第 5 章 入声字の識別(特定)
5.4 考察―入声字の識別(特定)
5.4.1 中国語音節要素による識別(特定)
の 92%は/a/・/o/・/e/・/i/・/u/・/ie/・/uo/・/üe/の 8 つの韻に、/-p/類入声字の 96%は /a/・/e/・/i/・/ia/・/ie/の 5 つの韻に、そして/-k/類入声字の 90%は/o/・/e/・/i/・/u/・
/ü/・/uo/・/üe/の 7 つの韻に集っている。更に考察すると、/-p/類入声字が円唇性のあ る韻母(/o/で始まる韻母あるいは介音/u/か/ü/を有する韻母)とほとんど縁がないこ とも確認できる(例外は入/rù/のみ)。
母音韻尾の韻母には 24 字が集まっているが、全体の 5.7%しか占めていない。その中 でも、特に、/-t/類は 2 字、/-p/類は 1 字しかない。また、/uei/韻には入声字がない ことも確認できる。
また、表 5-1 で示しているように、各種類の入声字は全て複数種類の表記があるが、
/-k/類の入声字は多くて書き分けも甚だしい。そのなかの/-ki/表記のある漢字(/-ki/ 表記しかない漢字と/-ku/・/-ki/両方の表記を持っている漢字を含めて)の韻母をまと めると、表 5−5 のようになる。
表 5−5 キ表記のある漢字の韻母別統計
韻母 /i/ /e/ /ü/ /ie/ /ai/ 合計 /-
ki
/の数 41 2 2 1 1 47表 5-5 より、/-k/類入声字は多くの韻母に分布しているにもかかわらず、/-ki/表記 のものがほとんど/i/韻母に集中していることがわかった。言い換えると、/i/韻母以外 の/-k/類入声字はほとんど/-ku/表記である。
表 5−6 各韻母における非入声字と入声字 字種
韻類 非入声字 入声字 比例
無韻尾 の韻
/a/ 16 25 0.64:1
/o/ 7 17 0.41:1
/e/ 23 45 0.51:1
/i/ 202 104 1.94:1 /u/ 123 62 1.98:1
/ü/ 52 17 3.06:1
/ia/ 17 6 2.83:1
/ie/ 18 28 0.64:1
/ua/ 8 3 2.67:1
/uo/ 24 35 0.69:1
/üe/ 1 23 0.04:1
小計 491 365 1.35:1
母音韻 尾の韻
/ai/ 55 7 7.86:1
/ei/ 36 4 9.00:1
/ao/ 71 5 14.20:1
/ou/ 55 2 27.50:1
/iao/ 53 3 17.67:1 /iou/ 41 1 41.00:1
/uai/ 9 1 9.00:1
小計 320 23 13.91:1
合計 811 388 2.09:1
母音韻尾の韻においては、いずれも入声字のほうが圧倒的に少なく、合計の数(23 字、殆ど/-k/類入声字)42も非常に少ないため、上述したように例外として個別に覚え ると、これらの韻母における入声字の識別(特定)ができると言えよう。
無韻尾の韻の場合、/üe/韻の漢字は「靴(/ka/)」という字を除くと全部入声字(23 字)である。そして、入声字の数が少ない/ia/韻(6 字、殆ど/-p/類入声字)と/ua/韻
(3 字)43は例外として覚えておけばよいであろう。さらに、/o/韻の非入声字は「波/
破/婆/摩/磨/魔/模」の 7 字しかなく、さらにその中の「波/破/婆」の 3 字が同じ声符
「皮」を持ち、「摩/磨/魔」の 3 字が同じ声符「麻」を持つため、記憶上負担がかから ないと思われる。これらの非入声字さえ覚えれば、/o/韻全体の入声字(17 字)の識別 が可能になると思われる。
42 /ai/:「百/白/麦/脈/拍/宅/摘(/-k/類)」;/ao/:「凹(/-p/類)/爆/暴/告/酪(/-k/類)」;
/ei/:「沸(/-t/類)/北/黒/賊(/-k/類)」;/iao/:「薬/較/脚(/-k/類)」;/iou/:「六(/-k/
類)」;/ou/:「肉/軸(/-k/類)」;/uai/:「率(/-t/類)」。
43 /ia/韻:「轄(/-t/類)/押/圧/甲/峡/狭(/-p/類)」;/ua/韻:「滑/刷(/-t/類)/画(/-k/類)」。
ここまで整理してきたのは、例外として扱っていい 32 字と/üe/韻の 23 字及び/o/韻 の 17 字、合計 72 字である。
① 例外の 32 字:「率/刷/滑/画/肉/軸/六較/薬/脚/沸/北/黒/賊/凹/爆/告/酪/暴/
百/麦/脈/宅/摘/拍/白/轄/峡/狭/押/圧/甲」
② /üe/韻の 23 字:「掘/決/絶/穴/血/雪/悦/越/閲/覚/角/爵/略/虐/確/却/学/削/
岳/約/躍/月/楽」
③ /o/韻の 17 字:「勃/伯/剝/舶/薄/鉢/博/泊/仏/没/抹/漠/墨/膜/黙/末/迫」
その他の韻は、いずれも非入声字数と入声字数が多いため、簡単に片付けられないよ うであるが、非入声字数と入声字数との比の値によって二種類に分けられる。一つは、
/a/・/e/・/ie/・/uo/の場合である。これらの韻においては、入声字のほうが多い。もう 一つは、/i/・/u/・/ü/の三つの韻である。これらの韻においては、非入声字が入声字よ り倍以上多い。これらの傾向はある程度入声の識別にとってプラスになると思われる。
(2)「声母+韻母」による識別(特定)
5.2 で述べたように入声は直接声母と関係がないため、もともと声母からの識別(特 定)が考えられないが、声母を韻母と組み合わせると、入声字識別の有力な手掛かりと もなる(胡 2009、唐 2002)。例えば、
①声母/f/・/l/・/z/・/c/が/a/韻と組み合わせ得た字は全部入声字であり、以下の 11 字である。
「擦/髪/伐/閥/発/罰/辣/拶/乏/法/雑」
②声母/d/・/t/・/l/・/r/・/z/・/c/・/s/が/e/韻と組み合わせた字は全部入声字である。
それらは以下の 16 字である。
「策/側/測/冊/得/徳/楽/色/塞/特/責/則/択/沢/熱/渋」
④ 母/d/・/t/・/l/・/b/・/m/・/q/が/ie/韻と組み合わせ得た字は全部入声字である。そ れぞれは以下の 14 字である。
「別/迭/列/劣/烈/裂/蔑/滅/窃/切/鉄/貼/猟/畳」
⑤ 母/k/・/n/・/r/・/sh/・/zh/が/uo/韻と組み合わせ得た字は全部入声字であり、以下 の 13 字である。
「括/拡/諾/弱/若/酌/捉/卓/濯/濁/着/説/拙」
これまででは、合計 54 の入声字の識別ができる。
(3)「声母+声調」による識別(特定)
また、入声の消滅に伴い、昔 の 入 声 字 は 現 代 中 国 語 で は 第 1 声 ( 陰 平 ) 、 第 2 声 ( 陽 平 ) 、 第 3 声 ( 上 声 ) 、 第 4 声 ( 去 声 ) の い ず れ か の グ ル ー プ に 編 入 さ れ て し ま っ た た め 、 現 代 中 国 語 の 声 調 だ け で は 入 声 字 の 識 別 が 不 可 能 で あ る 。 そ れ に も か か わ ら ず 、 声 母 と の 組 み 合 わ せ で 、 入 声 字 識 別 の 手
段 と し て 考 え ら れ る 。 つまり、現代中国語において/d/・/g/・/j/・/z/・/zh/などの声 母で始まり、声調が第 2 声(陽平)である漢字は全て入声字である。したがって、合計 70 字が識別(特定)できるが、そのなかの 23 字は上述の識別(特定)結果と重複して いる。ここでは、重複部分44を除いた残りの 47 字を以下のように提示する。
「度/的/嫡/笛/敵/毒/独/読/革/隔/閣/格/国/直/逐/竹/植/殖/職/値/足/族/昨/菊/
局/極/籍/即/達/奪/疾/嫉/折/哲/卒/詰/結/傑/潔/節/吉/答/及/急/級/集/執」
以上、声母、韻母と声調という三要素及びその組み合せをもって入声字の識別(特定)
を考察してきたが、例外として扱われる入声字を入れ、識 別 ( 特 定 ) で き る の は合 計 173 字で、全体 391 字の半分にも及んでいない。ところが、これはあくまで音節要素 のみに基づいた識別(特定)方法であり、さ ら に 他 の 方 法 を 加 え て 考 慮 す る と 、 識 別 ( 特 定 ) の 範 囲 が も っ と 広 が る と 思 わ れ る 。