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考察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 72-75)

第 6 章 字音語における長音・短音の弁別及び学習

6.3 長短音に関する漢字の音韻対照

6.3.3 考察

① 長音韻母

この種類の韻母は合計 11 である。その中で/iao/・/ang/・/iang/・/uang/・/ing/・/iong/

の 6 つの韻母は例外なく長音となる。残りの/eng/・/ong/・/ao/・/iou/・/ou/の 5 つの韻 母は主に長音で転写されているが、わずかながら短音となる場合もある。それぞれの短 音となる漢字は以下のようである。

/eng/韻 1 字:夢/mu/

/ong/韻 2 字:種/syu/,腫/syu/ /ao/韻 3 字:保/ho/,矛/mu/,茂/mo/ /iou/韻 3 字:油/yu/,酒/syu/,瑠/ru/

/ou/韻 9 字:斗/to/,否/hi/,手/syu/,狩/syu/,首/syu/,寿/zyu/, 受/zyu/,授/zyu/,呪/zyu/

56 日本語転写が/-ai/や/-ui/となるもの。

このような短音となる漢字もあるが、長音となる漢字の数と比較すると、圧倒的に少 ないため、例外視することができると思われる。

要するに、/iao/・/ang/・/iang/・/uang/・/ing/・/iong/・/eng/・/ong/・/ao/・/iou/・/ou/

などの 11 の韻母は基本的には長音となるのである。言い換えると、この 11 の韻母をも つ漢字は日本語では短音とならないのである。

② 短音韻母

短音韻母は合計 9 つある。その中で、/a/・/e/・/ua/・/ia/・/er/・/o/・/uo/などの 7 つ の韻母は例外なく短音と対応している。残りの/u/・/ü/の 2 つの韻母にはわずかの長音 漢字がある。それぞれは以下のようである。

/ü/韻 5 字:隅/guu/,遇/guu/,裕/yuu/,拘/koo/,婿/sei/

/u/韻 7 字:乳/nyuu/,枢/suu/,住/zyuu/,注/tyuu/,駐/tyuu/,柱/tyuu/,鋳/tyuu/ /ü/韻と/u/韻には長音漢字の数は少ないとは言えないが、もともとこの両韻母にある 漢字が非常に多いため、例外として扱ってもよいであろうと思われる。

つまり、わずかの例外を除くと、/a/・/u/・/e/・/ia/・/ü/・/ua/・/er/・/o/・/uo/の 9 つ の韻母は殆ど短音としか対応しない。言い換えると、この 9 つの韻母を持つ漢字は日本 語では基本的には長音とならないのである。

③ 他の韻母

/ai/・/uai/・/ei/・/ie/・/uei/・/i/の 6 つの韻母については表 6-5 のようにまとめた。

表 6-5 他の韻母の日本語転写状況

韻母 日本語転写 対応する声母 字例 例外

/ai/ その他 /z/

/c/

/zh/

/g/

/h/

/k/

/b/

/p/

/m/

/n/

/l/

/d/

# 待/改

汰/奈/派 /uai/ その他 /g/

/h/

/k/

/sh/ 怪/帥

/ie/ 短音 /x/

# 野/謝

その他 /j/

/x/ 界/械 携/掲 /ei/ 短音 /b/

/m/

/f/ 非/被 その他 /p/

/l/

/b/

/m/

/f/ 類/毎 /uei/

短音 /g/

/h/

# 偉/貴

衛/鋭/税 その他 /d/

/h/

/k/

/z/

/c/

/s/

/zh/

/ch/

/sh/

/t/ 対/最

/i/

短音 /z/

/c/

/s/

/zh/

/ch/

/sh/

/j/

/q/

/x/

/b/

/p/

/m/

/n/

/l/

/d/

# 刺/自 長音 /zh/

/sh/

/j/

/q/

/x/

/b/

/m/

/d/

/t/

/n/

/l/

# 閉/抵 その他 /zh/

/j/

/q/

/x/

/d/

/t/

/l/ 替/滞

表 6-5 の結果より、簡単に長音または短音のいずれかにになりやすいとは言えないが、

それぞれの特徴がある。/ai/・/uai/二韻母は日本語では僅かの例外を除くと、基本的に /−ai/となる。/ei/・/ie/・/uei/三韻母は、「長音」となる場合は極めて少ないが、「短

音」となる場合と「その他」となる場合はほぼ同等に多い。残りの/i/韻母は、短音と なる場合が多いが、「長音」と「その他」となる場合も少なくない。ただし、短音と長 音はミニマルペアになっていないため、混同が起こらないと思われる。

④ 考察から外された入声字と複数音読みを持つ漢字との照合

まず、入声字の中では、p 類入声字だけは長音となることがある(/−yuu/か/−oo/、表 5-1 を参照されたい)。この p 類入声字の韻母はほとんど/a/・/e/・/i/・/ia/・/ie/の5 つの韻母に限られている(表 5-2 を参照されたい)。これらの韻母を持つ非入声字の 日本語音の主母音は全部/a/か/e/または/i/である(表 4-7 と表 4-8 を参照されたい)。 よって、入声字と非入声字は絡んでいないことが分かる。すなわち、/a/・/e/・/i/・/ia/・

/ie/の 5 つの韻母において、入声字を考慮に入れても、長短音の混乱が起こらないので ある。

次に、複数音読み57を持つ漢字について、基本的には①〜③の結果と合っているが、

以下の 37 字のような長音読みと短音読み58(必ずしもミニマルペアになっていない)を 同時に持つ特別な例も存在しているため、注意を払わなければならない。

表 6-6 例外となる漢字

番号 漢字 長音読み:語例 短音読み:語例 1 九 /kyuu/:九百/九個 /ku/:十九日/九月 2 久 /kyuu/:長久/耐久 /ku/:久遠 3 宮 /kyuu/・/guu/:宮殿/神宮 /ku/:宮内庁 4 供 /kyoo/:供給/提供 /ku/:供養 5 恵 /kei/:恩恵/恵贈 /e/:恵方/知恵 6 後 /koo/:後輩/後悔 /go/:前後/午後 7 口 /koo/:口頭/利口 /ku/:異口同音 8 工 /koo/:工業/加工 /ku/:大工/工夫 9 功 /koo/:成功/功績 /ku/:功徳 10 貢 /koo/:貢献/朝貢 /ku/:年貢 11 紅 /koo/:紅葉/紅白 /ku/:真紅 12 修 /syuu/:修学/修正 /syu/:修行/修羅場 13 就 /syuu/:就職/就学 /zyu/:成就 14 衆 /syuu/:大衆/公衆 /syu/:衆生

(次ページに続く)

57 一つの漢字に複数の音読みがあるのは、異なる時期に伝わってきた異なる漢字音(呉音や漢音など)

や慣用的な読みが保存(使用)されているためである。例えば、「久/kyuu/・/ku/」と「有/yuu/・

/u/」はそれぞれ二通りの音読みを持っているが、その中で、/kyuu/・/yuu/は漢音で、/ku//u/ は呉音である。各常用漢字の読みの出自は付録 C を参照されたい。

58 ここで言う長音読みと短音読みはあくまでも「常用漢字表」にある音読みに対する事実描写に過ぎ ない。このように長短二種類の音読みが存在する原因は注 54 で述べたように異なる時期に伝わってき た異なる漢字音や慣用的な読みが保存(使用)されているためである。そして、表 6-6 はただ学習者 が中国語発音を利用した長短音判別方法の例外としてあげたもののみである。それぞれの実際(出自) の区別は付録 C を参照されたい。

表 6-6 例外となる漢字(続き)

番号 漢字 長音読み:語例 短音読み:語例 15 数 /suu/:数学/数人 /su/:数寄屋 16 世 /sei/:中世/世紀 /se/:世界/世間 17 想 /soo/:理想/想定 /so/:愛想 18 曽 /soo/:曽祖父/曽孫 /zo/:未曽有 19 従 /zyuu/・/syoo/:従属/従容 /zyu/:従○位 20 通 /tuu/:交通/通訳 /tu/:通夜 21 弟 /tei/:子弟/姉弟 /de/:弟子 22 登 /too/:登校/登録 /to/:登山 23 豆 /too/:豆乳/納豆 /zu/:大豆 24 頭 /too/:頭部/口頭 /zu/:頭脳/頭蓋骨 25 風 /huu/:風景/強風 /hu/:風情 26 夫 /huu/:夫婦/農夫 /hu/:夫妻/工夫 27 富 /huu/:富貴 /hu/:貧富/富強 28 奉 /hoo/:奉公/奉献 /bu/:奉行 29 謀 /boo/:陰謀/無謀 /mu/:謀反 30 有 /yuu/:有能/有権者 /u/:有無 31 由 /yuu/:理由/自由 /yu/:由来/経由 32 右 /yuu/:左右/座右 /u/:右折/右派 33 遊 /yuu/:遊園地/遊学 /yu/:遊山 34 流 /ryuu/:流行/激流 /ru/:流布 35 留 /ryuu/:留学/留年 /ru/:留守 36 漁 /ryoo/:大漁/禁漁 /gyo/:漁業/漁船 37 露 /roo/:披露 /ro/:露出/雨露

この 37 字は長音と短音を同時に持っているが、辞書(『新明解国語辞典 第五版』)

で検索すると、その中のいずれかの語例が圧倒的に多いことが分かる。すなわち、いず れの字も、片方の読みがわずかの特殊の単語にしか使わないため、その特殊の単語を覚 えると、長短音の混同も避けられると思われる。また、このように複数の読みを持つ漢 字の読み分けについて、第 7 章で詳しく検討する。

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