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漢字データの統合及び漢字選択

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 108-112)

第 8 章 中国語 L1 学習者のため学習漢字の選択

8.5 漢字データの統合及び漢字選択

中国の日本語教育における漢字の選択には問題がある。けれども、日本社会で通用す る漢字の選択(使用)データあるいは一般的な日本語教育における漢字の選択データを そのまま使用することも、これまでに述べたような弊害が発生する。では、中国語 L1 学習者にとっては、果たしていつまでに、何字ぐらい、またどの漢字を学習するのが適 切であろうか。これよりその検討を試みる。

8.5.1 選択対象となる漢字群

本節では新「常用」の漢字(A)と『出題基準』の 1 級漢字(B)を統一し、さらに徳 広 2,100 字(C)の漢字を加え、合計 2,332 の異なる漢字を選択対象の漢字とする。こ の三つの漢字データにこだわる理由は、以下の通りである。

まず、新「常用」は日本社会の一般的な漢字基準であるため、日本社会にしか通用し ないが、日本語を勉強する以上、ほとんどこの基準を参考にする必要がある。また、中 国では日本語を専攻とする学習者は、ほとんど日本語能力試験 1 級を目指すといえる。

そのため、少なくとも新しい『日本語能力試験出題基準』が出るまで現行の『出題基準』

は相変わらず中国語 L1 学習者にとって非常に重要である。そして、信頼性を増やすた めに、以上の二つの漢字データの他に、使用頻度と親密を統合して選ばれた徳広 2,100 字を加えたのである。

三種類の漢字データを互いに対照し、集計してみると、それぞれの共通部分及び独立 した部分が表 8−5 のようになる。

三種類の漢字データに収録されている異なる漢字は合計 2,332 字あるが、その中で三 種共通のものは 1,900 字、二種共通のものは 145 字、一種のデータにしか現れていない 漢字は 287 字となる。

表 8−5 選択対象となる漢字群の内訳

漢字種類 字数

三種共通 A・B・C 1,900

両種共通

A・B 85

A・C 49

B・C 11

一種共通

A 102

B 44

C 141

合計 2,332

8.5.2 漢字の選択およびレベル分け

では、以上に挙げられた漢字群からどれくらいの漢字を選べば良いのか。この問題に 答える前に、次の『新版日本語教育事典』(日本語教育学会 2005:433)における漢字 調査に関する記述に触れたい。

新聞の場合、異なり数3214字種のうち使用頻度の高い500字で約80%、

800字で90%、1600余字で99%をカバーできる。(中略)。また、凸版印 刷による書籍を対象に行った調査では、異なり数は8474字種にのぼるが、

「常用漢字」1945字で96%を占め、3000字種余りで大部分を占める。(中 略)1900字前後というのは、日常生活、勉学生活を支障なく送ることがで きるようになるための妥当な線だと言える。

ようするに、1,900 ぐらいの漢字をマスターすれば、日常生活では十分であることが 分かる。ところが、新「常用」の頒布につれ、前より一般的に広く使われる漢字数も増 えると予想でき、また、中国語 L1 学習者の持っている漢字知識(音義形の全般)及び

その学習目的93を考慮すれば、多めに設定する方が良いであろう。具体的に言うと、大 体新「常用」の字数(2,136)に相当するものが良いと思われる。

選択を行う際の基準として二つが考えられた。一つは A・B・C のなかで二種類以上の漢 字データに出現することである。もう一つは、一種類の漢字データにしか出現していな いが、徳弘(2006)が頻度や親密度を統合して選択した中上級学習者ための 15,379 漢 字語(以下、「中上級の 15,379 語」)に現れることである。二つの基準のいずれかを 満たさなければならない。結果は、一つ目の基準で 2,045 字、二つ目の基準で 142 字、

合計 2,187 の漢字が学習漢字として選出された(付録 E を参照されたい)。

さらに、A・B・C 三者共通の漢字の中から、中上級の 15,379 語において頻度が 7 以上の 漢字 1,081 字を抽出し、「六、七、九、千、億」94などを加え、合計 1,086 字を第 1 レ ベル(中級まで)の漢字とし、残りの 1,101 字を第 2 レベル(上級まで)の漢字とする というようにレベル分けを行った。第 1 レベルの漢字を、第 2 学年前期の終わりまで(学 習時間は約 500~600 時間で、能力試験 2 級の所要時間に相当する)の漢字目標とし、

第 2 レベルの漢字を含めたすべての学習漢字を第 3 学年前期の終わりまでに(学習時間 は約 800~900 時間で、能力試験 1 級の所要時間に相当する)習得させるのは無難であ ると考える95

8.5.3 漢字表の作成および新「常用」と教育漢字などとの照合

漢字表には「漢字」項目のほかに、「レベル」、「出所」や「読み類型」などの項目 も入れた。「レベル」というのは上に述べた第 1 レベルと第 2 レベルのことである。「出 所」はその漢字が選ばれた漢字データ(新「常用」、『出題基準』や徳弘 2100 字など)

のことを意味する。そして、「読みの類型」は中国語 L1 学習者が効率よく漢字音を習 得できるように、当該漢字の読みの種類によって分類したことを指す。例えば、胃は「イ」

との音読みしか持っていないため「音字」であり、「皿」は「さら」という訓読みしか ないため「訓字」とし、「安」には音読みの「アン」と訓読みの「やす」の両種類の読 みがあるため「音訓字」とした。各漢字の音訓の有無は基本それぞれの出所に載るもの に準ずるが、学習上の便宜を図るため筆者が一部の修正を加えた。

例えば、漢字表において「明」という漢字の読みとして「メイ/ミョウ/あかり/あか るい/あかるむ/あからむ/あきらか/あける/あく/あくる/あかす」の 11 通りが掲載され

93 国際交流基金による 2009 年海外日本語教育機関調査結果では、中国の高等教育分野で、学習目的に ついて、政治・歴史・経済に関する知識や語学知識などに興味があるからと回答する学習者の割合が相 当上位にきている。そういう意味では、一般生活よりもっと広い範囲で日本語ないし漢字を学習者に 教えるべきではないかと思われる。

http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/country/2011/china.html#GAKUSHUを参照。

94 この五つの漢字は中上級の 15379 語において頻度が 7 以下だが、数字は早い段階で学ぶものなので、

この五つの漢数字を他の漢数字と同じ第 1 レベルに統一したほうがいいと考えられる。

95『基础大纲』や『新编』に比べて、学習漢字数(1600 程度から 2100 程度に)及び学習期間(二年か ら二年半に)が増加し、漢字数の割り当ても日本語能力試験に準じバランスよくしている。

ている。しかし、その中の訓読みについて、単独語のレベルで見る限り、表記された状 態は「明かり/明るい/明るむ/明らむ/明らか/明ける/明く/明くる日/明かす」となり、

現在行われている送り仮名の規則を前提とすれば、漢字の読みの種類という点からする と、「明」の漢字の読みは「メイ/ミョウ/あか/あき/あ」の 5 通りに整理することがで きる。勿論、複合語の場合には、漢字の読みは変わって来ることもあるが、当面は考慮 しない事にする。

また、徳弘 2,100 字にしか出ていない漢字について、音読みと訓読み両方書かれてい るが、片方の語例しか挙げられていない場合、その語例のある読みだけを取り入れる。

例として、作成した漢字表の一部を表 8-6 で提示する(詳しくは付録 E を参照された い)。

表 8-6 中国語 L1 学習者のための学習漢字表(一部)

8.5.4 新「常用」、『出題基準』と教育漢字などとの照合

選択された 2,187 字を新「常用」と『出題基準』の二つとそれぞれ比較してみたとこ ろ、新「常用」の中の 43 字(「畝/腺/詮/堆/朕」など」と『出題基準』のなかの 5 字

「鞄/忽/匙/繍/尤」が入っていないことが分かった。この 48 字は『漢字出現頻度表 順 漢字 出所 水準 読み類型 読み 語例 入声類型

掛 ABC 1 訓字 か/かかり 掛ける/掛かる/掛 株 ABC 1 訓字 かぶ 株式 繰 ABC 1 訓字 く 繰り返す 込 ABC 1 訓字 こ 込む/込める 頃 ABC 1 訓字 ころ 日頃

悪 ABC 1 音訓字 アク/オ/わる 悪意/憎悪/悪い K 類 握 ABC 1 音訓字 アク/にぎ 握手/握る K 類 暗 ABC 1 音訓字 アン/くら 暗示/暗い

安 ABC 1 音訓字 アン/やす 安全/安い 囲 ABC 1 音訓字 イ/かこ 範囲/囲む 期 ABC 1 音字 キ/ゴ 期限/最期

却 ABC 1 音字 キャク 売却 K 類 客 ABC 1 音字 キャク/カク 乗客/客死 K 類 級 ABC 1 音字 キュウ 上級 P 類 給 ABC 1 音字 キュウ 月給 P 類 宛 AB 2 訓字 あ/あて 宛てる/宛先

垢 B 2 訓字 あか 垢

曙 C 2 訓字 あけぼの 曙

旭 C 2 訓字 あさひ 旭

扱 ABC 2 訓字 あつか 扱い

位対照表(Ver.1.3)』において使用頻度が低い(2,678、SD=660)。また、徳広 2,100 字では 97 字が選ばれていなかったが、人名漢字表に照らし合わせると、そのほとんど が人名を中心に使われる漢字であることが確認できる。以上の外された漢字を付録 G で 示す。さらに第 1 レベルの漢字を日本小学校の教育漢字と比較すると、教育漢字の 85%

以上が第 1 レベルの漢字によりカバーされている。

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