第 9 章 式とグラフ 125
6. ベクトル
練習 3. 4ABC において次のベクトルを求めなさい.
(1) −→
BC +−→
CA (2) −→
AB−−→
AC (3) −→
AC−−→
BC
6.6 ベクトル計算の基本
ベクトルの計算の性質を紹介しましょう.
まず,ベクトルの加法や減法では,下の図に示されるように,数式の計算と同 じような交換法則や結合法則が成り立ちます.
(1) −→a +−→ b =−→
b +−→a (2) (−→a +−→
b) +−→c =−→a + (−→ b +−→c) また,m,nを実数とするとき
(3) (m+n)−→a =m−→a +n−→a (4) m(−→a +−→
b) = m−→a +m−→ b
などの分配法則も成り立ちます.
練習 4. 次の式を簡単にしなさい.
(1) 2 (3−→a) (2) 2−→a + 3−→a (3) 4−→ b −−→
b (4) 3 (−→a +−→
b)−2 (−→a −2−→ b)
それでは,始点が x ,y 座標軸の原点 Oとなるベクトル −→a =−→
OP を, x 軸 方向, y 軸方向に分解してみましょう.
x 軸方向には−→a1 =−−→
OP1 , y 軸方向に は −→a2=−−→
OP2 に分解されます. P1, P2, P の座標は(a1,0) , (0, a2) , (a1, a2) であり,ベクトル−→a の大きさ|−→a|は
|−→a| =p
a12+a22
となります.このとき, a1 を−→a の x成
分, a2 を−→a のy成分 と言います. 図6–12 ベクトルの成分 ここで,ベクトルの 大きさが 1 で, x 軸方向, y 軸方向に向いているベクト ルを, x軸方向の基本ベクトル−→
i , y 軸方向の基本ベクトル−→
j と言います. 注意 基本ベクトル −→
i の代わりに −→e1 ,−→
j の代わりに −→e2 が使わ れることがあります.
6.8. ベクトルの成分 81 この −→
i ,−→
j を用いると, −→a1 =a1−→
i , −→a2=a2−→ j となり,
−
→a =a1−→
i +a2−→ j と表すことができます.
また,ベクトルは成分を用いて,
−
→a = (a1, a2) 図6–13 基本ベクトル とも書き表します. 基本ベクトルは, −→
i = (1, 0) ,−→
j = (0,1)となります. 以上のことをまとめると,ベクトル−→a は2つの表示のしかたがあることにな ります.
−
→a =a1−→
i +a2−→
j = (a1, a2)
さらに,ベクトルの成分については,次の各式が成り立ちます. (1) (a1, a2) = (b1, b2) ならば a1 =b1 , a2 =b2 これは, −→a =−→
b が成り立つとき, x ,y 成分どうしが等しいことを意味して います. 2つのベクトルは重ね合わさるわけですから当然ですね.
(2) (a1, a2) + (b1, b2) = (a1+b1, a2 +b2) これは−→a ,−→
b の和−→a+−→
b は, x成分 どうしの和,y 成分どうしの和が合成ベ クトルの各成分になっていることを示し ています. 図6–14をみれば明らかです.
また, k を実数とすると,
(3) k(a1, a2) = (k a1, k a2)
さらに,m ,nを実数とすると, 図6–14 (a1, a2) + (b1, b2) (4) m(a1, a2) +n(b1, b2) = (m a1+n b1, m a2+n b2)
(3), (4)も容易に理解できるでしょう.
例題 3. 図のベクトル −→a ,−→
b ,−→c ,−→
d ,−→e を成分表示で表し, それらの大きさ
|−→a|,|−→
b|,|−→c|,|−→
d|,|−→e|を求めなさい. ( 1マスの1辺の長さを1とします)
解答 ここで大切なことは,ベクトルの始点を原点と考えるという ことです.
−
→a = ( 3,2 ), |−→a|=p
32+ 22 =√
− 13
→b = ( 2,3 ), |−→ b|=p
22+ 32 =√ 13
−
→c = (−4,−2 ) , |−→c|=p
(−4)2+ (−2)2= 2√
− 5
→d = (−3,2 ) , |−→ d|=p
(−3)2+ 22 =√ 13
−
→e = ( 0,−4 ) , |−→e|=p
02+ (−4)2 = 4 例題 4. −→a = (3,2),−→
b = (2,3)のとき, −→a +−→
b と,そのベクトルの大きさを 求めなさい.
解答 −→a +−→
b = (3 + 2,2 + 3) = (5,5)
|−→a +−→ b|=√
52+ 52 =√
50 = 5√ 2 練習 5. −→a = (3, −2) ,−→
b = (−2,1)のとき,次のベクトルを成分表示で表し, それらの大きさを求めなさい.
(1) −→a +−→
b (2) 3−→
b (3) 2−→a −3−→
b (4) −−→a + 2−→ b
6.8. ベクトルの成分 83 例題 5. 図6–15のようにx , y平面上
に2 点A, Bを与えるとき, −→
ABの各成
分とベクトルの大きさ−→
ABを求めてみ よう.
解答 −→
AB = (b1−a1 , b2−a2) −→
AB =p
(b1−a1)2+ (b2−a2)2 図6–15 例題 6. 図6–16のようにx,y平面上に
2点A, Bを与えるとき, −→
ABの各成分と ベクトルの大きさ −→
AB を求めなさい. 解答 −→
AB = (4−1 , 3−2) = (3, 1) −→
AB=√
32+ 12 =√ 10
図6–16 練習 6. x ,y 平面上に 2 点A, B を与えるとき, −→
ABを成分表示で表し,それ らの大きさ|−→
AB|を求めなさい.
(1) A (4,2), B (−1,5) (2) A (6,3), B (1,−4) (3) A (0,5), B (2,1) 練習 7. 原点 Oに2 力−→
F1 ,−→
F2 が作用しています ( 1目盛を 1 [N]とします).
(1) −→ F1 , −→
F2 をそれぞれ成分表示で表 しなさい.
(2) −→ F1 ,−→
F2 の合力−→
F をグラフ上に図 示しなさい.
(3) −→
F を成分表示で表しなさい. (4) −→
F の大きさ|−→
F|を求めなさい.
6.10. 力のつりあい 85
6.10 力のつりあい
ここでは,力がつりあっている場合の,それぞれの力の大きさを求める方法に ついて考えてみましょう.
先にも述べたように,物体に加わって いる力がつりあっているとき,これらの 力の合力 −→
F は−→
0 になっています。こ の場合, 物体は静止状態か, 等速直線運 動を続けます. たとえば,図6–18のよう に,点Oに3つの力 −→
F1,−→ F2,−→
F3 が作用 し,つりあっているときは,
−→ F1+−→
F2+−→ F3=−→
0 図6–18 3つの力のつりあい
と表します.
例題 8. 水平面 OAに対し角 θの,摩擦のない斜面 OB があります. この斜面 上に,重力W [N] が作用している物体 Pを置き,斜面上方のBより,軽くて丈 夫な糸で斜面にそって Pを支えます. このとき,物体P が糸から受ける張力の 大きさ S,および斜面から受ける抗力の大きさN を求めなさい.
解答 まず, P に作用している力, 重力−→
W , 張力−→
S , 抗力−→ N をベクトルで図示します.
次に,斜面上向を x 軸,斜面に垂直に上向きを y 軸とします(x軸, y 軸の決め方は任意です. OA 方向をx 軸にしてもかまいません).
さて, x 軸, y 軸方向への力の分解ですが, ここでは−→ S , −→
N はそれ
ぞれ x 軸方向, y 軸方向の力なので分解の必要がなく, そのまま用 います. また,重力 −→
W は,分解すると
−→
W = (Wx, Wy) = (−W sinθ ,−W cosθ) となります.
P は斜面上で静止しているので,力の 合力は −→0 ですから,
x軸方向· · · · S−Wsinθ= 0 y軸方向 · · · ·N−Wcosθ= 0
∴ S=W sinθ[N] , N =W cosθ[N]
例題 9. 上の例題において,物体Pに作用する重力W が 10 [N],斜面のなす角 θが30◦ ならば,張力S および抗力N は,それぞれ何[N]になるか求めなさい.
解答 張力 S= 10×sin 30◦ = 10×0.50 = 5.0 [N]
抗力 N = 10×cos 30◦ = 10×0.87 = 8.7 [N]
練習 9. 傾斜している板の上に重力W = 50 [N]の荷物を置いた. この板の角度 を θ= 45◦ とし,摩擦を0とする. このとき,荷物を支えるために必要な力を S [N], および斜面からの抗力をN [N] とする. このとき,次の問いに答えなさい.
(1) 記号 N , S , W, θ を用いて, 斜 面に平行な方向と斜面に垂直な方 向の力の方程式を作りなさい. (2) 記号 N , S , W, θ を用いて, 水
平方向と垂直方向の力の方程式を 作りなさい.
(3) S [N] とN [N] を求めなさい. ( √
はついたままでよい)
6.11. 速度 87
練習 10. 重力 20 [N] が作用しているおもりP を丈夫な糸で吊り下げ,途中 O
点で図のように 2 方向OA, OB に糸で引き, 固定した. 糸 OA, OB の張力を
−→ S1,−→
S2, Pの重量を −→
W (大きさ 20 [N])とするとき,次の問いに答えなさい. (1) x軸, y 軸を図のように定め,−→
S1,
−→
S2 をx軸方向,y 軸方向に分解し なさい.
(2) x , y 方向の合力が 0 (つりあい) となる式を作りなさい(ただし,W はそのまま使用します).
(3) W に数値を代入して, −→ S1 , −→
S2 の大きさを求めなさい (ただし,
√2 = 1.4 ,√
3 = 1.7とします).
6.11 速度
風や水の流れなども大きさと向きをもっているので,ベクトルで表現すること ができます.
風や水の流れのように,物体の運動の向きと速さを示したベクトルを速度(ま たは 速度ベクトル ) と言います. 記号には−→v ( または −→
V )を用います.
6.11.1 速度ベクトルの和
いま,図6–19のようにフェリーボー ト A が岸壁から速度 −v→A で離れてゆき ます. フェリー上の人 B が甲板上を船 首に対して右へ−v→B の速度で歩いていま す. このとき, 岸壁上に止まっている人 C から B を見ると, B はどんな動きと して観測されるでしょうか.
これは,次のように表されます. 図6–19 Bの動きを観察する
道路OA, OBは互いに45◦ の角度を もち,互いに見通しの良い所にあるとし ます. 図のように, OA上を自動車 Pが 30 [km/h] の速度 −v→P で, OB 上を自動 車 Qが60 [km/h] の速度 −→vQ で走って います. このとき, Q は P から見ると どのような速度 −→v で動いているように 見えるでしょうか.
これは図6–21のように表されます. 道路に対する Q · · · · −→vQ
道路に対する P · · · · −v→P Pに対する Q · · · −→vQ− −→vP
図6–21 速度ベクトルの差 これを 速度ベクトルの差,あるいは,
P に対するQ (P から見たQ) の相対
速度 と言います.
6.11. 速度 89 数値を用いて計算してみましょう. いま,
|−v→P|= 30 [km/h] , |−→vQ|= 60 [km/h]
であるのですから, OAをx 軸とし, y 軸を OAに垂直にとると, −v→P は,
−→
vP= 30−→
i = (30,0) であり, −→vQ は,図6–22より
−→vQ= 60 cos 45◦−→
i + 60 sin 45◦−→ j
= 30√ 2−→
i + 30√ 2−→
j
= (30√
2, 30√ 2 )
従って, 図6–22 −→vQ を考える
−
→v = (vx, vy) = −→vQ− −v→P
= (30√
2−30, 30√
2−0) = (12.3, 42.3) 速度の大きさ,つまり速さは
v=|−→v| = p
12.32+ 42.32
= 44.1 [km/h]
となります.
次に,−→v の向きを求めるために, 図6–23に示す角度α を考えてみま しょう. 先の結果より
tanα= vy
vx = 42.3
12.3 = 3.43 となるので,α は三角関数表より
α;74◦
となります. 図6–23 −→v の向きを考える よって, P から見て Qは左前方 約 74◦ の方向に, 44.1 [km/h] で遠ざかって 行くように見えることがわかりました.
練習 11. 静水を V1 = 0.5 [m/s]で進む ボートが,V2 = 0.3 [m/s] の速さで流れ ている幅50 [m]の川を渡ります. 川の流 れの方向と垂直に渡るには,ボートのへ さきを川上方向ヘ何度傾ければよいです か. また,そのとき,何秒で渡れますか. 練習12. 川幅が40 [m],流速が6.0 [m/s]
の川がある. A点から対岸のBを目指し, 川岸に直角に 8.0 [m/s] の速さでボート を漕ぎだした. 実際にボートが進む速度 の大きさと向きを求めなさい. また,対 岸につく場所はどこですか.
専門科目へのステップ・アップ
「機械系」
機械を設計するとき,力のかかり具合やその影響を考えるためにベクトルを 利用します. 特に,力のつりあいの考え方を十分理解しておく必要があります.
「電気・電子系」
時間とともに変化する電圧や電流,あるいは電磁波を扱うときに,ベクトル で表現すると,たいへん便利でわかりやすくなります. 特に, 交流回路はベク トルで解析します.
「化学系」
化学分野では,気体や液体の流れなど,工場で化学製品が作られていく工程 で起こる現象を理解するには,ベクトルの知識を大いに必要とします.
「建築系」
構造力学や材料力学では, ベクトルを利用します. トラス構造のように,ベ クトルの性質を利用しないと解けない構造形式もあります.
6.11. 速度 91
問題
問題 1. 三角形 ABCにおいて,次の問いに答えなさい. (1) −→
AB と−→
ACを用いて−→
CB を表しなさい. (2) 次のベクトルを簡単な形で表しなさい.
−→BC−−→
BA
問題 2. 次の式を簡単にしなさい. 2 (−→a −4−→
b +−→c )−2 (−→a −2−→ b +−→c ) 問題 3. 次のベクトルについて答えなさい.
−→
F1 = (2,2) ,−→
F2 = (2,−2) ,−→
F3 = (−3,4) (1) 合力 −→
F を求めなさい. (2) 合力の大きさ |−→
F|を求めなさい. (√
はついたままでよい) (3) 単位ベクトル −→
i ,−→
j を用いて合力 −→
F を表しなさい. (4) −→
F とx軸(水平軸)との角度は何度になるか. 必要なら三角関数表を用い なさい.
問題 4. 重量10 [N] のおもりPを丈夫 な糸でつり下げ,糸の長さがA点から20 [cm] のところでもう一本の糸で水平方 向に引っ張ったところ,図のように 30◦ の傾きでつり合って静止した. このとき, 糸の張力をそれぞれ −→
S1 ,−→
S2 , Pの重量 を −→
W として,次の問いに答えなさい. (1) x軸,y軸の分力の合計が 0 (つり
合っている) のときの式を立てな さい. (W は記号のままでよい) (2) −→
S1 ,−→
S2 の大きさを求めなさい. (√
はついたままでよい)
(3) おもりPは上方にどれだけ移動したことになるか. 図中の h の値を求め なさい.
問題 5. 図のように,水平面と30◦ の角をなす摩擦のない斜面の上に, 10 [N]の 物体が斜面と45◦ の角をなす軽い糸でつってあります. このとき,次の問いに答 えなさい.
(1) 糸の張力を S, 斜面の抗力を N, そして重力を W としたとき, 物 体の受ける力をベクトルで図中に 示しなさい. ただし, 大きさは適 当でかまいません.
(2) x軸方向とy軸方向におけるそれ ぞれの力のつりあいの関係を, 式 で表しなさい.
(3) (1), (2)より,糸の張力S,抗力 N の値を求めなさい.
問題 6. 列車A が 36 [km/h]で進んでいます. そのとなりを, 長さ100 [m]の
列車 Bが54 [km/h] で並走して追いつきます. 列車A 内の乗客の横を列車 B
が追いついてから,追い抜いて行くまでに何秒かかりますか. 注意 1 [m/s] = 3.6 [km/h]