(図表27)初診時の高血圧管理計画を示す。
まず、診察室血圧に基づいた心血管病リスク 層別化を行う。次に、二次性高血圧を除外す る。その後、危険因子、臓器障害、心血管病、
合併症の評価を行う。生活習慣の修正を行っ た後、低リスク、中等リスク、高リスクとい うリスクの層別化を行い、降圧療法を考慮す る。
(図表28)降圧目標を示す。一般的な降圧目 標は、140/90mmHg未満とする。脳血管障 害・ 冠 動 脈 疾 患 患 者 も 同 様 に、140/90 mmHg未満とする。 心血管病のリスクが高 い 糖 尿 病、 蛋 白 尿 陽 性 のCKDで は、
130/80mmHg未満を降圧目標とする。臓器 障害を伴うことの多い後期高齢者では、
150/90mmHg未満を降圧目標とし、重要臓 器の血流障害をもたらす可能性があるので、
症状や検査所見の変化に注意しながら慎重に 降圧を始める。最終的な降圧目標は、140/90 mmHg未満とする。
(図表30)生活習慣の修正による降圧程度を みた図である。食塩過剰摂取が血圧上昇と関 係があることは、INTERSALTなどの観察研 究によって指摘されてきた。減塩はその程度 に応じて降圧が期待できるので、少しずつ食 塩摂取量を減らすべく、 長期的な指導を行 う。 減塩1g/日ごとに、 収縮期血圧が約 1mmHg減少するとされる。メタ分析では、
4kgの減量では収縮期血圧は4.5mmHgの低 下がみられる。有酸素運動の降圧効果は確立 されている。高齢者が増加しており、有酸素 運動にレジスタンス運動やストレッチ運動を 補助的に組み合わせるとよい。飲酒を80%ほ ど減らすと、1~2週間のうちに降圧を認める。
(図表31)これは、日本高血圧協会の前理事 長の荒川規矩男先生からいただいたスライド である。アマゾンの奥地に住むヤノマミ族の 食塩摂取量は0.3g/日であるが、年齢を重ね ても収縮期血圧は110mmHgを超えず、拡張 期血圧も70mmHg未満である。食塩のない ところには高血圧もないとされる。なお、介 入試験で減塩の安全性が確認されているの は、平均3.8g/日である。
(図表32)TOHP II研究13)では、生活習慣 の改善は継続が困難であることが示された。
減量目標4.5㎏として介入した場合、6か月 間は達成可能であるが、18か月と時間の経過 とともに効果は減弱し、36か月時点では体重 変化はほぼ0に復した。体重はリバウンドす ることが示された。一方、減塩は4.7g/日を 目標として減塩を行ったが、36か月後には 2.9gとややもとに戻る傾向を示したが、あ る程度は維持できていた。減量と異なり減塩 は効果が持続することが示された。
*1 メタアナリシス *2 無作為化試験
生活習慣修正による降圧の程度
[JSH2014] 生活習慣の修正
減塩*1
(平均食塩摂取減少量=4.6g/日)
DASH食*2
減量*1
(平均体重減少量=4.0kg)
運動*1
(30–60分間の有酸素運動)
節酒*1
(平均飲酒減少量=76%)
血圧減少度
0 2 4 6 8
収縮期血圧 拡張期血圧
(mmHg)
図表30
図表30
100 80 60 40 20 0
110
ミリOliver WJ et al, Circulation 52: 146-151, 1975 (作图/荒川)
mmHg
○ ○
○ ○
70
ミリ無塩人種 ヤノマモ人(506人)
各 年 代 別の 血 圧(<110/70mmHg)
食塩
の無い所には高血圧
も無い!
年齢 =~ 9才 10 ~19才 20 ~29才 30 ~39才 40 ~49才 50 ~ 才 N (男)= 59 63 58 30 27 7 人
血圧
収 縮 期 圧
拡 張 期 圧 110
70
図表31
図表31
生活習慣の継続は困難 (TOHP II)
月
試験開始時からの体重の変化
(kg)
体重
月
尿中
Na
排泄量試験開始時からの尿中Na排泄の変化量 (mEq/日)
減量目標は4.5kg以上 減塩目標は食塩4.7g/日)以下 図表32 図表32
した。世間一般には、運動するのは体の健康 のためと考えられているが、著者は「運動の 第1の目的は、脳を育ててよい状態に保つこ とにある」と断言している。人間の脳が発達 したのは、厳しい環境で獲物を追い、巧みに 捕え、生きていくためだった。我々の遺伝子 には、狩猟採集の行動様式がしっかり組み込 まれている。従って、その活動をやめてしま うと、10万年以上にわたって調整されてきた デリケートな生物学的バランスを壊すことに なる。この事実を確かな根拠に基づいて、わ かりやすく説明した著書である。
1)運動をさせた子供は成績が上がる 2)運動すると35%も脳の神経成長因子が
増える
3)運動することでストレスやうつを抑え られる
4)運動で5歳児のIQと言語能力には大き な差がでる
5)運動する人は癌にかかりにくい
6)運動を週2回以上続ければ認知症になる 確率が半分になる
などが、科学的な根拠を踏まえて記述され ている。
(図表34)西野仁雄著『イチローの脳を科学 する』という本では、神経細胞は使えば使う ほど(刺激を与えれば与えるほど)突起をよ く伸ばす。 逆に使わないと退化する。 イチ ローは、小学校3年から6年まで4年間、
放課 後に
毎日ランニング、キャッチボール、遠投、ピッチング、ティーバッチング、内野・外野 のノックと厳しい練習を雨の日も風の日も雪 の日も休むことなく続けた。夕方はバッティ ングセンターへ正月の2日間を除いた363日 間通った結果、眼ではなく手のひらで球をみ ることができるようになった。徹底的に悔し がる性格が、心と身体をつく
っ
た。イチロー の神経細胞はどこが違うのか?記憶とは「身 体で覚える」ことである。イチローの脳はい つ完成したのか?能力をつくるのは、遺伝子 か、環境か?イチローの前頭葉は、先の先の 先を予測する。大変示唆に富む本でないかと 考えている。(図表33)『脳を鍛えるには運動しかない』と いう本からの抜粋である。著者は、ハーバー ド大学精神科医である。精神科の医師として 多くの患者の治療にあたってきた著者は、体 を動かさなくなっている現状と、そうした生 活ぶりが脳にもたらす深刻な悪影響に危機感 を抱き、「運動が脳の働きをどれほど向上さ せるかを多くの人が知り、 それをモチベー ションとして積極的に運動を生活にとりいれ るようになること」を望んで、この本を執筆
脳を鍛えるには運動しかない
ジョン・レイティ
• 運動をさせた子供は成績が上がる
• 運動すると35%も脳の神経成長因 子が増える
• 運動することでストレスやうつを抑 えられる
• 運動で5歳児のIQと言語能力には 大きな差がでる
• 運動する人は癌にかかりにくい
• 運動を週2回以上続ければ認知症 になる確率が半分になる
図表33
図表33
西野仁雄:イチローの脳を科学する
イチローの脳を科学する
図表34
図表34
(図表35)I度高血圧症を対象として、万歩計 をつけて3か月間の歩行運動を行った私ども の成績である14)。収縮期血圧、拡張期血圧と もに、2か月目より有意な降圧がみられた。
降圧度は、収縮期血圧で8mmHg、拡張期血 圧で4mmHg程度であった。また、1日の歩 数としては、8,000歩を目安とするとよい。