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地域漁業協定および漁業機関

6.3 漁業

6.3.3 地域漁業協定および漁業機関

(1)主な地域漁業協定

国連海洋法条約の発効により、沿岸国は漁業水域や EEZ の設定を進め、それまで遠洋 漁業を展開していた漁船・遠洋漁業国は、公海の特定の漁場・水産資源に集中した。この ため、過剰漁獲による公海の水産資源の減少や、接続する EEZ の資源およびその沿岸国 の権益への影響が問題化した。このような事態に対応することを目的に、多くの地域漁業 管理機関が設立されてきた。しかし実際には、非加盟国による漁獲の横行、保存管理措置 の不十分さなどの問題が、依然として続いている108,109。今後、北極海の海氷勢力減退と海 水温上昇が進み、水産魚類の分布が変わったり、新たな漁場が北の海域に出現するなどし た場合、これらの地域漁業機関や協定が適切に機能できるか、あらたな問題が発生しない かどうか、注意が必要であろう。

北極海沿岸国および周辺海域に関する主な地域漁業管理機関としては、ベーリング公海 条約(CCBSP)、北西大西洋漁業機関(Northwest Atlantic Fisheries Organization:NAFO)、

北大西洋海産哺乳類委員会(NAMMCO)、北太平洋遡河性魚類委員会、がある110。これ に加え、ノルウェー・ロシア漁業委員会、北東大西洋漁業委員会(NEAFC)、米国・カ ナダ間には太平洋オヒョウ委員会(International Pacific Halibut Commission;IPHC)などが 設けられている。また米国の北太平洋漁業管理委員会(NPFMC)は、隣国カナダと領海 係争中の海域のあるボーフォート海における漁業の禁止措置を決定、カナダと係争が生じ ている。

(2)ベーリング公海条約111

前述したベーリング海のアリューシャン海盆公海に分布するスケトウダラ資源の公海 漁業に関する、沿岸国である米国・ロシアと遠洋漁業国間の係争を解決するため、日本、

米国、中国、韓国、ロシア、ポーランド(EU)の 6 カ国間での協議を経て、採択された もの。我が国は1994年8月4日に署名、1995年12月8日に発効した。

条約は、ベーリング海における沿岸国から 200海里以遠の公海水域を条約水域として、

条約水域におけるスケトウダラ資源の保存・管理及び最適利用のための国際的制度を設立

107 我が国および各国の動向については、『渡辺 浩幹(FAO水産養殖局):FAO責任ある漁業のための行 動規範の適用の現状 -国際的な取り組みと日本の事例-、漁業経済学会ディスカッションペーパー、Vol.2 2006. 』に詳しい。

108 山田卓平:カナダによる公海漁業取締措置と緊急避難、神戸大学院法学第40巻第2号、pp.39-812010.11.

109 西谷 :海洋環境及び漁業資源保護のための一方的行為、近畿大学法学 第53巻第34号、pp.383-412 2006.3.

110 日本、韓国、ロシア、米国、カナダ、中国、フェロー諸島、台湾の8カ国により、北太平洋公海漁業管理 のための新しい地域漁業管理機関(RFMO)の設立準備が進められている。今後、4か国目の批准から 180 日後に発効する。

111 正式名称「中央ベーリング海におけるスケトウダラ資源の保存及び管理に関する条約」CCBSPConvention on the Conservation and Management of Pollock Resources in the Central Bering Sea

することを目的とするものである。このため、「締約国は科学技術委員会を設置し、漁獲 物及びすけとうだらその他この条約の対象となる海洋生物資源に関する情報の取りまと め、交換及び分析を行い、並びに年次会議が付託するその他の科学的事項の調査を行う。」

ことを規定した。また、締約国による年次会議を招集し、科学技術委員会によるアリュー シャン海盆すけとうだらの生物量の評価に基づき、翌年の漁獲可能水準を意見の一致によ って設定するなどの作業を規定した。科学技術委員会は、年次会議に先立って会合を開催 し、スケトウダラの漁獲可能水準(AHL)及び国別割当量(INQ)について協議する。な お、実際の操業は、ベーリング公海スケトウダラ資源の悪化により、1993 年以来モラト リアム(操業の一時停止)が継続されている。

(3)北西大西洋漁業機関(Northwest Atlantic Fisheries Organization:NAFO)

北大西洋北西部の漁業は北西大西洋漁業機関 NAFO によって規制されている。NAFO は、カナダ東岸のEEZを含む北西大西洋公海を条約水域として、1979年1月1日に発効 した(我が国は1980年1月4日に加盟)「北西大西洋の漁業についての今後の多数国間 の協力に関する条約(Convention on Future Multilateral Cooperation in the Northwest Atlantic

Fisheries)」に基づいて、1979年に設立された地域漁業管理機関である。現在の加盟国は、

わが国、カナダ(事務局設置国)、米国、ノルウェー、ロシアなど合計12 カ国112および EUの12カ国+1機関である。

「北西大西洋の漁業についての今後の多数国間の協力に関する条約」は、1977 年のカ ナダによる200カイリ漁業水域の設定を契機に、北西太平洋における水産資源管理のため の新たな国際協力制度を構築するために締結されたものである。この条約は、北西大西洋 の全ての水産資源(サケ・マス、マグロ類及びカジキ類、国際捕鯨委員会(IWC)により 管理される鯨類、大陸棚の定着性種族を除く)の最適利用、合理的な管理及び保存を促進 することを目的としている。条約の適用水域は、北緯35 度以北の北西大西洋で、「条約

区域(Convention area)」とそこから沿岸国の漁業管轄権が及ぶ水域を除いた公海部分を

「規制区域(Regulatory Area)と定義している。条約に基づいて設置されたNAFOでは、

科学理事会(Scientific Council)の勧告に基づいてTACを決定している。

112 カナダ、キューバ、デンマーク(フェロー諸島及びグリーンランド)、EU、フランス(サン・ピエール及 びミクロン)、アイスランド、日本、韓国、ノルウェー、ロシア、ウクライナ、米国

図-6.3.5 NAFO条約海域(NAFO) 図-6.3.6 NEAFC管轄海域113

(4)北東大西洋漁業委員会(North-East Atlantic Fisheries Commission;NEAFC)

北東大西洋漁業委員会は、北東大西洋公海の底魚資源を中心とした水産資源の持続的利 用を目的として、1980年に設立された地域漁業管理機関である。NAFO(北西太平洋漁業 委員会)の東側に接続する北緯35度以北の北東大西洋海域を対象とする。なお、NEAFC の作成した適用海域には、北極海点付近の公海を提示していない。また、ノルウェー・ロ シア間の領海に囲まれた公海(loophole)については、管理権限を宣言していない。これ はノルウェー・ロシア共同漁業委員会および両国の公海に関する合意を尊重していること による。同時に、NEAFC は浮き魚と深海棲の魚類を対象としているのに対し、ノルウェ ー・ロシア共同漁業委員会が主として対象としているのは底魚であることによる114

加盟国は、デンマーク(フェロー諸島およびグリーンランド)、 EU、アイスランド、

ノルウェー、ロシアで、非加盟の協力国(オブザーバー)はベリーズ、カナダ、クック諸 島、日本115、ニュージーランドである。委員会では毎年総会を開催し、漁獲割当量を決定 している。

主な対象魚種は、Redfish、サバ、ハドック、ニシン(ノルウェーの春産卵系群

Atlanto-Scandian)、Blue Whiting、その他の深海棲の魚類である。対象海域を含むFAO統

計における北東大西洋海域27(statistical Area 27 = ICES Statistical area)では、およそ10.5 百万トン/年の漁獲があり、このうちNEAFC海域では約3.3百万トンの漁獲がある。

113 North-East Atlantic Fisheries Commission, http://www.neafc.org/page/27, viewed on Nov. 2011.

114 Molenaar E.J. and Corell R. : “Arctic Transform, Background Paper, Arctic Fisheries”, 2009.

115 我が国はNAFOに加盟しているが、北東大西洋での我が国の漁業実績は少ないことから、NEAFCについ ては立場は協力的非加盟国として、「協力国枠」の範囲内で操業を行う立場をとっている。我が国の北東 大西洋における関心魚種は主として赤魚である。

(5)バレンツ海116

バレンツ海のタラ(cod)はノルウェー、ロシア両国にとり、経済的に非常に大きな意 味を持っており、両国の間には、1970 年代からバレンツ海における漁業管理協力が行わ れていた。漁業管理の場としては主に2つ、ICES(International Council for Exploration of the Sea:北大西洋における漁業ストックの科学的な研究機関)、そしてノルウェー・ロシア 2 国間の共同漁業委員会があった。後者は 1975年に両国の合意により創出された2 カ国 間の機関で、体長制限や漁法など技術的な問題や法執行などを扱っている。共同委員会に よる漁獲割り当てでは、漁業資源は共同の漁業資源であるという認識のもと、タラ(cod とhaddock)については50:50、カペリン(capelin)については6(ノルウェー):4(ロシ ア)という割当となっている。また残りは第3国に解放される。第3国の中ではEUが最 大の存在である。

共同委員会の活動は、冷戦期・ペレストロイカ期の漁業協力(1976-1991 年)、次いで

「良き7年(7 good years)」とよばれる1990年代(2カ国間の協力が非常に円滑であっ

た期間)、そして 2000年以降に分けてとらえることができる。冷戦時代、国連海洋法条 約締結に向けた国際議論および EEZ を宣言する動きの拡大および、既存の多国間の漁業 管理機関がうまく機能していないことが、この共同委員会創出の背景となった。この中で、

ノルウェーとロシアの2カ国間では、75年に、バレンツ海のタラ(cod)とハドック(haddock) をそれぞれ1:1で分けることが合意された。これは当初ノルウェーは75%を主張したも のの、ソ連の国力に譲歩したためと考えられる。1977 年には、グレ-ゾーンについての 合意が成立した。

80 年代は、いくつかの紛争ラインと、漁獲割当量の調整が問題となった。ロシアの関 心は割当される漁獲の量にあり、その商業的価値や需要には関心は低かった。当時ソ連の 需要は魚体の小さめの魚にあり、ノルウェーの需要とは異なっていたため 、結果として 2国間の調整は円滑に進められた。しかしこの状態は、ソ連の崩壊と市場経済の導入によ り変化し、ロシアはタラ(cod)の市場価値に関心を持つようになった。1990 年代初め、

ロシアの過剰漁獲をノルウェーが指摘したことから、漁業管理の執行に関する協力(デー タ交換)が1993年に合意され、漁法の管理条件についての調整が進められた。この1990 年代はバレンツ海の漁業にとって「良き7年の時代」であり、高い割当漁獲量が設定され た。

しかし1990年代の終わりには、タラ資源の減少が明らかとなり、二国間協力にも危機 が訪れた。漁業分野では漁業資源保全アプローチが一般化し、ノルウェーもこれに従う立 場を取っていたが、ロシアの姿勢はこれに反発するものであった。その結果、2000 年頃 には、ノルウェー・ロシア間で漁獲割り当て量に合意するのは困難となった。2000 年代 における大きな論点はロシアの過剰漁獲であり、この頃、漁業資源に関して「予防管理」

が強く議論されるようになった。その後の議論と調整を経て、ロシアのバレンツ海におけ る過剰漁獲は是正された。

116 海洋政策研究財団 日本北極海会議:“北極海に係るロシア・ノルウェー調査報告 平成2211月、

2-6.フリチョフ・ナンセン研究所”2010.