第 7 章 漢字の読み分け
7.4 音訓読み分け
表 7−8 語中の位置による部分的読み分け(続き)
漢字 語中の位置 読み 語例 補足説明
人 ○○人
ニン 支配人/差出人 「○○」部分は動詞が多い ジン 宇宙人/社会人 「○○」部分は専用名詞、形容動
詞などが多い
地
○地
チ 各地/聖地 土地・場所・地位などの意味 ジ 意地/生地 土地・場所・地位など以外の意味
で、語例が圧倒的に少ない
○○地 チ 植民地/原産地 地○ チ 地上/地球
ジ 地元/地主 「ジ」の後に和語が来るのは多い
音訓の読み分けがどれほど難しいか想像に難くないであろう。そして字数が多いからこ そ、7.2「音音読み分け」部分のように逐一考察していくと、あまりにも作業量が膨ら むだけでなく、考察した結果をまとめ、漢字音学習・指導に利用するのも難しいと考え られる。
また、屋名池(2009)で述べられたように、文字(漢字)は 1 字ずつ孤立して使われるも のではなく文や語を表記するものとして文字列の形で用いられるものであるため、その 読みを考察する際、「文字列の形」という単位で考察しなければならない。本研究では 便宜を図るためにも、この「文字列の形」を「漢字語」とし、「漢字語」の単位で音訓 読み分けの考察を展開していく。調査範囲は、7.3「音音読み分け」部分と同じように、
徳弘(2006)が選択した 15,379 漢字語に限定する。
7.4.2 漢字語の分類
漢字語は目的により分類方法が多々あるが、本研究では、漢字語の漢字数に基づいた 分類を試み、構成漢字の数によって四種類に分け、それぞれを「一字漢字語」、「二字 漢字語」、「三字漢字語」と「四字(以上)漢字語」と名付けた。さらに、仮名交じりで あるか、そしてその仮名が送り仮名であるかなどにより細かく分類を行った。結果、表 7-9 のような分類がなされた。
表 7-9 漢字語の分類
種類 表記 語例
一字 漢字語
漢字のみ 体、口、損
仮名 交じり
送り仮名 休み、寒い、動く 非送り仮名 更に、禁ずる、お礼
外来語 歯ブラシ、オリーブ油
二字 漢字語
漢字のみ 大学、仕事、電車
仮名 交じり
送り仮名 冬休み、作り方 非送り仮名 一気に、女の子
外来語 電子レンジ、社交ダンス
三字 漢字語
漢字のみ 大学生、正当性
仮名 交じり
送り仮名 振り仮名、条件付き 非送り仮名 台風の目、江戸っ子
外来語 光化学スモッグ 四字以上漢字語 漢字のみ 集中講義、労働委員会
仮名交じり 馬鹿馬鹿しい
7.4.3 考察
これより、分類に基づいた音訓の読み分けを考察していく。
①一字漢字語
一字漢字語は表記形式及び漢字の意味特徴により概ね読み分けができる。表 7-10 で 示しているように、一字漢字語に「送り仮名」あるいは「その他の仮名」がある場合は 基本的に訓読みである。漢字の後に「に」が来ると、その漢字は基本的に訓読みである。
例えば、「更(さら)に」や「常(つね)に」など。ところが、「別に」や「変に」な どのような漢字語は訓で読む場合送り仮名が必要で意味も変わるので、音読みとなるし かない。そして、「する類67」などの前に来る漢字は個別の例外68を除くと全部音読みで 読む(「配(はい)する」、「転(てん)じる」や「対(たい)して」など)。「その 他」の場合は、殆ど複合語で、漢字部分も基本的には訓読みである(「この間(あいだ)」、
「その世(よ)」、「まな板(いた)」、「安(やす)っぽい」)。
一方、送り仮名がない場合は、その漢字の意味特徴69によって読み分けができる。す なわち、「具体的、身近な概念」70を表す漢字は基本的に訓読み(「口(くち)」、「体
(からだ)」や「雨(あめ)」)で、「抽象的、専門的な概念」71を表す漢字は基本的 に音読み(「得(とく)」、「満(まん)」)である。
表 7-10 一字漢字語の音訓読み分け
表記 意味特徴 読み種類 語例
仮名交じり
送り仮名 訓読み 寒い
に 訓読み 更に
する類 音読み 配する/転じる
その他72 訓読み まな板
漢字のみ 具体的、身近な 訓読み 口、体 抽象的、専門的 音読み 損、満 ただし、外来語と組み合わせる時に、その外来語の位置によって読みの傾向が違って くる。漢字が外来語の前にくる場合は訓読みが多い(「生(なま)ビール」、「歯(は)
ブラシ」)が、送り仮名の有無によっては音読みとなる場合もある(「省(しょう)エ ネ」)。漢字が外来語の後にくる場合は基本的に音読みとなる(「オリーブ油(ゆ)」、
「クリーム色(しょく)」)。
67 「する/じる/ずる/して/した」など語源的に同様であるもの。
68 「値する/恥じる/交じる/混じる」という四つの例外しかない。
69 本研究では、該当漢字が表している概念が「具体的、身近な概念」なのかそれとも「抽象的、専門 的な概念」なのかということを意味する。
70 言い換えると、日常生活上よく見聞きするものの場合。例えば、体の外見部分、動植物、天気地理、
衣食住や時間空間などに関する言い方。下同。
71 言い換えると、あまり見られないもの或は日本に元々ないものの場合。例えば、倫理道徳、政治社 会制度、宗教や科学などに関する言い方。下同。
72 「送り仮名」、「に」や「する類」など以外の仮名、例えば「この/その/あの」、「っぽい」や「ま な板/宝くじ」の「まな/くじ」部分。
②二字漢字語
二字漢字語の場合は「表記」、「構成漢字の読み状況73」及び「漢字語の意味特徴」
などが読み分けの重要な手掛りとなる。詳しくは表 7-11 のようになる。
二字漢字語において送り仮名があれば、或は両漢字の間に「の」が来る場合、基本的 訓読みである(「裏切る(うらぎる)」、「焼き鳥(やきとり)」、「女の子(おんな のこ)」など)。一方、漢字のみで構成される二字漢字語については、「音字+音訓字」
の構成の場合は、殆ど音読み(「死刑(しけい)」、「看病(かんびょう)」)であり、
「訓字+音訓字」の構成の場合は、基本的に訓読み(「株主(かぶぬし)」、「近頃(ち かごろ)」)になる。語構成が「音訓字+音訓字」である二字漢字語では基本的に「具 体的、身近な概念」を表すものは訓読み(「安物(やすもの)」、「出先(でさき)」)
で、「抽象的、専門的な概念」を表すものは音読み(「紙面(しめん)」、「先端(せ んたん)」)である。
表 7-11 二字漢字語の音訓読み分け 表記 構成漢字74
の読み状況 意味特徴 読み種類 語例
仮名交じり
送り仮名 訓読み 焼き鳥
の 訓読み 女の子
と、に、
外来語 音読み 一概に
社交ダンス
漢字のみ
音字+音訓字 音読み 死刑
訓字+音訓字 訓読み 株主
音訓字+音訓字 具体的、身近な 訓読み 安物 抽象的、専門的 音読み 紙面
「と、に」或は外来語と組み合わせる時、漢字部分は独立語としても成立するため、
「漢字のみ」の規則に準ずればよいが、基本的には音読みである(「一概(いちがい)
に」、「二度(にど)と」、「社交(しゃこう)ダンス」)。
③三字漢字語
三字漢字語は殆ど複合語で、しかも主に二字漢字語と「1漢字」からなっている。二 字漢字語についてはすでに検討したため、「1漢字」の部分を中心に考察していく。表 7-12 で示すように、その「1漢字」部分の表記及び意味特徴で、読み分けができる。
「1漢字」部分に送り仮名があれば、その読みは例外なく訓読み(「条件付(つ)き」、
「話(はな)し言葉」)である。一方、送り仮名がない場合、その読みは、「X1X2+X3」
73 「常用漢字表」(2010)において、音読みしか持たない漢字を音読漢字(音字)とし、訓読みしかない 漢字を訓読漢字(訓字)とする。そして、音読みと訓読み両方を持つ漢字を音訓漢字(音訓字)とする。
74 他に「音字+音字」「音字+訓字」「訓字+訓字」の組み合せがあるが、読みが決まっているため、
触れないことした。
(「1漢字」が後に来る)の構造においては一般的には音読み(「進学率(りつ)」、
「正当性(せい)」)だが、音読みでは語全体の意味が変わったり通じなかったりする 場合は訓読みになってしまうこともある(「城下町(まち)」、「得意先(さき)」)が、
「X1+X2X3」(「1漢字」が前に来る)の構造においては、その「1 漢字」が「具体的、
身近な概念」を表すと訓読み(「雨(あめ)模様」、「歯(は)医者」)で、「抽象的、
専門的な概念」を表すと音読み(「悪(あく)循環」、「内(ない)出血」)になる。
最後、「X1+X2+X3」、「(X1+X2)X3」及び「X1(X2+X3)」の並列構造においては語全体 が例外なく音読みである(「市町村(しちょうそん)」、「離着陸(りちゃくりく)」、
「輸出入(ゆしゅつにゅう)」)。
表 7-12 三字漢字語の音訓読み分け 1漢字の
表記 語全体75の構造 意味特徴 「1漢字」の読み 語例 仮名交じ
り 訓読み 条件付き
話し言葉
漢字のみ
X1X2+X3
音読み 進学率 音読みで意味が通ら
ない場合 訓読み 一筋縄 城下町 X1+X2X3 具体的、身近な 訓読み 雨模様 抽象的、専門的 音読み 悪循環 X1+X2+X3
(X1+X2)X3 X1(X2+X3)
音読み
市町村 離着陸 輸出入
④四字(以上)の漢字語
四字(以上)の漢字語は「馬鹿馬鹿しい」を除くと全部複合語であり、その構成要素 も殆ど音読みであるため、四字(以上)の漢字語の語全体は基本的に音読みだと言える。
例外は表 7-13 に示す 19 語しかない。語数が限られ殆ど構成要素から直接に語全体の読 みを把握できるため、個別に覚えればよいと思われる。
表 7-13 非音読みの四字以上の漢字語
語例 説明
目玉商品/井戸端会議/立ち会い演説 前部構成要素が訓読み。
労働組合/指名手配/郵便振替十人十色/
約束手形/生年月日/郵便切手/農業協同組合 後部構成要素が訓読み。
一人息子/一人一人/一一〇番/生真面目/
津々浦々/為替相場/馬鹿馬鹿しい/目覚まし時計 訓読みか特殊読み
75 X は一つの漢字を表し、数字の「1、2、3」は漢字の順序を表す。