にまとめた。

Table.7.2.1.牛肉および飼料サンプルに施した前処理 サンプル

牛肉

飼料(餌)

脱脂

O

X

凍結乾燥

O

X

粉砕

O O

7.2.2.測定装置

 牛肉および飼料サンプルの炭素同位体比は、EA−1RMSによって測定した。測定方法は 3.3.と同様であるので、ここでは割愛する。

7.2.3.分析結果

 牛肉サンプル10種(松阪牛:6種十飛騨牛:4種)の炭素同位体比はFig.7.2.3.1こ示した。

また、それぞれの牛用の飼料の炭素同位体比を破線で示した。

 ・15  ・16  ・17  ・18 ま・19

9

ち・20  ・21  ・22  ・23  ・24

δ13C!beef&food

 ◆◆  ◆◆

___.____◆___、_

…………氓hI■0■…

.。◆一_、___..。

     ◆

一1,氈E,・11…

◆ 66e一 一■・一00d

   ・1  ・2  ・3  ・4  ・5  ・6 IH1・ l IHl・2  1ト■・3  1ト・.4

        Sample■1ame

Fig.7.2.3.松阪牛(左)・飛騨牛(右)と、それぞれの飼料(破線)の炭素同位体比

 脱脂牛肉(主に筋組織のタンパ ク質)の炭素同位体比が、松阪・飛 騨間で明確に異なった。それぞれ の飼料の炭素同位体比を見ると、

牛肉の同位体比の差が飼料に由

来していることがわかる。ブランド 牛肥育農家では、ブランド独自の 味を守るため、飼料を厳密にコント ロールして牛に与えているので、飼

料の炭素同位体比の差が牛肉の

差となって現れ、牛肉の区別が可 能となった(青柳ら,2012切〃e∬)。

7.3.脂肪酸同位体比分析のための前処理

7.3.1.脂質の抽出

 牛肉サンプルの場合は0.3g程度、飼料サンプルの場合は3g程度をスクリュー管に取り、

Fo1ch液(メタノール:クロロホルム=1:2,v/v)を5−50m1加えて1時間程度振動撹枠した。撹 絆後、ろ過を行い、ろ液をナスブラスコに移して、N2ガス吹付けによってFo1ch液を蒸発させ

た。

7.3.2.脂質のアルカリ加水分解(鹸化)

 7.3.1.のナスフラスコに、O.5M KOH195w%メタノール水溶液を加え、還流管を取り付け、

70−80℃で1時間程度還流を行った。還流後、溶液をスクリュー管に移し取り、N2ガス吹付け によってメタノールを蒸発させて、脂肪酸カリウム(カリウム石鹸)を得た(水が5w%含まれて いるため完全には乾固しないが、メタノールをできるだけ蒸発させる)。

7.3.3.脂肪酸の抽出

・液1液分離(1回目)

 サンプルには、脂質の他にもステロール等の疎水性分子が含まれており、良好なクロマト グラムを得るためには、これらを除外する必要がある。7.3.2、のスクリュー管に純水を加えて 脂肪酸カリウムを溶かし、ヘキサン=ジクロロメタン:2:1,v!vを加えてよく振り、液!液分離(1 回目)を施した。分離後(脂肪酸が界面活性剤の役割を果たすため、分離には10分程度の時 間がかかる)、有機層を破棄し、水層を回収した。これを3回繰り返した。

 塩基性条件下では、脂肪酸は7.3.2.のようにカリウム石鹸として存在するため、水溶性を 示す。そのため、液/液分離により、他の疎水性分子と分離することができる。

一液1液分離(2回目)

 上記の状態では、グリセロール等の親水性分子も水層に含まれており、これらも除外する 必要がある。1回目の液!液分離が終わった塩基性溶液に、濃塩酸を加えて酸性にした。ここ 1こ、ヘキサン:ジクロロメタン:・1:1,v!vを加え、液!液分離(2回目)を施した。分離後、水層を 破棄し、有機層を回収した。これを3回繰り返し、脂肪酸を得た。N2ガス吹付けによって有機 溶媒を蒸発させ、再度ヘキサン:ジクロロメタン=1:1,v!vを4m1加えて濃度を調節した。

 酸性条件下では、脂肪酸は単体として存在し、水溶性をほとんど示さなくなる。代わりに、

アルキル鎖部分の疎水性が相対的に強くなり、有機溶媒に溶けるようになるため、他の親水 性分子と分離することができる。

7.3.4.誘導体化

 7.3,3.で得られた脂肪酸溶液を、500μ1分取し、Fig.2.2.2.の誘導体化を施し、脂肪酸メチ ルおよびエチルエステルを得た。濃度を調整し、GC−lRMSに導入した。実サンプル同位体比 分析の全体の流れは、Fig.7.3」こ示した(英表記)。

團  翔一昨1…

!。i撚1:蝋1./

S◎luti◎n&residue Fi1tration

S◎1ution&residue

Fi■tration

Residue

1=iItrate

EA−lRMS

一戸・・…ti・・

Fats&free fatt acids

Residue

×   ↓

   0.5M KOH195w%MeOH aq

     Ref1ux at70_800C f◎r lh So1uti◎n

↓E・・p…ti…fM・OH R−COONa&Sterols&Gl cer◎1

 H20,Hex:DCM:2:1 Liquid−1iquid separation

Or anic

hase

A ue◎us

hase

×

R−COONa&Gl cer◎1

 HC1,Hex:DCM:1:1 Liquid_1iquid separation

Or anic

hase R−COOH

、鰐鰍篇n/

A ueous haSe

×

R−COOMe&R−COOEt

        GC−lRMS

Fig.7.3.実サンブル同位体比分析の全体の流れ

7.4.牛肉サンプルのクロマトグラムと含まれていた脂肪酸

7.4.1.クロマトグラム

牛肉サンプルのクロマトグラムの一例(メチルエステル)をFig.7.4.1.に示す。

18:1

16:O

16:1(?〉

18:O

14=0

,㎜       側      ㎜      棚      ㎝

@        ,,■

Fig.7.4.1.牛肉サンプルのクロマトグラム

7.4.2.含まれていた脂肪酸

 Fig.7.4.1.中に示したとおり、主に含まれていた脂肪酸は、強度の大きい順に、オレイン酸

(18:1)、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(1810)であった。これらはすべて、脂肪酸エステル 試薬(検量線用スタンダード)と、リチンションタイムの一致を確認することで同定している。

 ミリスチン酸のピークも検出したが、強度が小さく、正確な同位体比が測定可能なダイナミ ックレンジを下回っていたため、本研究では取り扱わなかった。

 また、パルミトレイン酸(16=1)と思われるピークも存在するが、本研究ではエステル試薬が なく、リチンションタイムの一致を確認することができなかったため、取り扱わなかった。

 オレイン酸(1811)のピークには、4.2.1.で述べたとおり、リノール酸(18:2)およびリノレン酸

(18:3)のピークが重なっていると考えられる。本来であれば、これらを合算して取り扱うか、極 性カラムを用いてピーク分離を行う必要があるが、動物の場合、リノール酸やリノレン酸は体 内で合成できない必須脂肪酸であり、その含有量はオレイン酸と比較すると圧倒的1こ少ない ため、ピーク干渉の影響は非常に小さいと考えて、本研究ではオレイン酸単体のピークとして 取り扱った。

7.4.3、食品データベース1こ記載されている脂肪酸含有量との比較

 参考として、データベースに記載されている和牛ランプ肉中の脂肪酸の含有量をTable.

7.4.2.に示す。

Table.7.4.2.肉類(和牛肉、乳用肥育牛肉)の脂肪酸成分表(食品データベース)

FAs

Amount(mg)

181,、、; 藏葦、三角Pρφ1,1

16:0

6300

・1一触11、甘.嚢、 24qq.」

16=1

1600

萎薙茎銭一

ヨ≡1= 1線1籔1;

一1;峯・姜二機、1・」

雛硬一」1

18二2

670

・絡」」」D…搬嚢災!

@  、コ側、」、一

廿1ッ一義吉繋

…蓑萎嚢,!

責頚11

18=3

33

 データベースが報告する脂肪酸の含有量は、オレイン酸(1811)、パルミチン酸(1610)、ステ アリン酸(1810)の順であり、本研究で得られたクロマトグラムの強度と等しい順であった。また、

リノール酸(18=2)およびリノレン酸(1813)の含有量は、オレイン酸(18:1)と比較して約5%以下 であることもわかる。

7.4.4.実サンプル分析で取り上げる脂肪酸と、脂肪酸の生合成

 以上より、本研究では、牛肉サンプルに多く見られた、パルミチン酸(1610)、ステアリン酸

(18=0)、オレイン酸(18:1)の3種の脂肪酸を、同位体比分析の対象として取り上げる。これら 3種の脂肪酸は、生合成経路において連続的な反応によって作られることが知られている。

 パルミチン酸は、動植物に普遍的に見られる最もポピュラーな飽和脂肪酸であり、生物の 生体内で、解糖系由来のアセチルCoA(C2)とマロニルCoA(C3)が脱炭酸的に付加する生合 成経路で作られる。この生合成経路はC2からC16までの、炭素数が偶数の飽和脂肪酸を 作り出し、パルミチン酸(C16二0)で一度止まる。その後、長鎖脂肪酸伸長酵素(ELov1−6)によっ て、さらに炭素鎖が2つ増え、ステアリン酸(C1810)が合成される。ステアリン酸は、ステアリン 酸脱飽和酵素(SCD)によって不飽和化され、オレイン酸(C18:1)に変換される。動物の場合、

不飽和脂肪酸合成はオレイン酸で止まり、リノール酸およびリノレン酸といった多価不飽和脂 肪酸は合成できない(ただし、リノール酸やリノレン酸を摂取によって補うことで、EPAやDHA を合成することは可能であるとされる)。脂肪酸生合成については、後述=7.7.1.に詳しい。

7.5.牛肉中脂肪酸の炭素同位体比分析

7.5.1.牛肉中脂肪酸の炭素同位体比測定までの準備と検量線

 GC−lRMSで炭素同位体比分析を行うための準備と、得られた測定値を真値に検量するた めの検量線の作成は、5.3.1.および5.3.2.と同様の操作であるため、本項では割愛する。

7.5.2.牛肉中脂肪酸の炭素同位体比の分析結果

 牛肉サンプル10種(松阪牛:6種十飛騨牛:4種)に含まれていた、パルミチン酸(16=O)、ステ アリン酸(18:O)、オレイン酸(18=1)の炭素同位体比は、Fig.7.5.2.のようになった。これらの同 位体比データは全て検量を行い、Table.6.5.2.に示したエステル基の同位体比を用いて、マ スバランスから脂肪酸部分の同位体比を再計算して得た。なお、参考として、7.2.で示した、

バルクレベル分冊こおける脱脂牛肉(主に筋組織のタンパク質)の炭素同位体比を、紫のプロ ットで図中に示した。

      613C灼eef

・16       ◆

         ◆

・18

幸・20

θ

票 あ   一22

・24

◆◆

◆ ◆一、

◆8u1k

◆16:0

◆    参・18:0

◆18:1

・26

    .1  ・2  ・3  口4  ■5  一6 ■・一・1  ■一一.2  ■一1・3  H■4

       Sample11ame

Fig.7.5.2.牛肉のバルク、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸の炭素同位体比

7.5.3.牛肉中脂肪酸の炭素同位体比の考察

Fig.7.5.2.に示した牛肉のバルクおよび各脂肪酸の炭素同位体比の考察を行った。

・バルクデータとの比較

いずれの脂肪酸の炭素同位体比も、バルクのそれよりも2−3%。小さな値を示した。バルク サンプルは、主にタンパク質で構成されており、タンパク質はアミノ酸の集合体であるため、

脂肪酸の炭素同位体比は、アミノ酸のそれよりも小さいと予想することができる。現在、まだ アミノ酸の炭素同位体比をGC−1RMSによって正確に分析する方法は開発されていないが

(カ石・大場,2008)、本研究の結果は、他の先行研究による報告とマッチしている(Hammer

et al.,1998;Piasentier et al.,2003)。

・産地間の比較

 脂肪酸の炭素同位体比のサンプル間の差は、バルクのそれを良好に再現する結果となっ た。松阪牛6種と、飛騨牛4種の産地間に着目すると、バルクで見られた差が、脂肪酸にお いても再現された。本研究からのみでは、この定量的な説明は困難だが、ブランド毎の飼料 配合の違いによる飼料(植物)の炭素同位体比の差が、動物のタンパク質や脂肪酸に反映し た結果と考えることができる(Fig.7.5.3.)。以上より、脂肪酸の炭素同位体比分析によって得 られる産地情報は、バルク分析によって得られる情報と同一傾向にあることがわかる。

O o

Area.1(松阪) Area.2(飛騨)

Anima1 A、.、、.ユニ

Anima1

㎞.m,1〔 Plant

Plant Plant

Plant

Am no acids    Fa岬acids Sugar

@ (Bu■k)      (P1ant

^m−n∩〇一一■o    一=o舳。〇一・■o       SuOar

Amlno aclds  (8u1k)

F・tty・・ld・  S・g・・

       (Plant)

Fa岬acldsS・gar     (P1ant)

Fig.7.5.3.産地の違いによるバルクおよび脂肪酸の炭素同位体比の違い

・脂肪酸間の比較

 脂肪酸間の炭素同位体比を比較すると、ほとんどのサンプルで18=0>18=1>16:0の順に、

わずかな差が見られた。しかし、この差は最大でも1%。未満であり、明確な差として議論する ことは困難であると思われる。

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