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医療法人社団 つくし会 理事長 

にっ

くに

全国在宅療養支援診療所連絡会(会長)、日本医師会在宅医療連絡協議会(委員)

【略歴】早稲田大学第一商学部卒業、帝京大学医学部卒業、帝京大学病院

【所属・資格等】日本臨床倫理学会(理事長)、福祉フォーラム・ジャパン(副会長)、日本在宅ケアアライアンス(議         長)、医学博士、日本外科学会外科専門医、日本消化器病学会専門医

(図表1)人口問題は、少子高齢化の中で語ら れてきた。しかしながら、この人口遷移論は、

従来の人口図表と違い、現在がすでに人口遷 移の中にあることを示している。私たちの意 識が少子高齢化の一言で片付けられ、深刻さ を失わせている。

 50歳以上が50%を占める世界は21世紀型 の安定社会と言えるが、今までの価値観が根 底から変化する。(図表1-1)は80歳以上の高 齢者の方が1,000万人を超えたことを示して いる。医療の対象者の多くは高齢者であり、

また高齢者が現状の分析からの延長線上とし て統計に表れる医療と介護が必要な状態で は、現在の医療と介護の提供体制では成り立 たない世界が到来することは確実である。そ の意味でも、予防および慢性疾患の重度化防 止は必要不可欠な課題であり、医療者のみで はなく、国民全体の総意にならなければなら ない。また、そのように国民の価値観を変え なければ成立しない社会でもあり、健康概念 も同様である。

(図表2)健康の状態は、疾病と異なり日常状 態であるために意識されにくい。また、その 意義は、その土地の文化、性別、年齢、それ ぞれの人の価値観が反映し、個別性があるの で普遍的な定義は難しい。従来、日本で専門 家が語ってきた公衆衛生的健康と、一般人の 語る健康もまたとらえにくい。私たちが健康 定 義 と し て い る も の は、 世 界 保 健 機 関

(WHO)の健康定義である。しかし、未来の 超高齢社会においては、今までのWHOの定 義ではとらえられなくなった。なぜなら、若 い人を前提とした概念は使えなくなったから である。高齢者は、多くの疾病や傷害を持ち、

最後は死にいたる。健康とは、死にいたると ころすべての過程に当てはめねばならない。

「健康」定義の課題

1.

健康の状態は疾病と異なり日常状態なので意識されにくい。

(失ってはじめてわかる)

2.

健康の意義は人の価値観が反映するので普遍的な定 義は難しい。

(文化、性別、年齢、人によって違う)

3.

健康の言葉は

H ealth

西洋からの輸入語で、従来の日本の 一般人の健康はとらえにくい。

(近代の専門家と固有の日本人の一般の考えは異なる)

4.

現在私たちが健康定義としているものは

WHO

(国際定義)

5.

人口の高齢化により若人を前提とした概念は使えない。

6.

高齢者は多くの疾病、傷害を持ち、最後は死にいたる。

『新たな健康概念の提案』 長谷川敏彦氏資料より 図表2

図表2

人口遷移論 50 歳で分割 240 年間推移

生産生殖人口

生産生殖人口

『新たな健康概念の提案』 長谷川敏彦氏資料より 図表1

図表1

総務省統計トピックス№90(H27.9.20報道資料)「統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)」より

高齢者人口及び割合の推移(昭和

25

年~平成

52

年)

図表1-1

図表1-1

(図表3)日本における「健康」の語源を調べ てみると、1830年代から緒方洪庵らの貢献 により、江戸末期に医療界で生理学概念とし て使用例が増え、 福沢諭吉らにより宣伝さ れ、『西洋事情』の中でも広められることに なった。その概念は、小学校教育や体操、軍 事教練を通して国民の間に普及し、近代以降 に持ち込まれたけれども、それ以前は、達者、

元気、養生、健やか、丈夫などが使われていた。

(図表4)各国の健康の語源は、それぞれ違い を見せているが、語源は共通の概念に行き着 くようである。ラテン系やゲルマン系は、安 全、完全を意味する言葉を使用し、アングロ サクソン系もまた、全体、完全、無傷を意味 する言葉を使用している。

(図表5)そして、欧米人を対象とした研究を 分析すると、健康のモデルは2つの類型に行 き着く。第1は悪い要因がないこと、第2に良 い要因がより多く、バランスが取れていると されている。このような背景の中で、環境に 適応する能力が保持されている状態をさす。

第1を判断するのは、その社会的役割から医 療者である。

 一般の方の健康観について、高齢者を対象 としたアンケートでは、「生活ができる」

76%、「バランスが取れている」17%、「悪い ところがない」7%とされた。

日本における健康の語源

日本において

18

世紀の終わりオランダ語の訳語とし て中国の古典『健体康心』からの造語。

1830年代 生理学概念としての健康の使用例が増え る。緒方洪庵が貢献

1850年代 医学書のなかで健康が支配的になる。

1870年代 啓蒙書で類語と一緒に使用されはじめる。

1890年代 一般的に広く知られる語となる。

福沢諭吉が貢献

それ以前は達者、元気、養生、健やか、丈夫

『健康相談』 新田國夫資料 図表3

図表3

印欧語源

Salute

ラテン系

印欧語源:

swen-to-

健康的な、強いという意を表す。

sound

など)

Gesundheit

ゲルマン系

印欧語源:

sol-

「すべての」「全体の」意を表す。

Sol@-

とも表記。

solid

の由来として、固体。

safe,save

などの由来として、すべての、安全な、健康な

Health

アングロサクソン系

印欧語源:

Kailo-

「全体の」「完全な」「傷のない」を 表す。または、良い兆しの意。

『新たな健康概念の提案』 長谷川敏彦氏資料より 図表4

図表4

一般人健康観の分析

【語源分析】

・ラテン系、ゲルマン系、

アングロサクソン系、共 に共通した印欧語根。

・安全や完全を意味す

solo,kailo

に由来。

【フィールド調査】

過去の4つの研究から共 通の3点を抽出。

「負の状態がない」

「状態のバランスが良い」

「環境に適応している」

①悪い要因がない

②バランスが取れている

③環境に適応できる 健康のモデル

(アーキタイプ)

高齢者名古屋アンケート 生活ができる76 バランスが取れている17 悪いところがない7%

ート

『新たな健康概念の提案』 長谷川敏彦氏資料より 図表5

図表5

(図表6)WHOは、戦後の1946年に「健康 とは、病気でないとか、弱っていないという ことではなく、肉体的にも、精神的にも、そ して社会的にも、すべてが満たされた状態に あること。」と定義し、この健康概念は戦後の 健康感を支配してきた。 この定義の背景に は、人権概念の問題が存在しているとされて いる。健康権は、人種、性別、言語、または 宗教による差別なく、すべての人々に与えら れた基本的人権の概念が存在している。そし て、この文章は1947年の日本国憲法の生存 権につながっている。その後、1978年のアル マ・アタ宣言、1986年のオタワ憲章、1999 年にspiritualの概念の追加が考えられたが、

イスラムの問題もあり定義への追加は認めら れなかった。

(図表7) オタワ憲章より、 ヘルスプロモー ションの中で健康のための前提条件と資源と は、平和、住居、教育、食物、収入、安定し た生態系、持続可能な生存のための資源、社 会的公正と公平性であり、健康の改善には、

これらの基礎的な前提条件の基盤の確立を必 要としている。

(図表8)未来に向けた動きでは、「健康は、

人々が学び、働き、遊び、愛し合う毎日の生 活の場の中で、人々によって創造され、実現 される。健康は、自分自身や他人をケアする ことで創造され、自らの生活環境について意 思決定できたりコントロールできたりするこ とで創造され、また、社会がその構成員すべ ての健康を達成できるような状況を自ら作り 出すことを保証することによって創造され る。」とした。

WHOの歴史

Health is a state of complete physical, mental and social well –being and not merely the absence of disease or infirmity

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、

すべてが満たされた状態にあることをいいます。(WHO1946年)

この定義の背景には人権概念の問題が存在している。

The right to health is one of the fundamental rights to which every human being, Without distinction of race, sex, language or religion, is entitled.

健康権は、人種、性別、言語または宗教による差別なく、すべての人々に与えられた基本的人権のひとつ である。

この文章は1941年の大西洋憲章、1942年のビバレッジ報告の内容を受けたものであり、1948年の世界 人権宣言、1947年の日本国憲法の生存権につながるものである。

1978 アルマ・アタ宣言(2000年までにすべての人に健康を)

(プライマリ・ケア重視、すべての人に健康を)

1986 オタワ憲章(ヘルスプロモーション)

(健康増進、健康都市)

1999 定義見直しならず

(動的、霊的追加認められず)

2000 医療保険システム活動評価

(各国医療保険システムを評価しベンチマークする)

『健康相談』 新田國夫資料 図表6

図表6

健康のための前提条件

健康のための基本的な条件と資源とは:

・平和

・住居

・教育

・食物

・収入

・安定した生態系

・持続可能な生存のための資源

・社会的公正と公平性

健康の改善には、これらの基礎的な前提条件の基盤 の確立が必要である。

ヘルスプロモーションのためのオタワ憲章より 図表7

図表7

未来に向けた動き

健康は、人々が学び、働き、遊び、愛し合う毎日の生 活の場の中で、人々によって創造され、実現される。

健康は、自分自身や他人をケアすることで創造され、

自らの生活環境について意思決定できたりコントロー ルできたりすることで創造され、また、社会がその構成 員すべての健康を達成できるような状況を自ら作り出 すことを保証することによって創造される。

ヘルスプロモーションのためのオタワ憲章より 図表8

図表8