されている。今後予測されているさらなる温暖化によって、より多くの生物種が北上する と考えられており、これによって、寒帯の生物や生態系が現在の低緯度北極圏に、また低 緯度北極圏の生態系が現在の高緯度北極圏に移動することが起こるであろう。こうした寒 帯の生態系の北上は、結果として北極圏の生物種を増加させるであろうが、新たに増えた 生物種は、本来は寒帯にいた種であり、北極圏の固有種に置き換わってしまう恐れがある。
結果として、全体としての生物多様性を後退させる可能性がある。
図-4.5.1 地球温暖化による生物種の北上
(Arctic Climate Impact Assessment;ACIA 2004)
北極海の海氷は、特に夏期の面積において著しく減少し続けていると同時に、体積にお いても顕著な減少を示しており、将来、夏期には海氷が消滅する可能性が指摘されている ところである。これによって、海氷を生息圏としていた多くの生態系が失われるだけでな く、これに連関した生態系にも大きなインパクトが生じる。多年氷の下で成長するアイス アルジーは北極海の基礎生産の 25%を担っており、無脊椎動物、海鳥、魚類、そして海 棲哺乳類がアイスアルジーに連なる食物連鎖を構成している。この生態系が大きな被害を 受けることになる。また、海氷を休憩場所、育児、狩猟(摂餌)、移動などに利用してい
る動物にとっても、重要な生息場を喪失することになる。また、これら生物を食料とする 沿岸の先住民族にとっても、生活圏を失うことになる。
海氷の減少は、海水温の上昇、塩分濃度の低下をもたらし、基礎生産量の変化、プラン クトンの構成やブルーム時期・構造の変化をもたらすとともに、ひいては魚類およびそれ を餌とする動物にも重大な影響を及ぼすであろう。また、北極海の海水構造や循環にも変 化をもたらすであろう。こうして現在進みつつある海氷の減少は、その減少度合いによっ ては極めて深刻な変化を北極海にもたらす恐れがあることが指摘されている。
二酸化炭素は海水中に溶解して炭酸となるため、二酸化炭素濃度の増大によって海水の 酸性化が進む。北極海は表面水温が低いため、水温の高い海域よりも速く二酸化炭素を吸 収する。一方、過去30 年間は、夏期海氷の顕著な融解によって多くの淡水が北極海に供 給されるとともに、海氷減少によって大気に露出する海面が拡大し、二酸化炭素の吸収を 拡大してきた。こうしたプロセスにより、北極海の海水の pH の減少が加速されてきた。
しかしながら現時点では、北極海の酸性化による生態系への影響に関する観測および研究 は限られている。最も直接的な影響を受けるのは植物プランクトン、動物プランクトンお よびベントス(底生生物)であろう。また海水の酸性化によって、生物の分布域が制限さ れたり拡大したりする可能性がある。
5.北極海をめぐるグローバリゼーションおよびガバナンス