6.3 漁業
6.3.2 国連海洋法条約における海洋生物資源管理
図-6.3.3 年間漁獲量分布
他方で、すべての国は、排他的経済水域において、航行の自由、上空飛行の自由、海底 の電線とパイプライン敷設の自由を享受する。また、排他的経済水域の制度と両立する限 度で、公海制度に関する国際法の他の規則も適用される。
排他的経済水域が普遍的に設定されることにより、漁業活動が行われる区域の約90 パ ーセントあるいはそれ以上がこれに含まれることになるといわれる。排他的経済水域にお いて沿岸国は、生物資源の探査、開発等のための主権的権利を有する一方、生物資源の保 存および最適利用に関して一定の義務を負う。また沿岸国は、自国の排他的経済水域にお ける漁獲可能量を決定しなければならず、排他的経済水域における生物資源の維持が過度 の開発によって脅かされないことを適当な保存措置および管理措置を通じて確保しなけ ればならない。このため適当な場合には、沿岸国および権限のある国際機関は協力しなけ ればならない。保存・管理措置は、環境上および経済上の関連要因(沿岸漁業社会の経済 上のニーズおよび発展途上国の特別の要請を含む)を勘案し、かつ、漁獲の態様、資源間 の相互依存関係および一般的に勧告された国際的な最低限度の基準を考慮して、最大持続 生産量(MSY)を実現できる水準に漁獲される種の資源量を維持し、または回復すること のできるようなものとされる。また、沿岸国は、排他的経済水域において生物資源の最適 利用の目的を促進しなければならない。沿岸国は、自国の漁獲能力を決定しなければなら ず、自国が漁獲可能量のすべてを漁獲する能力を有しない場合には、協定その他の取極に よって漁獲可能量の余剰分の漁獲を他の国に認めなければならない。
(2)公海における生物資源
国連海洋法条約では、87 条にて公海の自由を規定するが、公海の自由には「第 2 節に 定める条件に従って漁獲を行う自由」が含まれる。漁獲の自由は、1958 年公海条約にも 規定されていたものであり、国際慣習法において十分に確立したものである。ただし、こ の自由は絶対的なものではなく、「すべての国により、公海の自由を行使する他の国の利 益及び深海底における活動に関するこの条約に基づく権利に妥当な考慮を払って行使さ れなければならない」と規定されている。また、「公海における生物資源の保存および管 理」として「すべての国は、自国民が公海において次のものに従って漁獲を行う権利を有 する。
(a)自国の条約上の義務
(b)特に第63条2及び第64条から第67条までに規定する沿岸国の権利、義務及び利益
(c)「この節の規定」:「公海における生物資源の保存のための措置を自国民につい てとる国の義務」、「生物資源の保存及び管理における国の間の協力」、「公海 における生物資源の保存」及び「海産哺乳動物」
と規定されている。この規定では、
(a)漁獲の自由は、国家が締結する他の条約上の義務に服すること。
(b)公海におけるストラドリング魚種、高度回遊性魚種等の漁業は排他的経済水域内 の沿岸国漁業に影響を及ぼすため、公海における漁業は、一定の制限を受けるこ と。
(c)公海における生物資源の保存措置を自国民についてとる義務、国家間の協力、MSY などの規定に服すること。
とされている。とくに「生物資源の保存」については次のように規定されている。
(a)最大持続生産量(MSY)を実現することのできる水準に漁獲される種の資源量を 維持しまたは回復することのできるようなものをとることとされる。その場合に、
関係国が入手することのできる最良の科学的証拠に基づく措置でなければならな い。またMSYの決定において、環境上および経済上の関連要因(開発途上国の特 別の要請を含む)を勘案し、かつ、漁獲の態様、資源間の相互依存関係および一 般的に勧告された国際的な最低限度の基準が考慮されなければならない。
(b)関連魚種、依存魚種に及ぼす影響を考慮しなければならない。
(c)科学的情報、関連データは、適当な場合国際機関を通じおよびすべての関係国の 参加を得て、定期的に提供しおよび交換しなければならない。
(d)保存措置およびその実施がいずれの国の漁業者にも法律上または事実上の差別を 設けるものでないことを確保しなければならない。
(3)公海漁業と国連海洋法条約
経済的経済水域EEZが世界全体に普及し、遠用漁業国は、伝統的に操業してきた漁場で の操業が難しくなった。これらの漁船の一部は廃業したり自国の漁場での操業に移行した りしたが、同時に、公海に新しい漁場を求めて殺到するようになった。ベーリング海では、
1980年代の初めにソ連と米国のEEZの間に残る公海で有望なスケトウダラ漁場がみつか り、これに日本、中国、韓国、台湾およびポーランドの中層トロール漁船が殺到し、1988 年の漁獲は147万トンに達した。この事態に対し米国は、この公海のスケトウダラ資源は 米国EEZとの間を回遊するストラドリング魚種であり、過度の漁獲は自国の同種資源に悪 影響を与えると主張した101,102。
101 Takabayashi H. : “Fisheries in the High Sea Area of the Bering Sea”, H.Takahashi and K. Ouchi ed., Report of the Fukuoka Conference of the Pacific Region and International Law, Fukuok Convention Bureau, pp.95., 1990.
102 水産白書、“1 漁業をめぐる環境の変化、(1)国際環境の推移、ベーリング公海漁業”、
図-6.3.4 アリューシャン海盆の中層性スケトウダラ分布域(緑)と回遊経路103
この問題に関し、1987年に米ソ二国間協議が行われ、1990 年、ベーリング公海漁業に 関する国際科学シンポジウムがソ連において開催された。シンポジウムでは、公海での漁 業を規制すべきとする米ソ沿岸国に対し、日本・ポーランド等の漁業国は現行の漁獲水準 は資源に悪影響を与えないと主張し、資源評価に関する合意は得られなかった。翌 1991 年に6カ国による関係国会議が開催され、1992年に合意が成立し、1993・94年の操業中 止、各国2隻以下の調査操業による資源量調査を行うことなどが決定された。しかしすで に1990年代に入って、この公海のスケトウダラ資源は激減し、1994年に発効した「中央 ベーリング海におけるスケトウダラ資源の保存及び管理に関する条約」のもと、管理とモ ニタリングが継続されているが、2010 年現在、資源回復の傾向は認められていない104。 当時は、このほかにも同様の公海漁業問題が複数発生していた。
国連海洋法条約の規定は、EEZ の内外にまたがって存在する魚種の保存措置について、
沿岸国に権利を与えたものではなかった(63 条 2 項)。また、沿岸国と公海漁業国が保 存措置について合意するように努力する義務を定めたが、関係国間に合意が成立しなかっ た場合にどうするか、という問題までは規定していなかった105。こうして、世界の海洋に おける漁獲漁業の漁獲高が頭打ちとなるなか、公海漁業に向かう漁獲圧力と過当競争を防 止し、公海における水産資源の再生産性を持続させるためには、国連海洋法条約を補完す る国際的枠組みがさらに必要になっている。
103 独立行政法人 水産総合研究センター : 平成22年度国際漁業資源の現況、スケトウダラ ベーリング公海、
2011.
104 独立行政法人 水産総合研究センター : 平成22年度国際漁業資源の現況、スケトウダラ総説、2011.
105 高林秀雄 : ストラドリング魚種の保存と管理-1995年国連公海漁業実施規定-、京都学園法学 1995年第 2・3合併号、論説、pp.75-104.、1995.
(4)国連公海漁業実施協定
1992年にリオ・デジャネイロで開催された国連人間環境開発会議の「アジェンダ21」 は、国連海洋法条約のストラドリング魚種および高度回遊性魚種に関する規定の効果的な 実施を促進する観点から、国連の主催の下にできるだけ早急に政府間会議を開くべきであ るとし、これに基づいて国連総会は、1993年から1995年まで6回に渡り国際会議を開催 した。この会議は、1995 年 8 月に、「分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類 資源(ストラドリング魚類資源)及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する 1982 年12月10日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定」(国連公海漁業 協定)を採択した。この協定は、50 カ条と 2 つの附属書からなる。この協定の目的は、
国連海洋法条約の関連規定の有効な実施を通してストラドリング魚種および高度回遊性 魚種の長期の保存及び持続可能な利用を確保することである。つまり、国連海洋法条約の 関連規定を補完し、その有効性を高めることを目的としている。
この協定は、排他的経済水域および公海でのストラドリング魚種および高度回遊性魚種 の保存管理を規律する一般原則を掲げている。また、この協定によれば、ストラドリング 魚種について関係沿岸国および自国民が隣接公海で漁業している国は、隣接公海における 魚種の保存のために必要な措置に合意することとしている。公海のために設定される保存 管理措置と国家管轄権区域のために設定される保存管理措置は、全体の保存管理を確保す るために一貫性のあるものでなければならない。
また、国際協力のメカニズムについて規定しており、とりわけ、漁業機関の加盟国、取 極の参加国あるいは機関・取極によって定められた保存管理措置の適用に合意する国のみ が関係漁業資源を利用する機会を有するとする。このようにして、漁業機関、取極に参加 していないこの協定締約国に対しては当該資源へのアクセスを排除している。
旗国の義務については、国連海洋法条約およびこの協定に基づく責任を行使することが できるときにのみ自国船舶を公海における漁獲に使用することを許可することを規定し ている。遵守および執行については、この協定は、遵守および執行の義務を旗国に課し、
この点での旗国の義務を詳細に規定している。また、執行における国家の協力を規定して いる。また、旗国以外の国に一定の執行権限を与えている。地域的機関・取決めのメンバ ーは、遵守の確保のために、この協定の他の締約国の漁船に乗船し検査することができる。
公海上の船舶が沿岸国の管轄権内で無許可操業に従事したことを信ずる合理的な理由が ある場合、旗国は、関係沿岸国の要請で事案を調査し適切な取締行為をとることについて 沿岸国と協力し沿岸国の関連当局に公海上の船舶に乗船し検査する権限を与えることが できる。
このように、国連公海漁業協定は、国連海洋法条約の一般的な保存管理義務に対し、方 法、手段、措置を特定することによって具体的な内容を与えている。また、ストラドリン グ魚種、高度回遊性魚種に関する協力の実施措置、モニタリング、規制、監視、執行のメ カニズムを導入している。また、国連海洋法条約の関連規定にはみられない、地域的漁業 機関・取決めの非加盟国、機関・取決めで採用された保存管理措置に同意しない国に対す る公海の漁獲の自由の制限を規定しているなどの特徴がある。