第3章 教育内容論の新たな展開
第1節 教育行政における教育内容論-単元構成から題材構成へ
2 単元構成から題材構成へ
単元学習は、1950年代には、急速に衰退していき、1958年(昭和33年)告示の学習指 導要領においては、「題材」が出現した。
1958(昭和33)年改訂学習指導要領では、「共通教材」が導入され、文部省の方針は楽 曲中心に戻ったことをうかがわせるものとなった。『小学校音楽指導書』(文部省:1960,
3 ぼ く ら の バ ン ド 発 表 会
(2)父兄を招く。
(3)反省会を開く。
(4)ミュージカルプレイ「アマリリ ス」(例)
泣きやまぬ赤ん坊を抱いて、オ ルゴルンでしきりにあやしなが ら少女(京子)登場
京子「ほら、ほら、ほら、コロ
ン、ロロン、コロン(くりかえ す)どうして泣きやまないのか しら困ったわ。
お母さんはおつかいにでてまだ 帰らないし-ほら、ほら、ほら、
コロン、コロン、コロン、(くり かえす)
(中略)
5ぼくらのバンド発表会
(1)プログラムをつくる。
(2)ポスターを書いて掲示する。
(3)発表に必要な曲目の練習。
(4)発表、演奏をおこなう。
(5)校内放送をする。
(6)発展への暗示。
○ 鑑賞、批評についての話し合 い
○ 批評を書いて学級新聞へ掲載
する。
な諸材料
(楽器、背景その 他)
プログラム用紙 ポスター用紙 放送施設
2 劇 的 表 現 に 独 創 性はあるか。
3 音 楽 は 有 効 に 使 われているか。
4 対 話 に 見 ら れ る 言 語 の 表 現 能 力 は どうか。
5 音 楽 の 生 活 化 が ど の 程 度 は か ら れ たか。
6 音 楽 の 理 解 が 深 まったか。
1 計 画 の 立 て 方 は 合理的であるか 2新曲目の練習 意 欲 と 技 能 の 発 達 程度との関係 3発表の成績
9-10)では、「題材」として以下の3つが掲げられている。
1 楽曲(教材)による題材 2 音楽的まとまりによる題材 3 生活経験的なまとまりによる題材
ここでは、外見上は、1951(昭和26)年告示の学習指導要領における「楽曲中心の構成 法」と「単元による構成法」を取り上げているように見える。しかし、各々についている 説明では、2において「この題材のみでは、長期の指導計画の作成は困難である」(文部省:
1960, 10)と示され、3において「この題材のみで指導計画を立てることはむずかしく、
特に系統的・発展的な指導計画が構成できにくい」(文部省:1960, 10)と示されている。
そして、1のみ、6ヶ年の年次計画や各学年の年間計画が最も構成しやすいものと記され ている。つまり、ここで、楽曲による題材構成が大きくクローズアップされたことがわか る。このような「楽曲中心主義」は、1968(昭和43)年告示の学習指導要領の時期に引き 継がれた。
「楽曲中心主義」が再度見直されたのは、1977(昭和 52)年告示の学習指導要領におい てである。1980年には、1977(昭和52)年告示の学習指導要領の全面実施にあたり『指導 計画の作成と学習指導 小学校音楽指導資料』(文部省編:1980)が刊行された。その中で、
これまでの音楽科の計画と実際の指導においては 1958(昭和 33)年告示の学習指導要領の 実施に際して示された題材1の「楽曲(教材)による題材」が中心であったことが取り上 げられ、その長所と課題が示された。
それによれば、長所としては、「長年この方式によって指導計画の作成になじんでいるた め、計画の作成とその実施、展開に習熟している」(文部省編:1980, 16)点があげられて いる。そして、その一方で、「音楽の学習に最も必要な学習経験の累積という点について、
(中略)前後の教材との相互の内容の関連、発展、系統という観点から見たとき、関連付け が希薄になりやすい」こと、指導計画作成の手順においてまず教材から優先されるため、
年間を通した目標から内容と教材を考えていくカリキュラム構成と矛盾が起きることが課 題としてあげられた(文部省編:1980, 16)。
そして、「楽曲(教材)による題材構成」だけの形態では「具体的な計画作成の上での創 意工夫を引き出していく余地はきわめて少ない」(文部省編:1980, 16)として、以下の題
材がまとめて示された。
① 主題による題材 ② 楽曲による題材
①は、『小学校音楽指導書』(文部省:1960)で2つめにあげられた「音楽的なまとまり による題材」と、3つめにあげられた「生活経験的なまとまりによる題材」が該当する。
②は、1つめにあげられた「楽曲(教材)による題材構成」に該当するものである。
『小学校音楽指導資料 指導計画の作成と学習指導』(文部省:1980)では、次のように 説明されている(文部省:1980, 16)。
「音楽的なまとまり」ということは、主として音楽の要素的なものを対象とする が、単に音楽を構成している要素を分析的に学習するという冷ややかなものではな く、各学年の児童の実態とのかかわりを重視していくことはもちろんである。「生 活経験的なまとまり」という点については、季節、行事等を中心とし、生活とのか かわりを取り入れて計画するもので、「音楽的なまとまり」と共に、音楽の学習と しては見落とすことのできない分野である。
この両者の教材性を精選して主題を設定し、適切な教材(楽曲)を配して題材を 構成するというのが、主題による題材の基本的な形態である。
1958(昭和33)年告示の学習指導要領の実施に際して「楽曲(教材)による題材」がま
ずあげられたのに対して、1977(昭和 52)年告示の学習指導要領の実施に際しては「主題 による題材」が先にあげられていること、「楽曲(教材)による題材」の課題が示されたこ と、「主題による題材」の説明が詳細になされていること等から、当時の文部省の意図にお いて、各題材間の比重が変化した様子がうかがえる。
では、「主題による題材」は、実際にはどのように提示されているであろうか。表3−2 は、『指導計画の作成と学習指導 小学校音楽指導資料』(文部省:1980, 38-46)で「年間 指導計画の例」に掲載されている題材である1。表3−2の題材名は、一見してわかるよう に、「○○しよう」というように、行動でくくられている。中でも「歌おう」「演奏しよう」
「表現の仕方を工夫しよう」といった、再表現することをめざしたものが多い。
実際、具体的な指導展開においても、たとえば以下に示した3年生の「曲の感じで体を 動かそう」の展開例では、《ちびっこカウボーイ》(阪田寛夫作詞 アメリカ民謡)や《こ の山光る》阪田寛夫作詞 ドイツ民謡)が「A と Bの対照的なフレーズの性格」を持つ教 材として取り上げられているが、指導は、それぞれの楽曲を歌詞の内容とも関連させて体 を通して表現を工夫させることに主眼が置かれている。つまり、対照的なフレーズを音楽 形式の一つとしてとらえて理解することよりも、それらが含まれる個々の楽曲を表現する ことがねらわれているといえる(文部省:1980, 72-74)。これはつまり、先にあげた千成の いう「特定の教材曲の表現を方向目標的に追求する方法」がとられているということであ り、「楽曲による題材」に似た指導展開になることが予想されよう(文部省:1980, 72)。
題 材 題 材 1
年
楽しく歌おう リズムで遊ぼう 楽器で遊ぼう
5
年
曲の特色を生かして表現しよう
曲の表情を生かした表現の仕方を工夫しよう 即興表現の工夫をしよう
和声の美しさを感じ取りながら表現しよう 海・山の歌を歌おう
曲の表情を生かした表現の仕方を工夫しよう 運動会の音楽を演奏しよう
演奏形態の特色を感じ取りながら聴こう 和声の美しさを感じ取りながら表現しよう 即興表現の工夫をしよう
曲の特色を生かして表現しよう 情景を想像しながら聴こう
和声の美しさを感じ取りながら表現しよう 曲の表情を生かした表現の仕方を工夫しよう 即興表現の工夫をしよう
曲の特色を生かして表現しよう 卒業式の音楽を演奏しよう
2
年
楽しく歌おう
リズムのおもしろさを感じ取ろう オルガンに親しもう
友達の声を聴いて歌おう 言葉を大切に歌おう 曲に合わせて体を動かそう
3
年
春の歌を歌おう 笛を正しく吹こう
いろいろな楽器を演奏しよう 美しい声の出し方を覚えよう 楽器の音色に親しもう 言葉をはっきり歌おう 曲の感じで体を動かそう
他のパートを聴きながら合奏しよう 輪唱や合唱をしよう
言葉に合わせてふしを作ろう 気持ちを込めて演奏しよう 曲の特徴やふしの感じを味わおう 輪唱や合唱をしよう
ふしを覚えて口ずさもう 気持ちを込めて歌おう
6 年
運動会の歌を歌おう
曲の表情を生かした表現の仕方を工夫しよう 即興表現の工夫をしよう
和声の美しさを感じ取りながら表現しよう 演奏形態の特色を感じ取りながら聴こう
4 年
曲の特徴を感じ取って演奏しよう 楽器の音色に親しもう
曲の感じにのって体を動かそう 美しい音色で合奏しよう 声の出し方を工夫して歌おう 輪唱や二部合唱をしよう
表3−2 『指導計画の作成と学習指導 小学校音楽指導資料』に示された題材名