ACBM 側
6.3 MS訓練の内容
引き続き第2週目からはT−38ジェット練習機を用いた飛行訓練が行われ、こ の訓練では、T−38ジェット機への搭乗フライトの他に、T−38ジェット機シ ステムの講義や、地上および海上でのサバイバル訓練、パラセイル訓練等も行われ ました。
また、それと並行して、スペースシャトル搭乗員として必要とされるスペースシ ャトルの各サブシステム(航法システム、推進系システム、環境制御・生命維持シ ステム等)の講義及び、各種シミュレータを用いた実習が行われました。
この他に、外部からの取材、記者会見等への対応方法も教えるメディア訓練やN ASAの各フィールドセンター(ケネディ宇宙センター、ジェット推進研究所など)
の視察、スキューバ/水泳訓練なども行われました。
以上の基礎訓練(宇宙飛行士候補者期間)を修了し、1993年8月にMSとして認 定されました。
その後、ミッションに任命されるのを待つ間、スペースシャトルの各サブシステ ム訓練、T−38ジェット機の訓練を継続すると共に、さらに高度な内容を含む以 下のシステム運用訓練を行いました。
①飛行模擬訓練
この訓練は、シャトルのコクピットを模擬したシミュレータ(SMS:シャト ル・ミッション・シミュレータ)に複数名の宇宙飛行士と共に搭乗し、実際のシ ャトルの打上げフェーズまたは帰還フェーズを模擬したシーケンスに従って、
全システムの一連の操作手順や緊急手順等を収得する総合運用訓練です。
②船外活動訓練
船外活動(EVA )用の宇宙服を模擬した水中用宇宙服を着用して水槽の中に 入り、シャトルの荷物室(カーゴベイ)等を模擬したモックアップ(実物大模 型)を用いて通常時及び緊急時の操作等の訓練を行います。
③マニピュレータ訓練
シャトルのマニピュレータシステムを模擬したシミュレータ等を用いた訓練 を行います。
ミッションが割り当てられた後は、以下のような訓練が行われています。
・ シャトル各部の操作訓練
統合シミュレーション(JIS) は、軌道投入後の各種作業、ISSとのランデブー、
ドッキング作業及びISSの組立て運用、ドッキングを解除してから帰還までを手 順の流れに沿ってシミュレーションし、飛行クルーとJSCの管制要員との間の連 携等を確認します。
・クルー使用機器インタフェース試験(CEIT)
クルー使用機器インタフェース試験(CEIT)は、クルー全員がKSCに集 まり、軌道上で実際に使用する機器を実際に手に取って確かめる機会になります。
・最終カウントダウン・デモンストレーション試験(TCDT)
最終カウントダウン・デモンストレーション試験(TCDT)は、クルー全員 がKSCの射点上で打上げ時に着用するLESスーツを着用し、実際にシャトル に搭乗して打上げまでのカウントダウンを模擬します。打上げ直前にトラブルが 発生し、シャトルからの緊急避難を行うというシナリオで終了します。
6.3.3 STS−92クルーのEVA、RMS訓練概要
STS-92クルーの訓練の中から、ここでは代表的なロボットアーム(RMS)の操作訓練 と船外活動(EVA)訓練の概要を紹介します。
(1)ロボットアーム(RMS)訓練
RMS運用に関する訓練は、ジョンソン宇宙センターの以下の施設を使って実施され ています。
(a)SES(Shuttle Engineering Simulator) シャトル技術シミュレータ
・設置場所:JSC Building 16
・忠実度:最も忠実度の高いシミュレータであり、RMSの動き等は検証済みの数学 モデルを使用し、忠実に再現しています。窓の外の眺めもコンピュータ・
グラフィックス(CG)で再現されます。
・訓練内容/特徴
ランデブー時のシャトルの操縦、RMSを使った ペイロードの放出/回収運用、ドッ キング訓練などに使われます。
図6−1 SESでの訓練風景(STS‑86) (http://www.phoenix.net/ shuttle/trng.htmより)
(b)MDF(Manipulator Development Facility) ロボットアーム開発施設 ・設置場所:JSC Building 9
・訓練内容/特徴
・ ペイロード・ベイと後方飛行デッキ(AFD)の実物大モックアップとRMS設備 から構成されています。
・ 本設備は、RMS操作手順の開発及びハードウエア、ソフトウエアシステムの 開発、検証に使われています。(SESに比べると忠実度は低くなります)
・
RMS訓練としては、油圧駆動のRMS(約226kgの重量の物まで持ち上げること
が可能です)を用いて、ペイロードに見立てたバルーン(布製の風船)を運搬し たり、放出する操作を訓練します。(実際のRMSはモーター駆動ですが、重力 環境下では力が出ないので油圧を使用しています。)
・
RMS CCTV訓練(TVカメラの操作訓練)もここで実施します。
図6−2 MDF概観
(C)Integrated EVA/RMS Virtual Reality Simulation Trainer:バーチャル訓練設備
(SAFER Virtual Reality Laboratoryまたは、Virtual Reality (VR) Labとも呼ばれます)
・ 設置場所:JSC
・訓練内容/特徴
バーチャルリアリティ(仮想現実
)技術を応用した訓練設備であり、 HMD(Helmet Mounted Display)、及びセンサーを取り付けた特殊なグローブを使用し、同時に2
名が訓練可能です。SAFERの訓練、 RMSを使用しての EVAクルーとの協調作業訓練、EVAクルーに
よる大型物体のハンドリング・シミュレーション等に使用します。 (STS-61ミッシ ョンから使用を開始しました。)
コンピュータで生成したCG画像の忠実度は非常に高く、シャトルカーゴベイ及び 宇宙ステーションの各エレメントを忠実に再現しています。
図6−3 バーチャル・ラボでの訓練風景(STS‑88クルー)
(d)P2T2(Prototype Part Task Trainer)
パートタスク・トレーナー ・設置場所:JSC Building 45・訓練内容/特徴
・ ハンドコントローラーとパネルのみを使用したRMS訓練に使用します。
(大型の訓練設備を使う前に、基本的な操作を習熟するために使用します。)
・設定を変えることにより、RMS訓練とランデブー訓練にも使用可能です。
(e)SMS(Shuttle Mission Simulator)
・設置場所: JSC Building 5・忠実度:忠実度は高く、シミュレーションには数学モデルが使用されています。
・訓練内容/特徴
・
SMSには、可動式のMB(モーション・ベース)と固定式のFB(フィックスド・ベー
ス)シミュレータの2つがあります。
RMS訓練に使用されるのは、このうち、フィックスド・ベースの方であり、この
シミュレータは、RMS訓練以外にも軌道上での訓練(ランデブー、ドッキング、ペ イロード運用等のタイムライン訓練)等にも使用されています。ここでのRMS訓練 に関しては、全てのクルーメンバーが参加できるので、作業の連携訓練や、不具合 対応訓練等に使われます。また、MCC(ミッション管制センター)と接続しての統 合訓練もここで行われます。
図6−4 SMSの後方フライトデッキ(AFD)のRMS操作パネル
(2)船外活動(EVA)訓練
(a)NBL(Neutral Buoyancy Laboratory:無重量環境訓練設備)
・設置場所:JSC北西に約4〜5km離れた場所に設置(エリントン基地に隣接した場所) ・特徴等
NBLは宇宙ステーション用に新設された大型のプールであり、無重量環境を 模擬したEVA訓練や
EVA手順の開発に使われています。(STS-82からNBLが使
われるようになりました。)長さは61.5m, 幅31.0m, 深さは12.1mあります。NBLには、油圧式のRMSも装備されており、RMSとの連携訓練も可能です。
図6−5 NBL
(b)Integrated EVA/RMS Virtual Reality Simulation Trainer
:バーチャル訓練設備(SAFER Virtual Reality Laboratoryまたは、Virtual Reality (VR) Labとも呼ばれる)
(1)の
(c)項のRMS訓練で記述したように、この設備はRMS訓練とEVA訓練の両方
に使用されます。
6.4 シャトル内の生活
(1)シャトル打上げ・着陸時の服装
スペースシャトルの打上げ・着陸時には、搭乗する宇宙飛行士は、ヘルメットの 付いたオレンジ色(不時着時に遠くから発見しやすくするため)の与圧飛行服(フ ライトスーツ)を着用します。打上げ時には、操縦を担当する船長とパイロットは 操縦席に座り、若田MSともう1名のMSはミッドデッキに座り、その他2名のM Sはフライトデッキの後部に座る予定です。なお、着陸時には若田MSは、フライ トデッキの後部に座り、船長とパイロットの作業を支援します。与圧飛行服の着用 は打上げ及び、着陸時のみであり、飛行中の日常活動、実験等を行う際は、地上に いる場合と同じような服装、たとえば柔軟性のあるポロシャツとズボン等を着用し ます。
(2)飛行中のクルーの活動場所
スペースシャトルのオービタは、宇宙飛行士が活動する2ヶ所の与圧空間から構 成されています。
フライト・デッキ:シャトルの操縦席になります。シャトルの操縦、姿勢制御の 操作の他、ロボットアームの操作やオービタ全体のシステム制御等が行われます。
また、宇宙及び地球の観測もここから行われます。
ミッド・デッキ:食事、睡眠など宇宙飛行士の日常生活の場所になります。食事 及び食事の準備は引き出しテーブルのついたギャリーで行い、睡眠は壁に取り付け られた寝袋または、睡眠用の個室を使います。ミッドデッキでは、各種の作業打ち 合わせ及びミッドデッキ実験が行われます。
(3)シャトル内での作業
STS−92ミッションでは、最近の土井宇宙飛行士、向井宇宙飛行士のミッシ ョンと同様に、クルー全員が同じ時間帯に仕事をし、就寝するシングルシフトで生 活します。
睡眠時間はおよそ8時間であり、その前後2時間半から3時間で食事、オービタ の各システムの点検、就寝前のチェックなどを行います。
(4)シャトル内での食事・トイレ
飛行中のスペースシャトルの食事としては様々なメニューが考えられており、そ れらの中にはレトルトやフリーズドドライ(凍結乾燥)食品、缶詰、果物等、数多 くの種類が含まれており、飛行前に試食して、希望を聞きながら各搭乗員のメニュ
されますが、無重量状態で飛散しないことや、刺激の強い液体等を含まないことが 宇宙食の条件になります。
シャトルのトイレは、ミッド・デッキの後方にあり、吸引式の便座を備えていま す。扉を閉めることができるので、トイレはスリープ・ステーション(睡眠用の小 さな個室)と共に飛行中の搭乗員にとってシャトル内で完全なプライバシーを保て る唯一の場所となります。