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韻母と母音部との対応関係

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第 4 章 中日漢字音の音韻対照

4.4 結果と考察

4.4.2 韻母と母音部との対応関係

図 4−5 頭子音/s/と/z/

図 4−5 から、ア段とオ段においては/z/・/c/・/s/の方がもっとも多い。一方イ段とエ 段にあるものはほとんど/j/・/q/・/x/と/zh/・/ch/・/sh/由来のものである。特にイ段で は/zh/・/ch/・/sh/由来のものが圧倒的に多い。また、濁音の方(/z/)を見ても、/zh/・

/ch/・/sh/由来のものが一番多い。

表 4−5 を見ると、幾つの例外を除くと、/-n/韻母と音読みの母音部との対応関係がか なり単純であることがわかる。すなわち、/an/・/uan/→/aN/(例:安/官)、/en/・/uen/

→/oN/(例:根/論)、/in/→/iN/(例:貧)となるのである。ただ、こういう韻母の前に 介音/i/・/ü/または/zh/・/ch/・/sh/・/r/などの声母と組み合わせると、母音部における 主母音はそうではない場合の主母音に比して開口度が小さくなり、調音点も前へ寄る傾 向がある。例えば、/ian/→/eN/(例:天)、/(zh)en/→/iN/(例:真)、/üan/→/eN/(例:

犬)、/(sh)un/→/yuN/(例:順)など。

②/-ng/韻母

/ng/韻尾を持つ韻母は幾つかの例外を除くと、日本語においては長音で写されている。

表 4−6 にまとめた結果を見ると、/-ng/韻母と日本語の母音部との対応関係も比較的 分かりやすい。すなわち、/ang/・/ong/→/oo/(例:唐/同)、/eng/→/oo/・/ei/(例:峰/

盟)、/ing/→/ei/・/yoo/(例:令/氷)となるのである。ここで注意しなければならない のは、これらの韻母の前に介音/i/または/zh/・/ch/・/sh/・/r/などの声母が来ると、韻 母の日本語の転写では拗音化しすいということである。例えば、/zhang/→/tyoo/(例:

張)、/iong/→/yuu/・/yoo/(例:窮/凶)、/iang/→/yoo/ (例:将)など。

表 4−6 /-ng/韻母と母音部との対応関係

韻母 前にくる声母 母音部 例外

/ang/

/b/・/p/・/m/・/f/・/d/・/t/・/l/・/g/・

/k/・/h/・/z/・/c/・/s/ /oo/

/zh/・/ch/・/sh/・/r/ /yoo/

/iang/ /n/・/l/ /yoo/

/j/・/x/・♯ /(y)oo/

/uang/ /g/・/h/・/sh/・♯ /oo/

/k/・/zh/・/ch/ /(y)oo/

/eng/

/g/・/k/・/h/・/d/・/t/・/n/・/z/・/c/・

/s/・/b/・/p/・/f/ /oo/

/zh/・/ch/・/sh/ /yoo/・/ei/ 争/夢 /l/・/m/ /ei/・/oo/

/ing/ /x/・♯ /ei/・/oo/

/d/・/t/・/n/・/l/・/j/・/q/・/b/・/p/・/m/ /ei/・/yoo/

/ong/ /d/・/t/・/n/・/h/ /oo/ 痛/通/栄 /種/腫 /g/・/k/・/l/・/z/・/s/・/zh/・/ch/・/r/ /(y)oo/・/(y)uu/

/iong/ /x/・/q/ /yoo/・/yuu/

♯ /yuu/・/yoo/・/ei/

/-i//-u//-o/韻母

/i/・/u/・/o/韻尾のある韻母と母音部の対応状況は表 4−7 のようである。表 4−7 で示 したように基本的には/i/韻尾は/i/で転写され、/u/・/o/韻尾は/u/で転写されている。

韻母の主母音の転写については、/ai/・/ei/韻母の主母音は/a/となり、/ao/・/ou/韻母 の主母音は/o/と転写されるのが一般的である。ただ、韻母の主母音の前に介音/i/・/ü/

がある場合あるいは/zh/・/ch/・/sh/・/r/などの声母と組み合わせると、転写された母音 部は/ou/→/yoo/(例:兆)のように拗音化するか、/a/・/o/→/u/(例:帥)のように開口 度が小さくなったり、前へ寄ったりする。また、/i/・/u/・/o/韻尾のある漢字の中では 一部の入声字30が入っているが、その数は僅かに留まっているがため、例外として表 4−

7 で提示してある。

表 4−7 /-i/・/-u/・/-o/韻母と母音部との対応関係

韻母 前にくる声母 母音部 例外

/ai/ /g/・/k/・/h/・/d/・/t/・/n/・/l/・/z/・/c/・

/b/・/p/・/m/・/zh/・♯ /ai/ 汰/奈/派/百/宅 /摘/脈/麦 /uai/ /g/・/k/・/h/・♯ /ai/

/sh/ /ui/

/ei/

/l/ /ui/

雷/北/沸/黒/賊

/p/ /ai/

/b/・/m/・/f/ /ai/・/i/

/uei/

/t/・/d/・/k/ /ai/

推/税/衛/鋭 /zh/・/ch/・/sh/ /ui/

/z/・/c/・/s/ /ai/・/ui/

/g/・♯ /i/

/h/ /ai/・/i/

/ao/

/b/・/p/・/m/・/t/・/d/・/n/・/l/・/g/・/k/・

/h/・/z/・/c/・/s/ /oo/ 猫/矛/保/茂/酪 /告/爆/巣 /zh/・/ch/・/sh/ /yoo/

/iao/ /d/・/t/・/n/・/l/・/b/・/p/・/m/・♯ /yoo/

/j/・/q/・/x/ /(y)oo/ 薬/較

/ou/

/d/・/t/・/l/・/p/・/m/・/z/・/s/・/g/・/h/・♯ /oo/

斗/偶/呪/軸/否 /肉/痩 /zh/・/ch/ /yuu/

/sh/ /yu(u)/

/iou/ /n/・/l/・/j/・/q/・/x/・♯ /yuu/ 瑠/六/酒/油/幼

30 入声字は、中古中国語の四声の1つの「入声」を有し、韻尾は/t/・/p/・/k/のいずれかで終わる漢字 をさす。これらの漢字は現代日本語において、その音読みが「ク/キ/ツ/チ/ウ」のいずれかで終わる。

詳しくは第 5 章を参照されたい。

④無韻尾の韻母

韻尾のない韻母と母音部との対応関係は表 4−8 のようになる。

表 4−8 無韻尾の韻母と母音部との対応関係

韻母 前にくる声母 母音部 例外

/a/

/b/・/d/・/t/・/l/・/zh/・/ch/ /a/・入31 /z/・/c/・/f/ 入 /m/・/n/・/sh/ /a/

/ia/

/j/ /a/

/x/ /a/・入

♯ /a/・/ai/・入 /ua/

/g/・/h/ /a/

/k/ /o/

/sh/ 入

/e/

/g/・/k/・/h/・♯ /a/・入

個/劾 /zh/・/ch/・/sh/・/r/ /ya/・入

/z/・/c/・/s/・/d/・/t/・/l/ 入

/üe/ /n/・/l/・/j/・/q/・/x/・♯ 入 靴

/i/

/z/・/c/・/s/ /i/

厘/是/洗/

碁 /t/ /ai/・/ei/

/ch/・/sh/・/d/・/n/・/l/・/b/・/p/・/m/・♯ /i/・/ei/・入 /zh/・/j/・/q/・/x/ /i/・/ei/・/ai/・入

/u/

/g/・/d/・/t/・/l/・/z/・/c/・/s/・/m/ /o/・入

蹴/礎/枢/

疎/煮 /h/・/n/ /o/

/b/・/p/・/k/・♯ /o/・/u/・入

/f/ /u/・入

/zh/・/ch/・/sh/・/r/ /yuu/・/yo/・/yu/・入 /ü/

/n/・/l/ /yo/ 呂/履/婿/

拘/裕/遇/

/j/・/q/・/x/・♯ /(y)u/・/(y)o/・入 隅 /o/ /b/・/p/・/m/・/f/ /a/・入 /uo/ /z/・/c/・/s/・/d/・/t/・/l/・/g/・/h/・♯ /a/・入

/k/・/n/・/zh/・/sh/・/r/ 入 所/措 /ie/ /j/・/x/・♯ /ai/・/ya/・入

/m/・/b/・/q/・/d/・/t/・/l/ 入 携/掲

31 「入」は入声字の母音部を表し、その種類が多種多様(/aku/,/iku/,/oku/や/eki/など)である。

便宜を図るため、すべての入声字の母音部を一括り「入」とした。

表 4−8 を見てわかるように、数多くの入声字が混じっているため、対応関係が非常に 複雑で、規則のようなものがなかなか見えないが、決して無意味ではない。むしろ多く の示唆を与えている。

まず、韻尾のない韻母に長音の転写が現れにくいことが明らかになった。(入声字の 場合だけ現れる可能性がある)。この点は/i/・/u/・/o/韻尾及び/ng/韻尾の考察結果と合 わせて考察すると、長短音の弁別にかなり役立つと考えられる。さらに、入声字がこれ らに韻母に集中していることは、ある意味では入声字識別及びその音読みの学習ないし 字音語における促音の学習の手がかりとなるのではないかと思われる。

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