Table.7.7.3.3.に示したステアリン酸とオレイン酸の脂肪酸同士の存在比18:1118:0を横 軸こ、Table.7.7.4.に示した1810→1811における水素同位体分別△δD(18:0−18:1)を縦軸に 取ると、Fig.7.7.4.2.のようになった。
ムδD(18:0・18=1)vs.ab■ratio(18=〃18=0)
80
70
7.7.5.不飽和脂肪酸合成に伴う水素同位体分別のメカニズム
7.7.4.までに、生体内の不飽和脂肪酸(オレイン酸,1811)合成によって、水素同位体分別 が発生し、ステアリン酸(18:0)の同位体比が増大することが示された。本項では、この現象の メカニズムについて考察した。
オレイン酸は、ステアリン酸から水素が2つ脱離することで生成される。ここで、生成される オレイン酸が、すべて。is体であることに注意すると、Fig.7.7.5.1.のような機構となる。
SCD
・・ソ・斗H\ H
CiS型
ステアリン酸(18:0) オレイン酸(18:1)
Fig.7.7.5.1.脂肪酸の不飽和化(オレイン酸の生合成)
脂肪酸は、酵素SCDによって。is型に固定されているため、脱離する水素は、奥側の2つ に一義的に決まる。手前側の水素は、生成したオレイン酸に残される。この際、同位体分別 が発生し、脱離に関与する部位において、軽水素(1H)を含む結合(1H−12C)の開裂が、重水素
(2H,D)を含む結合(2H−12C)よりも速度論的に優先される(Fig.7.7.5.2.)。
SCD
㌦太恰H戸H
SCD
・量…リH竺H /H
CiS型
Fig.7.7.5.2.オレイン酸合成に伴うステアリン酸の水素同位体分別
生体にとって必要量のオレイン酸が生成された時点で、この反応は止まるため、結果とし て未反応のステアリン酸には、Dを含むものが多くなり、ステアリン酸のD濃縮が起こる。オレ イン酸の生成量が増えれば増えるほど、ステアリン酸のD濃縮は大きくなっていく。これは、
ステアリン酸が枯渇することは有り得ず、ステアリン酸がある程度以下になれば、パルミチン 酸(16二〇)から水素同位体分別なく供給されるためである(7.7.4.,16=0→18=0の反応には、水 素同位体分別は認められなかった)。この点は後述:7.8.2」こもう一度検証する。
一方で、生成されるオレイン酸には、脱離に関与しない部位の水素のみが残るため、水素 同位体分別はほとんど発生しないと考えられる(Fig.7.7.5.3.)。これは、脱離に関与しない部 位の水素をDに置換しても、二次の同位体効果しか発生しないため、反応速度はほとんど変 化しないためである(1.2.)。ただし、不飽和化に伴って分子の持つ水素原子の数が減少する ため、実際の同位体比には多少の変化が現れる可能性もある。
SCD
ト1 H」、一
H涛呉H竺H戸H
SCD 甘 H
・ミ書リ・斗・ ノH
CiS型
Fig.7.7.5.3.オレイン酸合成における、オレイン酸の水素同位体比の保存
速度の変化は、軽炭素(12C)を含む結合(1H−12C)と重炭素(13C)を含む結合(1H−13C)の間で も発生するが、速度論的同位体効果は、水素の場合の方が、炭素よりもはるかに大きい
(1.2.)ため、水素同位体分別のみが観測できたと考えられる。
以上をまとめると、以下のように説明できる。
パルミチン酸(16:O)から生成されたステアリン酸(1810)は、16=O→18=0の生合成に水素同 位体分別がないため、この時点では同一の水素同位体比を持つと考えられる。しかしその後、
ステアリン酸からはオレイン酸(18:1)が合成される。この不飽和化の反応には大きな水素同 位体分別が発生し、未反応のステアリン酸にはD濃縮が起こり、水素同位体比が大きくなる。
一方で、生哉されるオレイン酸には、水素が脱離する部位と関係のない部位の水素が残され るため、水素同位体比は、元のステアリン酸と変わらない。すなわち、パルミチン酸(16=0)とオ レイン酸(18:1)の水素同位体比はほぼ等しくなり、ステアリン酸(1810)の水素同位体比のみ が極端に大きな値を持つようになる。
実際に、本研究で得られた牛肉中の脂肪酸の水素同位体比についても、パルミチン酸とオ レイン酸の水素同位体比はほぼ等しくなり、ステアリン酸の水素同位体比のみが極端に大き な値を示している(Fig.7.6.2.)。これより、本項に示した脂肪酸の不飽和化に関する水素同位 体分別のメカニズムが、本研究の結果と非常に整合性のとれたものであることがわかり、脂 肪酸の不飽和化を正確に説明している根拠になると言える。
また、他の研究報告においても、Chikaraishi et al.(2004b)が、海藻中の脂肪酸の水素同 位体比を分析した際に、本研究と同様の結果を得て、同様のメカニズムを提唱している。
7.7.6.簡易シミュレーション
脂肪酸生合成における水素同位体分別を、7.7.5.に示したメカニズムに従って、簡単にシミ ュレーションを行ったところ、以下のFig.7.7.6.のような結果となった。
脂肪酸生合成Ste O
パルミチン酸 ステアリン酸 オレイン酸
(16=0) (18:O) (18:1)
分子の数: 分子の数: 分子の数:
20 0 0 同位体比率: 同位体比率: 同位体比率:
10!80=0,125 ・ 一
1 l
1品nnnnl
I 1 ■号リHりりリHりリリー
I r■ i一一i■一1 i−i r■■ E1ov1_6 1HI・■・.Il■.■■1ト1HHI・ll.1−
1 }川■一一■⇒
・[[H[[1同位体分別無し
一DI・ID・・lDHDHDHI
− I
・?写9リ?リP}?リl l[[[1−l Fl I
IiIHH■.1一一1一・11■■H■・一H
L・… 一一一■一一I
脂肪酸生合成C c1e1−Ste1
パルミチン酸 ステアリン酸 オレイン酸
(16:0) (18:O) (18:1)
分子の数: 分子の数: 分子の数:
20 20 0 同位体比率: 同位体比率: 同位体比率:
10!80=0.125 10!80=0,125 _
リーリり一写サ}}リ 1}与Hリリ与}りり}■
H[H[[ 1[H[[[■
一一I■・1■一IトIl−ll・1・一・HH一一1 1■一1一一1■一■・一■I・1・・lHI−ll−1■一11
1 1 リ}Hリリリリヴ}リ 1}り}リリリリリり}1
[i−i r1[lr l[[[[[l SCD
■・11・l H1−l l・10・1一・1H H l・1 l H l・l H I・l I・l I・l1・I■・l H■・1■
・ ・ 1・・ ・・■
H H[H H l H[[H H1同位体分別有り DHDHDHDHDH I£蠣把 一Pj一㌧㌧1
P岬り P与 p蠣岬蠣りDH
H[HH[ H[H[H
H■il■.11一■一■■一一1■一■I−IHl・l HH■一1I−lI−IH1■I■・lH■一・
幽
パルミチン酸 ステアリン酸 オレイン酸 (16:0) (18:O) (18:1)
分子の数: 分子の教:
20 15 同位体比率: 同位体比率:
10180=0.125 5!30=0.167
1可、、Tふ り 品品品品品 ■←i[H11r H
−i一一ilト1■・l1−I1−1IIil■il I←l l・1
I I■, I一, 1−1I一■11一■I 一与リリり弓サlH H写リ H H H H H H Hトl H H I lr [ [l i−i r■ E1ovl_6
1一・1一一1■一1・一1H H11・1■・l l・l I・l
l I 品日品品品 1H H HlH H同位体分別寮し
lD■・1D一・lD.・IDI・lD1・1
=gリpリg箏1p与g与 ある程度までは D}g}?}pリ?リ l1−1[I■l l l・「11−1, ステアリン建の ←i F1[H[
1 _H_卍H H H H 減少を許容する H H H H H H H H H H
パルミチン酸 (16:0)
分子の数:
20
同位体比率:
10!80=0.125
HHトlH■一11一.一一1HH・■l
H H H H H
HH.一IHHト■1■1ト.ト.H H■・lH・・1ト.トII・1ト1.一1H
H H H H H
・■1−Ilト1■il・iIHlilHIi1H H■・1ト■トIH1一.I−lHトlI−I
H H H H H
DHDHDトーDI・.Dトー
?与?り9リ?リPリ 1−1[ [ H 『■1
ト1■ilト■■■一1■lH■ilトIHH
ステアリン酸 (18:0)
分子の数:
17 同位体比率:
11!68=0.162
1■一■1−l H H H IIl I−l I■一■il■一11
■H H i−i H H1
一ト1I・lHHI・1ト.■i.HH一・ll
■ .・・
1リ}}りリ}りリ1?ヴ
1[ [ [〔1[
1■・1■・lD・・lDHDH一・・.I・I DI・lD■・lDHD・・ID■一■
H H H i−i H
■一.1−I・一1HH・・lH一一1■・lH D l・1D H
H H
・・1■・1■・l I・1
SCD
オレイン酸 (18:1)
分子の数:
15 同位体比率:
5!30=0.167
F−1F■11■『 1一『 I一■l
HHIilHHHHHト1ト1
1『 F■1.一.1I・■l F『
I−lHHHHトlHHH■一.
r『 r−l1■l F■F『
DHDHDトID・一.Dト■
同位体分別有り
脂肪酸生合成C cle2−Ste2
パルミチン酸 (16:0)
分子の数:
20 同位体比率=
10!80=0.125
ステアリン酸
(18:0)
一 岬 ・・
1[[1[[H
H ■・1■一1■・l Il・l H H H H HlI・lHI−1トII・lHHHHH D■・l
l←iHlH←i←i El。。■.6 H
IHl−lHH一■■・・■一1−lHトIl.I トI■iI