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第2章 教育内容論の定着と教材・授業の開発

第3節 教育内容を中心とした授業プランの開発と授業構成

6 多様な授業アイデア

(1)授業アイデアとは

授業アイデアとは「これまでの音楽の授業とは一味違ったアイディア、ちょっと観点を

① チェンバロの構造と表現の関連性の理解

ビバルディ作曲《四季》より《春》を取り上げ、楽器、作曲年代、バロック音楽 の時代等をプリントで確認する。そして、チェンバロの音色から想像させて楽器の 絵を描かせ、実物と見比べたり、鍵盤数から音の強弱を理解したりする。

② ソロとコンチェルトの対比的表現の聴き取り

ビバルディ作曲《四季》より《春》第1楽章の主題を取り上げ、曲の中に何回出 てくるか確認した後、曲の流れを凹凸で示した図を見せ、強弱や独奏・合奏の別を 示していることを理解する。さらに第 3 楽章の図を自分たちで作成する。

③ コンチェルト・グロッソの対比的表現の聴き取り・バロック音楽のまとめと学習 の位置づけ

バッハ作曲《ブランデンブルク協奏曲第2番》や早川正昭編曲《美しい日本の四 季》より《はるがきた》《さくらさくら》などを鑑賞する。

「バロック」の語源をプリントで理解し、ルネサンス期の音楽と聴き比べたり、

いろいろな器楽曲を聴いて、バロック音楽とそうでない音楽に分けたりする活動を 行う。

変えたアイディア」(千成・竹内編:1988, 125)と呼ばれているよう短時間の授業プラン を指す。本章第1項の表中で示しているように、さまざまなものがある。表中の C*型の

「気分はアルプス」や「ことば遊び輪唱」のように、ひとまとまりの授業プランから抜き 出して授業アイデアとして示されたものもある。教育内容を中心にした段階的な教材構成 を目的とするというよりも、ある活動や教材の学習の中のアイデアを示すものとなってい る。

ここでは、代表的な二つの授業アイデアを紹介する。

(2)「ピッタリ音あわせ」

「ピッタリ音あわせ」は、1988年に山田によって発表された小学校低学年対象の授業ア イデアである(千成・竹内編:1988, 131-133)。「音色」に焦点をしぼりながら、活動とし ては一つだけのものである

まず、サウンドシリンダー8対(紙コップを16個用意し、米、胡麻、豆、マカロニ、お はじき、サイコロ、小さな釘、10円玉等を、振ると音が出るくらい入れて、2個ずつ計8 種類つくり、中が見えないようにする。)用意する。そして、8対のコップをそれぞれ2班 に分けてもたせ、同じ音のものを当てるゲームをするというものである。

同じように紙コップにいろんな素材を入れて、マラカス様の簡易楽器として音を鳴らす、

という活動は多い。このアイデアでは、同様の素材を使用するものの、音を鳴らすのでは なく、対をつくって聴く活動にする、という視点が特徴的である。「音色」全体を網羅する プランではないが、子どもたちが自然に音に注目し、耳を傾けることができるという点か ら、「音色」における一つの教材としての提案になっている。

(3)「べんけいがいっぱい」

「べんけいがいっぱい」は、同じく1988年に白石らによって発表された小学校低学年対 象のアイデアである(千成・竹内編:1988, 133-137)。一つの教材で「カノン」や「オステ ィナート」など複数の音楽的概念を遊びとしてとらえるものである。

「べんけい」の手遊びは、弁慶が五条の橋を渡る様子を表している。そこで、ここでは、

まず手遊びを覚えたら、「五条の橋」のイラストを黒板等に貼り、ペープサートでつくった

「べんけい」を渡らせながら手遊びをする。次に、「べんけい」を二つ用意して、輪唱させ ながら、各「べんけい」をずらして登場させて遊ぶ。さらに、小さい‘「べんけい」や大き い「べんけい」を登場させて、素早く橋を渡ったり、ゆっくり渡ったりする遊びをする。

最後にたくさん弁慶の顔をつらねたペープサートを出し、「べんけいだ(♩♩♩ )」とオス

ティナートを加えながら遊ぶ。

このアイデアは、視覚的な工夫を用いて、「輪唱」「速さ・音高」「オスティナート」をと らえやすくし、低学年の子どもたちが歌をずらせたり、速さや音高を変えたり、同じリズ ムの繰り返しを入れたりする面白さを味わえるようにしている。一つの教材で、いくつも の音楽的概念の学習の素地をつくることができるものになっている。

第4節 教育内容中心型の授業構成の成果と変容

第2節第1項の表2−2から明らかなように、当初は「リズムを発見しよう」「変奏曲」

「拍子のおはなし」「フレーズは大切だ!」など音楽の要素を概念的に獲得するための A 型の授業プランが発表された。

「リズムを発見しよう」は、リズムの学習を、従来のリズム打ちや音符の数的理解では なく、生活の中のリズム、自然のリズムと創造のリズム、仕事のリズムをとらえることに よってリズム概念の形成をめざすものである。「変奏曲」は、一般的に鑑賞教材で取り上げ られやすい形式であるが、このプランでは、主題と関連づけながら変奏の区切りをつけて 聴き取ることをめざして、変奏の創作も含めて授業を構成している。「拍子のおはなし」は、

各拍子の断片的な説明で終わっていた教科書記述の批判から、無拍・有拍のリズムからは じまり、拍のグルーピング、拍子の崩壊まで総合的に構成している。「フレーズは大切だ!」

は、リズム打ち等の技術指導の問題に矮小化されたり、学習主題の明確性、教材の適切性 が見られたりするという現行の問題を解消するものとして、フレーズの長さや構造、楽曲 における構成を理解させることをねらっている。

このように、これらの授業プランは、リズム、変奏曲、拍子を人間の生活や音楽構造か らとらえていくように教材を構成している。そのため、教育内容に応じて幅広い教材選択 や、再表現学習に限らない様々な学習形態が可能になっている。またその教材選択の意図 が明確であるため、教材の適切性、段階性が明らかである。その点で、教材解釈の授業に は見られない内容設定と教材構成が実現した、と評価することができる。

一方で、これらの授業プランは重厚長大になりやすいという難点をもっていた。「リズム を発見しよう」「変奏曲」は 1982年の『達成目標を明確にした音楽科授業改造入門』(千成 編:1982)で示された、いわば試論であるが、「拍子のおはなし」は、その点で、教育内容 を中心とした、はじめての授業プランである。しかし、このプランは26枚のプリントを要 するため、実際には「拍のおはなし」(プリント6枚分)の2時間の実践例しかなく、全行 程を授業した実践例はない。何時間構成かは示していないが、単純にプリント枚数で換算 しても、残りのプリント 20枚で7時間かかることになり、合計9時間構成の授業となる。

次の「フレーズは大切だ」は3段階の授業プランは示されているが、授業時数は不明であ る。

仮に、音楽的概念を教育内容として設定した授業プランが次々に作成され、それらを小

中学校通してどのように組み合わせて配置していくか、というカリキュラムが構想できて いけば、一つのプランにかかる時間数が多くても、小中学校を見通した中で取り上げてい くことができる。しかし、実動している現場のカリキュラムに、たとえばそのまま「拍子」

だけで9時間分の授業を入れるのは困難である。そのために、このような音楽的概念を中 心とした授業プランは、第2節第1項の表のように、現実のカリキュラムに入りやすい形 として、分割されて C型の授業アイデアとして示されていくことになった。たとえば「拍 子のおはなし」でいえば、「十五夜のもちつき」「バンブーダンス」などの授業アイデアで 示されるようになっている。また、1988年にはもう一度音楽の要素を中心としたテーマで

「ロンド・ロンド・ロンド」「かっぱのすっぱ君と輪唱で遊ぼう」「大きい音小さい音、だ んだん大きくなる音だんだん小さくなる音」(千成・竹内編:1988,)が発表されたが、こ れらの授業プランは2時間から3時間で構成されており、授業で扱いやすい長さになって いる。逆にいえば、そのように授業アイデアや短い授業プランで示されるものが採用され、

「音階」や「旋法」といった大きなテーマでは授業構成されなくなったということができ る。

一方で多く発表されるようになってきたのが、C 型の授業アイデアである。これは元の 授業プランから取り出されてアイデアとして示されたものもあるが、それ以外にも、多く のアイデアが示されている。上述したように、音楽的概念を視点として得られる活動や教 材の紹介であり、それらで示した音楽的概念をどう組み合わせて授業を構成するかという ことについては触れていない。

また、音楽の要素以外の教育内容を中心とする B型の授業は、A型よりも比較的授業に 取り入れやすい。先にあげたようにバロック様式や管楽器の仕組みは、鑑賞教材にひきつ けてまとめて教えるという形で授業に組み込みやすいであろうし、「いい声つくろう」のよ うな発声の技法については歌唱に引きつけられるであろう。「「動物の謝肉祭」を聴こう」

は鑑賞教育の一つの提案として受け入れられやすいものであることがうかがえる。

このように、提案された授業プランの流れを見ていくと、まず内容先行型の授業構成の 定式にそって音楽の要素を中心として教材を構成していく授業プランが示されたが、次第 に、現行の教科書教材や実際の授業に合わせてその内容や構成が変化していったことがわ かる。B型のように、教育内容を中心に教材を構成するという授業構成自体は取るが、教 育内容が特に一つの音楽要素を中心にするものではないもの、あるいは、C型の授業アイ デアのように、音楽要素に視点を当てながら、教材を構成した段階的な授業構成は示さな