2.4 海洋生物
2.4.2 魚類
(1)北極海の魚類
北極海には約240種の海水魚および通し回遊魚(ほとんどは遡河性魚)が生息すると言 われている。このなかでは2種が卓越し、Scorpaeniformes目Cottoidei亜目(カジカ、Snailfish、
Alligator fishなど)が約30%、次いでPerciforms目Zoarcoidei亜目(prickleback、eelpouts
など)が25%を占める。通し回遊魚のほとんどはサケ類Salmonidaeで(サケ類、マス類、
チャー類、ホワイトフィッシュ類、コレゴヌス類)である5。北極海における海水魚類の 多くは底性で海底近くに棲息する。一方、浮魚類(pelagic fish)はわずかで、底性かつ浮 魚であるタラ(polar cod; Boreogadus saida)などがこれにあたる。ただし北大西洋からノ バスコシア、バレンツ海北部および、北太平洋西部などの北極海辺縁部海域では、サケ類、
カペリン、タラ、グリーンランドハリバット、タイセイヨウニシン、タイヘイヨウニシン、
スケトウダラ(walleye Pollock)、yellowfin sole(Pleuronectes asper)、redfish、long rough
dab(American plaice ; Hippoglossoides platesoides)、ズワイガニ、タラバガニなどが生息し、
重要な水産資源となっている。
5 Mecklenburg K. and Mecklenburg T., Arctic Ocean Diversity, University of Alaska Fairbanks, 2009.
図-2.4.7 大西洋タラ・ホッキョクダラ・ニシン・カペリンの産卵域と分布
(2)Polar cod(Boreogadus saida)
Polar codは北極海の食物連鎖において、動物プランクトンから最上位の捕食動物へとエ
ネルギーをつなぐ意味で重要な生物となっている。成魚(約 25cm)は小魚を捕食し、自 らはより大きな魚類、海鳥および海棲哺乳類の餌となる。沿岸の表層付近や汽水湖および 淡水に近い河口部から、400mの深海まで広い範囲に渡って生息し、北極海のロシア沿岸、
バレンツ海、グリーンランド、ボーフォート海、カナダ多島海および北緯 60 度以北のベ ーリング海東部に分布する。
図-2.4.8 Polar cod (ACIA、Boreogadus saida、Lepechin, 1774)
(3)Capelin(Mallotus villosus)
カペリン(カラフトシシャモ)は北極海の周辺部に広く分布する(白海、バレンツ海~
スピッツベルゲン~ノルウェー北部、グリーンランド南東部~アイスランド、グリーンラ ンド南西部、ハドソン湾、ラブラドル海北部、ニューファンドランド、セントローレンス 湾、ノバスコシア北部、アラスカ・カナダの北極海沿岸、ベーリング海~カムチャツカ半 島、オホーツク海北部、サハリンおよび北海道の北部)小型の浮魚で、特に北大西洋に豊 富である。晩春から初夏にかけて、極めて大きな群れを形成して海岸線またはきわめて浅 い場所に産卵する。最大で23cmになりオスの方がわずかに大きくなる。カペリンの分布 量や範囲は変動が大きい。カペリンは、多くの大型魚、海鳥、クジラ類の餌となるととも に、大西洋側地域の住民の食料としても多く利用される。特にカペリンの多寡が、同じ海 域のタラの成長や魚肉および肝臓の状態と相関のあることが確かめられている6,7。
6 Arctic Council and the International Arctic Science Committee(IASC), Arctic Climate Impact Assessment ACIA Scientific Report, Chapter 9 Marine Systems, 2004.
7 FAO Fisheries and Aquaculture Department, State of world marine fishery resources, 2004.
図-2.4.9 Capelin ; Mallotus villosus(Müller, 1776)、ACIA
図-2.4.10 カペリン( Mallotus villosus)の世界の漁獲量8
(4)ニシン Atlantic and Pacific herring(Clupea harengus and C. pallasi)
①タイセイヨウニシン
タイセイヨウニシンは主として北極フロント以南の北部大西洋に分布し、ノバヤゼムリ ヤの西からバレンツ海、スカンジナビア半島沿岸~バルト海及び北海、スピッツベルゲン、
アイスランド、グリーンランド南部、ラブラドル海~南カロライナ州沿岸に分布する。プ ランクトンを捕食し、200m 以浅の沿岸部に住む。1 年のうちの各月にいずれかの系群が 産卵に入っており、その回遊行動は複雑である。幼魚は海鳥の重要な餌となり、成魚は大 型魚や海棲哺乳類の餌となる。主要な系群はノルウェー春期産卵系群(Norwegian
spring-spawning stock)で、世界でも有数の資源量をもつ。この系群はアイスランド春季産
卵系群および同夏期産卵系群と合わせてAtlanto-Scandian herring groupを形成する。産卵 は北緯58度から北緯70度の範囲のノルウェーの海岸の各所で行われ、5箇所の主要な産 卵場がある。しかし周来時期や個々の産卵場での産卵規模には変動が大きい。
図-2.4.11 タイセイヨウニシンClupea harengus(Linnaeus, 1758)
8 FAO Fisheries and Aquaculture Department, FAO Fish Finder, “Mallotus villosus”, viewed on Nov. 2011.
②タイヘイヨウニシン(Clupea pallasi)
タイヘイヨウニシンは、日本・韓国沿岸、ロシアの日本海沿岸、千島列島およびオホー ツク海沿岸、カムチャツカからベーリング海、アラスカから北米沿岸のバハカリフォルニ アまで、チュコート海からボーフォート海沿岸~バサーストインレットに分布する。北太 平洋海域では東岸、西岸いずれにおいても重要な水産魚種であるが、資源状態は近年の過 剰漁獲によって減少している。最も漁獲量の多い国はロシアとカナダである。
(5)タラ Atlantic and Pacific cod(Gadus morhua and G. macrocephalus)
北極圏で見られるタラには、タイセイヨウダラ(Atlantic cod; Gadus morhua)、グリー ンランドダラ、ホッキョクダラ(Arctic cod ; Arctogadus glacialis)、およびベーリング海 よ り 北 で 見 ら れ るタイヘイヨウダラ 、パシ フ ィ ッ ク ・ トム コッド(Pacific
tomcod ;Microgadus proximus)がある9。
図-2.4.12 North East arctic cod(Gadus morhua)
タイセイヨウダラは北大西洋北部海域では最も豊富なタラ資源で、4つの大きな系群
(Northeast Arctic cod、アイスランド、グリーンランド、北西大西洋)がある。なかでも
Northeast Arctic cod が世界でも最大規模の系群である。この系群は、主にバレンツ海の北
極フロントより南の海域に生息し、産卵のために、3月から4月の間にノルウェーの海岸 沿いに、うち半分以上はロフォーテン諸島のまわりに回遊する。生まれた子は、海流に乗 って北へ移動し、夏までにバレンツ海の海水温が0℃以上の海域に到達し、そこで成長す る。成長とともにオキアミや甲殻類、カペリンやタイセイヨウニシン等の小魚を捕食する。
アイスランド周辺の系群は50%以上がアイスランドの南西部端沿岸で産卵する。産卵のた めに近海から沿岸に回遊する際にはカペリンが重要な餌となり、カペリン資源が不良の年 はタイセイヨウダラ資源も減少する10。
グリーンランド海域の系群は、沿岸および沖合で産卵する2タイプがある。また、アイ スランド海域の系群の一部が産卵のために回遊する。グリーンランド西部海域では、この 系群は1960年代には40万トンが漁獲されたが、乱獲が続いたことと海水温の低下およびア イスランドからの回遊が減少したことにより資源は枯渇した。北西大西洋(ニューファン
9 タイヘイヨウダラおよびパシフィック・トムコッドはベーリング海の北緯60度付近が北限となることから、
説明を割愛する。
10 The Norwegian Ministry of Fisheries and Coastal Affairs, , Facts about stocks and species, Cod, http://www.fisheries.no/ecosystems-and-stocks/marine_stocks/fish_stocks/cod/, viewed on Nov. 2011.
ドランドおよびラブラドル海)の系群も、乱獲と環境の変化のために1990 年代に資源が 枯渇した11。
(6)Walleye pollock(スケトウダラ、Theragra chalcogramma)
Walleye pollock(スケトウダラ)はベーリング海では最も豊かな魚種で、この海域の商 業漁業生産の多くを支えている。プロビデニヤおよびセントローレンス島付近を北限とし、
アリューシャン列島から北米沿岸のカリフォルニア州にかけて、およびオホーツク海沿岸、
日本海沿岸、北海道および東北地方の太平洋岸に分布する。体長は40~60cm程度、準外 洋性で、水深500m までの沿岸や大陸棚斜面の海底近くから中層の2℃~10℃の水温帯に 生息する12。
日本では卵巣を珍重する。魚肉は乾物、すり身などに利用される。日本海の資源状態は、
韓国による乱獲や海水温の変化などにより、非常に低位となっている。
図
-2.4.13 Theragra chalcogramma(
Pallas, 1811)
14(7
)
Redfish(
Sebastes spp. e.g., S. mentella, S. marinus)
何種かのレッドフィッシュが北極域の深海100m~500mに多く生息している。成長が遅 く、寿命も長い。北米側はラブラドル海の南東沿岸からロングアイランドにかけての大陸 棚に豊富に分布する。東大西洋ではアイスランド、グリーンランド西側に分布する13。北 大西洋北部で漁獲されているのはSebastes marinus(カサゴ目メバル科 モトアカウオまた はタイセイヨウアカウオ;Golden Redfish)、S. mentella(チヒロアカウオ、オキアカウオ)、
およびS. viviparusの3種であるが、S. viviparusは小型で漁獲量は多くはない14。Sebastes marinus は大型で体長60~80cmになり、主に水深100m~400mにすむ。商品価値が高く、
日本にも多く輸入される。S. mentella には2 つの系群があり、それぞれDeep-sea redfish
および Oceanic redfish と呼ばれている。Oceanic redfish の方は夏にイルミンガー海の
100m~200m、水温5~6℃の水域で漁獲されている。
11 Arctic Council and the International Arctic Science Committee(IASC), Arctic Climate Impact Assessment ACIA Scientific Report, Chapter 9 Marine Systems, 2004.
12 水島俊博・鳥澤 雅監修:新 北のさかなたち、北海道新聞社、pp.160-165.、2003.
13 FAO Fisheries and Aquaculture Department, FAO Fish Finder, “Sebastes fasciatus”, viewed on Nov. 2011.
14 Arctic Council and the International Arctic Science Committee(IASC), Arctic Climate Impact Assessment ACIA Scientific Report, Chapter 9 Marine Systems, 2004.
図-2.4.14 Acadian Redfish;Sebastes fasciatus(Storer, 1856)17
(8)Greenland halibut(Reinhardtius hippoglossoides)
グリーンランドハリバットはバレンツ海、ノルウェー海、北大西洋北部、アイスランド、
グリーンランド、ラブラドル海に分布する。類似種のPacific halibut(Hippoglossus stenolepis;
Schmidt)は太平洋の北米メキシコ沿岸から北にベーリング海沿岸、アリューシャン、カ
ムチャツカ沿岸からオホーツク海、日本海沿岸、北海道、東日本の太平洋岸に分布する。
若年魚では200m~400m、成魚は200m~1,000mの水深に生息する。主要な産卵場でもある ノルウェーからBear島の海域では、水深500m~800mに多く生息する15。
商品価値のある魚種であるとともに深海で捕食する海棲哺乳類(イッカク、ズキンアザ ラシ等)やGreenland shark(Somniosus macrocephalus)などの重要な餌となっている16。
図-2.4.15 Greenland halibut(Reinhardtius hippoglossoides)19
15 The Norwegian Ministry of Fisheries and Coastal Affairs, , Facts about stocks and species, Greenland halibut, http://www.fisheries.no/ecosystems-and-stocks/marine_stocks/fish_stocks/ Greenland halibut /, viewed on Nov. 2011.
16 FAO Fisheries and Aquaculture Department, FAO Fish Finder, “Greenland halibut”, viewed on Nov. 2011.