(図表6)高血圧とは、「血圧が高い」という 一つの症候を表すものである。これが問題と なるのは、血圧が高いことによって起こる血 管障害のために、脳、心、腎などの重要な臓 器に病変を起こし、それがひいては高血圧者 の健康寿命を短くすることにつながるからで ある。わが国では、高血圧は予防医学上、最 も重要な疾病である。また、血圧値が高いほ ど心血管病の発生頻度が高く、血圧を適正に 下げる必要がある。高血圧と正常血圧をどの 血圧値で区別するかは、あくまでも便宜的な ものであるが、放置すれば心血管病の危険性 が明らかに増す血圧値を高血圧とする。わが 国のJSH20144)では、収縮期血圧≧140mmHg または拡張期血圧≧90mmHgを高血圧と定 義している。この基準は、2013年の米国の高 血圧に関する合同委員会の第8次勧告2)や、
ESH/ESC 2013ガイドライン3)と同じであ る。 至 適 血 圧(SBP120mmHg未 満 か つ DBP80mmHg未満)を超えて血圧が高くな るほど、全心血管病、脳卒中、心筋梗塞、慢 性腎臓病などの罹患リスクおよび死亡リスク は高くなる。
人間ドック学会が147/94 mmHgを正常 上限と発表して話題になったが、あくまで1 回の検診での、きわめて健康な人の値であっ て、その方が将来の心血管病をきたすかどう か、治療介入の必要性があるかどうかは検討 されていない。すなわち、この値の範囲であ れば大丈夫ということを示す「正常」ではな く、正常と思われる人の検査の基準値という のが正確な表現である。
[JSH2014] 血圧測定と臨床評価
成人における血圧値の分類(mmHg)
至適血圧 <120 かつ <80
正常血圧 120-129 かつ/または 80-84
正常高値血圧 130-139 かつ/または 85-89
Ⅰ度高血圧 140-159 かつ/または 90-99
Ⅱ度高血圧 160-179 かつ/または 100-109
Ⅲ度高血圧 ≧180 かつ/または ≧110
(孤立性)収縮期高血圧 ≧140 かつ <90
図表6
分類 成人における診察室血圧値の分類 収縮期血圧 拡張期血圧
正常域血圧高血圧
図表6
248.8 255.2
274.9
304.3
150 200 250 300 350
長 野 新 潟 島 根 福 井 大 分 熊 本 岡 山 広 島 富 山 滋 賀 石 川 神奈川 京 都 沖 縄 宮 城 山 梨 奈 良 佐 賀 山 形 宮 崎 福 岡 愛 媛 東 京 香 川 高 知 全 国 岐 阜 長 崎 三 重 愛 知 静 岡 徳 島 鳥 取 千 葉 北海道 鹿児島 兵 庫 福 島 秋 田 山 口 群 馬 埼 玉 岩 手 茨 城 大 阪 和歌山 栃 木 青 森
女性
477.3
544.3
662.4
300 400 500 600 700
長 野 滋 賀 福 井 熊 本 京 都 神奈川 奈 良 大 分 岐 阜 千 葉 静 岡 広 島 山 形 香 川 岡 山 石 川 東 京 三 重 富 山 愛 知 宮 崎 宮 城 島 根 埼 玉 兵 庫 全 国 新 潟 沖 縄 群 馬 山 梨 徳 島 福 岡 佐 賀 北海道 鹿児島 茨 城 愛 媛 鳥 取 長 崎 栃 木 山 口 高 知 福 島 大 阪 和歌山 岩 手 秋 田 青 森
男性
都道府県別年齢調整死亡率 (人口10万対、平成22年)
(人) (人)
(平成22年 人口動態統計)図表4
図表4
和歌山県人の歩数と血圧の関係
1. どこへ行くにも、つい自家用車
2. 軽自動車普及率は全国1位(足代わりに利用)
3. 背景には、電車やバスなど公共交通機関の インフラ整備不良
4. 47都道府県の面積100平方kmあたり鉄道駅数と 歩数との間には有意な負の相関
=鉄道駅が多いほど、歩く時間が長い
鉄道が普及⇒ 歩く時間がより長い
⇒運動量がより多い ⇒血圧がより低い
J Hypertens. 2015 Jun;33 Suppl 11:e71
.
図表5 図表5(図表7) 血圧レベル別に、 心血管病死亡ハ ザード比と集団寄与危険割合についてみた図 である。わが国の主なコホート研究を統合し たEPOCH-JAPAN6)では、7万人のメタ解 析を行い、血圧水準と心血管病死亡リスクと の関連は、40~74歳の中壮年者・前期高齢者 では対数直線的であり、傾きは年齢が低いほ ど強く、また至適血圧は、リスクが最も低い ことが示された。後期高齢者でも、血圧水準 とともに心血管病死亡リスクは高くなる傾向 がみられた。心血管病死亡・罹患者のうちの 何%が、至適血圧を超える血圧高値による過 剰死亡・罹患かを示す集団寄与危険割合をみ ると、中壮年者では約60%、前期高齢者では 約49%であった。CIRCS研究では、重症高 血圧者の減少により、脳卒中の過剰罹患数の 中心が重症から軽症高血圧者に移りつつある ことが明らかになっており、正常高値やI度 高血圧における生活習慣修正や高血圧の発症 予防対策がさらに重要になってきた。
(図表8)家庭血圧計は、わが国では約4,000 万台が稼働していると考えられている。今回 のガイドラインの特徴は血圧測定に関して、
家庭血圧値を重視したことである。家庭血圧 の予後予測能は、診察室血圧よりも高いこと が明らかであり、白衣高血圧、仮面高血圧の 診断と治療への応用には診察外測定値による 判定が優先されている。家庭血圧の測定は、
1機会原則2回測定し、その平均をとる。測定 条件は、朝は起床後1時間以内に行う。排尿 後、朝の服薬前、朝食前、座位1~2分安静後 に行う。晩は就寝前に、座位1~2分の安静後 に行うことを原則とする。診察室血圧と家庭 血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧に よる診断を優先する。
(図表9)11年間の心血管系および全死亡の 予測因子としての診察室血圧、家庭血圧、24 時間血圧、昼間血圧、夜間血圧をみた図であ る。血圧と死亡との関連をみると、拡張期血 圧よりは収縮期血圧の方が強い相関を示し た。診察室血圧よりは、24時間ABPMまた は家庭血圧の方が優れた相関を示した。心血 11年間の心血管系および全死亡の予測因子としての診察室、
家庭、24時間、昼間、夜間血圧
Sega R et al. Circulation 2005;111:1777-1783
夜間
診察室 家庭 24時間
昼間
図表9
至適 正常 正常高値
Ⅰ 度 高 血 圧
Ⅱ 度 高 血 圧
Ⅲ 度 高 血 圧
― 5.7%4.1%20.1%12.5%6.8%
総PAF 49.3%
EPOCH-JAPAN。国内10コホート(男女計7万人)のメタアナリシス。年齢階級別 注1 ハザード比は年齢,性,コホート,BMI,総コレステロール値,喫煙,飲酒にて調整。
注2 PAF(集団寄与危険割合)は集団すべてが至適血圧だった場合に予防できたと推定される死亡者の割合を示す。
血圧レベル別の心血管病死亡ハザード比と 集団寄与危険割合(PAF)
[JSH2014] 高血圧の疫学
Ⅰ 度 高 血 圧
Ⅱ 度 高 血 圧
Ⅲ 度 高 血 圧
至適 正常 正常高値
― 6.0%7.9%20.5%15.9%10.0% 総PAF 60.3%
Ⅰ 度 高 血 圧
Ⅱ 度 高 血 圧
Ⅲ 度 高 血 圧
― −1.7%3.7%9.7%7.3%4.3%
総PAF 23.4%
正常 正常高値
至適
10
1 多 変 量 調 整 ハ ザ ド 比
各血圧レベル におけるPAF
(40–64歳:49,935人) (65–74歳:13,707人) (75–89歳:3,667人)
中壮年者 前期高齢者 後期高齢者
図表7
図表7
家庭血圧の測定条件
測定条件
朝:起床後1時間以内 排尿後
座位1-2分安静後 服薬前
朝食前 晩:就床前
座位1-2分安静後
1
機会、2
回の測定を推奨 平均値を用いる5
日間日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン2014
診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合,
家庭血圧による診断を優先する。
図表8
図表8
血圧から家庭血圧、24時間血圧、夜間血圧と 移行するにつれて、より急峻になった7)。
(図表10)3,400名の高血圧患者を対象とし て、外来血圧と家庭血圧のコントロール状況 をみたものである。家庭血圧は、外来血圧よ り5mmHg低い135mmHgで規定される。外 来血圧、家庭血圧ともに正常である正常血圧 群は797名(23%)であった。家庭血圧は正 常だが、 外来血圧が高い白衣性高血圧群は 556名(16%)にみられ、逆に外来血圧は正 常だが、家庭血圧が高い群は702名(21%)
にみられた。この群は仮面高血圧と呼ばれ、
持続性高血圧群と同程度に心血管系合併症を きたすとされている。家庭血圧の測定を行わ ないと見逃す病態であり、早朝高血圧、昼間 高血圧、夜間高血圧などが含まれる。家庭血 圧、 外来血圧ともに高い持続性高血圧は 1,345名(40%)にみられた。
(図表11)わが国を含めた世界のガイドライ ンの多くは、欧米の断面調査や大迫研究を根 拠として、家庭血圧値135/85mmHgが高血 圧の基準値であるとしている。JSH20144)で はESH/ESC 2013ガイドライン3)と同様、
24時間血圧平均値で130/80mmHg以上の 場合、 昼間血圧平均値で135/85mmHg以 上、夜間血圧平均値で120/70mmHg以上を 高血圧とする。
(図表12)家庭血圧とABPMを用いた高血圧 診断を図に示す。診察室血圧130/85 mmHg 以上で高血圧を疑う場合、まず家庭血圧を測 定する。135/85mmHg以上なら高血圧また は仮面高血圧として、降圧療法を開始する。
125/75mmHg未満なら正常血圧として扱 う。125-134/70-84mmHgの場合は、24時 間ABPMの測定を行う。130/80 mmHg以 上なら高血圧と診断する。130/80 mmHg未 満なら正常血圧として、生活習慣の改善を行 いながら経過観察とする。一般の実地医家の 先生の多くは、24時間ABPMの測定は難し いと考えられるので、その場合は正常血圧と して扱う。
家庭血圧と外来血圧のコントロール状況
正常血圧群 n=797(23%)
外来高血圧群 n=556(16%) 家庭高血圧群
n=702(21%)
高血圧群 n=1345(40%)
n=3400
135
140
外来収縮期血圧
家庭収縮期血圧
135mmHg:
JSH基準値
図表10
図表10
[JSH2014] 血圧測定と臨床評価
異なる測定法における高血圧基準(mmHg)
≧140
かつ/または≧90
≧135
かつ/または≧85
≧130
かつ/または≧80
≧135
かつ/または≧85
≧120
かつ/または≧70
図表11
収縮期血圧 拡張期血圧
診察室血圧 家庭血圧
自由行動下血圧 24時間 昼間 夜間 図表11
家庭血圧と ABPM を用いた高血圧診断
高血圧の疑い
(診察室血圧≧130/85mmHgを含む)
≧130/80mmHg
24時間ABPM 125-134/70-84mmHg
家庭血圧測定 <125/75mmHg
<130/80mmHg
高血圧
(+仮面高血圧)
正常血圧
(+仮面高血圧)
ABPMができない 場合
経過観察(生活習慣の是正)
薬物降圧療法開始
≧135/85mmHg
図表12
図表12