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第3章 教育内容論の新たな展開

第3節 授業の展開と授業構成

2 複線的な教育内容による授業

〔共通事項〕の出現により、複数の〔共通事項〕を教育内容として設定する授業が出て きた。一つの楽曲、あるいは複数の楽曲から見出すことができる、複数の〔共通事項〕を

表4−2 終結場面(グランマエストロを決める)の三者の教授行為 A教諭(新任) B教諭(新任) C教諭(熟練)

グループ発表後、各グループ の指揮者を前に来させ、「○○

ち ゃ ん が う ま か っ た と 思 う 人?」と、拍手で最も上手な指 揮 者 を グ ラ ン マ エ ス ト ロ と す る。

グループ発表後、各グループ の指揮者を立たせて、拍手で上 手な指揮者をグランマエスト ロとする。

グループ発表後、各グループ のカード課題を他グループの何 人が当てることができたかを確 認し、最もその人数が多かった 班の指揮者をグランマエストロ とする。

教育内容として設定する授業は多い。ここでは、〔共通事項〕とはうたっていないが、いく つかの教育内容を設定した授業として、2009年に筑波大学附属小学校の高倉弘光氏が、高 知市朝倉第二小学校で行った4年生音楽の授業を見ていく(山中:2010)。

この授業は、特定の楽曲を設定した授業ではなく、また、ひとつの教育内容のみを設定 して構成した授業でもない。四拍子や ABA形式、速度、カノンなど、複数の教育内容の 学習を並行して行なっている授業である。

授業進行にしたがって取り上げられた教育内容の場面を追っていくと、表4−3のよう になる。表4−3は、表の下に行くほど授業が進行していることをあらわし、表上の横帯 で示した教育内容が、授業のどの場面や教材で取り上げられたかを示している。

この授業は、コミュニケーション以外に5つの教育内容が取り上げられている。「拍(四 拍子)」「ABA形式」「速さ」「調」「カノン」である。その中で、四拍子や ABA形式、速さ は、いくつかの授業場面で取り上げられ、また最終場面で取り上げられていることなどか ら、本時の中心的な教育内容であることがわかる。それに対して、調やカノンは、次時以 降の伏線的課題として取り上げられている。

このような授業においては、教育内容は明確であるが、展開形式の一部は授業前に決定 できない。伏線としての教育内容は、授業場面の状況や子どもたちの気づきによって確定 してくるからである。

導 入:3時のおやつゲーム

展開①:音(音楽)にあわせて拍手・歩く・走る、音を聴く、さまざまな音価を体感 する

展開②:「アルプス一万尺」

テンポや調の違いを感じ取る。コミュニケーション 展開③:「なべなべそこぬけ」

コミュニケーション 展開④:「世界中の子どもたちが」

ABA 形式を体感する。

展開⑤:カノンの手遊び

カノンの体験。四拍子を体感する。

展開⑥:四拍子の指揮

四拍子の指揮をする。四拍子の意味を知る。

展開⑦:「カリンカ」の読解

四拍子の指揮をする。速度の変化を体感する。ABA形式を理解する。

たとえば、この授業において、カノンの手遊びは、最初、曲にあわせて教師が行う4拍 分の動作を子どもたちが真似する遊びから始まった。高倉は、この遊びを4拍の遊びとし て取り上げ、最初はそのまま真似をさせた。が、さらに「教師が動作を行い、それを子ど もたちが真似している間に教師はもう次の動作を行う」という、ずれる遊びを提案した。

その時に子どもが「追いかけっこ?」ということばを発したのをとらえて、「音楽で追いか けっこすることをカノンという」と、カノンの説明をした。つまり、状況を見てずれる遊 びを取り入れ、それに対する子どもの反応からカノンの説明に及んでいたのである。子ど もたちの状況によっては四拍子の遊びでとどめていたはずであるし、子どもの発言がなけ れば、中心的な課題でなかったカノンは、その説明まで行わず、カノンを体感させるのみ にとどめていたかもしれない。

このような複線的な教育内容を設定した授業構成の方法は、音楽科に伝統的な、ひとつ の楽曲で複数の教育内容を教えるという方法とは異なり、また、教育内容をひとつにしぼ る授業構成よりも子どもの学習課題や状況にそうという点で新しい。しかし、伝統的な授 業に要される、教師の解釈に子どもたちを近づけるための教師の手腕とは別の観点-いか に子どもの様子を見ながら教育内容を取り上げていくか-から、教師の授業手腕が問われ

コミュニ

ケーション 拍・四拍子 ABA形式 速さ 調 カノン

3 時 の お や つ ゲ ー ム

3時の おやつゲーム

音にあわせて

歩く等

ア ル プ ス 一 万 尺

アルプス 一万尺

アルプス 一万尺 な べ な べ

底 抜 け

世界中の 子どもたちが

カノン

手遊び

カノン 手遊び 四拍子の指揮

カリンカ カリンカ

カリンカ

表4−3 授業でとりあげられた各教育内容の学習場面

る。中心的課題以外にどのような伏線的課題をもち、それを授業のどの状況や状態で出し ていくか、という授業中の判断が複線的な教育内容の授業構成を決定していくのである。