第2章 教育内容論の定着と教材・授業の開発
第3節 教育内容を中心とした授業プランの開発と授業構成
4 音楽の表現技術や楽器を中心とした授業プラン
この種の授業プランには、演奏技術そのものの向上にかかわるプランと、演奏にかかわ る法則性を中心とするプランがある。前者の例として「いい声つくろう」、後者の例として
「これぞ管楽器だ」を提示する。
「いい声つくろう」は、1988年に発表された、吉田孝による小学生対象の「発声」を中 心とした1時間の授業プランである(千成・竹内編:1963, 23-30)。「拍子のおはなし」で 用いたようなプリントは使用しない。「高学年になって歌わなくなった子どもに声を出させ
ること」「頭声発声の意識化」をねらって構成された。
この授業プランの構成は以下のようになっている。
この授業プランは「1時間で一気にやるほうが効果的」(千成・竹内編:1963, 23)とあ るように、通常授業の発声練習とは異なり、短時間で発声の要領を身につけさせることを ねらったプランである。
授業書の形態はとっていないが、頭声発声、呼吸法、共鳴などを総合的・段階的にとら えさせているということ、そして、教材や指示が具体的に示されていることから、教育内 容を中心としたプランの授業構成の形に沿ったものとしてあげられる。
一方の「これぞ管楽器だ」は、「管楽器」の発声の仕組みに注目させることをねらった、
中学校1年生対象の全10時間、プリント 15枚の授業プランである。1987年に山中文らが 発表した(山中・三谷:1987)。
山中らは、「管楽器」に豊かな教材が存在していること、器楽の鑑賞に「人間」を登場さ せたいことという二点から、「管楽器」を教育内容として設定した。特に二点めについては
① 自主編成テープを聴かせる。
《マンマ》(ビシオ作曲)、歌劇《魔笛》より夜の女王のアリア《復讐の心は地獄 のように燃え》(モーツァルト作曲)、《冬の旅》(阿久悠作詞、猪俣公章作曲、森進 一歌)、《石松と三十石船》(広沢虎造声、浪曲)、《カッコー・ヨーデル》(ケルシュ バウマー声)など、さまざまな音楽の声の違いを聴きとらせる。そして、これから 挑戦する声が、特別な音楽ではなく、合唱した時によく混じり合う声であることを 告げる。
② 頭声発声を意識させる。
小さい声からだんだん大きい声になるように「ラーメン」といわせ、地声の問題 点に気付かせる。その後、「ラーメンに調味料を混ぜる」として、「幽霊の声」や「き どった奥様」の声で歌う活動をとりいれ、頭声発声を意識させる。
③ 呼吸法を意識させる。
写真のシャッターを押す瞬間を想像するなどの具体的な指示で歌唱させる。
④ 共鳴を意識させる。
あめ玉を想像して口に入れた感じで唇を閉じて歌い、口や鼻に共鳴した感じがし たら唇を開けて歌う―といった具体的な指示で歌唱させる。
次のように述べている(山中・三谷:1987, 82)。
鑑賞教育において、作曲者以外の人間にスポットを当てることは少ない。が、演 奏は、人間が人間の作った道具を用いてなす行為である。演奏している楽器は自分 たちの手づくり楽器と同じ原理を持ち、それがさらに工夫されていった延長線上に 存在するのだという理解は、鑑賞のアプローチのひとつの手段となるのではないだ ろうか。また、関連して、それらの楽器を道具として駆使している人間にも注目さ せたい。
このことは、千成が音楽を学ぶことによって人間形成をめざしていたことに通じるもの である(千成:1981)。
その展開形式は、以下である。
① 管楽器の発音原理
「おいしい授業」と授業タイトルをつけており、缶ジュースで乾杯するところか ら授業が始まる。そして、管楽器の気柱が振動体になっていること、音の高低が気 柱の長さで決まることなどを、プリントのクイズや簡単な実験を通して理解する。
そして、管楽器の発音原理の一つであるエア・リードの発振を理解するために、
飲んだあとの空き缶で、「アキカンフルート」をつくる。
② エア・リードによる管楽器の機構
「アキカンフルート」に水を入れ、水の加減で音高をつけ、「アキカンフルート 団演奏」と名付け、クラス全員で演奏する。その後、エア・リードの民族楽器を見 たり、エア・リードの管楽器の機構や近代楽器についての説明を読んだりして知的 に理解する。
③ くちびるの発振による管楽器の機構その1
くちびるの発振による管楽器の機構をもつものとして、アルペンホルンをとりあ げ、ボール紙とマウスピースでアルペンホルンを製作する。作成したアルペンホル ンを鳴らし、くちびるの発振による振動を確かめたり、製作のむずかしさを体感し たりする。
④ くちびるの発振による管楽器の機構その2
他の同原理の玩具「ホーストランペット」での遊びやプリントの学習の他、自作 ビデオ(*)でトロンボーンの奏法や演奏を鑑賞する。
この授業プランは、「授業書」の形態をとっているが、その中で活動や製作に多くの時間 をとっている(全10時間中製作に5時間)こと、自作ビデオという教材を取り入れたこと、
が新しい手法である。管楽器の音色への着目は少ないが、管楽器の仕組みの理解について 教材が充実しており、生徒が体験しながら理解していくことができるようになっている。
生徒の感想には、何日もかかって 2.5mのアルペンホルンをつくった様子が記され(山中・
三谷:1987, 98)、印象に残った授業であることがうかがえる。