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第3章 教育内容論の新たな展開

第4節 教育内容と授業実践の動向

2 音楽づくりの授業に見られる教育内容

表4−5

それに対して、2003年からは、下線で示したように、ねらいに音楽の要素や仕組みにかん して明確に示され、2004 年からは構成(始め方・終わり方)、音楽の盛り上がり・変化・

重なり、入る順番、音楽の構成、終止感や調性感というように、音楽の構成に関する記載 がなされるようになっている。つまり、効果音的な内容になりがちなイメージをテーマに した音楽づくりにおいても、次第に「音素材」中心のねらいから、音楽としてのまとまり に向けて「形式」を意識したねらいを持つようになっていることがわかる。

音楽の要素や仕組みから音楽づくりを行い、音楽としてまとめていく傾向は、巻末の全 体資料でも朱書きで示したように、2000年あたりからよく見られるようになる。

また、上のイメージ系の音楽づくり以外の、リズム系、ことば系、旋法・調系、旋律・形 式系に分類される音楽づくりについては、以下のような傾向が見られる。それぞれ、行わ れた授業を年代順に整理し、傾向をまとめる。

① リズム系

リズム系

リズム系の授業は、1、1.2年生10で基本的なリズムを使ったアンサンブルから、2、3 年生で8小節、重ねる、楽器を選択するなどの創作をしており、低学年はおおむね基本的

なリズム創作をしてきていると見ることができる。

高学年では、4年生でトガトンやポリリズムの創作し、5、6年生でラップや「木片の

音楽」に向かい、高学年では、インターロッキング系重視の傾向がみられる。

また、ボディーパーカッション、ラップ音楽がほぼ同じ内容で3、4年生、5、6年生

で行われている。

これらから、学年進行に大まかな順序性は見られるが、4年生からやや同一傾向のリズ ムパターンを取り上げる傾向にあることがわかる。また、拍子系は三拍子がひとつ行われ ているだけである。

② ことば系

主にことばをリズムにあてはめる活動になっている。

③ 旋法、調系

全般的に、黒鍵、黒鍵・白鍵交互、ドリア、4音・5音など、使用する音を限定し、ド ローン、パターン、メロディー、フィラーを用いて音楽を構成することが多い。表中1の

「おはなしとおんがく」ではお話のイメージと結びつけた活動になっているが、その他は、

ドローン等の形式を用いながら、音階や旋法のルールを用いることによって生じる音楽の 雰囲気を味わうものになっている。

ことば系

3拍子、タタ、リズムチェ−ン、 ディーパーカッション

トガトン、

おはやし

ことばと リズム

五音、ドリア、調

ふしづくり

ラップ ガムラン

ラップ、

木片

抑揚、

語感

日本の 節、民謡

ガムラン ブルース

問いと 変奏曲 答え 副次的

旋律

ふし パズル 1 2 3年 → 4年 → 5年 → 6年

④ 旋律・形式系

ふしづくりから、副次的旋律、変奏へと学年進行している。ふしづくりにおいては、「問 いと応え」や「合いの手」以外に副次的旋律と変奏曲の形式が多く使用されており、子ど もたちの音楽づくりに使用しやすい形式が固定化している様子がうかがえる。

以上をまとめると、以下のような表・図になる。

1年 2年 3年 4年 5年 6年

リズム系 3拍子、タタ、リズムチェーン、

ボディーパーカッション

トガトン、お はやし

ラップ、ガ

ムラン ラップ、木片

ことば系 ことばとリズム 抑揚、語感

旋法、調系 五音、ドリア 日本の節、

民謡

ガムラン、

ブルース 旋律・形式

系 ふしづくり 副次的

旋律 問いと答え 変奏曲 ふしパズル 旋律・形式系

これらから、1993(平成5)年から 2012(平成24)年までの高知大学教育学部附属小学 校の音楽づくりにおいては、意図的に音楽の要素や仕組みを音楽づくりのルールとして活 用している様子がわかる。八木が、創造的音楽学習が「子どもたちの外に存在する教育内 容を、子どもたちに内化させるという伝統的なパラダイムの延長線上に」(八木・川村:

2005)位置づけられたと批判した様子が、教育現場の音楽づくりにもおよんでいるという ことになる。

しかし、これは、必ずしも否定的にはとらえきれない。2013年度に別途行った高知大学 教育学部附属小学校全児童対象の調査においては、子どもたちが好んで活動した音楽づく りは、イメージから音楽をつくる自由度が高いものよりも、ルールにしたがって行う音楽 づくりであった。ルールにしたがう音楽づくりは、同じような規格の作品ができるわけで はなく、ルールにそいながらまったく違う作品が生まれる。子どもたちにはその様子が印 象的だったのではないかと推察することができる(山中・中山・間島・渡邊:2014)。

八木は、先に述べたように、実体的な教育内容と関係的な教育内容は二者択一的な議論 でとらえるのではなく、教育内容との対応で授業構成を変えていく柔軟性が重要だと括り、

次の三つの授業のパターンを示している。

① 実体的な教育内容の獲得を直接めざす授業

② 実体的な教育内容を関係的な様子も含みながら獲得させる授業

③ 関係的な教育内容を重視する授業

このパターンで見れば、教育内容を中心とした授業構成は①に該当し、八木によれば、

創造的音楽学習は本来なら③の代表的な授業になるものであった。しかし、現場における 音楽づくりは、②として有効に機能していることがわかる。課題としては、使用する音楽 の要素や仕組みがほぼ限定されていることと、音楽づくりのルールとして活用するという 視点であるため、あらかじめ与えられる形で取り入れられており、音楽の要素や仕組みを 概念として学習し得ているかどうかについては保障していないということである。

1 文部科学省HP「新学習指導要領・生きる力」 2014 年 10月 27日アクセス

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/

2 「音楽の基本的なもの」(千成:1980b)は、第2章で述べたように様々に呼ばれてき

たが、ここでは千成らが多く用いた「音楽的概念」という用語を用いる。

3 『初等教育資料』No.877(2011 年9月号、東洋館出版)において、文部科学省初等

中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発 部教育課程調査官である津田正之が、以下のように述べている。(津田:2011e, 50) 音楽づくりの授業において、子どもがどうしてよいのか戸惑っている、擬音や効果 音的な表現にとどまっている、時間をかけるわりには表現が深まらない、といった状 況はないだろうか。

4 Experiments in Musical Creativity (A Report of Pilot Projects), Contemporary Music Project for Creativity in Music Education,1966を指す。

5 舩橋一男の「教育方法としての『対話』」(川口幸宏編『モラルエデュケーション』、八

千代出版、1999年)の 64-65頁から引用している。

6 表4−4では、巻末資料の内容の一部を、文意を変えない程度にまとめた。

7 これらは授業事例ではないため、巻末資料には記載していない。

8 文部科学省国立教育政策所教育課程研究センター製作『小学校音楽映像指導資料 楽 しく実践できる音楽づくり授業ガイド』(学事出版、2014)に掲載されている。

9 高知大学教育学部附属小学校の音楽づくりの授業記録調査は、学術研究助成基金助成 金による研究(基盤研究 C 課題番号35381205 音楽科の学力のミニマムスタンダード に関する実証的研究)および平成 25年度国立教育政策研究所教育課程研究センター研 究指定事業の中で行ったものである。授業記録整理を同附属小学校の中山典子教諭、

西山ゆり子教諭、渡邊美樹教諭が中心となって行い、その分類や傾向についてを山中が まとめた。

10 高知大学教育学部附属小学校は、複式学級の研究を行っており、1.2年生クラス、3.4

年生クラス、5.6年生クラスがそれぞれ1クラスずつ置かれている。

終章 音楽科の教育内容の課題と展望

本章では、本研究全体を総括し、授業構成と関連させつつ音楽科における教育内容研究 の課題について述べることにする。

音楽科において、千成らの教育内容論が提唱されることによって論議が巻き起こり、そ れによって、教育内容が意識され、教師の勘やコツに解消されない授業構成論が展開され るようになったことについては、すでに一定の評価がなされている。その結果、音楽教育 においては、教育内容の存在自体については認識され、千成らの教育内容論を真っ向から 批判してきた創造的音楽学習においても、教育内容について定義が試みられるようになっ た。また、教育内容論における関係論的な教育内容の提唱は、新たな授業構成の可能性を 示すものとなっている。

一方で、音楽科の教育内容をめぐっては、まだ検討が必要な課題も多く残されている。

第一は、音楽科の教育内容そのものの規定である。まず、千成が「音楽の基本的なもの」

として掲げた、「メロディー、調、音階(さまざまな旋法を含めた一定の音の相互関係の組 織体)リズム、形式、音色、ダイナミクス、テンポなど」(千成:1980b)は、音楽の構成 要素なのか、属性なのか、音楽的概念なのか、表現手段なのか、あるいは、知的概念なの かが明確でない。それらは、これまで千成らの教育内容論の中で、教育内容としての存在 価値との関連において様々に呼ばれてきた。結局何と呼ばれるのがふさわしいのか。また、

その「音楽の基本的なもの」としてリズム、形式、フレーズ、音階、調、形式等が具体的 にあげられてきたが、それらは議論の中でそのつど少しずつ異なり、一定ではない。何が 教育内容として「音楽の基本的なもの」に該当するのか。さらに、たとえば、リズムを取 り上げるとして、リズムの何をどこまで教えるのか、リズムの下位概念とその段階性等は 明らかにされていない。つまり、教育内容として取り上げる「音楽の基本的なもの」の名 称およびスコープとシークエンスが定まっていないのである。そして、教育内容と随伴的 あるいは発展的と呼び表されてきた教育内容との関係はどう整理できるのか。

第二は、教育内容と技能の関係である。教育内容を学習するということは何を身につけ るということなのか。技能は学力とかかわってどのようにとらえればいいのか。

第三は、授業構成にかかわって、教育内容と〔共通事項〕にかかわる問題である。千成 が教育内容を提起した背景には、直接的な音楽体験から生じ、シンボルシステムによって 概念を操作把握していく学習が目ざされていた(第1章を参照)。このことは、2008(平成