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(図表19)高血圧の持続による、心血管病の 発症・進展による死亡や、QOLの低下を抑 制するために高血圧治療が勧められる。高血 圧は、心血管病の主要な危険因子であり、特 に脳卒中の最も重要な危険因子である。高血 圧患者の予後は、高血圧以外の危険因子と高 血圧に基づく脳心腎疾患など、臓器障害の程 度が関与する。 高血圧の臓器障害を図に示 す。脳、眼底、血管、心臓、腎臓、糖代謝評 価、自律神経などの評価が必要である。我々 が行っている、検診時の早期動脈硬化の指標 である、頸動脈エコーでの内膜中膜複合体厚

(IMT)、起立負荷時の血圧変動と自律神経機 能を赤字(テキストでは下線)で示す。

(図表20)高血圧患者の予後を左右する臓器 障害を図で示す。高血圧は、脳、心臓、腎臓 の血管病変を進行させる。脳では、脳血管障 害や認知症の発症を引き起こす。 頸動脈の IMTは、無症候での危険因子の予知となる。

心臓では心筋梗塞、心不全、心臓突然死をき たすが、心電図や心エコーでの左室肥大や心

降圧薬の RCT を読むポイント

1)どのような心血管リスクを持つ患者が対象か 2)降圧薬同士の比較試験は、どちらが優れているか

よりも、その薬剤の使用、非使用によるメリット、デメ リットを考察する

3)エンドポイントの定義に注意!「冠動脈疾患」:試験 によって異なることがある

4)二次エンドポイントをどう読むか 5)二次薬、併用薬は様々に影響する 6)達成された血圧は?

図表18

図表18

臓器障害

1. 脳,眼底: 認知機能テスト,抑うつ状態評価,頭部MRIMRアンジオグ ラフィー

2. 血管:眼底検査(Scheie分類,Keith-Wagener分類),頸動脈エコー

(血管壁肥厚:内膜中膜複合体厚(IMT),プラーク:プラーク スコア),足関節上腕血圧比(ankle brachial indexABI 3. 心臓:胸部X線撮影(心胸郭比),心電図(Sokolow-Lyon voltage基準,

Cornell voltage基準,Cornell product,負荷心電図,ST-T変化),

心エコー(左室心筋重量係数,左室相対的壁肥厚,左室流入血 流波形,僧帽弁輪運動速度波形),冠動脈CTおよびmultidetector rawMDCT(冠動脈石灰化,狭窄,プラーク)

4. 腎臓: eGFR,尿たんぱく定量,尿微量アルブミン定量(糖尿病合併例)

5. 糖代謝評価: HbA1c75g経口ブドウ糖負荷試験

6. 自律神経:起立試験

図表19

図表19

高血圧 高血圧

脳 脳

腎不全

慢性腎臓病(CKD)

血清クレアチニン 微量アルブミン 心筋梗塞、心不全、

心臓突然死 左室肥大 心房細動

脳卒中、認知症 頸動脈肥厚(IMT)

心臓 心臓

腎臓 腎臓

高血圧患者の予後を左右する(無症候性)臓器障害

図表20

レアチニン値は無症候性の予知因子である。

これらの早期動脈硬化予知因子を無症状の時 期から、検査して将来の心血管病発症リスク を予防することが重要である。

(図表21)起立時血圧変動と無症候性脳梗塞 および心負荷の関連についてみた図である。

心室機能不全の程度に比例して上昇するナト リウム利尿ペプチド(BNP)の上昇が、正常 群に比べて起立時血圧調節障害の群では有意 に高く、さらに無症候性脳梗塞の有病率も高 かった。起立性血圧調節障害が、心不全と無 症候性脳梗塞の発症予知を予測する指標とし て有用であることを示唆するデータである。

(図表22)我々は地域住民を対象として、簡 便な起立負荷検査による血圧変動と、早期動 脈硬化危険因子との関連を検討した。 対象 は、和歌山県内における特定健診受診者のう ち、簡便な起立負荷検査を実施した866名で ある。座位2分後、起立し、立位2分保持、座 位1分30秒とし、血圧と心拍数を1分おきに 測定し、心拍のR-R間隔を連続測定した。起 立時のSBPから座位のSBPを引いたものを 血圧の変化量とし、⊿SBPとした。⊿SBPが 20mmHgよりも低下するものを起立性低血 圧、OH群とすると129名が該当した。また、

それ以外の者を正常群、ONT群とすると、

737名みられた。血管スティフネスの指標で あるbaPWVに影響する因子を重回帰分析 すると、正常血圧群、高血圧群ともに、起立 時のSBPから座位のSBPを引いた⊿SBPが 有意な変数として採択された。起立負荷時の 血圧変化と血管スティフネスの関連が示唆さ れたことから、簡便な起立負荷検査による血 圧変動の指標が、心血管疾患リスクの評価と して有用である可能性が考えられる11)

(図表23)起立性低血圧の有無で心不全の発 症を12,363人の住民を対象として、17.5年 間追跡したデータである。起立性低血圧は多 変量調整後の心不全発症(危険率1.54)と有 意に相関した。起立性低血圧群で心不全発症 が有意に大であることが示された。起立性低 血圧は将来の心不全発症の危険因子である

12)。 トの予知因子となり得る。腎臓では、慢性腎

臓病、慢性腎不全をきたすが、微量アルブミ ン尿(高血圧症では保険適応なし)や血清ク 起立時血圧変動と無症候性脳梗塞および心負荷の関連

心室機能不全の程度に比例して上昇するナトリウム利尿ペプチド

(BNP)の上昇が、正常群に比べて起立時血圧調節障害の群では有意

に高く、さらに無症候性脳梗塞の有病率も高かった。

Eguchi K et al. Greater change of orthostatic blood pressure is related to silent cerebral infarct and cardiac overload in

hypertensive subjects. Hypertension Research 2004; 27: 235-241 図表21

図表21

baPWV に影響する因子の重回帰分析

Takahashi M et al:Am J Hypertens 2015;doi10.1093,1-6 図表22

図表22

カプラン ― マイヤー曲線

: OD の有無による心不全発症

Hypertension 2012;59:913-918 図表23 図表23

(図表24)リスク層別化について考えてみた い。医療は、個人を対象とした行為である。

医療の究極の目標は、最適の個別化医療であ り、集団を対象としたEBMの実施ではない。

患者一人ひとりの病態に合わせた最適の医療 を行うことが求められる。現在最も予後予測 に有効と考えられているのは、患者個人のリ スク層別化である。リスク層別化は、生活習 慣病などの環境因子の影響が大きい疾患に有 効であると考えられている。フラミンガム研 究では、コホート研究から心血管死のリスク として高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙な どが抽出され、リスク層別化の概念が生まれ た。1960年代に登録されたフラミンガム研 究の未治療集団における平均10年間の心血 管病リスクのデータを根拠としている。

(図表25)ESH/ESC2013ガイドライン3)を 示す。生活習慣修正と降圧薬治療の開始に関 して、リスク因子を縦軸に、血圧値を横軸に して、降圧薬治療について色分けしており、

わかりやすい図である。 危険因子に応じて 低・中・高・超高の4群に層別化している。

(図表26)わが国の高血圧学会のガイドライ ンであるJSH20144)による診察室血圧に基 づいた心血管病リスク層別化を示している。

血圧以外の予後影響因子を縦軸に、血圧値を 横軸に3層に分類している。メタボリックシ ンドローム(Mets)は、診断基準を満たす項 目数が増すほどリスクが増加することから、

3項目を満たすMetsをリスクの第2層に分類 し、4項目すべてを満たすMetsをリスクの第 3層に分類した。危険因子の中でも、糖尿病 やCKDを伴う場合は特に、 リスクが高く なっている。

リスク層別化

医療は個人を対象とした行為である。

医療の究極の目標は最適の個別化医療であり、集団を対象 とした

EBM

の実施ではない。

患者一人一人の病態に合わせた最適の医療を行うことが求 められる。

現在最も予後予測に有効と考えられているのは患者個人の リスク層別化である。

リスク層別化は、生活習慣病などの環境因子の影響が大き い疾患に有効であると考えられている。

フラミンガム研究では、コホート研究から心血管死のリスクと して高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが抽出され、リス ク層別化の概念が生まれた。

1960

年代に登録されたフラミン ガム研究の未治療集団における平均

10

年間の心血管病リス クのデータを根拠としている。

図表24

図表24

生活習慣修正と降圧薬治療の開始

ESH/ESC 2013 ガイドライン 図表25 図表25

[JSH2014] 治療の基本方針

診察室血圧に基づいた心血管病リスク層別化

血圧分類

Ⅰ度高血圧

140–159/90–99mmHg

Ⅱ度高血圧

160–179/100–109mmHg

Ⅲ度高血圧

≧180/≧110mmHg

リスク層

(血圧以外の予後影響因子)

リスク第一層

(予後影響因子がない) 低リスク 中等リスク 高リスク

リスク第二層

(糖尿病以外の1-2個の危険因子,

3項目を満たすMetsのいずれかが ある)

中等リスク 高リスク 高リスク

リスク第三層

(糖尿病,CKD,臓器障害/心血管 病,4項目を満たすMets,3個以上 の危険因子のいずれかがある)

高リスク 高リスク 高リスク

危険因子:高齢、喫煙、脂質異常症、肥満、Mets、家族歴、糖尿病

CVD: 脳、心、腎、血管、眼底 図表26

図表26

(図表27)初診時の高血圧管理計画を示す。

まず、診察室血圧に基づいた心血管病リスク 層別化を行う。次に、二次性高血圧を除外す る。その後、危険因子、臓器障害、心血管病、

合併症の評価を行う。生活習慣の修正を行っ た後、低リスク、中等リスク、高リスクとい うリスクの層別化を行い、降圧療法を考慮す る。

(図表28)降圧目標を示す。一般的な降圧目 標は、140/90mmHg未満とする。脳血管障 害・ 冠 動 脈 疾 患 患 者 も 同 様 に、140/90 mmHg未満とする。 心血管病のリスクが高 い 糖 尿 病、 蛋 白 尿 陽 性 のCKDで は、

130/80mmHg未満を降圧目標とする。臓器 障害を伴うことの多い後期高齢者では、

150/90mmHg未満を降圧目標とし、重要臓 器の血流障害をもたらす可能性があるので、

症状や検査所見の変化に注意しながら慎重に 降圧を始める。最終的な降圧目標は、140/90 mmHg未満とする。