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第3章 教育内容論の新たな展開

第1節 教育行政における教育内容論-単元構成から題材構成へ

1 戦後初期の単元構成

単元は、戦後初期の教育で大きく取り上げられた。その様子は、次の千成の説明が分か りやすい(千成:1989, 15)。

単元という授業組織の方略は、主として戦後日本の教育に大きく影響した経験 主義の教育思想によってもたらされたものである。従来主流となっていた、個別な 知識を脈絡もなく暗記させたり、問題を解く技法だけを教えこむ授業とはちがって、

それぞれの事象間の関連や、その背景をなす原理・原則を理解させたり発見させる ように授業を設定するとともに、あわせて、子どもたちの学習に対する関心・態度 を育成することを目標にするものであった。

この広がりは音楽科においても例外ではなく、「単元」という用語は、すでに1947(昭 和 22)年の『学習指導要領(試案)音楽科編』の教程一覧表において、「小学校における 単元は次の四つである」というように使用されている。音楽において画期的であったのは、

上記のようは「単元」で組織される授業の方略が、音楽を学ぶために単元というまとまり を設けたところから考えられたというところである。

この『学習指導要領(試案)音楽科編』で示された単元は小学校で四つ、中学校で三つ であり、以下のようなものであった。

・小学校

・音楽の要素(リズム・旋律・和声)に対する理解と表現 ・音楽の形式及び構成に対する理解

・楽器の音色に対する理解 ・音楽の解釈

・中学校 ・音楽の表現

・音楽に対する知的理解 ・音楽の解釈

小学校ではこれらの他に「演奏される音楽の美しさや楽曲と音色との関係,あるいは標 題と音楽との関係,各国の民謡と労働・社会生活との関連,各国音楽の特徴などに対する 感得や理解」等の学習が示されている。また、中学校では、上記の三つの単元に対して「音 楽的な表現技能の習得に重点を置きつつ、音楽の表現や鑑賞能力を高めるための裏附けと して、音楽に対する知的な理解、例えば、音楽の歴史的発展、音楽の形式・構成などに関 する知識、音楽の解釈に関する知的な指導が与えられなければならない」と示されている。

このような「単元」の考え方について、当時の文部省教科書局事務官である近森一重は、

1947年当時、次のように述べている。(近森:1947, 54)

元来音楽は、作曲者のインスピレーションが基になって、アクティビティーが生

まれ、所謂楽想が定められて、様々な表現をとるものであります。表現には、音楽 の三要素といわれる、リズム、旋律、和声等を使い、形式が踏まれ、音色を伴いま す。音楽はこのようにして出来ますが、音楽の学習はこの逆のコースをとり、表現 を学び、それを通して内容に入って行きます。こうして、音楽をすっかり分からせ ようとするのが、この単元の分け方の根本のねらいであります。従って、この分け 方は、音楽の本質に即したものと言えましょう。

つまり、昭和 22年の『学習指導要領(試案)音楽科編』において、「単元」は、音楽そ のものの理解のために分けられたまとまりとしてとらえられていたことがわかる。要領内 の「第一章 音楽教育の目標」に 掲げられた「音楽教育の目的音楽は本来芸術であるから,

目的であって手段となり得るものではない」という理念をふまえたものということができ よう。その単元の学習構成の実践研究が進めば、千成らによる教育内容を中心とする授業 構成の考え方に近いものになったであろう。それは、千成が、戦後初期の「単元」をふり かえりつつ単元の理念として述べた、次のような言葉からもわかる(千成:1989, 15)。

音楽科における単元学習は、筆者にあっては、現実に生じる一つの音楽的経験を、

有機的なまとまりを持った、ユニットとかトピック(単位、論題)に組織して、そ れによって内容の統一を図り、その内容に対して、教授・学習を焦点化し、そこで 身につけた学習の所産を、生きて働く力に変換する授業方略の一つである。これは 特定の教材曲の表現を方向目標的に追求する方法とはちがって、一つのユニットな りトピックなりを中心に、いくつかの教材が適切に選択され配列されることになる。

すなわち、教材曲中心の授業に対置される教育内容編成の授業方略と言ってよい。

千成は、音楽科において単元というまとまりで授業を方略することに積極的な意義を見 出していたと見ることができる。

しかし、戦後初期の単元学習の実際は、違う動きとなった。単元学習の事例では、この ような音楽としてのまとまりだけではなく、生活経験的なまとまり、他教科と関連させた まとまりの事例が紹介されている。

たとえば、1949 年に近森が執筆した『音楽カリキュラム-単元学習の計画と実際』(近 森:1949)において、他教科に関連されたまとまりの事例がある。同書では、音楽カリキ

ュラムの構成自体については、以下を明らかにすることから始める必要性を述べている(近 森:1949, 46)。

1音楽学習の目標は何か。2どのような学習の内容(教材)を予想するか。3それ を、どのような順序で、いかに指導していくか。4学習の結果を、どのようにして 反省(評価)したらよいか。

このような形でカリキュラムが構成されれば、授業構成においても、音楽の学習に沿っ て教材構成していく形が推測できるものであるが、単元例としてあげているものは、必ず しもそのようにはなっていない。

たとえば、小学校2年生の単元「かわいい動物」(近森:1949, 121-125)では、確かに単 元の目標にしたがって教材構成がなされており、子どもたちの興味・関心を主体にして授 業を展開することがめざされているが、生活経験的なまとまりを中心としている。つまり、

「どのような順序で、いかに指導していくか」という構成は、主に「動物への親しみと愛 撫の情」にむけてなされている。そのため、単元例には音楽の目標として「○正しい発音 と頭声による美しい発声」「◯聴唱的視唱」「◯歌唱教材によるリズム合奏」「◯短いことば を自由に旋律づけて口ずさむ」等があげられ、音楽の活動が各項目で具体的に記述されて いるが、目標間、活動間に順序性は見られない。

昭和 26年に改訂された学習指導要領(中学校高等学校音楽科編)では、学習指導過程構 成法として「(1)基礎技能の系統的発展に重点を置く構成法」「(2)楽曲中心の構成法」「(3)

単元による構成法」が示され、(3)はさらに「他教科と密接に関連した単元による構成法」

と「音楽独自の単元による構成法」に分けられた。

単元による構成が、このように二つに分けて示されたことについて、真篠将は、以下の ように説明している(真篠:1950, 3)。

一つは、コア学習、あるいは、他教科の単元の中で音楽が取り扱われる時であり、

他の一つは、音楽科として、音楽独自の単元学習を構成する場合である。前者は、

コアや他教科の単元題目と、直接関係の深い音楽活動のみが用いられ、音楽独自の

系統が無視されるのに比し、後者は、音楽の独自性に立脚して、系統的組織的な骨

格の上に、単元学習というものが築かれ得る特質がある。

単元学習が子どもの生活経験から構成されるものであることから考えれば、このように 音楽外の活動が入ってくることはいわば当然のなりゆきであるが、音楽独自の単元の取り 扱いが縮小されてきた感は否めない。先の単元「かわいい動物」のように、他教科と関連 させた経験のまとまりの単元では、真篠がいうように音楽の系統性は希薄である。

しかし、それにともなって音楽の内容を単元にまとめて学習させようというのは、それ までの音楽教育からすれば、大きな転換の機会であった。理念としては、音楽科に伝統的 な楽曲中心の構成から、子どもたちが主体的に学ぶことを意図して授業を構成しようとシ フトしたといえるからである。ところが、音楽の内容を主とした単元においても、実践上 は理念を踏襲した展開とはならなかった。

音楽の内容をまとめた単元学習の一例を見てみよう。表3−1は、「楽しい合奏」と題さ れた単元である(近森:1949, 156-162)

単元 楽しい合奏 自十月第二週 至十一月第二週 約十六時間 目標 1簡易楽器を取り扱うことによって、リズム感、和音感を養う。

2種々の楽器による音色の組み合わせの美しさをとらえる。

3楽器の双方に習熟し、演奏により自然に音楽の形式をとらえる。

4合奏を楽しむ態度を養い、またこれによって強調精神につちかう。

5読譜力を養う。

設定 理由

1児童はそれぞれの楽器のもつ音色の特性をつかみ、無意識のうちにも事故の音楽的感覚に ふれることに喜びを感ずる。

2児童は相互の協調による合奏の美しさを理解することができる時期にある。

3このために読譜の必要と興味が喚起され自発的に学習を進める。

4合奏によるリズム感、和音感を通して、音楽愛好の精神を養うことが期待される。

学習 構想

1学習の計画 5舞曲(ガボット)の鑑賞

2楽器の特性と奏法の研究 6劇的構成をして演出する(アマリリス)

3合奏学期の取扱法の研究 7発表会をおこなう。

4合奏練習(アマリリスその他)

時間 経過 学習の内容と活動 準備・教材その他 学習結果の反省 単元の導

入(環境の 設定その 他)

1オーケストラ演奏による舞曲のレ コードを聞く。

2楽器の合奏をする。

3上級生の演奏を聞く。

4児童に合奏の興味や欲求を生ぜし m めるような展示物、楽器、書物を

準備する。

5レコード鑑賞、展示物をみたことな

レコード

ガボット

ワルツ メヌエット

おもな展示物 楽器の図、その 演奏図、オーケ ストラの編成

1音色の組み合わ せの美をどの程度 つかむことができ るか。

どの部分が頭にの こったか?

2合奏に対する興 味はどうか。

表 3−1 音 楽 の 内 容 を ま と め た 単 元 例